パソコンがいかれたのでこっちでリメイクしつつ、書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします
プロローグ
「師匠…」
黒髪の少年――リィンは、血塗れで今にも息絶えそうな桜髪の少女の身体を抱き上げた。
その状態に、抱きしめる腕に思わず力がこもる。
「ちょっ、痛いよ、リィン。これでも重症なんだけど?」
少女は弱々しく笑う。
「死傷の間違いでしょう」
リィンは即答した。
その返しに、少女はおかしそうに声を立てて笑う。
「貴女は死ぬ」
リィンの言葉に、少女はゆっくりと頷いた。
「うん、わかってる。けど、君は生きる。私の弟子であり、子である君は生きる」
「ええ、残党どもが残ってますが、あの程度ならなんとか切り抜けられるでしょう…」
「フフ、本当に頼もしくなったなぁ…。師としては嬉しいけど、寂しくもあるね。でも、悔いはないよ。君に足を洗って真っ当に生きろなんて言わない。女神の元に行けるようになんてことも言わない。君は君の人生を歩むんだ…。さよならです、リィン…」
それを最後に、桜髪の少女は静かに目を閉じた。いくら呼びかけても、もう目を開けることはないだろう。まだ幼いリィンにも、そのことは理解できた。幼いとはいえ、彼女と共に数々の戦場を駆け抜けてきたのだから。
リィンはそんな彼女を見つめる。昨日のことのように鮮明に思い出される、彼女と過ごした日々。剣を師事してもらった日々、何気ない日常。その全てが、明日生きているかもわからないような生活を送るリィンにとって、幸福そのものだった。しかし、そんな日々も彼女の“死”によって終わりを告げる。
「あ…あ…あああああああああああ!」
リィンは、彼女の死を前に慟哭する。その悲痛な叫びをトリガーに、それは発現した。
黒かったリィンの髪色は白銀に、そして目は灼眼へと変わる。闘気の質も禍々しく、赤黒い闘気をその身に纏った。憎しみ、怒り、悲しみ、様々な感情がリィンの中で渦巻いている。今の姿は、まるでリィンの感情を体現しているかのようだった。彼女を死に追いやった“彼ら”を殺したいのかさえ、今のリィンにはわからなかった。だから、まるで八つ当たりのように、リィンは刃を彼女の死の原因である“彼ら”に振るうと決めた。たとえ、それが自分を殺していく行為だとしても…。赤く染まっていく視界を、自分が自分でなくなっていくのを無視して…。
「…スベテヲコロシツクス。シャアァァァァァアアアアアアアア!」
そしてリィンは敵の群れへと突っ込んでいく。その戦い方は獣そのものだが、その太刀筋は“彼女”を連想させた。いくら理性のない獣へと変わろうと、長年“彼女”に師事されて培ってきた経験と太刀筋は、しっかりと継承されていたのだ。
「クソ、このガキ…!」
「ホロビヨ」
「ヒッ」
リィンは黒焔を纏ったその刀で、一人の首を刎ねた。
「…あのガキ、やりやがった」
「子供だからって多めに見てやれば…」
「なめんじゃねぇぞ!!」
一人が殺られて、ようやく“彼ら”は状況を理解した。これは油断していい、ただの子供ではないと。あれは一つの軍隊を相手にできる獣であると…。
「ハァァァァァァア!ヤキツクス」
リィンは刀に黒焔を纏わせ、一人、また一人と確実に仕留めていく。武器などで防御を試みるが、リィンのそれは武器ごと焼き斬る。いくら防いだところで意味はない。かわすしか方法はないが、そもそもの話、リィンの剣速もただの猟兵がかわせる代物ではなく、一人、また一人とリィンは斬り伏せていった。“彼ら”はこの時実感する。実感するには遅すぎるくらいだったが…。
――俺たちは関わってはいけない者、いや…化け物に刃を向けたのだと…。
「なんだ…あのガキ…」
「剣鬼…」
今のリィンの姿を見た誰かがそう言った。その名はこれを機に裏世界に名を轟かせることになるのだが、それはもう少し先の話だ。
「ハァァァァァァアアアア…」
なんの変哲もないどこにでもいる子供。それが、猟兵たちという一つの軍隊を半壊に追い込んでいた。
「ウォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」
リィンの闘気はさらに禍々しさを増し、理性も何もないただの獣へと着実に侵食されていた。人でなくなるのも時間の問題だろう。
「あのガキ…まだ、やるつもりなのか…」
「このままじゃ…」
その様子を見た猟兵たちが、リィンの様子を見て戦慄する。リィン一人に隊を半壊させられ、さらに闘気を練り上げ、こちらを仕留める気でいる。その証拠に、灼眼に変化したリィンの目は猟兵たちを見据えていた。上段に刀を構え、残りを仕留めようと練り上げた闘気を黒焔に変化させ、刀に纏わせる。
「オワリダ」
「クッ…」
「やれやれ、おぬしらの自業自得とは言え、流石に無用な殺生…いや、無用ではないか。おぬしらはあやつにとって大切な人間を死に追いやった…。報いは受けるべきじゃが…理性のない鬼に殺されるのは、酷じゃろう…」
猟兵たちの前に現れたのは、腰に刀を携えた齢70くらいの老人であった。リィンは、それに構うことなく疾走し、刀を振るう。黒焔を纏ったその一閃は、対象を焼き尽くす。しかし、老人はそれに臆することなく腰の刀に手を添え、腰溜めに構えた。
「シャアァァァァァアアアアアアアア」
「筋は悪くない、剣武の才もあることながら、その太刀筋は己を高めてきたのじゃろう。その齢でこの武…。まだ伸びるじゃろうな。先が楽しみな子じゃわい。じゃが、今は眠るがよい」
老人は、一瞬の抜刀からの一撃でリィンを吹き飛ばし、意識を刈り取る。
「ア…」
意識を失ったリィンは、白銀に染まっていた髪は黒に戻り、恐らくだが、灼眼に変化した目も戻っていることだろう。
「お主こそ、儂の最後の弟子にふさわしい。結局はお主の選択次第じゃが、お主が七ノ…最後の弟子になってくれることを願うばかりじゃな…。こやつならあのじゃじゃ馬にも届きうるじゃろう…。“八葉の後継”となったならば、きっとお主は…」
そう言うと、老人はリィンを片脇に抱え、歩いていくのだった。
これがリィンと剣仙と呼ばれる武人との邂逅であった。