氷の剣士と姉妹蝶   作:ラーメンは美味しい

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10話以内に終わります。


3話

「カァー!カァー!白夜、次ハ南東ダ!」

「・・・・・・・・・了解」

 

 今日だけですでに五件の鬼殺を成しているのにも拘わらず、空を優雅に飛び回る相棒は少しの休みもくれる気配がない。

 

 あの、雪丸さんや・・・。ちょっと疲れてきたんだけど・・・。

 

「急ゲ白夜!」

 

 少しでも体力を回復させようとゆっくりめに歩いていると、雪丸から発破を掛けられる。

 少しでも俺の気持ちが伝わるように雪丸を睨みつけるが既にそこに雪丸の姿はなく、豆粒ほどの大きさになった雪丸が遠くの空に見えた。

 

 ちょ、置いていかないでください!雪丸さん!

 

 

 


 

 

 

「忌々しい・・・」

 

 とある城の一室。

 そこにはいかにも裕福に思える服装に身を包んだ人物が歪んだ貌を隠そうともせず、愚痴を零していた。

 

「なんなのだ、あの人間は・・・。あの強さ、まるであの時の・・・」

 

 その男は昔を思い返そうとして、止めた。思い出しただけで体が怒りと恐怖で震え出しそうであったからだ。

 

「とにかく、彼奴は必ず始末せねば・・・。そのためには・・・」

 

 男は考えを纏めたようで、一人の女性を呼びつける。

 

「お呼びでしょうか」

 

 女性は黒い着物に身を包んでおり、その髪も黒色に塗りつぶされていた。髪の長さのためか彼女の顔は隠されておりその表情は窺えない。そして最も目を引くのは彼女が所持している琵琶だろう。

 

「──────────上弦を招集しろ」

「畏まりました」

 

 それだけ応えると一つ、琵琶を鳴らす。

 

 もうそこには彼女の姿はなかった。

 

「・・・必ず始末してやるぞ、人間」

 

 男の頭の中には一人の少年が浮かんでいた。

 

 

 


 

 

 

「・・・・・・・・・良い天気だ」

 

 今日は久々に任務もないので『蝶屋敷』の縁側で日向ぼっこをしていた。暖かな陽気が眠気を誘う。

 ちょっとくらいならいいだろうか、と誘惑に負けそうになっていると誰かが隣に座る。

 

「・・・・・・・・・しのぶ」

「こんな所で眠ると体に障るわよ」

「・・・・・・・・・そう、だな」

 

 そう答えてはいるものの、最早時間の問題だった。今もどんどん瞼が重くなっているのが分かる。

 

「だから──────────」

 

 ぐいっ、と腕を引かれたかと思うと次の瞬間には華やかな香りと何やら柔らかい感触が俺の頭を襲った。

 

 ・・・ん?柔らかい感触?・・・・・・・・・って膝枕じゃねぇか!やばいやばいやばい。しのぶめっちゃいい匂いするし、太腿凄い柔らかいし、何なの!?姉妹揃っていい匂いとかどうなってんだよ!!

 

「・・・・・・・・・し、しのぶ。流石にこれは・・・!」

「大丈夫。掛けるものは持ってきてるから」

 

 そういう問題じゃないんだよ、しのぶさぁん!

 

 言葉ではダメだと思い、体を起こそうとするがすぐさましのぶに押さえつけられてしまう。

 

「ダメよ。最近働きすぎだったから大人しくして」

「・・・・・・・・・いやでも、これは」

「・・・・・・・・・私の膝じゃダメ?」

「──────────そんなことはない。有難く使わせてもらう」

 

 そんな泣きそうな顔されるとさぁ・・・。反則じゃない?

