東方幻創弾 〜Phantasm memories from Buster.〜   作:蒼いなんでも屋

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 幽々子にはなかなか重い過去があってびっくり。
 いつか、紫のみ知るその秘密を、彼女も知る時が来るのでしょうか。
 

 ……んな事いいだしたら、他のキャラにもそういうヤツいますよね。

 という訳で謎深まるストーリーをご覧あれ。




009. 幽霊の桜

 ひとまず半霊を助け出し、彼女を襲っていた騎士型の機怪「ブレイド」を撃退した、星羅たち。

 しかしブレイドはその際に、次元の裂け目で逃げ去ってしまう。

 

 意味深なセリフを残して。

 

 

 その事を紫に「よく考えて受け取りなさい」と言われた霊夢は……

 

 

 

 

 

 

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「…………」

 

 

 博麗神社に帰ってきた一行。

 

 霊夢はひとり縁側に座り、ぼうっと考え事をしていた。

 

 

 

 ーーさっきの紫の言葉が妙に気になる。

 機怪に言われた時には何とも思わなかったのに、紫に指摘されるとやけに現実味を帯びてしまう。

 何故だろう、紫の言葉をここまで鵜呑みにしたのは……久し振りかも知れない。

 

 ブレイド、だったかな。ヤツは言った。

 

[所詮は攻略済みのザコ、オレの敵ではナイ!]

 

と。

 

 事前にわざわざ調べたというならばまだしも、「攻略済み」と言われた。つまり、あのセリフがハッタリなどでは無かった場合、ヤツらは私達と戦うのは初見ではない、という事になってしまう。

 

 ……じゃあ、アイツらの目的は一体何なの?

 幻想郷では類を見ない鋼の身体に、あからさまに近代的な武装、そして……既に調べられた私達の情報を持った連中、機怪は何がしたいの?

 ……考えれば考えるほど、余計な謎が増える。

 

 

 それに、星羅の事も気になる。

 

 私(と魔理沙)が攻撃出来なかった相手を、軽微とはいえ彼女は容易く攻撃してみせた。

 今更だけれども、彼女は弾幕ごっこすらままならない戦闘初心者……そんな彼女があっさりとダメージを与えて、私達ができないのは、普通に考えておかしい。

 また、ヤツらが私達の事を予め調べ尽くしていると仮定したら、その場合ブレイドが星羅のバスターを知らないのはやはりおかしい。

 

 星羅は一体……何者なの?

 

 

 

 

 

 

「……おーい、霊夢? なにぼーっとしているんだ?」

 

 

 やって来た魔理沙の言葉に引き戻された霊夢は、さっきまでの思考を一旦止め、後ろの彼女に答えた。

 

「……いや、何でも無いわ」

「ホントか? 私にはわかるんだぜ」

 

そう言い振り向く魔理沙。

 

 そこには疲れたのか、壁に寄りかかって眠る星羅がいた。

 相変わらずの、スタミナの無さだ。確かこの間……機怪との初戦闘時でも、プラズマチャージショットを一発撃ったあの後、神社で爆睡して翌昼まで起きなかったような……。

 

星羅(コイツ)には黙っておいてやる。……何考えていたんだ?」

「それは……その」

「……どうせコイツと、あの機怪の事だろ?」

 

 魔理沙はお見通しといった表情で言う。

 

「紫があーだこーだ言ってたが、あの話は一旦置いといて……まぁ……私もあんまり疑いたくないんだが……確かに、コイツは何かおかしい。記憶喪失の割に持ってる機怪特攻武器、そしてそれを可能たらしめる謎のメモリ。……コイツにはいつも、謎がつきまとっている」

 

 2人の会話とは裏腹に、星羅は穏やかに眠っていた。

 かすかに、すぅ、すぅ、と寝息が聞こえる。

 

「……こんな優しい、仲間思いなヤツが、少なくとも私たちを裏切るなんて事は……多分、無いと信じたい。だろ、霊夢?」

「えぇ……」

「だったら信じてやろうぜ。コイツに……私たち以外に、帰る場所は多分無いからさ」

「……魔理沙」

「白玉楼とか他の場所があるかも知れない。でもな、コイツにとってはお前も私も、命の恩人だ。コイツが私たちを信じている限り、一緒にあのロボどもと戦う限り……私たちも、コイツを……星羅を、信じてみようぜ」

