新たな師との出会い
「ん…」
意識を失って数日、リィンはぼんやりと目を開けた。身体を抱えられている感覚と、微かな揺れ。
「ここは…」
「ふむ、目が覚めたか。もう少し時間がかかるかと思ったが、それは上々じゃ」
声のする方へ顔を向けると、そこにいたのは推定70歳くらいの老人だった。小柄で一見何の変哲もない老人に見えるが、服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体と、リィン自身が肌で感じる圧倒的な強者の気配が、彼がただ者ではないことを物語っていた。しかし、敵意は感じられない。リィンは警戒を解いた。
「名乗っておこうかのう。ユン・カーファイじゃ。しがない老人じゃよ」
「御冗談を。ユン・カーファイ…武に精通する者ならその名を知らないものはいませんでしょう。東方より伝わりし、八葉一刀流…皆伝に至ったものは理に通ずる者とされ、“剣聖”の名で呼ばれる。そして、その創設者たるが、“剣仙”ユン・カーファイ。あなただ…有名人を語る偽物の線もありますが、その隙のない佇まいと気配…間違いなく本物でしょうね…」
リィンが言ったように、“八葉一刀流”は武に精通する者なら知らぬ者はいないとされる流派だ。東方に伝わる太刀を使った剣術で、壱から悉の型までが存在する。その一つでも極めた者は“剣聖”の称号を与えられ、理に通ずる者として名を轟かせると言われる。帝国で武の双璧とされるアルゼイド流やヴァンダール流のように多くの弟子を抱えているわけではない。しかし、八葉の剣士は少数でありながら、歴史に名を残す武人を輩出してきた。いわば、少数精鋭の流派なのだ。
「フフ、まぁ、そうじゃな。お主を助けたのはたまたま通りかかっての。暴走し、戦意のない猟兵を斬ろうとしてるところを止めたわけじゃ…」
「…そうですか…。ご迷惑をおかけしたみたいで…」
「なに、なんのことはない。それで、儂がお主を拾ったのはたまたま見かけたのもある…。じゃが、実際にお主を見て、確信した。お主、儂の弟子にならんか?」
ユンの言葉に、リィンは一瞬目を見開いた。
「あの名高き“八葉”を師事してくださるのは光栄ですが、基礎だけとはいえ、剣術は一つ修めてましてね。純粋な八葉の剣士とは言えませんけど?」
「なに、八葉も元々は多彩にある武の流派から取り入れ創設したものじゃ。それに、他の流派を取り入れたほうが八葉も更なる進化をとげるじゃろう。どうじゃ…そういえば名を聞いておらんかったな」
「ハハ…。変わった人ですね。その申し出、受けましょう…名はリィンといいます。性はございません」
「よかろう、リィンよ。今から、お主は儂の弟子じゃ」
「ええ、よろしくお願いします、ユン殿」
こうして、リィンは八葉一刀流の最後の弟子として定められることになるが、それはまだ少し先の話だ。