『ワールシティ』と書かれた看板から2つ先の曲がり角を右。手前から3つ目の建物が、ニシキギポケモン研究所だ。
少しドキドキしつつ、インターホンを押す。反応はない。
「あっれ?ニシキギ博士ー!」
『ピユゥ!』
声もかけてみても反応がない。首を傾げていると、近くを通りかかったおばちゃんに話しかけられた。
「あんら、ニシキギ先生にご用なの?」
「あ、はい。ポケモンを貰いに……」
「あらぁ!ニシキギ先生なら、ついさっき向こうの廃墟に出て行ったわよ?行ってみたらいいんじゃないかしら」
「うぇっ?!ありがとうございます!」
ちょっと遅かったかー!ニシキギ博士、ちょっと自由人な所があるからなぁ。
とはいえ、向こうの廃墟……まちの北側にある病院の廃墟っぽいところだ。どうして廃墟になったかは知らない。
仕方がない、とりあえず向かうかあ。さっき森を抜けてきたばっかりなんだけどなー……。
◆◆◆
ワルトも大丈夫そうだったので、廃墟の方まで来た。ちらほらとポケモンを探しに来たのであろうトレーナーの姿と、住み着いているバケッチャとムウマ、ヨマワルの姿が見える。真っ昼間なのもあって、別に不審なものはない。流石に建物内はヤバそうな雰囲気だけど。
さて、ニシキギ博士はどこだろう?近くにいたエリートトレーナーっぽい人に話しかけて聞いてみる。
「ニシキギ博士?それなら、向こうに行ってるのは見たけど?」
エリートトレーナーっぽい人は、奥の方を指さした。廃墟内というか、廃墟の中庭の方向だ。
確か、構造上、少しだけとは言えど建物内を通らないと中庭には出られなかったはず。嫌だなあ。
とりあえずお礼を言って、中庭の方に行くことにした。ワルトが不思議そうに、警戒するような表情をしていた気がするけど、きっと気の所為だと思うことにした。
嫌だなあ、とは思うものの、行くしかない。待ってても、ニシキギ博士って数日出っぱなしの時もあるし……。
壊れた扉から中に入る。真っ昼間だと言うのに薄暗く、若干ムウマが漂っているのが見える以外は何もいない。
ワルトがいることを確認して、中庭に出るべく扉を探すことにした。
◆◆◆
……のだけど。
「?????」
また、迷い、ました─────。
思った以上に構造が複雑だったし、ムウマからのイタズラもあってなかなか進めず、そしてここはどこ状態になった。
なかなか外に出る通路も見つからず、真っ昼間だったのが夕方になっていた。どうして。
ワルトも呆れたようにため息をついた。さっきからイタズラしてこようとしてくるムウマをムーンフォースで追い払ってくれているので、感謝しかない。
案内看板はあったものの、ボロボロになりすぎて判読できない。
と、顔を上げると目の前に階段があった。下りはガレキで塞がれているものの、上りは使えそうだ。いちど屋上に出て、最悪そこから壁伝いに降りよう。
屋上に出る。いつの間にやら空は夕陽に染まっていて、時間がとても経っている事が分かる。
フェンスに手をかけて、中庭を見下ろす。中央の草むらの中、ツインのアイスクリームのようなポケモンを連れた、フリーザーをちょっと模した白衣の人物の姿が見えた。ニシキギ博士だ。
「ニシキギ博士ーーーーー!おーーーい!!」
大声で中庭に向けて声をかける。何度かかけたところで、ニシキギ博士が振り返った。俺は大きく手を振る。
「──、──!」
ニシキギ博士が何か叫んでいる。遠いからか、よく聞き取れない。
「どーしたんですかーーーーー!」
「────!」
分からない。だが、ニシキギ博士はなにやら指をさしている。よーく耳をすます。
「───!!──i─!!!!──う、し、ろ!!!!!!」
「……後ろ?」
『ビュウ!!!!』
ワルトが鋭く鳴いた。疑問に思いつつ、振り向く。
真後ろには───ムウマとヨマワルの群れと、とヨノワール。
「────え?」
ドン、と軽い衝撃があって、景色がぐらりと反転した。何故か、空が離れていく。
理解するのにすこしかかった。理由は分からないが、ヨノワールに屋上から突き落とされたようだった。ワルトが駆けつけようとして、ヨノワールに邪魔されて、ムーンフォースを撃っているのが見えた。
こういう時って、やけに冷静でゆっくりに感じるんだな。ああ、15+数10年の出来事が思い出される……走馬灯ってやつなのかな……。
夕陽で朱に染まった空が離れていく。死ぬなら一瞬がいいなぁ、とか呑気に考えてしまう。
ふと、そんな空の中に影が見えた。Yの字のような、紅く黒い影。
その影はみるみる近付いて来る。ここに来てビビった俺は、ぎゅっと目を瞑った。
すると、ふわりとした感覚に襲われた。
『ギュァ』
鳴き声に、恐る恐る目を開けてみる。俺は何か、黒いものの上にいた。
周囲を確認、それから、俺が何の上にいるかを遅れて認識した。
「……イベルタル?!」
『ギュアァ』
イベルタル?!イベルタルナンデ?!……いや、もしや、森で手当したから?んなわけ。
そのうちに、イベルタルは中庭へと降り立った。少し遅れて、ワルトもこちらへと来た。ニシキギ博士とバイバニラは、ポカーンとして硬直していた。
よく分からない空気を最初に破ったのは、ニシキギ博士だった。
「えーっと……その子、イベルタル、だよね?」
「あ、はい……」
◆◆◆
混乱しつつも、ことの経緯(?)をニシキギ博士に話した。すると、博士は面白そうに。
「あーっはっは!なるほど!それで、イベルタルが!」
「確定じゃないんですけどね……」
「いやーっはっはっは!大型新人ってやつだねー!」
ワルトとバイバニラが、どこか呆れたように目を伏せたのが見えた。イベルタルは大人しい様子で、こちらをじっと見ている。
「ま、そーゆーことね。完全に理解したよ。僕のとこにポケモン貰いに来たってわけなんだね」
「はい」
「それなんだけどねー……ポケモン、今居ないんだ!」
「はい?」
博士が言うには、「ちょーーど、ポケモンみんな連れて出られちゃってね」とかなんとか。マジで?
このままワルトを連れていく訳には行かないし、どうするべきか……。
「どうしよう……」
そう考えこもうとしたとき、くいくいと袖を引かれた。イベルタルだ。じっとこちらを見ている。
「イベルタル……?」
「ははーん、なーるほどね。クリュザくん、今モンスターボールは持ってる?」
「モンスターボールですか?一応……」
「OK、ひとつ出してみて?」
言われるがままに、ボールをひとつ取り出す。すると、イベルタルはすかさずボールに触れ、そのままゲットされてしまった。
「え?」
どういうこと?と俺が首を傾げると、ニシキギ博士は笑いながら頷いた。
「やっぱりね。事情は分からないけど、イベルタルはキミについて行くべく来てたんだよ。パートナーとして、連れてってあげたらどうだい?」
そんな小説の主人公みたいな。
ボールの中をを覗くと、イベルタルは若干キラキラした目でこちらを見ている。あーもー!
「……うん、そうだな。よろしく、イベルタル」
『ギュアォ』
こうして、俺はパートナーをイベルタルとして旅を始めることとなった。