「混じる……?」
なんだそれ。異世界人は、虚いや、呪霊とたやすく魂が混じってしまうらしい。
なにそれ怖い。自分もなのかな。気づかなかった。ポチを使う際には気をつけよう。
それはそうと、怒ったのは虎杖じゃなくて呪霊か。じゃあいいや。
「指の封印が一気に解けて、呪霊をわっと引き寄せて強化するもんだから、もう大変だよ。またすぐ出ないとね」
良くなかった。よくわからないものを刺激してはなりません。恵覚えた。
「僕は五条 悟。君の担任だよ。よろしく、茨。君、恵の異母弟かもしれないんだって?」
「異母弟ではないです。父は割と一途なので」
「まあねー。君のお父さん存命なんでしょ?」
「……一応……?」
多分、遺伝子的には異母兄弟なのかもしれない。
母と出会わなかった父が、よその女と子供を作っても仕方がない。
にしても、父は生きていると言って良いのだろうか。霊体だけど。
「んー? そう? でも術式は全く同じなんだよね。双子でも珍しいよ。しかも相伝。一代に二人も現れるのは異例中の異例かな。ものがものだし」
「はぁ!?」
「決闘させられますか? 幽閉ですか!? 手っ取り早く処刑!?」
「茨、安心して。大丈夫だから。同じ術式が珍しいってだけで、前例はあるし、普通に跡継ぎ候補になったりしてるし」
「嘘なんでしょう? 安心させてブスッと」
「はいはい、大丈夫だから。むしろ、居場所がほしいって言ってたよね? ラブコール貰えるよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。だーいじょうぶ」
ぽんぽんと頭に手を置かれ、安堵する。
良かったぁ。斬魄刀だと決闘後幽閉だから……。人間相手に闘えなんて言われたら困ってしまう。
「それで、何があったか、聞かせてもらえるかな」
「特級呪霊が現れて、茨が逃げようって言って、逃げてる最中、急に……」
「ちょっとまって。指、ちょっとだけ傷つけちゃったって言ってたわ」
「ずっと俺らといたろう。傷つけられたって指は離れた場所にあったし、そもそも茨は呪力の練り方わからないだろう? 術式も俺と同じなら、傷つけられる要素がない」
「ふむ。茨、なんで傷つけちゃったって思ったのかな?」
黙っていれば、と思わなかったと言えば、嘘になる。大嘘だ。
だが、恵は死神の子として厳しく育てられてきた。
秩序の守り手たる死神が、報告をしないことはありえない。実際に犠牲が出ているのだ。
でも、どこまで、どうやって言えば良いのだろう?
そこで、五条が穏やかに笑った。
「だーいじょうぶ。僕、最強だから。本当に指を傷つけちゃったとしても、僕が茨を責めさせないよ」
「お、俺、呪霊から落ちたから、禍々しさも感じたし、特に何も考えず、なんとなく刺しちゃって」
「うん、じゃあ、もっかいやってみてもらえるかな? 大丈夫。責任は僕が持つ」
「でも、宿儺がすごく怒って……」
「一回も二回も同じだよね。でも宿儺も怒らないでくれるかな」
「そこの小僧に出来るはずがない。やれるものならやってみろ」
俺は、そろりと手を出した。
「麗影姫」
斬魄刀を出して、地面に置かれた指にそっと触れさせ、そしてぐっと力を込めた。
その瞬間、衝撃が襲い、気がつけば五条先生の胸の中にいた。
虎杖の内からの渾身の宿儺の攻撃。そこから庇ったのだ。
「ふん。見誤った事はわびてやる。首を差し出せ」
ペチンっと虎杖が宿儺を黙らせる。
「ごめんな、茨。茨ってすげーんだな」
「いや、結局壊せなかったし……。多分、切るのすごく大変だと思う」
「うっわ、僕が見えないの初めてだよ。ま、見えない空間があることで見えるんだけどね。術式じゃないね。呪具でも、正の呪力でもない。ナニソレ?」
「その、母方が宗教系の人で……。悪霊を成仏させる、的な。これ以上は秘伝なので……」
「だろうね! でも興味出てきちゃったな―。呪力は練ったことないけど、母方の秘伝は修行してた感じ?」
「はい。でも! 俺、呪術界で呪力勉強して生きてくって決めたので、そこは信じてください! 今回は秘伝使っちゃいましたが、これからはちゃんと呪力を使います!」