 しかしまあ、しのぶが構わないのなら折角の美少女の膝枕だ。堪能させていただこう。

 

「・・・・・・・・・辛くなったら起こしてくれ」

「ええ」

 

 懸念事項が無くなった事で再び睡魔が襲う。いい加減限界だった。

 意識が途切れる最後に聴こえたのは優しい声だった。

 

「・・・お休みなさい、(びゃっ)くん」

 

 

 


 

 

 

 彼が私の膝の上でスヤスヤと寝息を立てている。

 こうして見ると普段の冷ややかな雰囲気は鳴りを潜め、年相応の少年に見える。

 

 今日も朝からアオイたちと朝餉の準備をしていたのを知っている。

 なほやきよ、すみたちと掃除をしていたのを知っている。

 ・・・・・・最近は任務の量が増えている事を知っている。鬼の強さの練度もかなりのものであるという事も。

 

 だからこそ彼に何かしてあげたいと思ってはいたのだが、私にできる事なんて怪我の手当てぐらいのものだ。だから、いろんな人に何をすればいいか、私に何ができるのかを訊いて廻ったりもした。

 

 その中で偶然『膝枕』なるものがある事を知った。

 曰く、それは男性の夢であるということ。

 曰く、それは人を癒す効果があるということ。

 曰く、好きな男性にアプローチするための方法だということ。

 ・・・って、最後のは関係ないわね。・・・・・・・・・白くんはどう思っているんだろう。微塵も気にならないけど。ええ、本当に。

 

「にしても、これすごい・・・。白くんの顔がこんなに近くに・・・」

 

 下へと顔を向けるとそこには綺麗な彼の顔がある。傷一つなく、透き通った肌だ。本当に男性なのだろうか、と疑ってしまう。

 

 目元から鼻へと視線を移していき、やがて一箇所に私の視線は釘付けになる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 今なら気づかれずにできるんじゃ・・・。いや、流石に寝ている相手にそんなこと・・・。でも、こんなチャンス二度と・・・。

 

 そう思ってしまったら、あとは体が勝手に動いていた。

 

 どんどん近づく私の唇と彼の唇。

 

 あともう少し・・・。もう少し近づければ・・・。

 

 彼を起こさないように細心の注意を払う。

 

 あともう少し、というところで後方でガタンッ、と音が聴こえる。

 

 勢いよく振り返ると蝶柄の羽織と長い黒髪の一部が目に入るが、すぐに物陰に隠れてしまう。

 姿は見えなかったが、確信はあった。

 様々な感情が渦巻く中、声が絞り出せたのは奇跡だと思う。

 

「ね、姉さん・・・。いつからそこに・・・」

 

 すると、先程の人影は気まずそうな表情で姿を現す。

 

「う、うーんと、しのぶが膝枕を始めたところくらい?」

 

 と、いうことは。あの光景のほとんどを姉に見られていた、ということになる。勿論、接吻しようとしたところも──────────。

 

「あ、あ、あぁぁぁ・・・!ち、違うの姉さん!こ、これは──────────」

「分かってるわ、しのぶ。貴女もお年頃なのよね。大丈夫よ、お姉ちゃんは分かってるからっ」

 

 実の姉は全てを悟ったような表情で私を見る。

 

「全然分かってないわよーーー!!!」

 

 

 


 

 

 

 いってぇ・・・。

 

 あの後、結局しのぶの大声が超至近距離で鼓膜にぶち込まれた事により最悪の目覚めとなった。

 

 まだ耳の中キーンってなってる・・・。

 

「ご、ごめんなさい・・・」

「・・・・・・・・・いや、お陰で心地良い睡眠だった」

「・・・・・・本当?」

「・・・・・・・・・目覚め以外は」

 

 正直に告げると、しのぶはこれまた大声で謝りながら去っていく。

 流石は柱補佐。大した速さだ。

 

 なんてくだらない事を考えるくらいには寝ぼけていた。

 

「ふふっ、しのぶったら。貴方のことになるといつもダメね」

「・・・・・・・・・?」

 

 発言の意図をいつの間にかこの場にいたカナエに視線で問う。しかし、カナエは首を横に振るだけで応えてはくれなかった。

 

 えぇ・・・。あんなしのぶ滅多に見ないからちょっと心配なんだけどな・・・。今度会ったらしのぶに直接訊いてみよう。

 

「それだけはやめた方がいいと思うわよ」

 

 ナチュラルに心読むのやめてください・・・。

 

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