氷の剣士と姉妹蝶   作:ラーメンは美味しい

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7話

 最初はカナエさんだった。

 彼女は上弦の弐に対し、先程までの彼女からは想像もつかないほどの速度で距離を詰める。

 

 速い・・・!これが柱の力なのか・・・!

 

『─────花の呼吸 伍ノ型 (あだ)芍薬(しゃくやく)

『─────血鬼術 枯園垂(かれそのしづ)り』

 カナエさんは視認すら困難な速度で刀を振るう。

 俺に追えたのは五度斬りつけたところまでだ。

 

 ──────────しかし、それでも奴には届かない。

 

 上弦の弐もカナエさんに劣らない・・・いや、上回る速度で鉄扇から氷撃を繰り出している。

 

 次第にカナエさんは防御の為の立ち回りを強いられる。

 

「くっ・・・!」

「ほらほら。もっと頑張らないとさっきの二の舞だよ〜?」

「──────────そんなことはさせない」

 

 カナエさんと上弦の弐の烈しい打ち合いの中、何もしなかった訳ではないのだ。奴の隙を窺い死角へと移動し、奴に仕掛ける。

 

 だが、それすら奴には想定内だったようで。

 

「うーん、隙をつくってのは悪くないけど・・・それはもうちょっと実力差を埋めてからだね」

「・・・なっ!?」

 

 最大限呼吸を駆使し奴に斬り掛かるが、片方の鉄扇で容易く防がれる。

 

 こっちには目もくれないってわけか・・・!

 

 奴はこちらの襲撃など意に介した様子もなく、その目線はただただカナエさん一人に向けられている。

 

『──────────血鬼術 ()(ぐもり)

 

 奴は二対の鉄扇でカナエさんと俺を相手取っていたが、突如奴を中心に白い気体が溢れ出す。

 

 これはさっきの・・・!吸い込むとまずい・・・!

 

 よく見ると先程までの冷気とは細部が異なるようだが、どちらにせよ吸い込むのはまずいと思い、身体能力を最大限発揮し、その場を離脱する。

 カナエさんもそう判断したようで、斬りつけた反動を利用して上弦の弐から距離を取っていた。

 

「ん〜、やっぱりこういうのはもう通用しないか」

 

 上弦の弐は残念そうな口振りでそんなことを宣うが、奴の顔には少しもそんな感情はなかった。

 

 ・・・ていうか、冗談だろ。めちゃめちゃ当たってるんだけど。

 

 引き攣った笑みを浮かべながら自身の左腕を見る。

 

 ──────────そこには氷の中に囚われた俺の左腕があった。

 

「白くん!!」

「・・・・・・・・・大丈夫です」

 

 カナエさんが気遣ってくれるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

 ・・・あいつ。さっきまでと立ち居振る舞いが変わってないから分かりにくかったけど・・・・・・間違いなくさっきより俺たちを殺しにきてる。

 正直、左腕一本で済んだのは御の字だ。とはいえ、現状はカナエさんが加わったとはいえ決して優勢とは言えない。

 くそっ!どうすれば此奴に勝てる・・・!

 

「──────────ないよ。君たちが俺に勝てる可能性なんて」

「──────────!!」

「だから、もう諦めて僕と一つになろう。そうすれば、もう苦しむ事もない」

 

 まるで最後通告とでも言わんばかりに降伏を要求してくる。

 

「──────────断る」

「──────────絶対に嫌よ」

 

 奴の眼を見て確固たる意志を持って答える。

 

「・・・はぁ、残念だよ。本当に」

 

『──────────血鬼術 寒烈(かんれつ)白姫(しらひめ)

 

 奴の両隣に女性の氷像が象られていく。

 新しく繰り出された血鬼術に警戒を強める。だが、特にそれらが襲いかかってくる訳でもなかった。

 

 なんだ・・・?あれは一体何のために・・・?

 

 カナエさんも疑問に思っているようだが、警戒は解かずに氷像を注視していた。

 

「ふふふ、この子たちが何もしないから不思議なんだろ?この子たちの恐ろしさはこれからさ」

 

 奴が言い切ったと同時に、氷像からまたしても冷気が散布される。

 

 またか・・・!これじゃあ、いつまで経っても奴に近づけ──────────

 

『──────────血鬼術 結晶(けっしょう)御子(みこ)

 

 奴から放たれた冷気に対処していると、今度は別の血鬼術が使用される。

 冷気から距離を取りながらその様子を観察していると、奴の掌に小人程の氷像が二体構築される。

 そして、それぞれが冷気の中を突っ切って俺たちに肉薄する。

 俺は油断だけはしないようにと、小人の氷像に向かい合う。

 

 奴の事だ・・・。絶対に此奴にも何かある。唯の小人の氷像だなんて有り得ない。

 

「大正解。この子たちは言わば僕の分身さ。・・・・・・・・・そうだなぁ、僕よりちょっと弱いくらい、かな?」

「・・・・・・・・・は?」

 

 驚いている暇はなかった。

 なぜなら、目の前の小人から無数の氷の蔓が生み出されたからだ。

 

 これはさっきの・・・!この小人、血鬼術も扱えるのか・・・!

 

 懸命に蔓を捌きながらカナエさんの方を盗み見ると、頭上から氷柱のようなものが振り注ごうとしていた。

 

 まだあんな技を・・・!これはマジでやばい・・・!

 周りには吸い込んだら一巻の終わりの冷気が充満しつつある。それから距離を取ろうにも、此奴がいると・・・!

 

 このままではいずれ奴の冷気を吸い込んでしまう。

 現にカナエさんは若干吸い込んでしまったようで、少し辛そうな表情だ。

 

 何か、何かないのか・・・!この状況を打ち破れる何かは・・・!

 

 現状を打破する策を考えている間にも小人からの攻撃は止むことはなく、どころかより一層激しさを増しているようにも思える。

 

『──────────血鬼術 ()蓮華(れんげ)

 

 小人が氷で象られた扇を振るうと、そこに無数の氷の花びらが舞い散る。

 

 範囲が広い・・・!防ぎ・・・きれない・・・!

 

「ぐはっ!」

 

 全てを捌き切ることはできずに吹き飛ばされてしまう。

 

 くそっ・・・!このままじゃほんとに二人とも・・・。

 

 ふと、カナエさんの方を見ると二体の小人を相手取っていた。

 

 まだ出せたのか・・・!てことは、まだ増える可能性もある・・・。一体どうすれば・・・!

 

 策を導き出すために必死に頭を回転させていると、何かが倒れる音がする。

 目を遣ると、そこには座り込んでいるカナエさん。

 彼女の頭上には無数の氷柱。眼前からは氷の花びらが襲いかかっている。

 

 ──────────やめろ。やめてくれ。

 

 カナエさんはこちらを見て、哀しそうに微笑む。

 

 ──────────なんでそんな顔で俺を見るんだ。

 

 カナエさんの口許が動く。

 

 

 

 

 

 ──────────ご め ん ね。

 

 

 

 

 

 ──────────ふざけるな。謝罪なんかするな。貴女のそんな顔見たくない。貴女のそんな言葉聴きたくない。

 

 ──────────あぁ、そうか。俺は彼女の事がもうこんなにも大切だったんだ。なら、守らなきゃ。何に代えても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────俺の命にかえても。

 

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