東方幻創弾 〜Phantasm memories from Buster.〜   作:蒼いなんでも屋

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 妖々夢編(えっ?いつからそうなったの?)のラスト。
 個人的見解で進みましたが、妖々夢の一つの解釈として見届けていただけると幸いですね。


 明けましておめでとうございます。
 今年も何卒宜しくお願いします。



 ではでは〜






 気合入りすぎて一番長いです。







011. 妖々夢、時々弾

 

 

 

 

 

 

 

 ーーあれは、いつの頃だろう。

 

 私が、あの木の事に気付いたのは。

 

 

 

 もしかしたら、欠けた記憶の奥底で……最初からわかっていたのかも知れない。

 

 でも……

 

 

 

 もう、後戻りはできないーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「よう……む……

 

 

 

私を……ここで、消してくれる……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 おぞましいオーラの光。

 

 溢れかえる、暗いエネルギー。

 

 そしてーー幽々子の、悲痛とも切実ともとれる、静かな叫び。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい……こりゃとんだサプライズだぜ!?」

 

 

 魔理沙は目の前の光景に、ミニ八卦炉を構えながらも後退った。

 

 

「……幽々子様っ」

『“アレ”は……一体……!?』

 

 妖夢、そして半霊も、目を見開いたまま、信じられないという顔つきでソレを見つめていた。

 

 

 

 

 

 西行妖に突き刺さった、ブレイドの大剣。

 その切り口から溢れ出す、木がこれまで溜めてきた妖気が、幽々子を依り代に、白玉楼中に広がっていた。

 

 幽々子本人の意識は、もう無い。

 

 ……というよりも奪われているに近しい状態だ。

 

 

 ブレイド……もとい機怪たちは、元から西行妖の呪いを目覚めさせるためにここに来たのだろうか。

 霊夢はそう思いながらも、お祓い棒を握り直し、表情を引き締めた。

 

 

「……あのままじゃ、()っといたら白玉楼どころか、冥界中に西行妖の妖気が蔓延してしまう。取り敢えず大人しくさせるわ……魔理沙、手伝って」

「……わかった、なんでもやってやる」

「妖夢は星羅をお願い」

「うん、任せて」

 

 妖夢は半霊を元に戻し、星羅を護衛するように彼女の前に立つ。

 

 

「強力な結界を使って幽々子を止める。魔理沙、アンタはなるべく注意をひいてくれる?」

「なるほど、任せろ」

 

 霊夢が周囲に札を展開したのを見て、魔理沙も飛び出し、

 

「威嚇ってね」

 

と、数本のレーザーを照射した。

 

 

「恋符【ノンディレクショナルレーザー】!!」

 

 

 魔理沙の横に浮く発射装置から放たれる虹色の光線。

 

 それらは交わりあい、離れ合いながら幽々子の周囲を攻撃した。

 

「さて、どうなるかなぁ……」

 

魔理沙は幽々子を注視する。

 

 すると、

 

 

 

「……」

 

 

無言の幽々子は片手を挙げると、その掌から放ったオーラでレーザー全てをかき消してしまった。

 

 

「おいおい! まるごとパーかよ!! 流石にそれはズルいぜ!?」

 

「大丈夫よ魔理沙、お陰でスキが生まれたわ。後は任せて!」

 

 慌てる魔理沙をよそに、霊夢は準備を整え、宣言した。

 

 

「少しの間……大人しくしてなさい!

 

夢符【封魔陣】!!」

 

 

 念押しで強めに込めた霊力による陣が幽々子足元に敷かれ、彼女の動きはかなり鈍り、呪いのオーラもほぼ漏れなくなった。

 

 

「流石は巫女様だな」

「今の内になんとか策を講じましょ」

「あぁ」

 

二人は妖夢らのところへ駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのオーラは……」

 

 

 時を同じくして、星羅は幽々子の呪いオーラに、既視感(みおぼえ)を抱かずにはいられなかった。

 

「……何か知ってるの」

「……まさか」

 

妖夢に聞かれ、星羅は呟く。

 

 

 

「夢に出てきた暗い幽々子さんと、今の呪われた幽々子さんは……身を包む感じがまるでそっくりなんだよ」

 