 

 そう言って、魔理沙は微笑む。

 

 魔理沙はいじわるなところもあるが、なんだかんだでまっすぐな性格だ。こういう時に、それが魔理沙をその気持ちにさせたのだろう。

 

 だが、霊夢には、魔理沙がそこまで星羅を信じていられる訳がいまいち理解出来なかった。

 

 勿論星羅の事を疑っている訳では無いし、敵では無いとも信じたい。でも、怪しいところもあるのが現実、しかも現在進行系で幻想郷は攻められている。

 幻想郷を守る使命がある以上、突然現れた記憶喪失少女をなんの疑いも無く信じる訳にはいかなかった。

 

「……そこまで言える、根拠はあるの?」

 

霊夢のそんな問いに、魔理沙は迷う事なく答えた。

 

 

「記憶が無い、右も左も分からないヤツに誰も手を差し伸べなかったら、そいつはどうなる?」

 

 

 そして、魔理沙は頭の帽子からミニ八卦炉を取り出し、星羅に持たせた。

 

「これで少しは暖かいだろ。春っつってもまだ寒いからな」

 

 

 

「……」

 

 その様子を、ただ霊夢はじっと見つめ、何かを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

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 魔理沙はそのまま神社で晩飯も食べたいと言うので、霊夢は3人前のご飯と味噌汁を用意した。

 星羅はご飯の匂いに誘われてゆっくり起きた。

 

 

「……はぁ」

「どうした星羅? ため息なんて」

「うぅん、別に。ちょっとね」

 

 どこか暗い表情の星羅。

 そんな彼女に霊夢は言う。

 

「……アンタね、ご飯の時くらいはしょげてないで明るく食べなさいよ」

「霊夢」

「その方が楽しいし……作った身としても、嬉しい……からさ」

 

 ちょっと照れているような霊夢に、星羅は思わず笑った。

 

 

 

「あはは、霊夢に言われちゃ敵わないや」

 

 

 

「……え?」

「……星羅、今なんて?」

 

 予想外の反応に違和感を覚えた2人。

 だが星羅本人は、

 

「……? 何か言ったっけ」

 

と、首を傾げた。

 

 

「……ま、いいわよもう。それよりも早く食べないと、冷めるわよ」

「うん、じゃあ改めて……うーん、美味い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした! う〜ん、やっぱり霊夢のメシは美味しいよ」

「ならもっともだわ」

「私もごちそうさまだぜ霊夢」

「えぇ、そこ置いといて。後で片付けとく」

「おう。じゃ星羅、また明日な」

「うん、またね」

「星羅、どうせ暇なら手伝って」

「へーい、任せて」

 

 

 

 博麗神社での仕事(なんでも屋雑用)のひとつ、皿洗い。

 お椀が大半だが、星羅は楽しくやっている。

 別にそこに嫌な気持ちは無かった。

 

「霊夢、ひとつ気になったんだけど」

「何?」

「……私、何で機怪に狙われているのかわからないじゃん?」

「そうね。……それで?」

「……どうして、半霊をあそこまで追い詰める必要があったのかな」

「幻想郷侵略のためなら手段を厭わないって事じゃないの」

「……」

 

蛇口を捻って、霊夢は水を止めると、皿たちの水気をきって星羅の分も取って重ね、乾燥台に並べた。

 

「あのブレイドから、少しはヤツらについてわかると、後先すごく助かるんだけどさ。侵略の具体的な目的と、アンタを狙う理由」

「……うまくいくの、そんなに?」

 

星羅の問いに霊夢は少し考え、答える。

 

「幻想郷民なら、ある程度巫女権限でスペカルールに(のっと)った決闘でボコして事情を聞き出す事も出来るけど……ヤツらは異世界の侵略ロボット、そう上手くはいかないでしょうね」

「……だよね」

 

 霊夢は予め持ってきた寝間着(ねまき)を取ると、星羅に渡した。

 昔、魔理沙用に香霖が作ったは良いが彼女が気に入らなかったので保留していたという、星柄の青い寝間着である。この間折角だからと香霖が渡したのだ。

 

「はいこれ、いつもの。明日もどうせ早いから、さっさと寝なさい」

「うん。霊夢もしっかり寝てね」

 

「……おやすみ、星羅」

「おやすみなさい、霊夢」

 

 

 星羅が微笑んで返したので、霊夢もつられてふっと笑った。

 

