氷の剣士と姉妹蝶 作:ラーメンは美味しい
・・・ちくしょう、ここは一体どこなんだ。カナエにしのぶ、他の皆は大丈夫なんだろうか。
俺は巨大な城のような建物の中を走り回っていた。
くそっ!何にせよ早く誰かと合流したい!一人寂しい!
こんな事になったのも無惨のせいだ、と内心毒吐く。
産屋敷邸襲撃。そんな報せが届いたのは、ついさっきの事だった。
俺は急いで御館様の下へ向かった。
ようやく屋敷が見えてきた、そう思っていた俺を待っていたのは屋敷を丸ごと包み込むような大爆発だった。
僅かな希望を抱き、屋敷の敷地内へ踏み入れる。
そこには、カナエたち柱とその補佐が数名、さらに一人の青年がいた。
両者の異様な雰囲気にただ事ではないと判断し、すぐに臨戦態勢に移る。
「・・・・・・・・・カナエ、これは一体────────」
カナエの傍まで近づき、事の経緯を確認しようとするが突如辺りに琵琶の音が鳴り渡る。
すると、途端に先程まで地面だったはずの足下が戸に変わり、どこか建物の中へと落ちていく。
ヤバい・・・!とりあえず、カナエとしのぶの所へ・・・!
そう思ったが、重力には逆らえず二人とは別の戸へと落ちていく。
「・・・・・・・・・カナエ!しのぶ!」
落ちていく直前に見た二人の顔は心配するな、とでも言いたげだった。
にしてもホント参ったなぁ。これ、どうすんだよ。ここってやっぱり・・・・・・敵の本拠地、だよなぁ。てことは、
正直当たってほしくない確信に近い予感を抱きつつ、仲間と合流するべく走り回るが・・・
ほんっと誰もいない!!ねぇ、皆どこ!?俺を一人にしないで!!
寂しさでどうにかなってしまいそうになっていると、背後で何者かの気配を感じ取る。
やっと誰かに会えた・・・!もうこの際、間が持たないだろうけど冨岡さんでもいい!とりあえず、ダイブだ。いや、女の子だった場合変態になるからダイブはやめよう。
そんなシュミレーションをしながら振り向くとそこに居たのは・・・
「・・・あぁ、逢いたかったよ。・・・・・・白夜」
・・・・・・・・・おいおい、マジかよ。よりによってお前なのかよ。
そこにはかつて死闘を繰り広げた上弦の弐の姿があった。
「・・・僕はこの時をずーっと待っていた。君にまた逢える、この時を」
「・・・・・・・・・俺は会いたくなかったよ」
「・・・つれないなぁ。僕は
そう言って奴は肩から先が喪われた右腕を見せつけてくる。
その袖は哀しくはためいている。
「・・・・・・・・・」
「・・・確かに腕自体は無い。だけど、感じるんだ。君が近くにいる、と僕の今は無き右腕が教えてくれる」
奴は酷く歪んだ笑顔で俺を見つめる。
「・・・・・・・・・そうか」
「まあ、そんな事はどうでもいいか。こうしてまた君と殺り合えるんだから」
いつかより更に濃い殺気が俺を襲う。
鞘から愛刀を抜き、奴の出方を窺う。
「あぁ・・・!遂に・・・!遂にこの時が来たんだ・・・!君にやられたあの夜から僕は君の事だけを想って生きてきた・・・!今度こそ、君を・・・!」
「・・・・・・・・・俺は死ねない」
思い出すのはあの夜の約束。
──────────絶対死なないで。
思い出すのはいつかの夜の約束。
──────────信じていいのよね?
──────────帰ってこなかったら許さないから。
因縁の対決が幕を開けようとしていた。
初めは奴からだった。
あの夜と同じように黄金色の鉄扇を振るう。
しかし、あの夜とは段違いの速度だった。
──────────でも、俺だって成長してるんだ。
俺はしっかりその攻撃を受け止め、反撃の一撃を見舞うべく刀を振るうが氷の壁に遮られてしまう。
「右側が弱点なのは百も承知さ」
「・・・・・・・・・なるほどな」
攻撃の反動を利用して距離を取る。
「・・・君はやっぱり最高だよ、白夜。僕をこんなにも滾らせてくれるのは君しか居ない」
「・・・・・・・・・一つ訊きたい」
「なんだい?」
此奴と話すなんて不快極まりないが、一つだけ確認しておきたい事があった。
「・・・・・・・・・どうして腕を治さなかった?」
「・・・・・・・・・」
奴は面食らったような顔をした後、吹き出すように笑い始める。
「あはは!!これは白夜、君からもらった痛みだからね!!君の事を一瞬たりとも忘れないようにするためさ!!」
──────────やっぱり此奴はイカれてる。
奴は恍惚とした表情で。
「さぁ、白夜!戦いは始まったばかりだ!存分に愉しもう!君と僕の時間を!!」
常人では反応すら不可能な速度で接近してくる奴に、気を引き締め直した。
「・・・・・・・・・!」
何か嫌なものが背中を走り抜けた気がして、思わず振り向いてしまう。
「・・・姉さん?どうかしたの?」
私のその奇妙な行動に共に散策を行っていたしのぶが怪訝な表情を浮かべる。
「・・・いえ、なんでもないわ」
しかし、私はそれを振り払って前に進む事に決めた。
しのぶも何か言いたそうにしていたが、それ以上追求する事はなく私の後を着いてくる。
白くん・・・・・・大丈夫よね?
私は後ろ髪引かれる思いで心優しき少年に想いを馳せるのだった。
『──────────血気術 蓮葉氷』
『──────────氷の呼吸 伍ノ型 氷芒』
奴の鉄扇が振るわれ、その軌跡に氷の蓮や葉が彩られる。
それを迎え撃つような形で刀を振るい、氷の柱で氷蓮や氷葉を砕く。
・・・技のスピードもキレもあの時とは比べ物にならない。こりゃ、気を抜いたら一瞬で殺られるな・・・。けど、此奴ってこんなに・・・
油断だけはしないようにと、一撃一撃に意識を集中させる。
「はっ・・・はは!!やっぱり君は最高だね、白夜!!あの夜よりずっとずっと技が洗練されている!こうでなくちゃ!!!」
「・・・・・・・・・」
奴の烈しい攻撃に呼吸を駆使し、打ち合う。
鍔迫り合いになり、一度仕切り直しのために距離を取る。
「・・・やっぱり君だけだ。僕をこんなにも愉しませてくれるのは!ずっと世界は灰色だった!何奴も此奴も僕の事を崇めるだけ・・・。でも、君に出逢ったあの夜からは僕の世界はこんなにも色付いて──────────え?」
奴の言葉が途中で打ち切られる。
「・・・・・・・・・いい加減お前の話は聴き飽きた。もう終わりにしよう」
「・・・あれ?白夜、いつの間に僕の後ろに──────────」
言い終わる頃には奴の体は灰へと変わっていた。
『──────────氷の呼吸 肆ノ型
──────────酷いな、君は・・・。まだまだ話したい事があったのに・・・
そんな愚痴のようなものが聴こえた気がしたが、その声音は酷く優しいものだった。
こうして、何かに導かれるように幕を開けた因縁の決戦は少年の勝利という結果で、誰に看取られる事無く静かに幕を下ろしたのだった。