「いや、呪力ももちろん勉強したほうが良いけど、秘伝は秘伝で伸ばしていこうよ」
「でも母は、外で生きるならちゃんと封じないと駄目だよって」
「茨はさ。呪力のある自分を否定したくなくてこっちの世界に入ったって聞いたけど」
「はい」
「今度は、秘伝を使える自分を否定しちゃうんだ?」
「それは……!」
「出し惜しみして生き延びていけるような甘い地獄じゃないよ。呪術界は」
「それは、父も口を酸っぱくして言ってました。でも……」
「よし! とりあえず、君の力を図ろう。ちゃんとね。呪力でも秘伝でも良い。君の持ってる力全部を持って、かかっておいで」
包容力のある人だな、と思う。
死神たちはみんな立派な人だけれど、この人も違った器の大きさがある。
でも人間と戦うって……。
「お友達も一緒においで」
その言葉に、ポチのことがバレていることを知る。
本当に、この人は。
俺は、覚悟を決めて義魂丸を食べた。
『ポチ!』
「ご主人、サポートするんだぞ!」
「うん? 自分の体を乗っ取らせて、自分は体を捨てて特攻するんだ???」
「ポチは戦闘も出来るんだぞ!」
「ぜんっぜん呪力が練れてないね! 呪力が侵食される感覚もない。ただの暴力は怖くないかな」
俺は切りかかり……切りかかり……きりかか。
『素手の人間に刀を向けるとかねーよ!』
「いーばーら。ちゃんと攻撃して! 僕なら大丈夫。最強だから」
俺が戸惑っていると、ぶわっと禍々しい気配を感じて、俺はとっさに腕を動かしていた。
とっさのことで、外すのが精一杯だった。
『破道の四! 白雷!』
「いいね、全然狙いがつけられてないけど。うーん、僕、信用されてない? 傷つくなぁ」
そっと。呪力を極力抑えながら、五条先生は俺を殴り倒す。
死神とか呪力とか、どこまで見せるのかとか。
そんなの考えれないくらい追い詰められて、俺は気がつけば必死で鬼道を使っていた。
『ああああああああああああああああああ!! 死神が人間相手にここまでやって負けるって、死神失格じゃないか!! 大人気なくて情けないにもほどが……!』
ポチと連携攻撃をしながら、必死で考える。あらゆる攻撃は無限の壁に阻まれる。
あんなんありなの? そもそも人間なの? 呪術師って怖い。
黒棺で万一死んじゃうと困るよなぁ!
考えて考えて、縛道で周りの空間ごと封印すればいいと思いつく。
少なくとも九十番台クラス、しかもオリジナルで組まないと……!!
舐めプ気味だから、詠唱時間は稼げるだろうけど……!!
それから、産まれてきてから一番頭を使って、体を動かして、一時間。
奥の手の、呪力と霊力を混ぜた攻撃まで繰り出して(俺が出来ないのは呪力だけを練ることで、霊力だけ、霊力と呪力の混合は普通に練れる)。
「すっげー! 五条先生に勝った!」
「うっそでしょ……」
「五条先生! 勝負はついただろ、早く解け」
駄目だ。よく聞こえない。ぼーっとする。
「ご主人は疲れてるんだぞ! 封印解くのは大変なんだぞ!」
『解くの、数、日、後……。霊力、空に、なった』
「茨、解けないとか言わねーよな?」
「数日掛かるんだぞ! 絶対安静で数日後なんだぞ!」
「え、その間の任務どうすんのよ」
「ふざけんなよ」
俺は、なんとか自分の体に入ってそのまま倒れる。
その後、なんだかんだで介抱してくれるんだから、皆優しいと思う。
…………。
呪術師たちって、本当に凄い。
それに比べて俺は……人間相手に手加減されるわ、卍解するわ、九十番台の応用のオリジナル鬼道を使うわ、大人気なくなりふり構わず戦ってそれでようやく辛勝だわ(次は勝てる気がしない)本当最低の死神だな。
俺が振りまいてしまった強力な霊力に、同級生は当てられてないだろうか。
五条先生は間違いなく当てられているだろう。後で謝らなくてはいけない。
「俺って、どうしてこんな落ちこぼれなんだろう……」
「「「嫌味か!!!」」」
果物を切っていた同級生に声を揃えて叫ばれた。
あ、虎杖。呪力を練る訓練、俺もやらせて。