東方幻創弾 〜Phantasm memories from Buster.〜 作:蒼いなんでも屋
ようやく紅魔郷編もクライマックス。
大きく物語が動きます。
咲夜の【時間を操る程度の能力】に干渉して、一緒に動けた星羅。
パチュリーはそのことに何か考えがあるらしい。
一方霧の湖では機怪による襲撃が発生。
バニッシュを名乗るオーダーメイドタイプの機怪に、ルーミア、大妖精、そしてチルノの三人は手も足も出ずに満身創痍に追い込まれてしまう。
見逃されたチルノたちだが、その理由をバニッシュは[“まだ”制圧命令は出ていない]と言う。
その脅威は、再び襲い来ることを告げるのだった……。
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「フラン、入るわよ」
パチュリーは地下室の扉を開き、星羅たちと中へ入った。
くまのぬいぐるみを抱えていたフランは、それを放ると、
「あら、パチュリーに咲夜、それに……星羅、だっけ。揃いも揃って、どうしたの?」
と訝しむ素振りを見せた。
星羅は自身の名を覚えてもらえている事が嬉しかったが、そこはひとまずスルーした。
パチュリーは早速切り出す。
「星羅、フランの能力は知ってるわね」
「えーと、確か妹様は【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】、をお持ちになっていらっしゃるんですよね」
「フルネームで言えて何よりだわ」
「恐縮ですよ妹様」
「それで?私の能力がどうかしたの?パチュリー」
すると彼女は、驚くべき事を言った。
「……ちょっと……星羅を破壊してもらうわ」
「ぱ、パチュリー様!?どういうことですか!?」
咲夜が詰め寄る。
パチュリーは悪びれる素振りもなく続けた。
「落ち着きなさい、それに大丈夫よ。私が保証する」
「で、ですが……!」
「フラン……気付いているんじゃないの?」
「……え?」
フランは言われた通りに、星羅に手を伸ばしてみる。
「……あれ?な、なんで……!?」
「妹様?」
咲夜が首を傾げると、フランは、
「こいつ……星羅、“目”が無いわ」
と、思わず後退った。
フランの能力は、対象の弱点……彼女云う“目”、を手元に引き寄せ破壊するチカラ。
だが星羅にはそれが無かったのだ。
「ほらね。咲夜、あなたのときと同じよ」
「…………」
咲夜は信じられないという面持ちで星羅を見つめる。
「この子は、自分にとってのデバフ……悪影響を、無効化できるのよ」
パチュリーはどこからか取り出した本片手に、そう言った。
『記憶失いし迷える少年』
『それは降りかかる災悪を振り払い』
『他からの能力を弾き、味方に付け』
『この世の巨悪打ち払わん』
「図書館の奥深くに置いてあったこの本に、そうありましたよ。パチュリー様」
振り返ると、そこには追いかけてきたであろうこあとここあがいた。
一冊の古びた本を抱えている。
「予想通り、ね。よくやったわ、こあ、ここあ」
「パチュリー様のご名誉にかけて、ですから」
「大変だけどこれくらいなんのなんの、です」
「ふふ、頼もしいわ」
パチュリーはこあたちを労り、そして自身の持つ本を開く。
あるページを開くと、その一部を読んだ。
『危機、迫りし刻。現れるはひとりの救世主』
『災悪、迫りし刻。打ち払うはその地象りし記憶』
『戦禍、迫りし刻。終わらせるは七色の光』
「何のための予言書かわからなかったけど……こういうことなのね」
パチュリーは本を閉じると手ぶらのここあに預け、
「星羅、恐らくこれがあなたの能力よ」
と言った。
「でもなんて言う名前なんでしょう」
咲夜の問に、パチュリーは少し考え、
「そうね、名付けるなら……
【幻想力に触れられる程度の能力】、かしら?」
と、いかにもなネーミングを付けた。
「星羅がこの異変を終わらせるカギだというのは明確。後はそれをより裏付けるものが何か必要ね」
パチュリーが言うと、フランが抗議した。
「そんなの、わかりきった事じゃない」
「フラン?」
「機怪をフルボッコに出来る武器。
他人の能力に左右されない。
他人の記憶を貰える。
これ以上に裏付ける事がある?」
フランは人差し指を立てて述べた。
「……ま機怪をフルボッコするのは多分お姉様や私でも簡単だろうけど」
と付け足して。
そのあと、休憩に向かう星羅だったが、そこへ。
「星羅、ちょっと良いかしら」
「お嬢様?」
