欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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入り乱れる欲望。

スタジアムの大型モニターに映り込む先頭を走る焦凍と翔纏。それを見つめる一つの炎、身体に炎を纏いながら文字通りの熱い視線を送り続ける男……焦凍の父親にして№2ヒーロー フレイムヒーロー・エンデヴァー。焦凍がこの世で最も憎悪し嫌う男。

 

彼が焦凍に望む事は唯一つだけ、オールマイトを超える事。その為に下らない拘りを捨てて現実を見るべきだと思い続けている。だが……

 

「焦凍、なんだその顔は」

 

『おっとっ来たかっ!!んじゃ焦凍お先に失礼!!』

『逃がすと思ってるのか、翔纏!!』

 

背後から迫ってくる他の生徒達、矢張りヴィランの襲撃を潜り抜けた同じクラスメイト達は氷の障害を即座に突破してくる。対応の早さが数段速い、それは経験から来るものだと分かるがそれよりも気になるのは翔纏の存在だった。

 

獣王 翔纏。獣王一族の出にして一族でも随一の個性だと以前チームアップをした時にキング・ビーストから聞かされた。酷い親馬鹿だと思いながらもある事を考えていた、それだけの強い個性ならば取り入れたいという欲望が渦巻き始めていた……だがそれよりも先に気になっていた事があった。焦凍と翔纏は競い合っているのに心から楽しそうに見える。

 

―――見た事も無い楽しそうな笑み、自分には向ける事はないであろう顔。

 

「(何故、イラつく……!!)」

 

 

『さあ障害物競走第一関門のロボインフェルノ!!!を既に半分越えてるぞ獣王と轟の奴ぅ!!』

 

第一関門、それは入試でも出された仮想ヴィランとなるロボットによる障害。人間より一回り大きいのが主だが……中には十数メートルの巨大ロボヴィランまで準備されている。そんな関門を先頭の二人は―――

 

「セイヤアアアアアァァァァァァッ!!!」

「喰らえっ!!!」

 

真正面から装甲をぶち抜いて蹴り破って突破する、装甲の隙間を狙って細い氷柱を伸ばして内部を凍結させるなどの手段を用いて突破している。先頭を走り続けている二人、正しく無双をしつつ激進しているがそれも長く続く訳ではない。

 

「このままいかせる訳がねぇだろうがぁぁぁっクソがぁぁぁぁぁ!!!」

「遂に来たか!!」

「なら上げるだけ……!!」

 

爆豪を始めとする後続が上がってきている、何時までも自分達で独走という訳には行かない。だがそれはそれで面白い、競い合って来る相手がいる、その相手に勝ちたいという欲望が力となる。それを焦凍は知ったのか笑みを零しながら更に速度を上げて行く。

 

「翔纏っ!!」

「何っセイヤァッ!!」

「先失礼」

「あっちょ俺今意趣返しされた!?って言うか意味あってる意趣返し!?」

 

迫って来ていたロボヴィランを回し蹴りで仕留めている内に先に行かれてしまった、それを追いかけるようにバッタの跳躍力を利用して追いかける。そしてこの瞬間に翔纏はある事を感じ続けている、今この時瞬間が本当に楽しいと。特訓とはまた違う高揚感と楽しさが身を包んでいる。

 

「俺だって負けないぜっ―――焦凍ぉ!!」

 

『さあぁ先頭がいよいよ第二の関門へと差し掛かったぞぉ!!!落ちれば即アウト、それが嫌なら這いずりなっ!!!ザ・フォォォオオオオオル!!!!』

 

 

第二の関門として姿を現したのは巨大な峡谷のように大口を開けている、地の底へと向かっているような真っ暗闇。切り立った崖のような足場とそれらへと架けられているロープの橋だった。綱渡りの要領で渡っていく事で奥へと進んで行けという事になる。焦凍はロープの上を凍らせる事で滑るように迅速に移動していく、それに対する翔纏は―――

 

「セイヤアアアアアアアァァァァァッッ!!!」

『獣王此処でとんでもねぇ大ジャンプぅぅぅぅ!!すげぇあいつの個性どうなってんだぁ!?』

 

限界までパワーをチャージする事で大ジャンプ、足場足場をロープで渡らずに直接跳んでいく。そして到着した時に焦凍に追いつく事が出来た、互いが再び拮抗した姿を見て思わず、口角を持ち上げながら一気に加速していく。お前には負けないぞっという意地のぶつかり合い、二人としてはもう体育祭という意識は薄くなっていた。純粋に競う事を楽しんでいる。そして遂に最後の関門へと辿り着く。

 

『さぁあラストの障害だぁああ!!そこらは一面地雷原!!名付けて怒りのアフガン!!!もし踏んでも安心しな、競技用だから威力は控えめ、だが音と爆発は派手だから失禁しねぇように気を付けな!!!』

 

「地雷ってやり過ぎでしょうがぁ!!高校で使っていい道具じゃないでしょう!!?っつうか武器ぃ!!」

 

思わず声を張り上げてしまった。そんなツッコミに多くの生徒や観客も同意した、目の前には明らかに地面の色が異なっている部分が大量にある。そこに地雷が埋まっていますという事なのだろうが……だが此処も跳び越えてしまえば―――と思った直後に周辺の茂みからガトリング砲のような物が一斉に出て来て此方を向いたので焦凍と共に硬直。

