『さあもう直ぐチーム組みの15分が経過するんぞぉ!!』
『おっおおおおっ!?獣王此処で姿を変えたぞっ!?って言うかお前虫まで行けんのかよ!?』
『もうバッタの跳躍見せてたろ』
半分呆れている相澤、その視線の先ではタトバコンボから別の亜種形態へとチェンジした翔纏がいる。クワガタの頭部にクジャクの腕とチーターの脚。その名もガタジャーター。
「にしても良いのか」
「ああ、寧ろ世話を掛けねぇように俺が気を付ける」
「分かった。寒くなったら言えよ」
電撃と広域知覚のクワガタ、高速移動のチーター、そして円盤状の手甲武器・タジャスピナーを備えているクジャク。索敵に移動、そして防御と隙が無いようにメダルを選択した翔纏と氷による攻撃と妨害を行う焦凍のコンビ。二人と酷く身軽だが強力な個性を持つ二人が組む事で手数などをカバーしあう、がそれ以上に二人だけなので息を合わせる事が容易なのも一番のメリットと言えるだろう。
「やっぱり他は基本的に4人での騎馬か」
「スタンダードな形に落ち着いてるって感じだな」
騎馬戦という形式を活かす為と個性の組み合わせによる戦略を考慮して基本的に他のチームは4人ベース型。人数も多く同時に出来る事も多い、2人や3人の騎馬もいるが矢張り気になるのは自分達の持ち点数。自分達は405点、上回る点数持ちはかなり多い―――だが
「「負ける気がしねぇ」」
『さあいよいよ始まっぞぉ!!血で血を洗う仁義も情けもねぇ雄英大合戦、大戦国時代!!残虐ファイトの幕が今上がるぜぇ!!さあ狼煙が今―――上がったぁぁぁぁ!!!』
第二種目、騎馬戦の開始のゴングが鳴った。そしてそれと同時に―――
「さあっスタートダッシュを決めるぞ、確り掴まっとけよ焦凍。じゃないと―――全てっ振り切るぞ!!」
開始と同時に駆け出した翔纏、その凄まじい加速に身体を持って行かれそうになるのを抑えながらも前を見る。他を寄せ付けない超スピード、そして目の前にいたB
組の鱗チームへと飛び掛かった。
「焦凍ぉ!!」
「応っ!!」
加速してからの跳躍、それにこちらにはまだ気づいていない。チーターレッグの面目躍如と言った所だろう、超スピードと隠密性の同居。そのまま背後から通り過ぎる時に焦凍はその頭に掛かっていた鉢巻きへと確りと指を掛けて解きながらもしっかりと握り込んだ。
「うおっ凄い風!?鱗氏、大丈夫でありますか!?」
「だ、大丈夫―――ッてぇ宍田大変だ鉢巻きがないぃ!!?」
「何ですとぉ!?」
「よしっ取れた!!」
「上々っ!!」
『A組の大本命コンビの獣王と轟ぃなんととんでもねぇ超スピードで一気に鉢巻一個ゲットぉ!!?っつうか獣王お前のその個性どうなってんだぁ!!?』
『少しは資料確認しろ』
というツッコミが聞こえてくる中で二人はガッツポーズ。チーターレッグでの高速移動は優れている、がそれは騎手である焦凍にも襲いかかってくる。なので如何に自分達がポイントを稼げるのかは焦凍頼みになる、今の速度で良いのかそれとも調整するべきなのかを試すつもりだったが―――その辺りは№2に鍛えられた焦凍、何の問題も無かった。
「確り巻いたな、さあ次行くぜ!!」
「ああっ―――翔纏右だ!!」
「ッ!!」
その言葉で右を見た、正確には右後方。其方から長い舌が迫ってきた、そんな事が出来るのは一人しかいない。咄嗟に地面を蹴って回避する。
「悪いっちょっと油断してた!!」
「気にするな」
クワガタへッドの視覚は背後にまで及ぶのに気付けなかった、作戦が成功した事で心が緩んでしまっていた。もうこんな事はないようにしなければならない、自分が緩んだ時―――焦凍は欲望を遂げられなくなる、そう思うのだと心に刻む。
「流石ね、今のタイミングで避けるなんて」
「やっぱり梅雨ちゃんか!!っというか障子君の背中に乗ってんのあれ!?」
「障子の対策と個性を上手く使ってやがるな……翔纏、引けっ!」