 

「……えっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あのオーラは……

 

 

 何かをしてしまう事への、恐れ。

 

 何かに対する、自分への、哀しみ。

 

 何かをしてしまった事の、辛さ。

 

 

 

 そして……死への、孤独な気持ちだ。

 

 

 

 いつもの幽々子さんからはとても感じなかった感情だ。

 

 でも夢の幽々子さん、そしてあの時話しかけてきた声。あの感じは……間違い無く、今幽々子さんを包むモノだ。

 

 

 そしてなぜかそれを理解出来る……ような気がする。

 

 

 さっき薄っすら記憶に蘇った、そういう「過去の負の思い出」

 

 それをぼんやりと感じていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ポケットに入ってた、三枚目のメモリを取り出す。

 

 

 今隣りにいる、彼女の物と同じ刀が描かれた……白銀のメモリ。アクセントになっている黒が映えるメモリ。

 

 もし。

 本当に、彼女の記憶から生まれたのならば。

 

 

 

 

 

 なら……今私に、出来る事は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「妖夢、考えがあるの」

 

「え?」

 

「でもこれは賭けに等しいかも……だけど、私に賭けてくれる?」

 

 

「……」

 

 

 星羅はメモリを妖夢にかざす。

 

 メモリのイラストは色付き、桜の花弁の舞う中輝く刀のものへと変わった。

 

 

「……それは」

「……妖夢、聞いてくれる? コレについても」

 

 

 

「………………、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、動きは止められたけれど」

 

 合流した霊夢が言う。

 

「どうやって……幽々子を助け出す?」

 

魔理沙が早速進言する。

 

「今のあいつは呪いに乗っ取られた……所謂、傀儡ってヤツだ。しかも幽々子本人はなぜか知らないが死にたがってる……そんな状態で、あいつから呪いだけ切り離すのはキツイんじゃないか」

「そうね……あまりやりたくないけど、最悪の場合幽々子ごと成仏させて消滅に持ち込むしかないわ」

 

 

 唸る2人に、星羅が言った。

 

 

 

「……ねぇ、2人とも。

 

 

ここは私と妖夢で、幽々子さんを助け出したいんだけど」

 

 

 

 予想外の発言に、真っ先に魔理沙が突っ込んだ。

 

「……はぁ!? どういう事だよ、星羅に妖夢」

「……何か作戦があるの?」

 

霊夢も驚いているようだが、すぐに問いだしてくる。

 

 星羅は白銀のメモリを取り出し、

 

 

「コレが……多分、幽々子さんを助けるには不可欠なんだよ」

 

 

と、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まず、幽々子さんを覆う呪いは西行妖から溢れてる。いくら幽々子さんを助けられても……」

「また呪いに引き込まれるって事、ね」

「そう。だから、オーラの元……西行妖のあの傷口もろとも浄化しないと、幽々子さんは助けられない。だから、2人は木の傷を塞いで幽々子さんのオーラの供給源を断ち切って」

「わかったわ」「任せとけ」

「そしてオーラが薄まったスキを突いて……私と妖夢で、幽々子さんと呪いのオーラを分断してそのまま溢れてる妖気を浄化する。これには妖夢の、白楼剣がいる。さっき聞いたんだけど、これには成仏させる力があるはずだから、それで呪われた幽々子さんを助ける……って事」

「うん、了解したよ」

 

 一通り説明し終わると、魔理沙が言った。

 

「で、そのメモリは何なんだ?」

 

 

 

 

 星羅はメモリを見せて、こう言う。

 

 

 

「……これは、妖夢の記憶から生まれたメモリだよ」

 

 

 

 

 

 

「………………、だろうな」

 

 魔理沙は頷いて、霊夢に首を振って促す。

 

「霊夢」

 

 霊夢は少し申し訳無さそうに、

 

「あのね星羅、私たち……だいたいわかってたのよ、ソレの事」

 

と言った。

 

「えっ……」

 

 

 

 

________________

 

 

 

 襖から妖夢と星羅の会話を聞いた霊夢と魔理沙。

 

 2人はある結論に至った。

 

 

 