 

 

 彼女がここにやって来るまで、夜はいつも孤独だった霊夢にとっては、なにか思う事があったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、若干の曇り空だったものの雨などは降りそうにもなかったので、霊夢、魔理沙、星羅の3人は白玉楼へ再び向かった。

 

 機怪の妨害も無く、一行はすぐに冥界に辿り着き、そのまま階段を飛んでいった(霊夢曰く「面倒臭い」とのことで直接登ってない)。

 

 

「……寒い高い怖い」

「……離れろ〜! 重い〜!!」

 

……当の星羅は怖気づいて魔理沙に抱きついて離れなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ〜い、ようこそ白玉楼へ」

「今なにかお持ちしますね」

「それよりもこのびびりをなんとかして」

「あばばば……」

「……霊夢、仕方ねぇだろ」

 

 無事(?)白玉楼に着いた一行。

 桜の花弁が舞い散るなか、霊夢たちは屋敷へと入っていった。

 

 

 

 

 

「……で、聞かせてもらおうかしら。半霊」

 

 霊夢が早速話題を切り出した。

 魔理沙も頷いて、

 

「妖夢、頼む」

 

と、妖夢を促した。

 

「では……」

 

 妖夢は立ち上がると、すぅと息を吸い、一息に宣言した。

 

 

「魂魄【幽明求聞持聡明の法】!」

 

 

 たちまち半霊が光り輝いて、妖夢と同じ人の姿へ変化する。

 

「へぇ、半霊って妖夢と違って目が赤いのか」

 

星羅がようやく見分け方を知り感嘆する。

 

 

『……皆さん』

 

 半霊は降り立つと、突然、

 

 

『……この度は……申し訳ございませんでした』

 

と、その場で土下座をした。

 

 

「えっ」

「おい……別に土下座しろなんて私たち言ってないぜ」

 

霊夢と魔理沙があ然とする。

 だが半霊は続けた。

 

『私の身勝手で……こんな事になったんです。本当にごめんなさい』

「半霊ちゃん…」

『やっぱり謝らせてください! 皆さんに迷惑をかけたのは私の責任ですから』

 

しっかりと頭を下げる半霊に、皆は黙った。

 

 

 

「……まったく、妖夢は妖夢なんだね……」

 

 沈黙を破ったのは、星羅だ。

 

「別に土下座しようがなんだろうが、私たちは気にしないよ。だって、もう済んだことじゃん」

『でも』

「だからもう大丈夫だって。顔を上げなよ」

 

半霊の頭をそっと撫でる星羅。確かに暖かな感じがする。

 

『……本当に、すいません』

「いいの。それに半霊のお陰で色々わかった事もあるし」

「そうだな」

「気にしないで、そういうのはもういいからさ」

『……はい』

 

 半霊は微笑んで、頷いた。

 

 

 

「あのー、半霊を撫でられると……ちょっと」

 

 妖夢が顔を赤くして言った。

 

「あ……」

 

 星羅は思い出した。

 

 半人と半霊は感覚をある程度共有していたのを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ半霊、改めて色々聞かせてもらうわ」

『わかりました』

 

 2人の妖夢は幽々子に撫でられながら、霊夢たちの方を向いて座った。

 

「仲良いんだね」

「見りゃわかるだろ」

 

星羅は魔理沙とそんな事を囁いていた。

 

 

「じゃあまず、一つ目。ブレイドを追いかけて、アンタは何がしたかったの?」

 

 人差し指を立てて、霊夢が問う。

 

 何を思ったか幽々子がそっと外へ出た。

 

「ひとりでやった理由も、できたら聞かせて」

 

『それに関しては単純明快、早めに倒しておいた方が良いかと考えただけです』

「ひとりでやったのは?」

『人目につかない内に、と思いまして。半人(こいつ)が付いてこようとしなかったのでスペカをひったくっただけです』

「……は? ついて来いとかなにも言われなかったけど」

『はぁ?』

「おーい、そこでケンカしないで」

 

 星羅が即刻仲裁。

 霊夢はこの先大丈夫か不安になったが、続ける事にした。

 

「……えっと、次、二つ目。ブレイドについてわかった事、もしくは機怪についてわかった事を出来るだけ教えて」

 

 

 

 

「……星羅ちゃん」

 

