「ンだ、ありゃ……?」
死柄木が目にしたのは煙の中から飛び出した一人の戦士、黒い身体に浮き上がるかのように飛び出している黄色い部位。頭、腕、脚の三か所に分かれているがそれらは個として確立されている。手の甲から伸びている鋭利な爪、強靭な足、そして大きく立派な鬣を蓄える頭部。そして向けられてくる闘気と敵意は明確にして強すぎる。
「おい黒霧、プロヒーローでこんなのいたか」
「……いえ覚えがありません。アングラ系……でもなさそうですし」
「生徒って事か……脳無殺せ」
淡々とした殺害指示、それに従うように脳無は腕を差し向けるが一歩先に翔纏が前に出た。そして腕部のツメ、トラクローを展開しながら腕を振るう。そして一拍の後に脳無の右腕が地面にボトリと落ちた。
「はっ……?」
「ほうっ……」
死柄木と黒霧の反応は両極端。一方はそれを理解出来ず、一方はその一瞬の出来事を完璧に見抜いて感心の息を漏らしてしまった。地面に転がった太い脳無の腕、それが告げる真実に気付ける差が明確に分けられた。そして脳無は振り返りながら自分の腕を切り落とした相手を見た。そして直後に―――一気に加速して巨腕を振り下ろした。爆風と共に地面が砕け散る、それを見た死柄木は確実に死んだなと笑う、しかし―――
「セイヤァッ!!!」
「ッ!!」
背後からトラクローが襲いかかり残っていた腕と足を一本ずつ切断する。僅かな攻防、それだけで脳無を圧倒するような力を見せ付ける翔纏だが警戒を身に纏い続けていた。何故ならば切り落とした筈の腕と足が再生し始めているからである。
「再生系の個性……」
「あっそうさそうだよ!!ああっちょっと驚かせてくれたけどよ、こいつは再生とショック吸収を備えてる。対オールマイト用に連れて来たんだお前如きが敵う訳がねぇんだよ!!」
「再生と、ショック吸収」
死柄木の言葉を反復する、個性は基本的に一人に一つというのが当たり前。だが翔纏は驚かない、自分とて他人から見たら複数の個性を持っているように見えるのだから。個性は世代交代をするごとに混合されて強くなる事がある、自分などは正しくそれの実例なのだから。だがその二つは酷く厄介だと言うしかない、トラクローで切り裂いても再生され、蹴りつけても吸収される。防御系としては最上の組み合わせだ。
「ならっ―――試してやる!!」
脚に力を籠める、すると脹脛から蒸気が噴き出し力が溜まっていく事を示し始める。そしてそれらを爆発させるように加速しながら瞬時に距離を詰めて脳無の頭部へと膝蹴りと回し蹴りを炸裂させる。身体を仰け反らせるだけで確かに対したダメージは無いように見える、ならばと言わんばかりにクローを振るい脳無の腕の肘から先を貰う。
「無駄って事がまだ分からないのか?」
「これっならどうだぁぁぁ!!!」
両腕は封じた。ならばこれが出来ると脳無の肩をがっしりと掴むとその胸部へと脚を置く。そのまま―――チーターの脚力を全開にして脳無の身体を走るかのような
「ハァァァァァァッッッッ!!!!」
「ッッ―――!!」
速すぎる動き、超連続して脚が脳無の身体へと当たり続けて行く。二つしかない脚が無数に見える程の超高速。そんな速度を生み出す健脚の攻撃を受け続ける脳無は一体どうなってしまうのだろうか。
「如何した脳無!!そんな奴さっさとひねりつぶせ!!」
「し、死柄木弔……脳無の、脳無の腕を見てください」
「ああん!?ンなもん治って……ねぇっ!?」
黒霧に言われて視線を向けた先には肘から先の再生が酷く緩慢な速度でしか行えていない姿があった。瞬時に傷を塞ぐ再生が機能していないのか、違う。胸部の傷を再生させるのに集中させている。