「あいつのメモリは、あいつ自身に何かしらの記憶が蘇るか何かしたら生まれるはずだ、と仮定するぞ」

 

魔理沙は人差し指を立てて言う。

 

「んで、それが成り立つなら、今の星羅には妖夢に関連するメモリがあるはずだ」

「どう使うのかはわからないけど、これから必要……って事?」

「そ。つまりは幽々子の身に何かあったら……だろうな」

「……もしかしたら……」

 

 

「「妖夢のメモリが、これからのカギ、か」」

 

 

 

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「まさか本当にあるとは思わなかったが……これならあの時の仮定は正しそうだな」

 

魔理沙はそう言い、メモリを眺める。

 

「にしても妖夢の刀にそっくりなイラストだぜ。やっぱ妖夢のものからできたっぽいな」

「断片的な記憶からメモリを作っていいのかしら」

 

霊夢はそう訝しみつつも、星羅にこういった。

 

「ま……これしか今のアイツ(幽々子)を救う手段が無さそうだし、考えているヒマも無いわ。

 

……やるからには、成功しなさいよ」

 

「……わかった」

 

 星羅はそう答えると、妖夢の方を向いた。

 

 

「……妖夢、行くよ!」

「えぇ。幽々子様を救い出して……呪いを断ち斬る。力を貸して、星羅!」

「もちろん!!」

 

 

 

 4人は各々の武器を構え直し、幽々子に再び向き合う。

 

「……みんな、今からアイツの結界を解くわ。そしたら星羅と妖夢はアイツを、魔理沙は私と一緒に呪いの桜を。だったわね、星羅?」

「うん。幽々子さんは私たちに任せて!」

「幽々子様は必ず助ける。霊夢と魔理沙は西行妖をお願い!」

「へっ、言われなくたってやってやるさ!」

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 

「幽々子様……今、助けてみせます!」

 

「……せーの!」

 

 

「「「「はぁぁぁっ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 一斉に駆け出す。

 

 呪われた黒いオーラを打ち破り、幽々子を助け出すために、4人は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「封魔陣、解除! 攻撃が来るわ!」

 

 

 霊夢の声と同時に、幽々子を覆う陣が解除され、オーラが再び噴き出した。

 

 黒いオーラが各々を襲うも、一斉に飛んで回避。

 霊夢と魔理沙はそのまま攻撃を掻い潜って西行妖へ向かった。

 

 

「オーラは攻撃で消せないから、躱すしかない!」

「私がカバーするから、回避に専念して!」

「うん!!」

 

星羅は妖夢にサポートされながら、縦横無尽に飛び回って回避行動を取り続けた。

 

 

「……スペルメモリ! 星剣【バスターソード】! これで切り抜けるしかないか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ふ、吹き飛ばされるぅ〜!?」」

 

 

 

 

 能力無視の呪われた瘴気が、2人を襲う。

 

 

 

 

「ぬぁあ……な、なんだこりゃあ!?」

「……相当根に持ってる呪いねぇ!?」

 

 

 霊夢、魔理沙は木の幹から溢れる呪いのオーラを塞ごうと近づいていたが、あまりにも勢いが強過ぎて、むしろ押し返されていた。

 

「はいこれ結界!」

「おわっ、なんか言ってから張れよ!?」

 

 霊夢は即興で作った、流線型の結界を魔理沙に強引に張り付け(叩きつけ)ると、自分は二重結界を発動してオーラを防いだ。

 

「流石に一筋縄じゃいかなそうね」

「……くそ、どうする?」

「考えてる暇は無さそうなんだけど?」

「わかってる! つってもなぁ……」

 

 

 2人は一瞬考えを巡らせると、同時に結論を出した。

 

 

「「……手伝ってよ、霊夢」魔理沙」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人は箒にまたがり、西行妖に向き直る。

 

 

「魔理沙、しくじるんじゃないわよ」

「おぉ、任せろ」

 

 

「マスタースパーク、霊力増強版! ファイアーだぜ!!」

 

 

 

 箒の後部に取り付けたミニ八卦炉が点火、同時に霊夢は再び結界を展開した。

 マスパの反動による勢いでオーラを突き抜け、爆進する。

 

「うおおおお、それでもきっつ!!」

「何年分のオーラなのよ!?」

 

