とある魔術と科学の東西冷戦(コールドウォー) ーーI'll break your fuck'n fantasy!!ーー   作:名無 太郎

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プロローグ ある街の光景

There is a house in Academic City

They call the Rising Sun

And it's been the ruin of many a poor kid

And God I know I'm one

 

学園都市のとある建物

人はこう呼ぶ「朝日の研究所」

そこで破滅した哀れなガキは数知れねぇ

そしてかく言う俺もその一人なのさ

 

My mother was an engineer

She made my new powered suit

But my father was fired from a certain project

He was lost in 10th district

 

お袋は技術者だった

俺に新しい駆動鎧をこさえてくれた

だが親父がとあるプロジェクトをしくじって

第十学区に入ってったままそれきりさ

 

Now the only thing a dark-sider needs

Is a suitcase and a gun

And the only time he's satisfied

Is when he's on a drunk

 

暗部の人間に要る物は

スーツケースと銃だけ

そして充足感を得られるのは

酒をかっくらう時だけ

 

Oh tell my baby sister

Not to do what I have done

But shun that house in Academic City

They call the Rising Sun

 

だれか愛する妹に教えてやってくれ

絶対に俺の真似なんかするんじゃねぇって

学園都市の「朝日の研究所」には絶対に近寄るなって

 

Well it's one foot on the platform

The other foot on the train

I'm goin' back to Academic City

To wear that ball and chain

 

片足はプラットフォームの上

もう片足は列車に乗せて

俺は学園都市にまた帰るのさ

鉄球と足枷に繋がれるために

 

I'm a goin' back to Academic City

My race is almost run

I'm goin' back to end my life

Down in the Rising Sun

 

俺は学園都市へ帰る

旅はもうすぐ終わり

俺はここで死ぬのさ

この「朝日の研究所」で

 

There is a house in Academic City

They call the Rising Sun

And it's been the ruin of many a poor kid

And God I know I'm one

 

学園都市のとある建物

人はこう呼ぶ「朝日の研究所」

そこで破滅した哀れなガキは数知れねぇ

そしてかく言う俺もその一人なのさ

 

 

作者不明

 

 

 

 

 

1967年7月某日、メキシコシティ-

 

 

 前日までの雨が嘘であるかのように、空はからりと晴れ上がっていた。ただし、湿度が相変わらず高いため、早朝だというのに街全体がサウナのような熱気に包まれている。

 

 そんなうだるような蒸し暑さの中でも、コロニア・ローマ地区の定期青空市(ティアンギス)はいつもと変わらない賑わいを見せていた。

 

 通りの至る所に唐辛子、トマト、アボカド、豆、出来合いのトルティーヤなどが所狭しと並べられている。四方八方に商人の威勢のいい呼び声が飛び交う市場の中を、ロバの牽く荷車や籠を背負った行商が行き交っている。

 

 かつてこの街がテノチティトランと呼ばれていた頃からほとんど変わっていないであろう、ごく日常的な光景。それでも、この数百年の間に多少の変化があったようで、明らかに場違いな、垢抜けた服装の白人もちらほら見受けられる。ヨーロッパ、もしくは北米からの観光客であろう。

 

 そんな中を、一人の若い女性が足早に歩いていく。彼女もまた、他の街の住人同様浅黒い肌の持ち主であった。一見脇目も振らずに歩いているようだが、よく観察してみると絶えず四方八方に気を配り、周囲の視線を気にしているのが分かる。来た道を振り返ることもしばしばだ。まるで何者かに追われているかのように。事実、誰かに尾行されていないかどうか気にしているのだが。

 

 やがて女性は市場を抜け、往来の激しい通りをしばらく進んでから古い建物が軒を連ねる路地に入った。先程までの通りとは打って変わって、閑散としている。市内の主要な通りに比べたら狭いが、それでも自動車が数台通れるだけの幅はあり、普段も決して通行人の数が少ない訳ではない。しかし、この静けさは一体どういうことなのか。本当に誰もいない。

 

 

やがて女は異変の原因に気付いた。数メートル先に立っている、槍を持って軍服に身を包んだ屈強な大男。彼を中心として、路地全体に異様な空気が立ち込めている。その筋骨逞しい体から放たれる威圧感もさることながら、やはり男の全身から滲み出る常人とは明らかに異なる雰囲気が原因なのだと傍目には映るだろう。少なくとも、その男がとても友好的なようには見えない。