レミリアが呼び止めた。
「パチェとフランから大体聞いたわ。幻想力に触れられる程度の能力、ね。興味深いわ」
「あはは……」
「まぁそれはまた今度の話。星羅、少し頼まれごとをしてくれる?」
レミリアは星羅に、軽く耳打ちする。
「…………ふむふむ…………なるほどなるほどぉ…………はい、任せてください!」
「ありがとう、素直でよろしいわ」
「お嬢様の仰せとあらば、ってやつです」
「ふふ、結構なこと。じゃ、よろしくね」
レミリアは満足気に星羅を送ると、振り返ってフランを見た。
「で?後は私が集めてくればいいの?」
「えぇ。悪いわね」
「別に。暇つぶしになるし、何より……
咲夜が居なくなったとき、私も困るから」
「……そうね」
「じゃあねお姉様。サクッと集めてくる」
フランは足早に加速をつけて飛び立ち、館内を滑るように進んでいった。
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「まさか、私以外に時間停止の中を動けるなんて」
咲夜はそう言いベンチに座り込んだ。
「てっきり私だけだと思っていたわ」
「いや、多分咲夜さんだけですよ」
と、星羅は彼女の横に腰掛ける。
「メモリがないとなんにもできない。それが私ですから」
「そんなことはないわ、あなただからできることも沢山あるはずよ」
「……咲夜さん」
ふっと笑うと、星羅はふと気になった事を聞いてみた。
「あの、咲夜さん」
「どうしたの?」
「失礼かも知れませんが……昔、何があったんですか?」
「……美鈴からある程度、聞いたのね」
「はい」
咲夜はふぅっと息を吐くと、
「美鈴が言っていた通りよ。こんな私を、お嬢様は拾ってくださった。何も無かった私を、助けてくださったのよ」
と、答えた。
口ぶりから、美鈴が予め話していたのだろう。
「……十六夜の日。とある森に迷い込んだ私は、いつの間にか真っ赤な屋敷の前に来ていたのよ」
「……」
「そうこうしている内に……あの方たちが現れた」
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『時間を止められる能力、ね。食べてしまうのには惜しいわ。ねぇ、美鈴』
『はい。そんな人、恐らく世界中探してもいませんよ』
『ふふ……ねぇ、あなた名前はある?』
「……」
『……そう、なら今決めてあげましょう。そうね……』
『お嬢様。今日は十六夜ですよ』
『いいこと言うわね!なら……あなたの名前は、十六夜 咲夜ね』
「……!」
『十六夜。あなたの運命が咲いた夜よ。これから私に尽くしなさい、咲夜』
『よろしくおねがいしますね』
「…………はい」
『今はそれでいいわ。さあ、ついていらっしゃい』
『ようこそ。紅魔館へ』
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「……あの後、私はメイドとして働く事になった。そのうち、妖精を束ねるメイド長になり、お嬢様たちの信頼も固いものになった。……あの日お嬢様が拾ってくださらなければ……きっと、こうはならなかったでしょうね」
咲夜はそう言って、思いを馳せるように窓の外を見ていた。
「……幸せ、なんですね。咲夜さんって、とっても」
「……星羅?」
振り返ると、星羅は微笑んでいた。
「だって普通恐ろしい吸血鬼のお屋敷なんて入りませんよ。でも今咲夜さんはとっても幸せそうです。少なくとも、私から見れば」
「星羅……」
「……咲夜さんの悩み。聞かせてくださいよ」
「えっ?」
星羅は例のメモリを取り出した。
未だ色づかない灰色のメモリ。
全ては「あの日」視た夢から始まった事だ。
「……もしかして咲夜さん
その幸せの裏で……
お嬢様たちと別れるのが……辛いんですか?」
「!!」
「私、夢で視たこと思い出してきました。夢の中で、咲夜さん、怖がってましたよ。皆から忘れられる事に。
そのうち訪れる“いつか”、それに……怖がってる。そう感じたんです」
思い切って、星羅は本音を伝えた。
言わないと手遅れになりそうだったから。
言わないで後悔したくないから。
人を救える力宿す、メモリが生まれる意味を、知りたいから。
「……………………美鈴ったら、ちょっと話し過ぎかしら」
すると、咲夜は驚くどころか、くすっと笑った。
だが、その笑みには何処か悲しみの陰りが星羅には見えた。
「そのとおりよ、星羅。……私は怖いの。皆と別れる、“いつか”の日が」