「ああっそれじゃあお互い頑張ろう!!」
そう言いながら加速して去っていく、去る姿を見せたが梅雨ちゃんは深追いしてこない。矢張り冷静だと感心しつつも獲物を探す。時に突然鳴り響いた第六感の警報アラート、咄嗟に跳び上がると直後に地面の様子が変化していく。着地した時にそれは一気に露わになった、地面が異常な程に柔らかくなっている。
「うおおっくそっ!!」
「B組の奴か!!」
焦凍が見る先にはB組の鉄哲チームが見える、その前騎馬の骨抜が自らの個性で地面を柔らかくしてしまった。幾ら健脚のチーターでも走る地面がこの様子では力を発揮出来ない―――と高を括っている、だがそれを此方を甘く見過ぎている。
「やって来る!!」
「わりぃっちょっといてぇぞ!!」
「なっ!?」
その時、思わず鉄哲は驚愕した。焦凍は翔纏の肩に手を当てるとそのまま一気に凍らせていく、その氷は地面へと到達し柔らかくなっていた地面を硬い物へと変貌させていくと同時に周囲のチームへの牽制となっていく。
「正気かあいつ!!騎馬まで凍らせやがった!!」
「俺をっ舐めるなぁぁぁ!!」
腕のタジャスピナーが唸りを上げて熱を発し始めて行く、凍て付いていた氷は溶け始めて十二分に動けるようになった。そして氷を踏みしめながらも焦凍と共に―――眼前の鉄哲チームを睨みつけた。
「随分と舐めたことしてくれるじゃねぇかっ……!!」
「お代は鉢巻って事で勘弁してやる!!」
「簡単に取れると――――って如何した!?」
「あ、足が氷に取られて動けねぇ……!!」
「い、何時の間に!!?」
相手の動きを封じながら確実に鉢巻を確保、仕返し成功とそれを巻きなおした時―――上から何かが爆音と共に迫ってきた。
「半分野郎ォォォォッッ!!」
「爆豪っ……やっぱり来やがったか!!」
「任せろっハッ!!」
爆破を推進力にして空を駆ける爆豪、ありなのかとも思うが主審ミッドナイトの判定はアリ。個性によるものだし問題はない、但しそのまま地面に降りてからの行動は出来ず、一旦騎馬を組みなおすという条件付き。そんな爆豪へとタジャスピナーから火炎弾を発射する。
「当たるかぁ!!」
「くっそ速いなあいつ!!」
「任せろ、警戒を頼む!!」
牽制を続ける翔纏に警戒を頼みつつ焦凍は手を開いて其処に冷気を集中させる、手の中にある空気が凝結し氷へと変貌しそれを握り込みながらも更に凍結。そしてあっという間に氷の刃を生み出してしまって爆破の盾にしながら爆豪を迎え撃つ。
「させるかよっ爆豪!!」
「半分野郎ぉ!!」
「焦凍っちょっと身体反らせ!!」
咄嗟に翔纏の身体を足で挟むようにしながらも肩を掴んだまま身体を後ろへと反らせる、その直後―――クワガタヘッドから電撃を溢れ出させて爆豪を攻撃する。
「クソがぁっ!!訓練の時の奴か!!」
放電範囲が徐々に広がっていく事を悟ると即座に自分の騎馬へと撤退する爆豪、引き際を見る目もあって本当に油断が出来ない相手だと思いながら焦凍が体勢を直す。
「悪いっいきなりすぎた」
「いやいい、さあどんどん行こうぜ翔纏」
「フッああ行こうぜ焦凍」
『轟&獣王!!抜群のコンビネーションで快進撃ぃ!!突然の行動にも対応、なんだお前ら親友同士かこの野郎!!』
『あそこまで相手の言葉に疑いも持たずに即座に行動に移せる、騎馬戦において一番やばいのは間違いなくあのチームだな』
その言葉通り、翔纏と焦凍の快進撃は止まらない。大本命コンビの名前の通り―――彼らは余裕の勝利で騎馬戦で上位4位に入った。そしてそれにより―――最終種目 ガチバトルトーナメントへの切符を手にするのであった。
「やったな翔纏」
「ああ、俺達の勝利だ」
笑みを零しながら腕をぶつけ合って互いの健闘を称える二人、晴れやかな笑みを浮かべる焦凍と満面の笑みの翔纏。だが次のトーナメントでは―――この二人が激突するかもしれないのである。