欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の形。

送られてきたバースデーケーキ、相変わらずの大きさに辟易しながらも感謝しながらも絶品のケーキを食べ切った翌日―――彼の姿は合格した高校、ヒーロー科最難関と言われる雄英へと足を踏み入れた。合格出来た事は兎に角嬉しかったし家族どころか親戚中からの喜びのメッセージと贈り物で埋もれる程度には量が凄まじかった。そして最早恒例行事と言えるバースデーケーキ消化に勤しんだりしていた。

 

「その内糖尿病とかにならないか心配になってきたな……」

 

頻繁に美味しいケーキが食べられる事は嬉しく思うべきだろうが、それ以上に頻度が多すぎるので健康状態に不安を抱くようになってきたこの頃。まだ若いので大丈夫だとは思うが……そんな事を想いながらも前へと進んでいく事にする。流石超エリート校、極めて綺麗だという感想を浮かべつつも自分の教室を探してみる。

 

「入試の時も思ったけど広いよなぁ……」

 

日本でも屈指の敷地面積を誇る雄英高校は多種多様な演習施設も存在している。入試の際に使用した広い試験会場ですらその一つ、校舎でもその広さは極めて広い。入学資料には専用の地図アプリのダウンロードの勧めなどがあったので確りとそれに従って落としておいてよかったと思いつつ探していると漸く教室を見つける事が出来た、早めに家を出たので時間を使えたが15分は彷徨っていた。

 

「此処かっよし……行こ」

 

早めに来ていただけに教室には一人を除いて生徒はいなかった、その生徒も自分が入って来るのを見ると此方へと歩いてきた。何処かというかカクついているような動きをしている、個性関係だろうか。

 

「ムッ君とは初見だな!!ボ……失礼、俺は私立聡明中学出身の飯田天哉という、宜しく頼む」

「あっこれはご丁寧にどうも、獣王 翔纏です」

「獣王とはまさか、あの獣王か!?トップヒーローのキング・ビーストやゴッド・ビーストと言ったあの獣王!?」

「あっうん、それ俺の父さんと兄貴だよ」

 

シレっと答えるが眼鏡を掛けた真面目一徹!!と言わんばかりの飯田は驚愕しきっていた、獣王家はヒーロー一家としても名が轟いている。特に父と兄はトップヒーローとして活躍し続けているので知っているのならば驚いても可笑しくはないだろう。その驚きから漸く再起動した飯田は咳払いしつつも先程の自分の醜態を隠そうと話をズラす。

 

「し、しかしまさか獣王家の方も来るとは……流石雄英だ、全国から精鋭が集まるに違いない!!」

「そうかもね、どんな学校生活になるかちょっと楽しみかな。そう言えば飯田君、だっけ。もしかしてだけどインゲニウムさんの……」

「そうっ俺の兄はターボヒーロー・インゲニウムさ!」

 

自分の兄だって負けていないぞ!と言わんばかりに胸を張って嬉々としてインゲニウムの事を話し出す飯田の姿に自分と同じように兄を誇りに思っているんだなと共感しつつ、話を聞いていく。興味深く面白い話を聞けていたのだが……如何にも不良で御座います、といった態度の男子が机の上に足を置くと飯田は眼鏡を輝かせながら注意しに行ってしまった。

 

「机に足を掛けるのはやめないか!雄英の先輩たちや机の製作者の方々に失礼だろう!?」

「あ゛あ゛!!?ンだテメェ文句あんのか!!?どこ中だこの端役!!」

「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」

「聡明ぃ~?糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそうだなオイィ!!」

「ぶっ殺し甲斐?!君の物言いはなんて酷いんだ……まるでヴィランだ、本当にヒーロー志望なのか!?」

 

何とも騒々しい、我が道を行き自分に絶対的な自信を持っており気に入らなければぶっ飛ばすと言わんばかりの自尊心。そして規律を重んじて正しく誠実であろうとする飯田とは相性は酷く悪いだろう、これから彼が何をしようと飯田は注意をし、逆に煩いと一蹴されながら罵倒する未来が一瞬で見える。兎も角自分の席に着く事にした。その後、飯田は自分の席周辺に来た生徒に真面目にあいさつ回りをし続けていた。そして間もなく8時半になろうとした時にやって来た緑髪の少年の元へと駆け寄っていった。

