流石に遅いからと、ニシキギ博士の研究所に泊まって、夜が明けた。夜の間に、ワルトは家へと飛んで帰った。
「さて!クリュザくん。これからキミはどこに向かう気なんだい?」
研究所の前、お礼も言って行こうとしたら、ニシキギ博士からそう聞かれた。
どこに……実は特に、決めていなかった。
「強いて言うなら、色んな地方とか場所とかは行くつもりですね。イッシュとかジョウトとか」
「なるほどねー。まあ、ジム巡りしてリーグに挑むにも、別地方に行くにも、まずはブラウシティに行くべきだね。あそこなら、飛行機も船もあるからさ。……ほらこれ、あげるよ」
ニシキギ博士から、スマートフォンのような端末を貰った。
「これは?」
「ポケモン図鑑も兼ねる端末さ。ポケモン代わりの贈り物だと思ってね」
ぱちこん、と博士はウィンクした。
「泊めて貰うだけじゃなくて、図鑑まで、ありがとうございます」
「いいっていいって!あ、もしリーグに挑むんだったら、僕も待ってるからね?その時は本っ気で!相手するからねー」
「あはは……それでは」
そういえば、ニシキギ博士はポケモン博士であると同時にエナム地方の四天王の1人だったりするんだった。忘れがちになるけど、実力は本物だとかなんとか、いつか聞いた気がする。
◆◆◆
さて、ワールシティから出てどうろへ。ワールシティにもジムがあるが、ゲーム的に言うなら5番目の街にあたる。ちなみにゴーストタイプのジム。最初に挑むようなとこじゃねーですわよ。
しかし、最初のポケモンがイベルタル……大丈夫なのかな?いや、何がというわけじゃないけど、強いて言うなら、こう……俺の自制心的な意味合いで。
まあ別に、悪の組織よろしく『世界征服!』とか『世界リセット!』とかは思わない。が、イキり散らさないようにだけは気をつけないとね。
それはさておき、目下の問題がある。
「おい!いいからオレと勝負しろ!」
「えぇ……」
たんぱんこぞうが しょうぶをしかけてきた !
目と目があったらポケモン勝負?そんなのゲームだけにして欲しい。通行人に無理矢理挑むとかはた迷惑でしてよ、奥様。
ボールの中のイベルタルに視線を向ける。イベルタルはどことなく、『べつにいいけど』というような感じだった。
まあ、このたんぱんこぞうも相手しないと黙らなさそうだし、仕方がない。
「いいけど……」
「おっしゃ!センパイとしてボッコボコにしてやるからな!!いけっ!」
たんぱんこぞうは意気揚々と、バタフリーを繰り出した。多分、初エンカする相手としては高い方な気もするけど、バタフリー。進化レベルいくつだっけ。
「ほらはやく!おまえのポケモンも出せよ!」
「分かってるよ……イベルタル!」
『ギュアァオ!』
ボールをかざすと、赤い光とともにイベルタルが現れる。たんぱんこぞうはビビる様子を見せた。イベルタルのことは知らないらしい。が、強がるように。
「へっ、へーん?なかなか強そうじゃん?で、でも!オレのバタフリーには勝てねぇぜ!『むしのさざめき』!」
バタフリーは指示に合わせ、翅を震わせてむしのエネルギーを乗せた音波を放つ。
確かに、バタフリーの技でもまあ、最適とは言わずとも適した解のひとつだろう。イベルタルはあく・ひこうタイプ。例えイベルタルのタイプを知らなくとも、見た目からしてひこうとあくと考えられる。
むし技なら、等倍で入る。ゲームじゃないんで変わるとこはあるだろうけど、単純に考えるなら悪くは無い。
さて、こちらはどう対応しよう。
間違いなく、デスウイングはやめた方がいい。アニメや映画を参考にするなら、絶対にヤバい。最終兵器とか言うレベルじゃない。
そうなると、良さそうな技……そうだ。
「イベルタル、『バークアウト』」
『ギュアアアオ!』
イベルタルに指示を飛ばせば、イベルタルは怒鳴りつけるように音波を放つ。それはむしのさざめきとせめぎあ……う事すらなく、一方的に押し返してバタフリーを吹き飛ばした。そのままバタフリーは、ぐるぐると目を回して気絶してしまった。
「は、はあ?!」
「……わあ」
圧倒的オーバーキル。たんぱんこぞうはバタフリーにかけより、キズぐすりを吹き掛けてから、ボールに戻した。
それから、俺が何とか言おうとする前にたんぱんこぞうは立ち上がり、ビシッと指をさしてきた。
「つっ、次は!!!そのでっけーの吹っ飛ばしてやるから!!!!ボッコボッコにしてやる!覚えてろ!!!!」
「え?あ、う、お、おう?」
そのままたんぱんこぞうは、ワールシティの方へと走っていった。
いやしかし、最初からイベルタルとか、中々どころかとんでもないオーバーキルでは?……考えても仕方ないか。
「とりあえず、お疲れ、イベルタル」
『……ギュア』
イベルタルをボールに戻そうとボールを取り出したが、イベルタルはむっとした。
「あー、えっと、ボールに戻りたくないのか?このままついてきたいのか?」
『ギュ』
おおう。某マサラ人の相棒……じゃないけれど、連れ歩き状態がいいのか。
目立つ気もするけど、まあいいか。イベルタルがそうしたいならそうしよう。
「仕方ないな。んじゃ、行こうか」
『ギュアア♪』
目指すはとりあえず、ブラウシティ。確固たる目的がある訳では無いけど、まずはそこだ。