阻む呪いを打ち破り、2人はその切り傷に辿り着く。

 

 

「そーれっ!!」

 

 魔理沙は木に刺さったブレイドの遺した剣を思い切り引っこ抜き、自身の弾幕レーザーで焼き切った。

 あっさり破壊できたことから、恐らく星羅の一撃がかなり効いていたのだろうなと、魔理沙はぼんやり思った。

 

 

 そうしたら今度は噴き出す呪いオーラが倍増したので、霊夢は結界に更に力を込めていく。

 

「さぁ、霊夢! 結界もだが、あの穴を塞いでやれ!!」

「わかったわ!! 行くわよ!」

 

 

 

「夢想封印! てやあっ!!」

 

 

 

 虹色に輝く光。

 それらが一つひとつの封印の(たま)となって、西行妖を照らし、オーラをみるみる鎮めてゆく。

 

 

 どんな悪霊、神、妖怪、その他あらゆる「対象」を絶対に封じるのが、霊夢の技であり、特権。

 

 夢想の光は、呪われた気をかき消し、噴き出す穴を文字通り完全に封じた。

 

 

 

 

「よし……星羅! あとは頼んだわよ!」

「その亡霊お嬢さんをさっさと開放してやれ!」

 

 霊夢と魔理沙は振り向き、希望のカギ宿す、期待の新人へ叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 防戦一方な妖夢と、彼女の横からバスターを幽々子に当てないよう乱射する星羅は、段々疲労が貯まってきていた。

 

「これ以上は辛くなってきたよ……?」

 

「幽々子様っ! 聞こえているなら……!!」

 

 

 

 そこへ、転機が訪れた。

 

 

「…………う」

 

 

「! 幽々子様!」

 

 

 暴れる幽々子がやっと、その動きを止めた。

 

 霊夢たちがやったに違いない、またとない機会、絶好のチャンスだ。

 

 

「星羅!」

「……あぁ、幽々子さんを助けるんだ!!」

 

 

 星羅は妖夢のメモリを取り出す。

 

 すると、まるで反応するように、その色が光っだように見えた。

 

 

「……行くぞっ!」

 

 

《Phantasm-memory confirmed……》

 

 

 滑るように装填されるメモリ。

 銃口に宿る、春の桃色と、妖夢を表すような白銀の風。

 

 そして、発振するは全てを切り裂く刃。

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

 妖夢は既に構えている。

 

 星羅にも、どう構えてどう動けば良いのか、頭に思い出された。

 

「……妖夢」

「うん。星羅を信じてる。だから……

 

 

星羅も……私を信じて!」

 

 

 

「……わかった!」

 

 

 

 

 2人は固まった幽々子に向かって飛び出す。

 

 

 

 

 

 そして、その技を叫ぶ。

 

 

 

 

《Ready,go!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラストワード!!!

 

 

 

 

待宵反射衛星斬(まつよいはんしゃえいせいざん)】!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……断命剣……改!!

 

 

 

瞑想永弾斬(めいそうえいだんざん)】っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の弾幕とともに放たれる一閃。

 

 

 

 舞い散る桜を通りざまに両断する一閃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふたつの斬撃(スペルカード)が亡霊の幽々子の、その過去に囚われた「心」を斬りーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ようむ……妖夢っ!」

 

 

 

 

「幽々子様!!」

 

 

 

 

 

「星羅も……来て、くれたのね……!」

 

 

 

 

「幽々子さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幽々子様…………

 

 

おかえりなさい!」

 

 

 

 

 

「ただいま……妖夢!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その真っ黒な呪いを突き破って、半人半霊の少女は、信じた仲間たちとともに、愛するお嬢様を救い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああっ!!」

 

 

 

 

 

 そして、星羅の光刃が、幽々子と呪いのオーラを断ち切り、

 

 

 

 

眩い光とともに、

 

 

舞い散る桜の花弁とともに、

 

 

 

その身を、ついに取り戻すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は本当に、ごめんなさい」

 

 

 幽々子は頭をぺこりと下げて、救い主4人に感謝と詫びの礼を述べた。

 

 