 

「人払い(ōþila)だ」まず男が口を開いた。

 

「貴様らが何を企んでいるのかは知っているぞ。貴様が数日前に殺害された女性に成りすまして当局の目を欺こうとしていることもな」そう言って彼はニヤリと笑い、槍を構えた。

 

「だが生憎、我々はそんな見え透いた手には乗らない。さあ、残りのお仲間が何処にいるのか、洗いざらい吐いてもらおうか」

 

女は返事をする代わりに、やれやれとでも言いたげに首を振って見せた後、さも大儀そうに懐から黒光りする鋭利なものを取り出した--

 

数分後、男が路地から出て来た。

 

 

 市の中央部にあたるソカロ広場から少し離れた場所にある鉄筋コンクリート製の厳めしい建物、その中の地上から三階の高さのとある一室にその少女はいた。色黒な街の住人の中でも一際浅黒い肌と、ウェーブのかかった豊かな黒髪は、彼女がインディオの血を引いているということを仄めかす。少女は北に面した窓のそばに佇み、外の街並みに見入っていた。部屋の赤く染まった床には数人の男達が横たわっていたが、彼女はそれを気にかける素振りも見せない。

 

 

「随分と派手にやったじゃねぇか」

 

 突然背後から声がかかった。はっと後ろを振り返ると、槍を携えた大男がニヤニヤしながら部屋の入り口に立っている。少女が身構えると、その大男は慌てて宥めるような口調で言った。

 

「落ち着いて! 違う、敵じゃない! 私だ、エツァリだよ!」

 

「何だ、紛らわしいな。脅かすなよ」そう言って相手の少女が緊張を解いたのをみて、大男は説得が通じたことに胸を撫で下ろした。こんなことで無駄に血を流したくない。

 

「しかし、本当にその紛らわしさはどうにかならないのか。いつか同士討ちになりかねない」

 

「敵を完全に欺くためには仕方の無いことなのだよ。口調をそっくり真似るのだって至難の技さ。僕の苦労も分かってくれ」

 

 エツァリと名乗った男は、--乾季と雨季の間に行われる、トウモロコシと豆の粥『エツァリ』を食べて豊穣を祈るアステカの祭り『エツァルクアリストリ』の期間中に生まれたことが名前の由来である--槍を床に置くと突然自分の皮膚を『脱ぎ』始めた。中から現れたのは、少女と同じくらい浅黒い肌と短く刈り込まれた黒髪を持つ、がっしりとした体格の青年であった。

 

「アルバロ・オブレゴン通り沿いの路地裏でこの男に待ち伏せされてね。恐らく正教系の魔術師だ。この界隈で正教系と言ったら、まあ十中八九連邦警察(フェデラーレ)の回し者だろうな。数十年前まで政府と教会は犬猿の仲だったというのに。その時は我々の力を借りて奴らを抑えていたんだっけ。恩知らずもいいところだよ、全く」

 

「オリンピックを間近に控えていることもあって神経質になってるんだ、察してやれ。ところでそいつは手強かったか?」

 

「いいや、こちらの手の内を完全に把握していなかったからか、たわいもなかったよ」

 

「成る程、苦戦したわけでは無いみたいだ。それじゃあ」そこで少女は顔を少ししかめた。

 

「約束の時間に30分も遅れたことに対する申し開きは無い、ということでいいな?」

 

 

 

「あ、いや、その」エツァリは愛想笑いを浮かべながら頭を掻く。

 

「それは本当にすまなかったと思っている。謝るよ」

 

「一体どこで油を売ってたんだ、シエスタにはまだ早すぎるというのに」戦友はご機嫌斜めだ。

 

「丁度ティアンギスが開いていたんで、掘り出し物がないか探していたんだ」

 

「呪物のか?」

 

「ああ。遅れたのは悪かったが、制圧のための時間が余分に持ててよかったのではないかね? それに、急に集合場所を変えるとは君も人が悪い。アラメダ公園のそばの古びたカフェで落ち合うはずじゃなかったのかい、ショチトル?」

 

そう言ってエツァリは、部屋一面の床を指し示した。床に横たわっている男たちの命は既になく、真っ赤な血が辺りを濡らしている。彼らはいずれも制服を纏っていた。

 

