「甚爾君。お願いがあるの。私が死んだら、火葬せずに私を食べて」
「桜……は。おも」
「もうちょっとだけ甚爾くんと一緒にいる為に、必要なことなの」
不思議な女だった。来歴不明。見えるだけの女。
そいつは、俺の事を綺麗だと言った。呪力は汚い。俺に似合わない。そう言った。
世界で唯一人、俺が綺麗だから、ホッとすることが出来る、生きていけると女は言った。
恵を産んだ後、体調を崩した女はあろうことか、自分を喰らえと言った。
ずっと一緒にいるとも。イカれた女。自分には、お似合いだと思う。
俺は、女が死んだ後、その遺体を食らった。
飲み込むと、解けていくような不思議な感覚。
何かがおかしい。おかしくてもかまわない。
そのまま全て食べると、半透明の女がほっとした顔をしていた。
サムライのような姿の女。
そして、世界のすべてが穢れて見えた。地獄の底みたいな光景。
『良かったぁ。どうにか見えるようになったみたいね』
「桜……? 嘘だろ、俺は天与呪縛で呪力は」
『うん、呪力はないよ。あるのは、霊力だけ。私が甚爾くんにあげられるのは、これと死神の力だけだから』
「いらねぇよ、そんなもの。っていうか死神ってなんだよ」
『信じて、受け取って』
刀を向けてくる女に、俺は自然体で体を任せた。
とんでもねぇ女に惚れちまった。
桜は、弱まりながらも俺にいろいろなことを教え込んでいった。
それから一ヶ月後。もうすぐ消えてしまう、といったところで迎えが来た。
俺は肉体を霊子に変換し、桜と恵と共にソウルソサエティに移り住んだ。
四角い箱の前で、サムライ装束の半透明の青年がへたり込んでいた。
「すっげー! 五条先生に勝った!」
「うっそでしょ……」
「五条先生! 勝負はついただろ、早く解け」
一年生が騒げば、同じ年頃の半透明の青年にそっくりな青年が半透明のサムライを庇う。
「ご主人は疲れてるんだぞ! 封印解くのは大変なんだぞ!」
『解くの、数、日、後……。霊力、空に、なった』
「茨、解けないとか言わねーよな?」
「数日掛かるんだぞ! 絶対安静で数日後なんだぞ!」
「え、その間の任務どうすんのよ」
「ふざけんなよ」
呪力も練れない新米呪術師が、呪術界に華々しくデビューした瞬間である。
なお、本人は早々に正体がバレ、売り言葉に買い言葉で人間に死神として相対することとなった挙げ句、人間相手になりふり構わず鬼道と斬魄刀を利用して手加減されての勝利なので、酷く落ち込んでいたりする。
呪術で誰に負けても構わないが、死神としての力を使ってまで人間に負けるのはアウトな茨である。
もっとも、茨の悩みは、呪術界の誰にも理解不可能なのだが。
茨 恵。
呪専生、兼、死神である。