何度か、咲夜はレミリアに「吸血鬼でもなれば、私達と同じように長生きできる。そうすれば別れる心配もなくなるわ」と言われた事がある。
レミリアとしては彼女なりの気遣いだったのだが、そのたびに咲夜は「大丈夫です」と言っていた。
「人間としての誇り、忘れたくないのです。人だからこその気持ちを、忘れたくなくて。お嬢様達にお仕えできるだけでも、私は幸せですわ」
「そう。それがあなたの願いなら、私達はそれを尊重するわ。咲夜は咲夜らしく、生きなさい」
レミリアもそのことをよく理解してくれていた。
だが咲夜も心のどこかで、“いつか”の日のことに怯えていた。
皆と別れるのが、辛い。悲しい。
例え、いずれは訪れてしまうのは解っていたとしても……。
「わかってる。でも考えてしまう。私は……どうしたらいいんだろうって」
「……………………」
悲しみに浸りかける咲夜を、
「咲夜。
……そんなこと、簡単じゃない」
「……お、お嬢様!?」
バーン!と豪快に扉を開いた、レミリアとその御一行だった。
「咲夜、言っておくけど……あなた以上に私達のために働いてくれる人間は、今までもこれからも、決して現れないわよ」
「お姉様の言うとおりよ。咲夜のおかげで毎日楽しめてるものね」
「レミィが故人で名前を覚えてる人間はいない。でもあなたが例え居なくなっても……私達は決して忘れたりしないわ」
「咲夜さんがいるから毎日楽しい!」
「咲夜さんのおかげで毎日が嬉しいです!」
皆、満面の笑みを浮かべている。
「咲夜さん!こんな私でも気遣ってくれる人は咲夜さんが一番で初めてです!だから……
不安なら、いつでも言ってくださいよ!
あのとき、そうしてくださったように!」
美鈴がそう言って笑う。
その笑顔に偽りも曇りもない。
「……ね?咲夜さん。みんな、あなたが大好きなんですよ」
星羅はそう言い、灰色のメモリを差し出す。
「きっとこれは、何かが起ころうとしている人を助けるモノ。なんでも屋の私だからできるお手伝い。
誰かの笑顔を守る、記憶の結晶。
…………これからも、お嬢様たちと一緒に頑張って……いや、それ以上に努力して行きましょう!!咲夜さん!!
だから…………笑ってください!!心の底から、全力で!」
「………………お嬢様、みんな……星羅……」
咲夜は驚き、そして、
「みんな……皆さん、ありがとうございます……!!」
と、涙を流して、笑顔を浮かべて応えた。
その手が、メモリを掴む。
メモリが部屋中、否、屋敷全体を青く照らす。
「…………これが」
「咲夜さんとの、メモリ……?」
皆が固唾をのんで見ている中で、そのメモリは澄んだ紺色のメモリとなっていた。
「……星羅。ありがとう」
咲夜はそのメモリを星羅に返す。
「メイド長として、あなたのような人を……誇りに思うわ」
「……はいっ!」
そして、星羅はちょっとした種明かしをした。
レミリアによれば、咲夜が最近無理していないか不安だったのだが、咲夜に中々暇を与える事ができず、困っていたという。
そこで現在咲夜と常に行動している星羅に頼み、いい感じの雰囲気を作ってもらったのである。
「ごめんなさい咲夜、私達色々頼みすぎてたわ」
「いえいえ、私こそ自分の事をちゃんとできていませんでしたから。余計なご心配をおかけしました」
「何言ってるのよ、お姉様も私達も余計だなんて思ってないわ」
「妹様……」
「みんなあなたを大切にしているのよ」
「「咲夜さ〜ん!」」
「パチュリー様、こあ、ここあ……」
嬉しげに眺める星羅に、美鈴が呼びかけた。
「良かったですね、星羅さん」
「はい。やっぱり家族は、笑っていなきゃですよ」
「あは、いい事言いますね〜」
そして、星羅も皆の輪に入ろうとした
その時だった。
「咲夜さーん!!」
何匹かの妖精メイドが駆け込んできた。
「大変ですぅ!」
「霧の湖が!!」
「襲われたらしいです!!!」
「……な、なんですって!?」
喜びの雰囲気も束の間。
侵略者の牙は、すぐそこまで迫っていたのだ……!
次回、紅魔郷編決戦!
バニッシュの強さに驚け〜!
……弾幕表現頑張ろう!
乞うご期待です。
この中で、番外編やってほしいのは?
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紅魔館組
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レイマリ
-
うどみょん