氷の剣士と姉妹蝶 作:ラーメンは美味しい
「白髪に空色の羽織・・・。き、貴様まさか・・・!?」
「・・・・・・・・・・・・?」
鬼が俺を指差し驚愕の表情を向けるが、すぐに真剣な貌つきになる。
「
少年二人分程の背丈がある鬼が少年を押し潰すべく右拳を繰り出す。常人にはおそらく視認すら不可能だろう。
しかし、少年はそれを後ろに飛び退くことで容易く躱す。
「甘いぞっ!」
空を切った拳は地面に突き刺さり、土埃をあげ陥没する。さらには周りの木々すらもなぎ倒されている。
──────────なるほど。一撃喰らえば俺は一瞬で穴あき人形と化すだろう。
そんな事を考えているうちにも鬼は追撃を加えようとしている。陥没した地面が鬼の脚力によりさらに凹む。
そして、一瞬で俺の目の前に現れ再び右拳を繰り出す。
すると鬼は今度は俺が刀で受け止めようとしている事に気づいたのか、口元を歪ませる。
「バカが!!」
一撃が必殺の拳だ。ましてや相手は、自分よりも一回り程も小さい人間。
鬼は勝負が決まった事を確信していた。そのまま刀ごと少年の体を二つに分けられる未来まで見えていた。
しかし、それは容易く覆される。
──────────目の前の少年によって。
「なっ!?」
あろう事か、少年は刀で受け止めて見せたのだ。絶対の自信を持つ自身の必殺の拳を。
「・・・・・・・・・それで終わりか?」
一瞬で頭に血が上る。
「調子に・・・・・・乗るなよ!!!」
そこからは一撃が必殺の威力である拳を二度、三度と繰り出していく。
しかし、少年はそれを全て刀で受け流していく。
「くそっ!くそっ!!なんで当たらねぇ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「クソがぁぁぁぁぁ!!!」
ここで初めて足による攻撃を繰り出す。少年も急に足を出されては反応できないだろう。
鬼は再び勝ちを確信していた。
しかし、それすら少年には通用しなかった。
「・・・・・・・・・今度こそ終わりか?」
「・・・・・・・・・なんなんだ貴様はぁぁぁぁぁ!」
「・・・・・・・・・お前に答える義務はない」
少年はヒュュュュウと息を吸い込み、静かに呟く。
「─────────『氷の呼吸 弐の型 白虹』」
円を描くように振るわれた刃は寸分の狂いもなく、鬼の頸を刈り取った。
しかし頸だけとなったにも拘わらずまだ意識があるらしかった。
「・・・・・・ちっ、『あのお方』が直々にご命令を出されるわけだ」
「・・・・・・・・・何のことだ?」
「へっ、お前はこれから──────────」
応えるより早くその体は灰となり宙を舞ってしまう。
「・・・・・・・・・どうなっているんだ?」
「
鬼の発言の意図を考えていると、背後の木の陰から蝶の飾りを側頭部に二つ着けた美しい女性が姿を現す。
「・・・・・・・・・カナエ」
「で、白くんはどうしてそんな難しそうな顔してるの?」
「・・・・・・・・・そんなこと」
「──────────あるわ。私が白くんの変化に気づかないなんて有り得ないもの」
ドヤ顔でカナエが言い切る。
え、なにそれ。そんな言い方されると勘違いしちゃうよ?俺だって男の子なんだよ?
しかし、俺は気持ちを必死に押さえつけ無表情で言葉を紡ぐ。
「・・・・・・・・・あれだけ一緒にいればそういうものか」
「そうそう。だから、観念して白状しなさい!白くん!」
「・・・・・・・・・観念して白状って俺は悪人か何かなのか?」
「うーん・・・今は、かしら?」
【悲報】俺氏、勝手に悪人にされていた件について。
もういいよ!帰って枕濡らしてやる!!
失礼極まりないことを笑顔で言ってのけるカナエ。
カナエってすっげぇ美人で人当たりも良くて、家事もできるパーフェクト女の子なんだけど、なんかSっ気があるというかなんというか・・・。とりあえず、俺はMじゃないから笑顔で虐めるのはやめてほしいです。
一息吐き、先程の鬼に言われたことをカナエに白状する。
「・・・・・・・・・どうやら俺は無惨に狙われているらしい」
「・・・・・・本当なの?」
「・・・・・・・・・さっきの鬼が言うには、だが」
確かに、最近はやたら鬼に狙われる事も増えた。
だけど、大体弱い鬼だから何か言う前に切っちゃうんだよなぁ。よくよく思い返してみれば、切った鬼の中には『お前を狙ってる』みたいな事を言ってた鬼もいたような・・・。
ぶっちゃけ、鬼の言う事なんてどうでもいいと思ってたし仕方なくない?しかも、雑魚だし。よし!ってことで、俺悪くない!無惨が悪い!
無惨に罪を擦り付けこの話に自己完結させる。完結できているかは甚だ疑問だが。
「・・・・・・・・・白くん大丈夫なの?」
俺が無惨に狙われていると知ったカナエは沈痛な面持ちでこちらを見る。
「・・・・・・・・・分からない。まだ、
「そんな・・・!」
とうとうカナエはその美しい双眸から涙を溢れさせてしまう。
え、え!?どどど、どうしよう!?え、こういう時ってどうすればいいの!?お、おかあさーん!!!
とりあえずカナエを安心させてあげる事が最優先だと思い、彼女の細い身体を抱き締める。
カナエも最初は強ばっていたが、徐々にその身を任せるように抱き締め返してくれる。
「・・・・・・・・・ごめん、不安にさせた」
「・・・・・・・・・ううん、私の方こそごめんなさい。急にこんな・・・」
とりあえず、やばい。勢いで抱き締めちゃったけど、これ普通にセクハラにならない?あ、でもなんかすごいいい匂いする。なんかの花の香りかな?すっげー身体柔らかいし。
胸中は大混乱だったが、その間にカナエも落ち着いてくれたみたいで今はなんか匂い嗅がれてる。
「うぅん、白くんの匂いだぁ・・・」
え、この人さっきまで泣いてなかった?なんでこんなスイッチパッチンパッチンできるの?あ、柱だからか(適当)
「・・・・・・・・・カナエ」
「すんすんすん・・・・・・・・・え、あ、なにかしら?」
こら、話聴きなさい。話。俺が言えた義理ではないが。
「・・・・・・・・・確かに今は未来がどうなるか分からない」
「・・・・・・・・・」
言葉を紡ぐ俺にカナエも真剣に聴いてくれる。
「・・・・・・・・・けど、俺はあの屋敷から・・・カナエやしのぶ、それにアオイたちから離れたくないと思ってる」
「白くん・・・」
「・・・・・・・・・だから、生きるよ。また、しのぶに怪我を治してもらえるように。また、アオイたちとご飯を作るために。・・・・・・・・・また、カナエに会うために」
拙い言葉だったが伝えたい事は全て伝えられた。
そして、それはカナエにも届いていたらしく。
「・・・・・・貴方といるために私ももっと強くなる。しのぶだってきっと同じ。助けられてばかりじゃ柱として不甲斐ないもの」
いまだ瞳に涙を湛えていたが、それでもハッキリその眼は俺の瞳と交わっていた。
・・・・・・こりゃ、是が非でも生きなきゃな。この大切な人を・・・いや、大切な人たちを悲しませないために。