欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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炎の欲望と氷炎の欲望。

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

クジャク!

コンドル!

 

タ~ジャ~ドル~!!

 

「ハァッ!!」

 

高らかに上げられる鳥の鳴き声、それとともに巻き上げられて行く美しい真紅の炎が翔纏を包み込んでいく。その炎の奥でその身体を炎に染めあげていく。権威の象徴ともされるタカヘッドは顔を覆うようなバイザーが展開されたタカヘッド・ブレイブへと変化しその奥にて鋭い瞳が輝く。真紅に染め上げられた肉体は神秘的で息を呑む美しさを纏う、そして最も特徴的なのが胸部のオーラングサークル。本来はそれぞれの動物が模られる筈だが、三つを合わせたそれは不死鳥を思わせるものとなった。これこそが翔纏が最高の姿だと言わしめる形態、タジャドルコンボ。

 

「これがっ……最高の姿、確かにこりゃ凄い……ああっだからこそ俺も全力で応える!!」

 

眼前のタジャドルの美しさ、真紅の炎の奥から姿を現す翔纏は虹色の光を放つかのように輝く。それだけではなく強い力を感じる、それを目の当たりにしても尚焦凍が感じるのは唯々高揚感のみでありそれに突き動かれて最大級の氷の津波とその氷の中から突き出す氷の槍を放つ。直後、タジャドルは背中から無数の翼、クジャクフェザーを展開した。

 

「ォォォッ……ハァァッ!!」

 

優雅に腕を広げるのと同調して翼も大きく広げられて行く、そして腕を突き出すのと同時に翼は一気に放出されていき迫りくる氷へと射出されていく。一つ一つがエネルギーを帯びており氷を容易く溶かし、砕きながらその奥の焦凍の周辺に炸裂する。

 

「ォォォォォッ!!」

 

タジャスピナーを構え走り込んでくる翔纏、それに対して地面からは氷の矢、左腕からは使用してこなかったが故に微調整が出来ないので火力重視の火炎を放射する。氷の矢へと向けて火炎弾を放ち迎撃しつつも炎については全く意に返さない、全く意味がないと言わんばかりに炎を突っ切る姿に焦凍は笑みを強めながらその手に氷の剣を作り出して握りしめながらタジャスピナーでの打撃を受け止める。が、氷の剣は直ぐに溶け始めるが直ぐに再生を開始する。

 

「溶けるなら凍らせる、常に冷やし続ける!!」

「ならっ更に溶かす!!」

 

連打連打連打、連斬連斬連斬。無数にぶつかり合い続ける攻め手と攻め手。翔纏がタジャスピナーにエネルギーを集める事で高熱を帯びさせたまま殴り付けて溶かす、溶かされれば焦凍はその刃を更に凍らせて更に歪な刃を形成して斬り付ける、そして冷やし続ける焦凍の身体も冷えるがそれを炎の熱で相殺する事で身体機能の低下を防ぎ続けている。

 

「フッハァァッ!!」

「ぉぉぉ!!」

 

 

「思ってた以上に凄いわねぇ焦凍君、炎の方は扱ってこなかったから精密さはないけどそれを踏まえた使い方でカバーしてる」

「翔纏のコンボもまさかあそこまでなんてなぁ……」

「ええっそう思う―――ねぇっエンデヴァーさん」

 

近くに居るエンデヴァーへと思わせぶりな視線を投げかけてやる、そこには漸く念願が叶ったと言ってもいい筈の男が表情を曇らせている姿がある。頑なに自分の炎を使わないと決意していた息子が漸く下らない子供のような反抗を止めたのに、その表情は暗い。

 

「おおっ咄嗟に地面からの氷柱……見事に顎に決めた」

「でも翔ちゃんも読んでたのかジャンプしてダメージを最小限に……あらあらあらっ二人とも楽しそうにしちゃって」

 

微笑ましそうな顔をする幻、その瞳の先にあるのは雄英体育祭の最終種目としてはあまり見られない類の笑み。友人同士で本気で楽しんでいる顔に母親としては喜ばしい限り、互いの打つ手は知っている、例えそれが知らない姿(コンボ)だろうと察しは付く。だがその速度は自分の予想を上回っておりそれに驚嘆し笑顔する、翔纏は知っている筈の攻撃を激しい攻防の隙間に差し込めるほどに練度をこの戦いで上げた焦凍を称賛する。互いに互いをリスペクトしあっている。

 

「焦凍っお前……何だその顔は、俺は知らんぞそんな顔はっ……!!」

 

息子の成長を喜ぶよりも、大人への階段を昇った事を認めるよりも先にエンデヴァーは動揺し悔しがった。自分の知らない息子の表情を、それを引き出す存在である翔纏に悔しがった。如何して自分はあの笑顔を引き出せないのか。

 

「親として子供にしてあげるような事をしてないだけでは?」

 

全く以てその通りだ、唯自分の目的を継がせる為の最高傑作と呼ぶ訓練を強要し続けてきた自分は笑顔を与えるような事などしていないのだから当然だ。分かっている、自分は笑顔など望まぬし目的以外は興味ない……そう思っている筈なのに、どうしてこうも―――あの笑顔で胸を締め付けられるのか……。

 

