欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の憎悪。

「な、何この人の数!?」

「すっごい人だね!」

「何だよ出れねぇじゃねぇか!?」

 

ヴィラン事件の事は広まっており廊下には大勢の生徒が詰めている。野次馬目的なのか、それとも体育祭に向けての敵情視察なのか……それは定かではないがこれでは通れない。これでは約束している相手を待たせてしまう、出来れば直ぐにでも出たいのだが……。

 

「あっ彼じゃないか!?獣王君!!」

「あの子のお陰で体育祭が開催に向けて傾いたってマジなのか?」

 

ああそっちもなのかと翔纏は頬を掻く。確かに獣王一族が今回の開催に当たって協力している、それで反対勢力を捻じ伏せたのは事実らしい。なので間接的に自分が開催に大きく貢献した……と言えるのかもしれない。兎も角自分も早く行きたいので一言……

 

「あのぉ……これから体育祭に向けて色々準備したんで退いて貰ってもいいですかね、それに俺はもう既に体育祭は始まってる(・・・・・・・・・・・)と思ってますから」

 

その一言で何か我に返ったかのようにごった返していた廊下に十二分に人が通れるほどにスペースが出来て行った。まだ残っている生徒こそいるが通る事は出来る。その中で一人、真っ直ぐ此方を見つめてくる一人の生徒がいた、少々目つきが悪いがそれで逆に悪い笑みが似合っている気がする。

 

「―――もう始まってるか……確かにな。勝ちたいなアンタに」

 

そう言い残して去っていく男子生徒、名前ぐらいは聞きたかったなぁと思う翔纏を邪魔だと言わんばかりに肩をぶつけながら先に帰っていく爆豪。一度強く自分を睨みつけながら去っていく、如何にも彼とはうまくやっていけるヴィジョンが浮かばない。兎も角時間は有限、翔纏は自らのやりたい事の為に帰宅の途へと着くする事にした。

 

「なあっ獣王、ちょっといいか」

「んっえっと……轟君、でいいんだよね」

 

ライドベンダーのエンジンを回そうと思った時に呼び止められた、それを行ったのはクラスメイトの轟であった。接点はハッキリ言ってない、筈なのだが……。

 

「俺になんか用?」

「少し話したい、時間良いか」

「まあいいけど……」

「悪い」

 

キーを抜いてからその後に続く事にした。雄英内にある適当なベンチに案内されて腰掛けると轟は口を開いた。

 

「お前、あの獣王一族なんだってな」

「まあそうだけど、それが如何かした?」

「……いや」

 

直ぐに口を閉ざして何も喋らなくなってしまう轟、一体何をしたいのか分からない。口下手なのかそれとも自分に話しにくい内容なのか、それならば自分が歩み寄ってみる事にした。

 

「轟君の氷って凄いよね、あんなに凄いのは俺見た事ないよ」

「そうか、獣王ならあの位出来るんじゃねぇのか」

「いやウチは動物特化個性みたいな一族だからああいうのは出来ないよ」

「そうなのか……お前見てたら皆出来ると思ってた」

「いやそれは俺が可笑しいだけ」

 

冗談っぽく言ってみると首を傾げつつも話に乗ってきた、会話が得意ではないというだけで普通に会話してくれることが分かって翔纏は一安心する。それからも暫くの間は話を続けてしまった。

 

「そんなに過保護ってどんだけ個性の制御が利かなかったんだよ」

「何時暴発するか分かんないから常に安静を保たなきゃいけなかったよ。健診行く時に運悪くマスコミに囲まれた時はその刺激で個性暴発して死に掛けたよ」

「難儀だな、というかそのマスコミも酷いな」

「一族全員で訴えたらしい、んで一応示談にはなったらしい―――まあ最近調べたらそのマスコミの会社潰れてたけど」

「マジか」

「マジだ」

「「フフッ」」

 

思わず顔を見合わせて言葉を呟いてしまった、それがどこかおかしくて笑ってしまった。最初の堅苦しさも大分無くなって随分と気軽に話せるようになっていた、気付けばお互いの事を名前で呼び合うようにもなっていた。

 

「それで焦凍は俺に結局何の用があったんだ?」

「っ……いや、この流れで聞くのは翔纏に悪い」

「気にするなって遠慮なく言ってくれよ」

「……本当に良いのか?」

 

何やら慎重になってしまっている焦凍に翔纏は気にする事はないと胸を叩いた。どんな話が来ようとも受け止めて―――

 

「その……お前の家って個性婚してないよ、な……?」

「ふえっ?」

 

思いがけない内容だったのか翔纏は間抜けな声を上げつつ変な顔になっていた。呆然としてしまっている彼に焦凍は矢張り聞くべきじゃなかった……と後悔しつつも頭を下げて来た、心からの後悔と謝罪のそれを受けるうちに我に返ったのか取り敢えず頭を上げて貰うように懇願する。

 

「え、ええっと何でそんな事を聞いてきたのか分からないけど……俺の両親は恋愛結婚だったらしいよ、雄英のOBでリカバリーガール先生辺りに聞けば分かる。お見合いもあった筈だけど基本恋愛結婚だって聞いたよ」

