東方幻創弾 〜Phantasm memories from Buster.〜 作:蒼いなんでも屋
紅魔館組ではなく、白玉楼の二人から先に登場。
その理由は後々わかってきます。
005. 幽明の春
……
…………
………………
『……ぅん?』
気が付くと、私は不思議な空間にいた。
周りは何かの“目”が覆っていて、360度の視界を埋め尽くしていた。
なんと言うべきか……、むらさき……に近いカラーでどこか不気味だった。
『来たわね』
唐突に響く声。
振り向くと、そこにはこれまた不思議な女性が、“なにか”に腰掛けてこちらを見ていた。
金髪ロングの髪を揺らし、ところどころ束ねてリボンを付けている。ちょうちょ結びされた細い紐の巻き付く帽子に、どことなく修道士を思わせる白いドレスと黒い前掛けを纏い、その微笑みをこちらに向けていた。
そして腰掛け? のような“なにか”、その隙間から別の「目」が、今いるこの空間の目のように覗いていた。
『突然呼び出して悪いわね』
そう言うと彼女はふわりと空間に浮き、その「隙間」を広げた“なにか”に入り、
__次の瞬間、
『ようこそ。幻想郷に。ちょっとお話、しましょ?』
__その声は真横から聞こえ、そこにはまたも現れたなにかから顔を覗かせる彼女がいた。
『わぁぁあ!?』
『あら、流石に不気味過ぎたかしら?』
『私は
彼女__もとい紫さんはそう名乗った。
『あなたのことは霊夢に聞いたわ。幻島 星羅ちゃん……よね』
『あっ、はい。星羅って呼んでもらえれば』
『わかったわ。よろしくね星羅ちゃん』
私は取り敢えず、紫さんに色々質問する事にした。
『……あの……ここ、どこなんですか? なんか身体がふわふわしてるような、現実じゃないような』
『まあ、こんなところにいきなり呼ばれてそうならないわけがないわよね』
紫さんは“なにか”をまた開き、言った。
『これはスキマ。私の能力で開く次元の裂け目……のようなものよ』
よく見てみると、目のカタチに近いような開き方で、両端には紫さんのと同じ赤いリボンが一つずつついていた。
『ここはそのスキマの中。あなたの意識を繋げた状態で連れてきたのよ』
『えっ?』
そういえば私、……寝ていたはず。
と言う事はこれは……
『じゃ、じゃあこれってまさか夢ですか?』
『うーん……惜しいわね。正解なんだけど、幻ではないわ』
『えっ』
紫さんは横のスキマを閉じ、別のスキマにまた腰掛けて、
『あなたの“夢と現実の境界”を
と、言った。
『と言う事は、私の身体はまだ寝ていて、意識だけが夢の中で紫さんと話してる……って事ですか?』
『そうそう! そういう事よ』
話によれば、紫さんは【境界を操る程度の能力】を持っていて、ありとあらゆる“ものの境界”を自由に調整できるらしく、例えば「どこかとどこかを繋ぐ」「物質の性質そのものの境界を変える」「湖に映った月を弄って現実の月という扱いにする」「夜を弄って月が出たままの状態にする」「夢の中に入りその人に話しかける」など、割となんでもできるみたい。
『……それで、話したいことは……?』
『ええ、ちょっと聞いてくれる?』
そう言うと紫さんは、少し真剣な表情で語り出した。
『さっきも言ったけど、あなたについては霊夢から聞いているわ。幻想入りした……そうね』
『はい』
『本来、勝手に幻想入りされると困るんだけど……理由があれば受け入れるのが私の考え。確かあなたは記憶が無い、って話よね』
『……』
一つひとつ確かめるように話す紫さん。
やはり、なにかあるのだろうか。
『……あの、紫さん。何か知っているんですか?』
すると、意外な解答が返ってきた。
『……ええ、少しだけなら、ね』
『えっ!?』
『……でも、今は言えないわ。もうすぐ、……朝になってしまう』
そう言うと紫さんはスキマから外の景色を映す。
日が昇り始めていた。
『本当はもう少し早くあなたに会いたかったんだけど、うっかり寝てしまって』
『えー……』
自分も腕時計を見てみる。
時刻は6時10分……確かに、もう朝だ。
『ごめん、後で霊夢達の前で改めて話してあげる。待っていてちょうだい』
『……わかりました。じゃあ後でよろしくです』
『ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。ごめんね、たったこれだけにわざわざ呼び出してしまって』
『いえいえ、そんな事はないですよ』
すると段々、視界がぼやけてきた。
多分身体が目覚めようとしてるのだろう。
『次は現実で会いましょう。またね、星羅ちゃん』
その言葉と同時、紫さんはスキマに消え、私の視界は真っ白に染まっていった。
「……星羅、せーらー」
誰かの声に起こされ、星羅は目を覚ました。
「うーん……?」
「起きなさいよ!!」
「へっへい!」
ガバっと飛び起きたので、今度は起こしていた者__霊夢にぶつかりかけた。
「もう、危ないじゃない」
「霊夢こそ……近いよ」
「……」
「……」
なんか険悪なムードになったところで、外から声が聞こえた。
「……おーい、起きたか?」
魔理沙だ。
「うん、このとーり」
「よし、じゃ霊夢、朝飯食べようぜ」
「……わかったわ、用意してくる」
あの日から一週間程。
星羅は結局博麗神社にて過ごす事になった。
一番安全(?)なのと、星羅自身、あのずんぐりむっくり__機怪とやらに狙われているのもある。
そのため二人にはこうして世話になっているのだ。
「え、紫に会った?」
「うん。なにか話したい事があるらしいよ」
「アイツ人の夢の中に勝手に入ってくんなよ……」
三人で食卓を囲み、今朝の夢について話す星羅。
相変わらず何を企んでいるのかわからないのが紫である。
どうせ話したい事も、やたらと面倒くさい事だったり、胡散臭い内容だったり、あるいは事件の根幹を突く事……かも知れない。
だが今までの経験からか、
「まぁ、アイツが何言ってこようが、結局あの機怪とかいう連中をぶっ倒せばいいんでしょ。やる事は変わらないわ」
「だな。星羅の記憶もそのうち戻ってくるだろ」
そう言い霊夢特製味噌汁をすする二人。
相変わらずの余裕さである。
「……それで、いいのかな……」
だが当の本人、星羅は言いしれぬ不安に襲われていた事を、二人は知らない。
_______________
幻想郷の空には、冥界という死んだ者の魂が行き着く場所へとつながる入口がある。
冥界は天国や地獄へ向かう幽霊達のたむろする駐屯所のような場所になっていて、度々数が多過ぎて紫の手により拡張される事もある。
そんな冥界には、幽霊達を管理し見守る屋敷が置かれている。
入口から続く長い階段の先に建つ、奈良や平安を思わせる和風の屋敷で、庭の中には太く大きな一本の木が、いくつかの桜を咲かせていた。
その名は
冥界の管理者、
「やっぱりこうしてのんびり過ごせるのは良いものね」
幽々子はそう言いながら、例の桜を眺めていた。
幽々子は亡霊である。
一応死んだ者なのだが幽霊と違い、体温もあるし、モノに触れる事も出来る。
そばには、紫の物と同じでリボンの代わりに
同じく淡水色の、フリルの付いた着物を着ており、髪は桃色である。
「異変も無いし、幻想郷は平和そのもの。こんな日々が続けば良いのに……」
と、ぼんやり桜を眺めていると、
「ゆゆこさま〜!」
ふと奥の方から声がした。
「幽々子様、只今戻りました!」
「あら、おかえりなさい妖夢」
その声の主を、幽々子は笑って出迎えた。
「買い出し、終わりましたよ」
「お疲れ様。いつも悪いわねぇ」
「いえいえ、それこそいつもの事ですから」
彼女は
短く整えたボブカットの髪には黒いリボン付カチューシャを乗せ、緑色の服を着ている。スカートには幽々子同様人魂マークがあしらわれていた。
背中には二本の刀を鞘ごと背負っており、長い方が『
「ところで幽々子様」
妖夢はビニール袋(案の定幻想郷には外から入ってきた外の技術の賜物)を開封して中身の食べ物を取り出しながら、幽々子にある話を振った。
「……異変です」
「……はい?」
「異変が起きました」
「……あらぁ……まあ」
少し遡る。
霊夢たちの活躍で撃退された新たな敵……機怪の事は、幻想郷のブン屋こと、天狗の
「天狗に話しちゃった。幻想郷の危機だし、良いかなって思ってな」
「アンタね……それどうせ新聞のネタが欲しいだけよ」
という話を某二名は話しており、某白黒魔法使いがバラしたらしい。