「それに関してはこちらもすまなかったよ。当初の待ち合わせ場所は使えなくなったんだ、こいつらが張り込んでいたせいで。だから予定を変更した。まさか奴らも警察署が我々の手に落ちるとは夢にも思わなかっただろうよ」

 

そう言ってショチトルと呼ばれた少女は--花を意味するナワトル語である--得意げに鼻を鳴らして見せた。

 

「制圧するのはわけなかったさ、意識を操って殺し合いをさせるだけなのだから。私を誰だと思ってるんだ? 『死体職人(アルテサナ・デル・クエルポ)』だぞ? そして」そこで彼女は顔を窓の方へ向けた。

 

「良い戦利品を手に入れることもできたよ。ここからの眺めを見てみろ。中々壮観じゃないか」

 

(昔はこんな子じゃなかったのに…あの優しかった君はいずこへ…)

 

故人の記憶復元など人助けのために魔術を使いたいと言っていた過去を思い出し、軽く嘆息したエツァリは言われるままに、窓の外に広がる町並みに目をやった。

 

1920年代以来の政治的安定の中で順調に経済成長を続ける新興国の首都。現在の街の繁栄からは、前世紀半ばから今世紀初頭にかけての混乱、まして400年前にこの地を襲った厄災などは微塵にも想像できない。若々しさに満ちたその街並は、朝の眩い日の光のもとでより一層輝いて見える。来年のオリンピックが今から楽しみだ。

 

 

「それで、肝心の話とは?」

 

エツァリは窓から再び視線をショチトルに戻した。

 

「お前はこの景色を見ても何も感じないのか」

 

「確かに見事な眺めだ。しかし、わざわざ私にこれを見せたいがために警察相手に大立ち回りを演じたわけではないだろう?」

 

「そうだな、確かにその通りだ」

 

予想外の反応の薄さにがっかりしたらしく、ショチトルの声のトーンが幾分か低くなった。感情をはっきりと表情に表す彼女の素直さを、エツァリは愛しく思うのだ。

 

「それじゃあ単刀直入に言おう。上層部から、例の『人間図書館』を直ちに捕獲せよとのお達しだ。すでに英国の連中が捜索に向けて本格的に動き出している。ローマの奴らもな。そいつらよりも先に奴を捕らえなければならない」

 

「『人間図書館』ね……。そういえば、もう何ヶ月も北米と南米の間を逃げ回っているという話だったな。上層部がそんな命令を下したということは、近くに逃げ込んでいるということかね?」

 

「そういうことだ。敵も我々の動きを察知しているようだから急がなくては」

 

「タイムリミットが着実に迫っているというわけか。しかし、行方が分からなくなっていたのでは?」

 

「実はもう居場所は分かっている。ただ、どうやって近づくかという問題が残っていてな……」

 

「おいおい、まさかグリンゴ(アメ公)どもに匿われているとでも言うわけではあるまいね?」

 

「惜しい。が、違うな。もっとも、アメ公どもが建設を主導したという点ではあながち間違いではないか」

 

「今一つ要領を得んな。勿体ぶらないで早く結論を言ってくれたまえよ」

 

「いいだろう、心して聞いてくれよ……」

 

まるで恐ろしい宣告でもするかのような口ぶりである。

 

 

「例の娘は現在『学園都市』に潜伏している。それを早急に見つけ出して連れて来い、とのことだ」

 

 

 

 

ショチトルは、学園都市という名前を口に出す時、あたかもそれが卑猥な言葉であるかのように顔をしかめた。

 

「学園都市? なんでまたそんな所に?」

 

一方、エツァリの方はほとんど表情を変えていない。

 

「実は数週間前にも、海外の工作員からハバナで目撃情報があるとの報告が寄せられていた。奴が貨物船の中に紛れ込んでいるのを見かけた人間がいるらしい。多分カナダから密航して来たんだろうな」

 

「国際関係についてはよく分からないんだが、なぜカナダなのかね?」

 

「現在、この辺りでキューバと国交があるのはカナダとメキシコの二国だけであり、うちメキシコでは奴の姿が確認されていないからだ。って、そんなことはどうでもいいだろう! とにかく、そいつはハバナ発の貨物船に乗り込んだ。そして、そいつが乗った船は北東、つまりフロリダの方向へ向かって行った……」

 

エツァリは話を聞きながら、考え込んでいるような表情をして黙り込んでいる。なぜキューバが出てきたのか分からないのだ。

 

「だが知っての通り、アメリカとキューバの仲は5年前よりマシとはいえ依然険悪であり、とても交易が行えるような状況ではない。そこで、上層部はフロリダ周辺の、独自に貿易を行うことができる国や港を調査させたんだ……」

 

「フロリダ……あっ!」どこの話をしているのか、ようやく理解した所でエツァリの表情が一瞬だけ凍りついた。が、すぐに先ほどの明るい表情に戻った。

 

「なるほど、あそこか! フロリダの東側にあり、得体の知れない実験ばかり行われているという例の港町!