 ふと、星羅の横から声がした。

 星羅がそちらを向くと、さっき外に出た幽々子が手招きをしている。

 

「幽々子さん」

「ここは霊夢たちに任せて、私たちはちょっとお散歩しましょ」

「……お散歩?? どうして、今?」

 

首を傾げると、幽々子は笑って言う。

 

気分転換(メンタルケア)も、時には大切よ」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 星羅は目の前のモノを見上げて、幽々子に言った。

 

 

「意外と……いや、予想以上に綺麗ですね」

「なんてったって、白玉楼の誇る桜……西行妖(さいぎょうあやかし)だもの」

 

 

 

 幽々子が星羅を連れてやって来たのは、庭に立つ一本の桜の木の前。

 どことない妖気が醸す雰囲気は、何故か星羅を怖がらせはしなかった。星羅の心が落ち着いているだけなのか、単に怖がる気持ちに順応したのか、その理由(ワケ)はわからない。

 そして桜は全てが咲いている訳では無く、ところどころ、(つぼみ)の中に閉じ籠もったまま開かない花があった。

 その名は、西行妖。

 妖と書いて、あやかしと読む。

 

 

「この木はねぇ、簡単に言えば、“絶対に満開にならない木”なのよ」

「へ? 満開に……ならない?」

 

 幽々子の話に興味をもつ星羅。

 知らない事しか無い世界、否、もしかすると忘れてしまったかもしれない世界の話は、全てが新鮮なのだろう。

 

 幽々子は一息おくと、ゆっくり語り始めた。

 

 

 

「……この木にはね、“誰かさん”が眠っているのよ」

「誰かさん……?」

 

「その人が誰なのかは、誰も知らない。

妖夢も、私も、あなたも。

 

その木に封印した、訳もわからない。

幽霊も、亡霊も、妖怪も。

 

そしてそこに、どれだけ眠っているのかも知れない。

過去も、今も、これからも……。

 

 

その“誰かさん”は、桜が満開になった時目覚める。わざわざ何者かに封じられた、その力を持って」

 

 

 

 幽々子の不思議な言い回しに、星羅はポカンとして首を傾げた。

 こういうのには慣れない。そもそもかつて慣れていたのかもわからないけれど、今の星羅には正直その意図を理解出来なかった。

 

 ただひとつ、わかった事。

 それは、この木に眠る人は、幽々子に関係があるのではないか、と。

 

「……幽々子さん」

「ま、復活させようとはもう思っていないわ」

「え、一回やってみたんですか」

「……まぁ、ね。一回だけ……試した事はあるわ」

「……」

「幻想郷中の春を集めて、その木に【春度】を溜めたのよ。桜を満開にさせたくてね。すぐに霊夢と魔理沙がやってきて、妖夢もろともこてんぱんにやられてしまったわ、「勝手に春を盗んで変なことしないで」ってねぇ」

 

 星羅はそれを聞きながら、再び西行妖を見つめた。

 

 ただの桜ではない。

 そこにあるのは……妖気の漂う、“誰かさん”を眠らせた、二度と満開にならない、封印せし幽明の木。

 幽霊が周りを舞い、その白い明かりが幹を照らす木。

 

 同じ木を見ているハズなのに、たったあれだけ聞いただけで……とてもそうだとは思えなかった。

 

 

 

「さ、そろそろ妖夢たちの取り調べも終わっているでしょう、戻りましょうか」

「……はい。ありがとうございました」

「ふふ、気にしなくていいのよ」

 

 

 と、星羅は西行妖をあとにしようとした

 

 

 

 

その刹那だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈……誰?〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 ーー頭にノイズがかかる。

 誰かの声がする。

 私に問いかけてくる。

 

 

〈……アナタは、誰? わたしに、何を求めて見ているの?〉

 

 

「……ぅあっ……!?」

 

 

 

 

 

 星羅は、どさっとその場に崩折れた。

 

「星羅ちゃん? ど、どうしたの?」

 

幽々子がかがんで星羅に声をかけ……

 

 

「! まさか……」

 

 

と、顔を青ざめさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“禁忌(アレ)”に……触れたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 桜の木かー……

 こんなご時世でなかったら、お花見行きたかったです。皆さんは行きましたか?


※12/21改訂
・脱字を直しました
・一部補填&修正

この中で、番外編やってほしいのは?

  • 紅魔館組
  • レイマリ
  • うどみょん

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