「そうなのか……いや本当にごめん、翔纏だけじゃなくて一族を傷付けちまった……」

「いや傷ついたというか……何でそんな事聞いたのよ」

 

個性は世代を重ねるごとに強くなる、正確に言えば親となる両者の個性が混ざり合う事で二つが一つになる事がある。強い個性を子供に継がせる、個性と個性を掛け合わせる為の結婚、それが個性婚と呼ばれる物。倫理的な問題もあるそれを今此処で聞くとは思わなかった、何故聞いたのかを尋ねると―――焦凍自身がその個性婚によって生まれたからであった。

 

「あのエンデヴァーが……マジか」

「俺はあいつが望むオールマイトを超える存在、最高傑作として―――!!」

「ああ駄目だって!!そんなに握りしめたら血が出るぞ!?」

「……悪い」

 

焦凍の父親、フレイムヒーロー・エンデヴァー。№2ヒーローとして長年君臨するトップヒーローの最高峰、だがそのエンデヴァーは自らではオールマイトを超えられないと悟りその夢を子供に託そうとした……だがそのやり方は余りにも問題があり過ぎる。個性を使うと身体に熱が籠り身体機能が低下する点を解決するのに都合の良い個性を持っている事だけを理由に今の奥さん、冷さんと結婚した。

 

「それでもしかして俺も……って思ったのか」

「……ああ、だけど俺の勘違いだった」

 

単純な心配だったのだろう、もしかして自分と同じなのかもしれない。それならば同じことを共有する事で助ける事が出来るかもっという親切心だったらしい。獣王一族は完全な偶然の結果でこうなっているので焦凍の心配は外れる事になった。

 

「それで焦凍は如何したんだ、話を聞いててエンデヴァーが大嫌いなのは分かるけど」

「俺は母さんの側だけで天辺を取る、あいつを―――否定する!!」

 

その時の焦凍の顔は酷く歪んでいた、憎悪に狂った復讐者という言葉が似合うそれに翔纏は思わず言葉を失った。焦凍の顔の火傷痕も、エンデヴァーのせいでお母さんが精神的に不安定になったせいだと聞いた。ならば焦凍が持つ憎悪は測りしれないだろう、止めてあげたい―――だがそれは焦凍の問題であった、自分にそれを止める資格はない。それに―――今、その欲望(憎悪)を無くしてしまうのはいけない。

 

「そっか。だったらさ焦凍、俺と特訓しないか」

「特訓?翔纏と?」

「ああ、俺はコンボの負担を軽減したいんだけどその相手をして欲しいんだよ。それにさ―――氷だけで天辺を取るのは今のエンデヴァーと同じでかなり難しいぞ」

「ッ!!」

 

そう言われて気付いた、確かに今自分がやろうとしているはエンデヴァーと全く同じ事だと気づいた。一番憎んでいる男と全く同じ道を歩もうとしているのかと歯が砕けそうな程に力を籠めると肩を叩かれる。

 

「だからさっ色々と試してみれば良いんだよ、氷で何が出来るのかを徹底的に」

「徹底的に試す」

「そう、エンデヴァーは諦めてるんだよ。だったら焦凍は諦めなければいいんだよ、俺も手伝う」

「良いのか」

 

思わず戸惑ったような声で、縋る様に尋ねてしまった。本当に頼って良いのか、手伝って貰ってしまっていいのかと迷いが出てしまう。今まで友達らしい友達も居らず如何したらいいのか分からないと言いたげな焦凍の手を翔纏は握った。

 

「当然、友達のやりたい事を―――欲望を応援しないほど薄情じゃないさ。それに欲望は生きるエネルギー、素晴らしぃ!!って俺が尊敬する人も言ってるし」

「―――それじゃあ、頼む」

「応!!」

 

差し出された手を強く握り返す、焦凍は心から嬉しさが沸き上がってきた気がした。誰かに自分の目標を、欲望を吐露したのは初めてだしそれを認めて手伝ってくれるなんて思いもしなかったからか冷たい身体の奥が熱くなった。たった一人で上を目指すのではなく誰かの力を借りる……それに焦凍はワクワクしていた。

 

「それじゃあ早速明日から特訓開始だな」

「ああ頼む、お前のコンボ……だったか、それについても詳しく教えてくれ」

「勿論」

 

改めてライドベンダーのエンジンを掛けた翔纏はそのまま焦凍を家まで送っていく事にした。そして別れる時

 

「んじゃまた明日な」

「っ……ああ、また明日」

 

不器用だが笑みを見せてくれた焦凍が少し眩しく見えた。

 

「そう、今は駄目。今はその欲望のままでいい、自分でそれをどう変えられるか……その欲望がどんな風に変わるのかが楽しみだな」




「姉さん、俺……友達出来た」
「ほっ本当!?」
「ああっ……今度、連れてきてもいいかな」
「うんうんいいよいいよ、何時でも連れて来てもいいよ!!」
「(来てくれっかな……)」

友達が出来て内心で結構ウキウキな焦凍君であった。

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