欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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連鎖し続ける欲望。

「これでっ終わりだよ!!」

「いってぇっ……でもまあもう襲われないって思えば安い、よなぁ……」

 

水面に浮いている気絶しているヴィラン、それらを一箇所に集めながら峰田の個性であるもぎもぎによってくっつける。本人以外は取る事も容易ではなく驚異の接着力を誇るそれを用いてヴィラン同士をくっつけて例え起きたとしても動けないようにして水難ゾーンの中央辺りに浮かべておく。緑谷が調べた所、ヴィランの大半が魚系統の個性持ちだったので問題なく、そうでない物はそんなヴィランの上に転がしておいたので大丈夫だろう。

 

「獣王、おい大丈夫かよ」

「わりぃっ……くっそ疲れた……やっぱりコンボは負担がでけぇな……」

「大丈夫よ私が付いてるわ獣王ちゃん」

 

水難ゾーンの水辺、脱力してしまっている翔纏は梅雨ちゃんに支えられるように座り込んでしまっている。酷く荒い息を漏らしながら必死に呼吸をしている。それに思わず緑谷が尋ねる。

 

「ねぇっ獣王君。さっきの姿、そんなに消耗しちゃうの?」

「ああ……あの状態、シャウタって言うんだが……あれはコンボ状態なんだ」

「コンボってなんかゲームみてぇだな……」

 

峰田の言葉を肯定しつつも使っていた三枚のメダルを見せ付けながら翔纏は説明する。翔纏のメダルは基本的に三種類に分かれており、それぞれに決められた動物が割り振られているがその種類は統一されている。鳥系、猫系、昆虫系、水棲系、重量系と別けられておりこれらがそれぞれ頭、腕、脚に割り振られている形になる。そして同じ種類の系統を揃えると強力な能力を発揮出来るようになる。

 

「さっきのシャウタの場合、だと液状化だな……」

「液状化って……それ一つだけでも凄い個性級だよ!?」

「そんだけ俺の個性はやばいんだよ、この力だってドライバーに組み込まれてシステムと俺の個性が共鳴してできた副産物みたいなもんだからな……」

「凄くても相当負担は凄そうね」

 

当初はこの仕様は外される予定だったが、鴻上会長の考えでそのまま搭載されるままとなった。負担は大きいだろうが、何方にしろコンボを使う状況は危険な状態に違いないので速攻でケリをつける為と一族を説得したとの事。

 

「あと少し休めば動けるようにはなるから、悪い……ちょっと……」

「ケ、ケロッ!!?」

「ああっ獣王テメェ!!」

 

そのまま完全に脱力しきってしまったのか梅雨ちゃんに倒れこむようになってしまい、そのまま意識を失うように瞳を閉じてしまった。峰田も助けて貰った身なので強く言えず、歯軋りをして彼女の胸に抱かれる翔纏を血の涙を流しながら見つめていた。梅雨ちゃんは最初こそ驚いたが優しく受け入れるように翔纏を抱きしめる。

 

「如何しようかしら緑谷ちゃん、早く合流を目指すべきなのかしら」

「う~ん……でも途中でヴィランと遭遇するかもしれないし、何とも言えないね……せめて回復するのを待つべきだと思う」

「だっだよなっ!!先生が助けに来るまで待とうぜ!?」

 

このまま下手に動けば翔纏も危険に晒すと判断してこの場での待機を決定するのだが―――直後に凄まじい音と生々しい音が耳に届いてしまった。其方を見てしまった、そこにあったのは……脳が剥き出しになっている巨漢のヴィランによって地面が抉れるほど強く組み伏せられている相澤の姿であった。それだけではない、全身の各所に手のような物を付けたヴィランもいる。

 

「み、緑谷っ……!!」

「落ちっ、着いて……ゆっくり、ゆっくり水の中に身を潜めよう……!!」

「分かった、わっ……獣王ちゃん、ごめんなさい」

 

動けなくなっている翔纏を伴って水の中に身を潜める、翔纏の顔が水につからないように細心の注意を払いながら梅雨ちゃんが抱えるのを緑谷は確認しつつそっと状況を見る。相澤を拘束している巨漢のヴィラン、それは今相澤に見られたのにも拘らず変わらずの怪力を発揮している。という事は……あれは素の力であり個性は別の物であると予測が立てられてしまい最悪の予想が浮かび上がってしまった。

 

「みっ緑谷……先生が……!!」

「駄目よ緑谷ちゃん、今飛び出したら私達まで……それは先生が一番望まない筈だわ……!」

「分かってる、分かってるけどこんなのって……!!」

 