「全く……いつから気づいていたのよ、あと気づいていたなら妖夢(こいつ)に話しときなさいよ」

「そうだぜ。終わった事だからまぁいいけどよ、もしどうにかならなかったらどうするんだよ」

「…………」

 

 

「……あの、幽々子様」

 

 

 妖夢は突然、幽々子にむかって言った。

 

 

 

 

「……私を置いて……死のうだなんて…………考えないでくださいよ……」

 

「……!」

 

「幽々子様……幽々子様のばかぁ……っ!」

 

「妖夢……」

 

 

「うわぁあああん……」

 

 

 そして泣きしゃくりながら幽々子に抱きつく。

 

 

 

 

「……幽々子、説明してくれ。お前が何をしたかったのかを」

 

 

「…………えぇ」

 

 

 

 魔理沙の問いに、幽々子は答え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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 ーー春雪異変の、数ヶ月後。

 

 

 

 

 幽々子は西行妖を通るたび、なにかの声を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

〈…………私が……全てを殺した〉

 

 

 

〈私のせいで……皆が居なくなる〉

 

 

 

〈私がいるから……全てが目の前から消え去る〉

 

 

 

 

 

 

 それらは、幽々子が亡霊になる過程で欠け、落とした記憶。

 

 

 【死に誘う程度の能力】

 

 

 それにより周囲から拒絶され、そして死に至らせる。

 

 その哀しき記憶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつからか、幽々子は西行妖もろとも、この世から消えようと考えるようになった。

 

 幻想郷に、妖夢に、こんな事で不安をかけたくなかったのだ。

 

 

 

 

 自分の過去(のうりょく)で、他人(だれか)をまた失いたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして幽々子はいつかはこのような日がくるかもしれないと思ってはいたが、

 

 

「半霊がいなくなる」「星羅がその過去を垣間見る」というきっかけでそれを(強制的に)実行した事に、はじめは抵抗が無かった。

 

 

 

 

 

 

 だが、意識の奥底で、幽々子は見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分のために、戦う少女たちを。

 

 

 

 霊夢を、魔理沙を。

 

 

 妖夢を。

 

 

 そして出会ったばかりにも関わらず、妖夢の大切なひとだから、というだけで、その不思議な「メモリ」を使って自分を助けようとする、星羅を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽々子は思った。

 

 

 

 

「なんて浅はかな事で、この世を去ろうとしたのだろう」と。

 

「皆を置いて行ける訳がない」と。

 

 

「私は皆とともに、今を生きていいんだ」と。

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして私は妖夢に救われた。過去の哀しみも、今への苦悩も全て救ってくれた。なんて言っても言い切れないほど……感謝しかないわ」

 

 

 幽々子は涙ながらに、妖夢を抱きしめた。

 

「ありがとう、妖夢。あなたは本当に……私の誇りよ」

 

「はい……ありがとうございます……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かった……」

 

 

 星羅はそんな2人を眺めながら、あの時見た夢がフラッシュバックしていた。

 

 仲良さそうに笑いながら歩く2人。

 

 今なら断言できる。

 あれは……幽々子さんと、幼い妖夢で間違い無い。

 

 

 昔からの思い出は、時が流れてもずっと、その2人を繋ぐ絆として生き続けているのだ。

 

 

 星羅は妖夢のメモリ、「瞑想永弾斬」を見つめる。

 

 いつもの輝きを取り戻した桜の木の光に反射して、鮮やかな光を放っていた。

 

 

「コレが、冥界の春の、本当の訪れ……かも、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西行妖に、ひとり歩み寄る者。

 

 幽々子は桜の木の幹に触れると、振り返って、その「影」に語りかけた。

 

 

「……呪い、打ち勝ってみせたわ」

 

〈……そう〉

 

「でも……ありがとう」

 

〈? “私”はあなた()を殺そうとしたのよ〉

 

「でもおかげで……とても大切な事に、改めて気付かされたわ」

 

 

 幽々子の視線が、白玉楼へ向く。

 

 

 視線に気付いた妖夢がこちらに駆けてくる。

 

 

「とても……とっても大切なものに、ね」

 

〈…………〉

 

「でももう呪いはこりごりだわ」

 

