揺るがせ衝撃、異次元に届くまで   作:スターク(元:はぎほぎ)

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 書き書きしていくゾ^〜


馬編-ぼくは君になりたかった【前編】

 やったやったと、ぼくは歓声の中を軽い足取りで歩く。今日はニンゲン達にとって大事な日、そしてぼくにとって大事な駆けっこの日。それに勝って、褒められたんだ。

 いつもとは段違いに長い距離だった。お陰で一周した時に「ここが最後だ」と勘違いしちゃったのはぼくのミス。あの時、背中の兄ちゃんが止めてくれなかったら大変な事になってたかも。

 そうそう、兄ちゃん。兄ちゃんがいっぱいいっぱい褒めてくれた、その事が一番嬉しかった。一番最初の駆けっこからずっとぼくに乗って、ぼくを叱ってくれて、ぼくを勝たせてくれるお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんが、ぼくは一番好き。お兄ちゃんが仕掛けて回る最後のコーナー(曲がり)が、心地よくて仕方がない。それで今日も皆を抜いて、1番早く走り抜けたんだもん。

 そんなお兄ちゃんは今、ぼくの背中で前足から三つ細いの(ニンゲン達が“ゆび”って呼んでるヤツ)を伸ばしてる。どういう意味かはよく分かんない。きっかしょう?だとか、さんかん?だとか何だとか。

 あっ、降りるの?どうぞどうぞ、また乗ってね。

 

「ありがとうな、ディープ」

 

 お兄ちゃんの優しい鳴き声、これも好き。意味は分かんないけど心地良くて、今すぐ顔を擦り付けたい。でもいつも世話してくれるヒトが引っ張って来て、引き離されてしまった。

 

ブルルルッ(えっ、待ってよ)!?」

「お前はこっちな、お坊っちゃま君」

 

 少しぐらい良いじゃん、と思っていると被せられる布。ううー、さっき首に被せられたのといいヒラヒラして落ち着かないよー。

 ていうか、前の前のレースの時もそうだったけどニンゲン達がうるさ過ぎ!もうちょっと静かに出来ないのかなぁ、他の馬達(みんな)もそう思うでしょ?

 あっ、ぼくしかいない……

 

 でもまぁ、お兄ちゃんも世話してくれるヒトも皆幸せそうだし、ぼくも幸せだし、良いかなって。そう思ってた。

 その時までは。

 

 

「いやぁ、凄いですねディープインパクト!サイレンススズカとどっちが凄いんですか!?」

 

 お兄ちゃんが降りた方向から聞こえて来たのは、そんな声。他の声にかき消される程度には大きくなかったそれを、ぼくの耳が鮮明に拾ったのは、きっと。

 

 

「今する質問が、それですか」

 

 

 お兄ちゃんが怒ったから。

 ぼくはすぐに分かった。多分、お兄ちゃんをよく知るニンゲン達もすぐ分かったと思う。

 それぐらい、背中越しでも分かるくらい、お兄ちゃんは怒っていた。静かに、でも確かに。

 

「あっーーすす、すみませんっ!」

「……ええ、大丈夫です。では」

 

 お兄ちゃんが怒りを解いて、やっと時間が動き出す。さっきの事なんて誰も無かったみたいに、お兄ちゃんも他のニンゲン達も笑顔を振り撒きあって。

 

 でも、ぼくは。

 

「ディープ?」

 

 動けなかった。「サイレンススズカ」というその音が、ぼくの耳から離れなかったから。

 あの時お兄ちゃんが見せた怒りが、今も顔に落としている影が、頭から離れないから。

 

 

 ねぇ、お兄ちゃん。

 そのサイレンススズカって、誰の事なの?

 誰が、お兄ちゃんを悲しませてるの?

 

 お兄ちゃんは答えてくれなかった。その後も、その次の日も。その目に隈を浮かべていて、ぼくに乗り辛そうにしていても。

 

 

 

 

 

 その答えを知ったのは、少し経った日の事だった。

 

『サイレンススズカ?そういや母ちゃんから聞いた事あるような』

『ホント!?』

『うおっと、すげぇ食いつきだな』

 

 あの日からサイレンススズカの事が頭から離れず、夜も眠れない…訳ではなかったけどあんまり物事に集中できなくて。仕方がないから隣や向かいの部屋の馬達、更には練習やその行き帰りですれ違う馬達に“サイレンススズカ”について聞いてみてた。これまでは特に成果を挙げれてなかったんだけど、やっと知ってる馬に出会えたんだ!

 

「ディ、ディープ!?待て待て、どうした」

「あれ…サムライハートが気に入ったんですかね?」

『ニンゲン達が困ってるぞ』

『良いから、引き離される前に早く教えて!!』

『まぁ良いけど…でも、俺も詳しく聞いてた訳じゃないからなぁ』

 

 あんまり乗り気じゃなかったけど、なんとかゴリ押しで話を聞き出す。数少ないチャンスを逃したくない、その一心で。

 

『俺の母ちゃんはエアグルーヴって言うんだけどさ。なんか暑くなり始める時期のレースで、とんでもねぇ速さの馬にぶっちぎられて負けちまったらしいんだ』

『それが…サイレンススズカ?』

『ああ。その前から何回か会ってた仲だったらしいんだが、母ちゃんとしてはその一回が特に忘れられないらしい。それはそれはすんげぇ逃げっぷりだったと』

『……逃げ』

 

 後ろから全員抜いちゃう僕とは真逆の走り。ずっと前で駆け抜けて、後ろを置き去りにする走り。

 それが、サイレンススズカ。

 お兄ちゃんは、その背中に乗ってたの?

 

『っとと、どうやらここまでらしい。また会えるかは分からんが、話の続きはその時にな』

『…うん、ありがと!』

『頑張れよ、俺ら世代のエースさん!!』

 

 サムライハート君からの応援を受けて、ぼくは上の空だった気分を引き締め直す。そうだ、ぼくは一回も負けた事が無い強い馬なんだ。お兄ちゃんがどんな強い馬に乗ってようと、今のお兄ちゃんを乗せてるのはぼくなんだ。

 過去(サイレンススズカ)になんて、負けるもんか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の練習で。

 

 

 

 

 眩しい輝きを放つ栗毛の影を、見てしまう。

 それが、ぼくの馬生が変わった日。




 この小説書くに当たってディープのレースを調べたけど強過ぎィ!自分戦慄いいすか?(語録)
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