当然ながら『号外』としてばら撒かれ、
『異界からの侵略者!!どうする幻想郷!』
とかいう見出しで紹介される始末。
買い出しに人里までやって来ていた妖夢は、彼女を見つけた。
「号外! ごぉーがい! 異変ですよー!」
新聞を配る、彼女__射命丸を。
「……号外、ですか?」
「ええ、なにやらロボットの侵略者だそうで。
「ふうん……ならば、問題無いのでは?」
新聞を見つめた妖夢の問いに、射命丸はふと顔をしかめて答えた。
「……この時、もうひとり幻想入りして来た方がいらっしゃるんですよ」
「……えっ?」
そう言うと、射命丸は妖夢の後ろを覗き、
「あ、ほら、あそこ。丁度いらっしゃいますよ」
とある一方を指さした。
「……あの方は」
そこには、ぼろ布コートを着た見慣れぬ少女が、人里でなにか買い物している姿だった。
「ありがとうございます」
「いいってことよ、また来なさい!」
「はい!」
「星羅、だっけ? いつも元気ねぇ」
「いえいえ、里の皆さんに比べたらそんな事ないですよ〜!」
既に馴染んだような会話をする少女を見て、射命丸は言った。
「彼女は幻島 星羅さん。最近この幻想郷に入ってきたそうです」
メモ帳をめくり、彼女は続けた。
「霊夢さんによれば、彼女は記憶喪失で、何故か機怪に対する特攻武器を有していたそうです。またその機怪に狙われている存在だそうで」
「……つまり?」
「……あの子を狙って、また現れる可能性があるんです」
「なるほど、それは確かに異変ね」
幽々子は買ってもらったせんべいを食べながら、今回の出来事についての感想を呟いた。
「いつまた現れるかわからない敵……まるで、狩人ね」
「また幽々子様は、遠い言い回しを……」
「あら、今のは割と率直に言ったつもりなんだけど」
「私には次元が違いすぎるんです」
妖夢もせんべいをはむはむと食べながら、続けた。
「星羅さん、という方には結局お会い出来なかったんですが、また会いに行きましょうか?」
「そうね、たまには外に出ないとかびちゃうわよね」
「あなた幽霊ですよね?」
すると、幽々子は妖夢をじっと見つめ、首を傾げた。
「そういえば、妖夢……」
「え? 幽々子様? なにか付いてます?」
「……妖夢、あなた……
「………………あああ!!!!」
二人はその場で、凍りついたように固まった。
魂魄妖夢は、
その名の通り、半分が幽霊となっていて、彼女の周りには一つ、大きめの人魂がふわふわと浮いている。
これは妖夢の身体の一部なのだが、基本的には妖夢本人とは関係なく彼女の周囲を飛んでいる。彼女の意志で自由に動かせるし、独立させる事もある程度出来るようだ。
半分幽霊という種族故、妖夢は人間と同じ容姿ながらも体温はちょっと低めだったり、半霊も普通の幽霊よりは温かったりする。
スペルカードなどではその半霊が妖夢と同じ姿になったり、妖夢本体と動きを
その“妖夢の半身”である半霊が、いなかった。
発見者幽々子も、今更気付いた妖夢も、(幽々子は言う程では無かったけど)さーっと顔が青ざめた。
そして妖夢は、半泣きで叫んだ。
「……異変だぁぁぁあ!!!!」
幽々子も
「……異変よぉーー!!!!」
と、どこか腑抜けた声を上げた。
_______________
『……』
人里の外れに佇む人影。
何かを見つめ、その赤い瞳で凝視する。
そして誰にとも無く呟いた。
『…………あの人が、幻想入りした者というのか』
視線の先の
『……ごめん、
その姿、白玉楼の
半霊の妖夢はそっと路地に姿を消し、その時に一枚のカードを落とした。
妖夢の、半霊と共に技を繰り出す
魂魄【
そういえば、妖夢の半霊って独立してんだかしていないんだかはっきりしないなぁ……。
本編原作でも二次創作でも何とも言えない扱いですよね。
確かダンカグでは妖夢が二人!?みたいな展開になってた気が……え? パクリ? いえいえ。
今作では単純に、こういう扱いをさせて頂きます。
しっかりストーリーに関わるのであしからず。
さぁ頑張れ妖夢ちゃん! 頑張れ半霊ちゃん!
食べ尽くせ幽々子さま!(?)
妖々夢編、楽しんでいただけると幸いです。
この中で、番外編やってほしいのは?
-
紅魔館組
-
レイマリ
-
うどみょん