分かっている、けど見過ごせというのかこの状況を。目の間で苦しんでいる人がいるのに何も出来ずにただじっとし続けているなんて……耐えがたい苦痛、だが彼女の言う事は正しい。プロヒーローでもある相澤は経験も豊富なのにそれが敗れている、ならば自分達が倒せる訳もない。だからと言って、このまま……だがその時だった。

 

「もう少し、欲しいな」

 

ギロリと手を付けたヴィランが此方を見た。自分達を転移させたヴィランが何かを報告したかと思った直後だった。そしてゆっくりと此方へと向かってきた。相澤をその場に投げ捨てるようにしながら向かってくる。今すぐにでも逃げなければと思うが―――

 

「バ、バレてッ―――!!?」

「ケ、ケロォッ……!!」

「か、身体が動かねぇ……!!」

 

バレてしまった、逃げないとまずいと分かった瞬間に叩きつけられた混じりけが無い純粋な殺意と敵意が全身を貫いた。本能を直撃するかのようなそれらは彼らの原始的な部分を刺激した、全身が動かなくなり思考が凍り付いてしまうほどの圧倒的な恐怖が身体を縛り付ける。このままでは確実にやられる、何とかしなければと考える中で翔纏がそんな言葉を送った。

 

「緑、谷……気を、引けっ……」

「獣王君!?」

「獣王ちゃん!?」

「俺が、何とかする……だから意識を反らせ……」

「ど、どうやってだよ……」

 

震え続ける声に身体、こんな状況で何を如何したらそんな事が出来るというんだと峰田が抗議する中で翔纏は言う。

 

「緑谷、お前のっパワーなら……姿を隠せるような事を……半端じゃだめだ、全力で……」

「で、でもそれって緑谷ちゃんの身体が……」

「頼むっ緑谷……一か八かの手段でしかないが、もうそれを試すのが今だ……!!一発でいい、その一撃を俺にくれ……!!!」

 

苦しみながらも必死に声を出す翔纏を出久は見つめる、本当に何とか出来るのだろうか、この状況を打破できるのかと疑問と恐怖が入り乱れて思考を鈍らせる。そんな中でもヴィランは迫ってくる、此方の事情なんてお構いなしに。恐怖が増してくる今を打破するために、質問する。

 

「一発で良いんだよね……!?」

「十分だ……」

「分かった、僕の腕を君に賭ける!!!」

 

迫りくるヴィラン、恐怖が沸き上がり続ける中で叫ぶ、それが如何したと。怖いからなんだ、それを跳ね除ける術を知っているじゃないか、方法は一つしかないんだ。最後の手段を試す時が今だというのならば自分はそれに従おう、全身全霊を込めた最高の一撃を今放つ。その時、全身を縛る恐怖の鎖が千切れ飛ぶ、途端に溢れ出すのは欲望の、勇気の力だ。それを今腕に込めて一撃を放つ!!!

 

SMASHHHHHHHHHH!!!!

 

全力で眼前の地面を殴りつける、その瞬間に地面は砕け散りながら爆風染みた衝撃波を生み出し、そこら一帯を包み込むような土煙と水柱を打ち上げた。水煙と土煙が入り乱れる光景を見続けるヴィランは狡猾に笑う。

 

「恐怖で可笑しくなったかぁ……自爆しやがった」

「死柄木弔、しかし凄まじい力です、警戒はした方が良いのでは」

「だったら脳無に行かせればいいだけの話だ、これなら問題ねぇ」

 

死柄木と言われた手を付けたヴィランは足を止め、脳無と呼称された脳が剥き出しの巨漢ヴィランに目の前を指さしながら行けという指示を出す。それを受けた脳無は訓練された猟犬のように命令に忠実に前へと進み始めた。煙の奥にいる生徒を殺す為に、主の殺意に応えるかのように―――だがその時聞こえて来たのだ。何か、甲高い音が、そして響き渡る力強い音が。

 

ライオン!

トラ!

チーター!

 

そして土煙を突き破るかのように眩い光が放たれていく、その光は全ての障害を取り払うかのように輝きながらも脳無へと炸裂した。光は熱線となって収束されていき脳無の全身を焼いていく。黒い身体も良く光を吸収してくれている為か良く燃える、だが直後に筋肉を膨張させたかのように炎が弾けた。肌が焦げてこそいるが未だ健在、そして脳無の瞳が映したのは―――

 

ラ・タ・ラ・タ! トラーター!!

 

「先生の仇―――取らせて貰う!!」

 

光を放つ灼熱のコンボ、ラトラーターとなった翔纏。今、コンボの力が解放されようとしている。




シャウタに連続してラトラーターも登場。実はサゴーゾと迷ってました。でもいざって時は相澤先生を確保して退却も選択できるからこっちかなっと思いました。

尚、現在の翔纏は既に満身創痍。

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