氷の剣士と姉妹蝶 作:ラーメンは美味しい
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?難しい顔して」
蝶屋敷の縁側で陽の光を浴びながら考え事をしていると、カナエがやってくる。
「・・・・・・・・・この前の柱合会議の事を思い出してた」
「・・・・・・鬼の女の子を連れてた子のことね」
首を一つ縦に振り、その通りだと答える。
「何で白くんあの時、あの子たちを助けようと思ったの?」
何故と問われると難しいが・・・。
答えを考えるのに難儀したが、カナエの真剣な表情を見るに適当にはできない。
俺は拙いながらも静かに内心を吐露し始める。
「・・・・・・・・・あの兄妹が何かを変えると思ったんだ」
「何か?」
回答がざっくり過ぎたのか、珍しく呆けた顔を見せるカナエ。
「・・・・・・・・・ああ。ハッキリとは分からないけど、現状を変えることのできる程の大きな何かだ」
「大きな・・・何か・・・」
ふわふわとした予感だが、俺は確信めいたものを抱いていた。
それがカナエにも伝わったのか、顔を綻ばせる。
「ふふ、そっか」
やはり美しいと思う。そして守りたいとも。何に代えても。
そう思ったのは初めてカナエに会ったあの時からだ。要するに一目惚れだった。
あの日、カナエに初めて出逢ったあの日。
俺は任務でとある町を訪れていた。
鬼殺隊員としてそれなりに任務をこなし、階級もいくつか上がっていて、確か『
任務内容は一晩に一回、人攫いが起きるためそれの調査だった気がする。
俺は調査のため、夜の町を散策していた。
鬼は陽の光を浴びてしまうと絶命するので、夜に活動するしかないのだ。
つくづく鬼殺って人間にとって不利だよな、だなんて思った記憶がある。
そんな矢先だった。
夜目であり距離があったためはっきりとは分からなかったが、何者かが子どもらしき影を抱えて移動していくのが見えた。
俺はすぐに柄に手をかけ、影に向かって走り出した。
すると、影も俺が跡を追っているのが分かったのか走る速度を上げる。
俺も負けじと影に着いていく。
どれくらい走ったのかは分からないが、いつの間にか町の広場のような場所に辿り着いており月明かりが影の正体を映し出す。
「・・・お前か。さっきから俺の跡をつけてきてやがったのは」
影は着物を纏っており、一見すると人間にしか見えない。だが、奴の眼が人間のそれではなかった。
「・・・・・・・・・お前こそ、ここ最近この町で悪事を働いていた鬼だな」
「だったら、なんだってんだ」
「・・・・・・・・・悪いが始末させてもらう」
すると鬼は数瞬の間の後、吹き出すように笑い始める。
「ハッハッハ!お前のような人間が俺を始末するだと?世迷言を・・・」
「・・・・・・・・・世迷言かどうかはこれから分かる」
「・・・・・・・・・今すぐ死にたいようだな」
空気が変わる。重く、濃密なものへと。
それを察知した俺は静かに鞘から刀を抜く。
暫くの間、睨み合いが続いていたが、やがて鬼が痺れを切らしたのか突進を試みる。
その速度は決して常人では到達し得るものではないだろう。少年に残された未来は死しかないように思われた。
────────だが、少年は容易くそれを覆す。
「なっ!?」
少年の胴体に穴を開ける勢いで繰り出された拳を受け流してみせたのだ。
僅かにうまれた動揺。そして、攻撃が受け流されたことによる体勢の崩れ。
それらを少年が見逃すはずがなかった。
「───────『水の呼吸 壱ノ型 水面切り』」
「はっ?」
あまりの出来事に鬼から間抜けな声が漏れる。
理解し難い事だったのだろう。自分より格下の存在に殺られるだなんて。
少年の一撃は寸分の狂いなく鬼の頸を斬り裂いていた。
鬼の頭部が地面を転がりやがて止まる。
「て、てめぇ・・・!ぶっこ──────────」
何かを言いかけて灰となり風に飛ばされてしまうかつて鬼だったもの。
「・・・・・・・・・ふう、任務完了かな?」
任務を終えた達成感から一息吐いていると、頭上の雪丸から衝撃の報告が届けられる。
「ココヨリ北ヘ二町ホドノ地点デ『花柱』胡蝶カナエ、『上弦の弐』ト交戦中!付近ノ『
上弦の弐・・・!?いくら柱といえど、上弦を一人だなんて・・・。
過去にも上弦の鬼は出現していたらしく、その時は柱三人を犠牲にし、勝利を収めたようだ。
でも、俺が行ってどうする・・・!?『
──────────いや、仲間が戦ってるんだ。この状況を見なかったことにして生き長らえても待っているのはきっと生き地獄だ。だったら俺はどうせ同じ地獄に行くなら少しでも後悔しない方を選びたい!
腹が決まったら後は駆け出すだけだった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「あれれ?どうしたの?もう終わりかい?」
目の前の上弦は何が楽しいのか終始笑顔だ。
「まだ・・・よ・・・。『花の呼吸────────』ゴホッ!ガハッ!」
鬼殺隊の一員としてやるべき事をやりたいが、体はその想いに応えてくれなかった。
「ん〜、まあ俺の氷をかなり吸い込んじゃったからね。よく頑張った方だよ、君は」
そんな・・・?私はこんなところで終わってしまうの?柱としての役目も果たせないまま、命を枯らすの?
そんなのは嫌だと心が叫ぶが、体は一向に動こうとしない。
「じゃあ、そろそろ戴こうかな。君のその綺麗な体を食べるのは楽しみだな〜。きっと美味しいに違いない」
ごめんなさい、しのぶ・・・。私、ここまでみたい。カナヲの事、お願いね?
あ〜あ、しのぶやカナヲが大きくなって幸せになるところみたかったなぁ。
そして、叶うなら花が綻ぶような恋がしてみたかったなぁ・・・。
上弦の弐である『
「はぁ・・・!ほんとに美味しそうだ、君は・・・!」
何がそんなに嬉しいのか分からないが、より一層笑みを深める。
そんな上弦の弐に私は対峙した時から感じていた気持ち悪さを指摘する。
「・・・貴方、何故そんな作り笑いをしているの?」
ずっと笑顔を欠かさなかった上弦の弐から初めて笑みが消えた。
「・・・貴方もしかして、感情が無いの?」
「・・・・・・君には関係ないね」
私は最後に一矢報いてやろうと思いの丈を上弦の弐にぶつける。
「・・・何にしても、無理して貼り付けてる笑顔が気持ち悪いからやめた方がいいと思うわよ」
「・・・・・・あはっ。・・・・・・・・・流石に少し不快だな。もういいよ、お前」
どうやら成功したようだ。
奴は怒りに身を任せ私の首をへし折る気なのだろう。握られている手に力が入るのを感じ、徐々に呼吸ができなくなる。
やがて生きるのに必要な酸素量が下回ったのか、意識も飛びそうになる。
閉じられた眼の奥に浮かぶのはやはり、妹たちのこと。
──────────今までありがとう。
意識を手放そうとしたその瞬間。
一筋の光が夜空に煌めいた。