 

『いい忘れてたけど跳び越えてなんて思うなよぉ!!!空を行こうとするなら覚悟しな、そこには殺傷力皆無の競技用ミニガンによる鉄壁の対空網が敷かれてるぜぇぇえ!!』

「やり過ぎでしょうがぁ!!?態々ミニガン用意するか普通、完全に武器というか兵装じゃねぇか!?アヴェンジャー*1よりマシだから勘弁しろってかぁ!!?」

「ドウドウ、落ち着け翔纏」

「俺はウマじゃねぇ!!」

 

そんな叫びを放つ翔纏は正しい、というか正しく皆が思う総意。だからこそ殺傷力などについては徹底的に排除されているので問題はないとされている……らしい。だからと言って地雷やミニガンを用意するだろうか普通……校風が自由だから許されるのだろうか。兎も角行くしかないと覚悟を決めて前へと進む。

 

「うぉっ……とととっ!?くっそぉ!!」

「結構、きつい……!!」

 

今まで独走し続けていたツートップ、地雷を避ける為に慎重に成らざるを得ずゆっくりとしてしか進めない。焦凍は地面を凍らせるという選択肢もあるが、それは翔纏と後続にも足場を作る事になるので避けている。故に慎重に進み続ける―――のだが

 

「追い付いたぞクソ共がぁぁぁぁぁ!!!」

「ボンバーヴィランが来たぁぁぁ!!?」

「誰がヴィランがこの動物野郎あぁぁぁ!!!」

 

此処で遂に爆豪が二人を完全に射程に捉えた、此処まで距離を詰められたらもう抜かれるしかないかもしれないと翔纏は思う。何故ならば爆豪は爆破を推進力にして宙を飛ぶ、それもミニガンの対空網に掛からないように地面スレスレを飛んでいる。これではもう抜かれるしかない……と思った時である。

 

「させるかよっ爆豪……!!」

「なっ!!?ちぃっ!!」

 

爆豪の顔目掛けて地面から氷柱が伸びた、それを咄嗟に回避するが次々と伸びてくるそれに邪魔されて上手く前に進む事が出来ない。それを行っている焦凍は細い細い氷の道を爆豪のルート上に伸ばしてそこから氷柱を作り出している。

 

「翔纏との特訓で得た技だ、味わってみろよ……!!」

「ッソがぁぁぁっ!!!」

 

歯軋りをしながらも前に進めぬ事へと苛立ちを露わにしながらも何とか氷柱を回避して前へと進む事を諦めない爆豪、前に進み続けて行く焦凍と翔纏。そして漸く前へと出る事が出来た―――と思ったその時だった。背後から凄まじい爆発と共に何かが眼前へと吹き飛んできた。

 

「「っ緑谷ぁ!?」」

 

ロボヴィランの装甲を上手く使用して身体を保護しつつ、爆風は凄い地雷を使って自らを遠くへと飛ばして一気に前へと躍り出られてしまった。転がりながらも何とか走り出す彼を見ながらも焦凍と翔纏は更に笑みを強めながら―――全力で駆けだした。

 

「良いじゃん今の、良いじゃんか今のすげぇじゃん緑谷!!」

「っ―――負けるかよぉ!!!」

「もう絶対に取り返せない、だから死守するんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

更に加速し猛追する二人、必死に走る緑谷。この三人にトップが絞られる、誰もが熱狂し誰が一位になるのか見届けようと必死になった。そして一番最初にゴールを踏んだのはっ……!!!

 

『この結果を誰が予想できたぁぁぁ!!!??第一種目を1位で通過したのは、なんと大方の予想である獣王&轟を裏切ったスーパーダークホース!!!緑谷 出久だぁぁぁあああああ!!!!2位は獣王、3位が轟だぁぁぁぁ!!!!』

 

「逃げ、切られたかぁ……!!」

「くそっ……!!」

 

爆風で距離を稼いだ彼、そしてスピードに乗り切れずにいた自分達。それが大きな差を生んだ、そして焦凍はこれまで氷をかなり使っていた。特に氷の道はまだ未熟であるためかなり身体を冷やしてしまい、それが影響して僅かに速度が落ちてしまって3位という結果になってしまった。握り込んだ拳と強く噛み締める歯、悔しい、本当に悔しい……!!

 

「いやぁ……凄いな緑谷!!まさかあそこから逆転なんて思いもしなかったよ、正しくお前の勝利を望む欲望の勝利だ。君の欲望のエネルギーは素晴らしぃ!!!」

「あっ有難う獣王君、僕っ……頑張るから。獣王君にも轟君にも負けない!!」

「俺だって負けないぜ」

「―――っ……俺だって負けるつもりはない」

 

僅かに痛むそれを抑えながら、焦凍はリベンジを誓う―――だがそれは何故か緑谷へと向いており、それに彼は気付いていなかった。

*1
30mmの弾丸を使用するガトリング砲。ドイツが誇る撃墜王、ルーデル閣下が設計に携わった機体、A-10に搭載されている事で有名。




さあっ盛り上がってまいりました。

色んな意味で。

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