ココとミナミはヨルムンガンドの通信室へと向かった。
メルヒェン社第二工場の一角にある居住区に、ココとミナミ以外の、ココの私兵全員が集まっていた。部屋は広く、それぞれの個室も用意してあった。世界中を旅し、様々な宿泊施設に泊まってきた彼らだが、これには皆納得の様子だった。
「ココさん、一体いくら金があるんだよ……」
トージョが思わず呟いた。
「そんなの、考えるだけ無駄だよ。工場にこんな区画作ってんだから、もともとここに住む気満々だったんだろうな」
しょってきたリュックをソファに放り投げながらルツが言った。ボフッという音と共にリュックがソファの上で踊った。少し経つと、ノックと共に秘書のカレンが部屋に入ってきた。秘書と言うよりは、護衛と言った方がしっくり来るかもしれない。いつもの様に、バルメがカレンを目視した途端に攻撃的な目を向けてきた。カレンも負けるものかとバルメを睨み返すが、後から入ってきたバブーリン博士になだめられ、小さな戦いは一時休戦となった。カレンが短く息を吐き、皆の方を向いて言った。
「今日から寝泊まりはここでしてもらう。部屋の掃除はしてある。持ってきた荷物は自分達で入れろ。以上」
冷淡な口調でそう言い残すと、足早に部屋を去って行った。かつてのカレンの師である陳国明が死んだ後、行く当てのなかったカレンを通りがかったミナミが拾い、ミナミの秘書兼護衛として働く事になったのだ。無口で無愛想なカレンだったが、ミナミに振り回されるうちにだいぶ丸くなっていた。とは言うものの、一度敗戦したココの私兵、特に師を殺めたバルメが相手となると、やはり感情的になってしまうのだ。バブーリンが申し訳なさそうに軽く会釈し、ドアを閉めた。
「おいおいバルメぇ、これから一緒に過ごす事になるんだから、少しはあの黒髪ちゃんにも優しくしたらどうだぁ?」
レームが呆れた口調でバルメに言った。
「ありえませんよレーム、あの女は気に入りません」
相手に噛み付くかのようにバルメが切り返した。
「やれやれ…」
いくら言っても無駄だと悟ったレームは、深いため息とともに煙草を吸いにベランダへと向かった。
「しかし、お嬢とミナミ博士は二人でどこ行ってんだ?」
ウゴがふと口にした。
「さぁな…あの二人の事だから、例のヨルムンガンド計画について話し合っているんじゃないか?」
トージョが荷ほどきをしながら答えた。
トージョの言う通り、ココとミナミはヨルムンガンドの制御室にいた。ここにはココ、ミナミ、ラビットフット、バブーリン以外の人は入れない。ヨルムンガンドの開発に携わった者にしか侵入は許されていなかった。制御室はかなり広く、白い壁で囲まれていた。中はひんやりとしていて、電子機器の作動音がやけに大きく聞こえた。
「ヨルムンガンドの情報統制は完璧なようだね、ミナミ」
ヨルムンガンドにより強奪した衛星の映像を見ながらココが言った。
「もちろん、私達が作ったんだよ?完璧以外ありえないっしょ」
ミナミが自信満々に答えた。二人の前のモニターには、小型化され、打ち上げられたヨルムンガンドが映っていた。空を塞いだ今、他の者がこのヨルムンガンドに手出しする事は不可能だ。現在アクセスできるのはこの制御室のみとなっている。ココはその細い指でモニターをなぞった。指は地球の輪郭に沿ってなぞられ、グルリと一周した。ココの青い瞳に、小さな地球が反射して写り込んでいた。空が塞がれた今も、以前と変わらず戦争は続いていた。ココの勘は外れたのだ。人間は愚かだ。自分達の過ちを認めようとせず、武器を手に戦い続けている。ココの創り上げる新世界に"争い"という文字はあってはならない。人間と軍事を切り離さねばならない。唇を噛み締めると、一筋の血が流れた。ココは血などお構いなしに、ミナミの方を向いて話を続けた。
「ミナミ、予定を変更する。ヨルムンガンド計画の第二段階移行は2日後に決行する。空を塞ぐだけじゃわからないようだ。海も塞ぎ、戦争を続ければ退化の道を辿るだけだという事をわからせてやる。」
ココは低い声でそう言い放った。唇を更に強く噛み締め、白色の肌を鮮血に染めた。
「別にいいよ、私が止めても意味ない事はわかってるし、止めるつもりも無いよ。」
ミナミは手を軽く振りながらそう言った。獰猛な獣の様な目を向け、口元から血を流すココの姿は、悪魔そのものだった。魔物ヨルムンガンドと、ココ・へクマティアルという一人の若い武器商人、この2つの怪物を生み出したのは"争い"でも"人間"でもなく、この"世界"そのもなのかもしれない。世界は、怪物によって創られようとしていた………
〜to be continued
いかがでしたか?
ヨルムンガンド計画の第二段階移行が早められ、
更に加速する強制的世界平和、海を塞ぐのが先か、
襲撃が先か、事態は緊迫化していきます。