てっきり『大学都市(シウダ・ウニベルシタリア)』のことかと思っていたよ!」

 

十数年前に首都の南郊に建設された学問の街。オリンピックの会場もここにある。

 

「我々が『学園都市』と言ったら、一つしかないだろうが。ましてやアメリカの庭先にありながら、その意向を無視した独自の外交を行っている『国』ともなれば!」

 

ショチトルはうんざりした顔で言った。

 

「それに、メキシコには来ていないと今言ったばかりじゃないか。第一、そんな近所に潜り込まれて、

我々が気づかないわけないだろ」

 

「それについて、どうでもいいことだと言わなかったか?」

 

「人の揚げ足をいちいち取るんじゃないお前は!」

 

「すまない。ちょっとからかってみたくなってね」

 

陽気な口調とは裏腹に、エツァリの表情が次第に硬くなる。

 

「しかし、まだ確定したわけではないだろう?」

 

「いいや、残念なことに確定している。実は三日ほど前に、都市内の協力組織から連絡があったんだ。奴の姿を中で確認した、とね。しかも都市の住民とすでに接触している可能性が高い。場合によっては多少血を見る羽目になりそうだ」

 

「なるほど。で、私は何をすれば良いのかね? まさかその街に行けというんじゃないだろうね?」

 

エツァリの声が少し不安げなものになった。ショチトルはため息をついてから静かに述べた。

「残念なことに、そのまさかだ。光栄なことじゃないか。残念だけど私はほかの仕事で一緒についていけない」

 

「都市内の協力組織とやらはどうした? 彼らに任せたらいいじゃないか」

 

「報告の直後に死んだよ。かろうじて生き残った者の証言によれば、同じく侵入して来た他宗派の魔術師にやられたらしい。少なくとも三人以上は入り込んでいるようだ。そこで上層部は、生き残った兵士たちそれぞれの能力を判断した結果、お前が適任だという結論に達したらしい。大変だろうが、頑張ってくれ」

 

「待ってくれ、まだ心の準備が出来ていない! 」

 

ここで彼の声にはっきりと狼狽の色が現れた。

 

「本当に行かなければならないのか、あの神に呪われた街に? グリンゴどもがこの世に送り出した事物のうちでも最低最悪と言われている場所に……?」

 

「残念だが、これは確定事項だ。私も掛け合おうとしたがいかんせん地位が低すぎてどうしようもなかった。諦めてくれ。しかし、奴らが『人間図書館』をろくでもない実験に使うつもりなら、その前になんとしても我々が確保しなければならない。今年決行する予定の計画、忘れたわけではないだろう?」

 

「計画……」エツァリの表情が少しだけ変わる。

 

それを見てショチトルは手応えを感じ、さらに説得を続ける。

 

「成功の暁には、あの忌まわしい米帝の侵略者どもに一泡吹かせてやることができる。私達の家族の

仇も取れるんだ……!」

 

「家族の仇……そうだ!」

 

再びエツァリの顔に明るさが戻った。

 

「不肖このエツァリ、命に代えてもこの任務を成し遂げてご覧に入れよう!」

 

胸を張り、頼もしく宣言する。

 

「そう、その答えを待っていたんだよ! それでこそ我が師匠にして兄弟子! 頑張ってね『お兄ちゃん』!」

 

師匠にして戦友、同僚が本調子に戻ったのを見て嬉しそうなショチトル。

 

 

 

 

「明日中にこの国を発て、との命令だ。多分今日中に入るための偽造ビザが届くだろう。健闘を祈ってるよ、『エツァリお兄ちゃん』」




 プロローグです。大まかな流れはスレ時代のものを踏襲しております。終盤のストーリー展開にも大きく関わる予定の内容です。
何か誤字脱字やその他おかしな点がございましたらご指摘のほどよろしくお願いいたします。
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