 

「(友達、とかかな)」

 

そんな事を想っていたのだが、直後にそんな思考を吹き飛ばされた。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

余りにもズボラすぎる風貌をした男が寝袋から顔を出しながら忠告めいた事を呟いていた、警告なのだろうか……しかし高校にいる人間としても相応しくない恰好では説得力が余りにもないと言わざるを得ない。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

 

その男は自分が担任である相澤 消太であると伝える。それに思わず先生で担任!?と驚きの反応が出来るがそれを切り捨てるかのように新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。

 

「質問宜しいでしょうか!?」

「却下、指示に従え」

 

飯田の問いかけも一蹴。教室に残ったのは教壇に置かれた全員分の体操服、突然すぎる事だが今はそれに従うしかないので皆は手を伸ばしながら更衣室へと移動していく。

 

「獣王君、君はどう思う」

「何とも言えないかな、でも今は従うしかないでしょ。もしかしたらこれだって試練かもしれないよ」

「っそうか、最高峰故にこの段階から始めるという事か!?」

 

と若干適当な言葉に感銘を受けてしまったのか、本気にしてしまったのかやる気を出した飯田を見つつ、着替えてグラウンドへと到着。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。

 

「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」

 

先に述べた通り雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、ヒーローが立ち向かう災害やヴィランだって何も待ってくれる事はない。こんな事で戸惑って如何すると言わんばかりに、自分達の動揺なんて知らんと無視するかの如く、相澤が翔纏を見た。

 

「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。今年の実技入試首席は獣王、お前だったな。ソフトボール投げの記録は」

「えっと……54メートルです」

「んじゃ今度は個性使ってやってみろ」

 

唐突な指名に驚くが翔纏の口角は持ち上がっていた。なんだか良く分からないが兎に角やればいいのだ、単純な事でしかないと解釈をしつつも円の中へと入る。クラス中の視線が集まる中で常に持ち歩き続けているものを取り出した。その名もオーズドライバー。

 

「何だあれ、個性補助アイテムか?」

「僕と同じだねっまあ優美さは僕の勝ちだけど☆」

「そうか?」

 

個性によってはアイテムの使用もやむを得ない、というのは当たり前に近い。寧ろ使わなければ生命活動に支障を来す場合もあるので珍しくもないし正当な権利として認められている、翔纏の場合は制御の為にこのドライバーともう一つ、手の中にあるメダルを使わなければならない。

 

その手に持つのは三つのメダル、左右のスロットに赤と緑のメダルを、そして最後に中央に黄色のメダルを入れ込みバックルを斜めへとずらす。右腰にあるスキャナーを手に取った。その途端に周囲に響き渡る鼓動にも回転率が上がっていくエンジンにも聞こえてくる音、それが一体何を意味するのかと思考されるよりも先にそれでスロットに収められたメダルの上を滑らせるように―――素早くスキャンさせた。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

「変身っ!!!」

 

それとほぼ同時に翔纏の周囲を無数のメダルの光が取り巻いていく、オーラのメダルが巡っていく中で装填されたメダルと全く同じメダルが一枚に重なり合う。それは一つとなりながら翔纏の身体へと重なる、それを受けた肉体は個性を発動させて一気に変化を齎していきながらその姿を露わにする。

 

タカ!

トラ!

バッタ!

 

タ・ト・バ!バ!タ・ト・バ!!!

 

『へ、変身したぁ!?』

 

光に包まれた末に現れた翔纏の肉体は頭部、腕、脚それぞれに動物の特徴を宿した姿へと変貌していた。頭部はタカ、腕部はトラ、脚部はバッタ。その三種類に分けられつつもその特性と特徴を発揮する事が出来るようになっている。これこそが翔纏の個性使用形態とも言うべき彼のヒーローとしての姿、そして彼が手に入れた欲望の力。

 

「歌は気にしないでね♪」




オーズのコンボはぶっちゃけ全部好き。

S.I,Cのアレンジの利きまくった造形も大好き。

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