欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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家族の欲望。

「んんっ……」

 

重たい瞼を開ける、自分は眠っていたいや瞼を閉じていたのかという意識すらなく如何してそんな事をしたのかすら分からない。力なく開かれた瞳が映すのは初めて見る天井、天井を意識してみた事はないが多分初めてだと思う。

 

「……知らない天井だ……」

 

おもむろに出た言葉が自分の心情を示していた。兎も角自分は如何してしまったのだろうか、身体を引き起こしたが全身が引き裂かれるような激痛が走った。

 

「ガァッ……そうか、俺はコンボを……」

「目が覚めたかいって何身体を起こしてるんだい!?早く横になりんしゃい!!」

 

身体を起こして抱きしめている翔纏を見て驚いた医務室付きの看護教諭、リカバリーガール。個性社会でも珍しい治癒系の個性持ち、翔纏の身体を安定させる為にベットの角度を付けて一先ずそれで安定させる事にした。

 

「それにしても……よくもこんなに早く起きられるもんさね、あたしから見てもアンタは重傷だったのに……」

「……」

 

少しずつ、痛みによって意識がクリアになっていき記憶が蘇っていく。自分はUSJで脳無と戦っていた、シャウタコンボで疲弊していた直後に最も負担が大きいラトラーターになるという家族が聞いたら大パニックになるであろう組み合わせを実行した。そしてなんとか倒す事が出来た後に倒れたのだ、それを漸く思い出せた。

 

「それで起きて早々悪いんだけどねぇ……頼まれてほしい事があるんだよ」

「頼まれてほしい事、ですか。何ですかね、USJ内に残ったヴィラン掃討、とかですか。やりますけど」

「んなもん生徒に頼む訳ないさね……結構物騒な子だね」

「いえまだあの脳無みたいな奴がいないとも限らないと思って……だから倒した俺がって流れかと」

「う~ん……これを本気で言ってるのかね、だとしたら相当な天然、いや馬鹿だね……」

「結構失礼ですねリカバリーガール」

 

若干ムッとするのだが直後に諭すように言われてしまった。仮にそんな存在が居たとしてもオールマイトを中心にした雄英の最高戦力チームを編成して行うから生徒にやらせるなんて事はあり得ない、加えて満身創痍で激痛も走り続けている翔纏に頼むなんてありえない。

 

「頼みたい事ってのはね……アンタの親御さんの説得さね」

「……へっ?」

 

 

「翔纏ぁぁぁぁぁっっっ!!!」

「翔ちゃぁぁぁんっっっ!!!」

 

数分後、医務室に飛び込んできたのは自分の両親であった。顔には焦燥と恐怖、不安が極まったような感情を浮かび上がらせたまま迫ってきた。そして自分を強く強く抱きしめてくるのだが……

 

「あだだだだだだだだだだっっ!!!??死ぬ死ぬ死ぬ親父と母さんに殺されるぅ!!」

「はっすまん翔纏!!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい!!」

 

コンボの影響で大ダメージを受けている翔纏に両親の愛は酷く重く痛かった。本気で殺されると思う程に痛かった、リカバリーガールが鎮痛剤を投与してくれなければ気絶するほどの激痛だった。そんな事をしてしまった両親は土下座して謝罪してくる、子供に土下座する親というのはあまり見たくないからか翔纏はやめてくれと言った。

 

「全く……トップヒーローがなんて情けない」

「「面目ねぇ……」」

 

軽くお説教された両親はリカバリーガールにぺこぺこと頭を下げ続けている。何故ならば両親も雄英のOB故に面識があるし結構な頻度でお世話になっていたという話、リカバリーガール曰く、両親はライバルのような関係で常に演習場の使用許可を求め続けて何方が強いかを競っていた問題児扱いだったらしい。

 

「せ、先生その事は翔ちゃんには……!!」

「そうですっ俺は翔纏の憧れとして立派な姿で……」

「大丈夫親父には一ミリも憧れてねぇから」

「な、なんですとぉ!!?ちょ、超ショック……」

 

へなへなと座り込んでショックを受ける男こそ、キング・ビーストというトップヒーローをやっている獣王 猛。ライオンの鬣のような金髪が特徴的な屈強な巨漢なのだが……翔纏からすれば全く尊敬する気の起きない過保護な親馬鹿親父である。

 

「お母さんは尊敬してくれてるわよね、ねっ?そうよね翔ちゃん!?」

「あ~ま~……う~ん……それなりかな」

「そっそれなりなのね……でも猛さんには勝ったわね!!」

 

余り尊敬されていない事に一瞬落ち込みそうになりながらも()には勝っている事に喜んでガッツポーズを取る女性、父と同じようにトップヒーローの一人であるマジカル・ビーストの獣王 幻。スタイル抜群で腰まで届く程に長い赤い髪がトレードマーク、しかし同じく過保護な親馬鹿。