〈大丈夫よ。“私”はもう、あなたのところに現れない。あの子が……過去のしがらみもろとも、私とあなたの繋がりを斬ったから〉

 

「……そうね。“あの子”のおかげ、ね」

 

〈……〉

 

「……」

 

〈……じゃあ、またね〉

 

「ええ、いつかまた、ね」

 

〈それまでは……〉

 

「それまでは……」

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、安らかに眠ってね」

〈どうか、幸せに暮らしてね〉

 

 

「〈さようなら、(あなた)〉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、妖夢が幽々子のところに着いた。

 

 すっきりした表情を見て、妖夢は全てを悟った。

 

 

 

「……お別れ、済ませたんですね」

「えぇ、だって自分との会話だもの」

「あは、そうですよね」

「さ、戻って星羅ちゃんを祝福しなきゃ。私を助けてくれた立役者としてね」

「はい! 幽々子様のおかえりなさいパーティもですよ!」

『半霊も頑張りますよ』

「ふふ、美味しいご飯、期待してるわよ〜」

「『もう、幽々子様ったら!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の過去で迷ったが、居場所(帰るべきところ)とご飯の事だけは絶対に彷徨(まよ)わない亡霊と。

 

 実力も相方(・・)とのコンビもまだまだ半人前だが、主人への想いは立派に一人前な半人半霊の剣士。

 

 

 2人は手を繋いで、自分たちのために大いに善戦してくれた少女の元へ歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 満足するまで5人は食べまくり、そして霊夢たちは帰る事にした。

 

 

「ありがとう星羅、おかげで幽々子様を救えたよ」

「うぅん、私からもありがとう。妖夢、これからもよろしくね!」

「うん!」

 

 

 星羅と妖夢、2人は固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りにたくさんご飯を食べれたわ」

 

 

 霊夢はその帰路をたどりながら、幸せそうな顔でぼやいた。

 

 神社の性質上賽銭のたまらない霊夢はあまりこういうご馳走にありつけないのだ。

 

「お腹いっぱいだわ」

「私も久々にたらふく食ったぜ」

 

魔理沙も頷いて肯定し、後ろの星羅に言う。

 

「にしても星羅、お前今回はお手柄だったな!」

「えへへ、それほどでもないよ〜」

 

「アンタ確かに謎は多いけど、なんか全部いい方向持ってくわね……やっぱ気にし過ぎだったかもね」

 

 照れる星羅に、霊夢が今度は冷やかすように言った。

 

「だったらなんでも屋としての実力を見込んで、これからもっとこき使おうかなぁ〜」

「え?」

「もちろんなんでも屋なんだから、なーんでもやってくれるんでしょ? 何を頼もうかなぁ〜」

「ちょ、ちょっと霊夢! へんなこと言わないでよ!! へんなこと言われてもやらないよ!!!」

「はは、冗談よ冗談!」

「星羅本気になり過ぎだぜ!」

「んもぉー!」

 

 

 あっはっは、と3人は笑う。

 

 

 

 

 辛い戦いの後は、誰かの幸せと笑顔が待っている。

 

 

 なんでも屋も、案外上手くやって行けそうだ。

 

 

 そんな事を星羅は思いながら、2人といつまでも笑い合うのだった。

 

 

 

 

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 こうして、記憶喪失のなんでも屋は、彷徨わない亡霊を縛る呪いを、その従者である半人半霊の剣士とともに救い出し、再び機怪の野望を阻止した。

 

 

 だが、謎も確かに増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星羅がゆっくり眠りについた夜。

 

 

 その夜空に浮かぶ月は、紅色に輝く三日月だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Continue to the next phantasm……

 

 




 次回はみんな大好き紅魔館!
 レミリアはカリスマブレイクするのか!?
 めーさく展開はどーなるのか!?
 パッチェさんは「むきゅー」と言うのか!?!?
 乞うご期待!


 すいません調子乗りました。
 多分殆どやらないと思います……。

 でもキャラが増えて賑やかになるとも思います。


 重ねますが新年もよろしくおねがいしますね。




訂正
 一部表現と誤字補填をしました

この中で、番外編やってほしいのは?

  • 紅魔館組
  • レイマリ
  • うどみょん

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