「脳無の再生を上回る攻撃ってフザけんなチートか!!」
「ハァァァァァッハアッ!!!」
一際強く、脳無の身体を抉る。周囲に細胞が飛び散っていく中で飛び退く翔纏。リボルスピンキックを受け続けた脳無は膝をつきながらも傷の再生を行おうとするがその速度は明らかに遅くなっている。幾ら個性といえど人間の機能、限界は当然存在してそれは確実に訪れてしまう。それが今、そして好機も今!!オースキャナーでドライバーのメダルを再スキャンする。
その時、翔纏の身体にも大幅な変化が齎される。
「ウォォォォォォォッッ!!!」
雄叫びと共に目の前に黄色の光のリングが出現、そこへ突進していく翔纏。そしてそれを一つ潜るごとにその身は光を強く宿していく。そしてそれらのエネルギーを全て両腕へと回しながら脳無へと向かって行く。再生が終わらない脳無は最後のあがきと言わんばかりに突撃して迎え撃とうとするのだが余りにも速度が違い過ぎた。
「セイヤアアアアアアアアァァァァァァァァッッッッ!!!!」
百獣の王の雄叫びと共に莫大なエネルギーを蓄えた両腕が振るわれる、その爪は交差するように脳無の身体を切り刻むとそのエネルギーに耐えきれなくなったかのように大爆発した。爆炎の中からゆっくりと倒れこんだ脳無、深い深い切り傷に火傷、それは一切再生する事も無く動く事も無かった。
「嘘だろあの脳無が倒された……!?ぁぁぁっァァァああああふざけるなよぉお前ぇ!!なんだ、なんだよぉくそチート野郎がぁぁぁぁ!!!」
「死柄木弔、今直ぐ引きましょう!!脳無無しではオールマイトは倒せません、間もなく雄英の教師陣が来る可能性も……!!」
「くそぉぉぉお!!!」
罵詈雑言を漏らしながら、此方を見る翔纏へと怒りをぶつけながらも死柄木は黒霧の中へと消えていく、同時に黒霧の姿も掻き消えて行く。程なくして訪れる静寂、それに木霊するのは翔纏の息遣いのみ。それを打ち破るかのように水難ゾーンから上がってきたクラスメイト達が駆け寄ってきた。
「おい獣王~!!!お前どんだけやべぇんだよぉ!!ヴィランを退けちまうなんて!!」
「本当に凄かったわ獣王ちゃん、本当にっ本当に!!」
「獣王君本当にありがとう!!」
自分を囲むように駆けよって来た三人の無事な姿に思わず翔纏は息を吐いた。無我夢中だったが巻き込む事なんてしていなくて本当に良かったと安心してしまった。自分は守り切った、戦い切った。
「相澤先生を……」
「あっそうだそうだった!!相澤先生の事忘れてたぁ!!」
「み、峰田君手伝って応急処置するから!!!」
「それは緑谷ちゃんもよ!!」
「いや僕は今のところ痛くは―――っていってぇぇぇ!!?」
「緑谷お前何がしてんだよ!?」
一瞬で騒がしくなった空間に翔纏は思わず笑みを零してしまった、そうだ相澤先生の手当てをして合流しないと―――身体に力が入らない、脚が砕けたように崩れ膝をつきそのまま倒れこんだ。
「獣王ちゃん!?」
「お、おい獣王如何したんだよ!!?」
「獣王君確り!!」
直後に変身が強制解除されて元の姿へと戻ってしまった。身体にこびり付く異常な疲労と途轍もない痛み、それによって混濁する意識の中で翔纏は理解した。これが
「くそくそくそっ!!!」
『随分と荒れているね弔』
「当然だろう……!!先生、アンタがくれた脳無がオールマイトどころか唯の生徒に倒されたんだぞ!!』
『へえっ……詳しく聞かせてくれるかい……その子の個性―――実に興味深い』
翔纏はオリジナルのオーズと違って能力開放という事が出来ます。個性の力を更に引き出す事で元となった生物の特徴やパワーを更に発揮出来る技です。
S.I.Cのオーズの能力開放した感じです。あれいいですよね。