 

「それでリカバリーガール先生、うちの親馬鹿夫婦が如何したんですか」

「「親馬鹿夫婦……」」

「結構ドストレートに物を言う子だね、親にもそう言える胆力は嫌いじゃないよ。簡単な話さね、お前さんのいう親馬鹿夫婦がアンタを家に連れて帰るって聞かなくてね」

 

その言葉だけで大分状況は察する事が出来た、翔纏は鈍くはないし名門の家の出なので相応の教養を叩きこまれている。そして自分の家族の事を加味して両親が乗り込んできた理由も察しが付く。

 

「雄英の管理と生徒の安全体制の不満、ヴィランに侵入されたのにも拘らず直ぐに急行する事も出来なかった事と俺がヴィランと戦った事を追求してるって所ですか」

「大正解さね。特にお前さんがコンボだったかね、それを使った事が豪く不満らしい」

 

言いたい事は分かる、理由も理解出来る、だがそれを雄英のせいにするのはあんまりな話でもある。どうやって転移系個性の対策をしろというのか。

 

「俺は雄英を辞める気もないしコンボを使った事も後悔してない、寧ろ緑谷の腕をあんなにさせちまったことが一番後悔してる」

「それなら大丈夫だよ、あの子の腕はあたしが治癒させてあるよ」

 

それを聞いて一安心。あの状況ではそれしかなかった、だがそれでも分かっていて激痛の中に飛び込ませてしまったのが自分。それなのに彼は自分を信じて実行してくれた事が何よりも嬉しかったしそれに報いる為に自分は全力で戦った。だが矢張りそんな行いをさせてしまった事だけが心残りだった。

 

「で、でもそんな事をさせてしまったのは雄英側に問題が……」

「尊敬しねぇどころか嫌いになるぞ」

「「すいませんでした!!」」

「だから簡単に親が子供に土下座するんじゃないよアンタら……それでもトップヒーローかい……」

 

そんなに子供に嫌われるのが嫌なのかと思うがそれ程までに猛と幻は翔纏を愛しているのである。翔纏が一族の中で随一の個性を持っているなんて関係ない、息子だからそれだけの理由しか存在しない。愛する息子に嫌われる事は何よりも避けたい事なのである。

 

「というか過保護すぎなんだよ二人は……少しは俺を信頼してくれてもいいじゃないか」

「信頼してるわよぉ……でも、でもお母さんたちは翔ちゃんの個性暴発の場面を何度も見てるからその……」

 

母の心配は良く分かる。鴻上会長からドライバーとメダルを貰うまでに幾度も個性の暴発は起きて来た、その都度自分は死に掛けた。過保護になってしまっているのもそこから来てしまっている、大切にされているのは悪い気はしないし寧ろ愛されているという自覚もある……だけど

 

「俺はヒーローになりたいんだよ、だから何時までも親父と母さんにおんぶに抱っこでいたくない」

「それは分かるが……だけどお前は一族の皆が陥った事ない程に……」

「それも分かってる。だからさ―――体育祭で俺は証明する」

 

その手があったかとリカバリーガールも納得したような顔をした。雄英の体育祭はスポーツの祭典と呼ばれたオリンピックに代わり日本全国を熱狂させるほどの人気を誇っており、雄英生からすれば自らの実力を見せる事でプロからのスカウトを、プロからは新しい人材発掘に利用されている。

 

「そこで俺の姿を見ててくれないか、今の俺の力を―――自分達の息子が強いんだって所を見ててよ」

「翔纏……そうか、そうだな。翔纏も男の子だもんな」

「猛さんっ良いんですか!?」

「会長にも言われただろ、俺達一族は過保護が過ぎるって」

 

幻は不満な所があるのかそれに異を唱えたい。親としては不安があるし譲りたくない部分がある、だが過保護である事は否定出来ないし息子が此処まで言うのだから尊重したいという気持ちがあるのも事実。

 

「……分かりました、一先ずこの話は持ち帰ってお爺様たちにも聞いていただきましょう」

「それには賛成」

 

両親の説得は成功、と言っていいのだろう。兎も角次の目標は雄英体育祭で獣王家が納得が行く結果を出すという事になる。難しいかもしれないがやるしかない、その為には―――矢張りコンボに慣れて負担軽減を試みるしかない。新たな欲望を胸にした翔纏は瞳に炎を宿す。

 

「それじゃあ……翔ちゃんは連れて帰っても良いんですか!?」

「いや、納得したんじゃなかったのかい?」

「そうじゃなくて純粋に帰宅させても良いんですか!?」

「「ああそっちか……」」

 

検査の後、安静にするという条件付きで家に連行気味に帰宅。その間、母に抱きしめられ続けていた翔纏であった。




ギャングオルカの逆パターン。

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