「翔ちゃんってば親友が出来てあんなに嬉しそうにしちゃって……コンボだって身体に負担掛かるのにあそこまで」

「ちょっと過保護すぎたかなぁ……いやでも可愛い息子を可愛いと思って何が悪い」

「ええっその通り♪」

 

自分の対極にいると言ってもいい獣王夫婦の言葉が胸に刺さってくる。何を間違えたのか、自分のオールマイトを超えたいという思いが間違っているとでも言うのか、自分では叶えられぬ夢を子供に託すことの何が悪い、その為に策を弄する事の何が悪いのか。翔纏の相手に冬美を押すのもその一環だ、あの個性は正しく汎用性の塊、あの個性を取り入れたい。

 

「一つ言っておくわよエンデヴァー、翔ちゃんの個性は決して羨まれる物じゃない。私達は―――いっその事、翔ちゃんが無個性なら良かったって何度も思ったわ」

「何だと……?」

 

エンデヴァーからすれば信じられない言葉に思わず声を荒げた。あそこまで完璧な個性を何故望まない、何故無い方がいいと言うのか。

 

「褒めるべきは個性なんかじゃねぇんだよ、翔纏の欲望だ。あれが運命を変えた、正しく奇跡の力だ」

 

その言葉と共に翔纏が空へと舞った、背中から出現させた6つの翼(クジャクウィング)を羽ばたかせながら大空へと舞い上がった。そして腰のオースキャナーを取る姿を見た時に二人は静かに告げる。

 

「次で決まるわね」

「最後の激突だ」

 

 

天高く舞い上がった翔纏を見上げながら焦凍は感じ取った、次の一撃が雌雄を決する事になる。ならば取る手段は一つしかない、もう自分の中では勝敗なんて如何でも良くてあるのは唯全力でぶつかり合う事しかない。その果ては感情は無くその経過にしか興味がない、手段の為ならば目的など投げ捨てられるという心境にある彼はフィールド全体を氷で包み込んだ。

 

『轟ぃ此処でバトルフィールドを氷で包み込んだ!!宛らスケートリンクみたいに真っ平な場が整ったがどうするつもりだ!!?』

「スゥ……ハァッ……お前が呼んでるんだ、もう考えてる暇なんてないよなぁ!!」

 

そのまま氷の上を滑り始める、フィールドを限界まで使いながら回り出した焦凍に観客は何をするのかと声を上げるが途端に焦凍が加速する。身体を半身にしながらも左半身から炎を放出してそれを推進力にしてどんどん速度を上げて行く。身体を傾けてフィールドを駆け巡る、その姿を見る翔纏は笑いながらメダルをスキャンする。

 

スキャニングチャージ!!

 

「ォォォッ!!」

 

バク転するかのように宙返りしながらも能力が解放されていく、クジャクウィングは更に大きくなりながらも金色の光を帯び始める、そしてコンドルレッグは膝から先が猛禽類を思わせるような強靭な物へと変貌する、だがその足先は嘴にも爪にも思えるような形へとなった。そしてそのまま一気に落下するように降下していくと大気との摩擦で炎が生じて両脚が爆炎を纏う。

 

「行くぞぉっ翔纏ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

焦凍が叫ぶ。十二分に速度は付いた、直後に凍て付いた大地が変化してまるでコースのように変形していく。それの上を疾走する焦凍、そしてコースの終着点は天へと向けられたカタパルト。更に炎を噴射して速度を限界突破させて自らも空へと飛び出していく。そして膨大な冷気と炎をそれぞれの脚に纏わせると翔纏へと向けて放つ。

 

「ハァァァァァァァッッ!!!」

「オオオオォォォォッッ!!!ダアアアァァァァァァァァ!!!!」

 

翔纏の真紅の爆炎を纏った必殺の一撃、焦凍の灼熱と極寒を纏った一撃が空中で激突する。何方も一歩も引く事も無く更に力を強め続けて行く、周囲へと拡散する膨大な衝撃波と風圧はプロですら言葉を失う程。その中央部に座する二人は絶叫を上げながらもぶつかり続けて行く。

 

「まだまだっ俺はこんなもんじゃねええええ!!!」

 

更に焦凍は炎を放出する、下から更に押し上げていく。空から迫る翔纏に対抗するにはそれしかない、体勢が崩れそうになるのを必死に堪えながらも続けるそれに遂に翔纏も圧され始めようとしたその時だった。

 

「ォォォォォォオオオオオオッッッセイヤァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

 

翼をはためかせその場で一気に回転し始めた、空気の渦が爆炎へと吸い込まれていき更に炎が勢いを得て燃え上がっていく。それは焦凍の炎さえ飲み込みながら遂に極寒の蹴りを押し込んだ。そして―――全てが込められた一撃を真正面から撃ち破りながら焦凍を捉えながらそのままバトルフィールドへと落下した。

 

「―――凄かったぜ焦凍、流石だな親友」

「―――有難う翔纏……そっちも流石だ親友」

 

凍て付いた大地に倒れこんだ焦凍の傍に立つ翔纏、その光景に主審ミッドナイトは全てを察した。そして―――誰もが待っていた声を上げた。

 

「轟君戦闘不能!!!獣王君の勝ち!!!!」

 

戦いの終わりの声と共に上がる鬨の声、だがそれは翔纏の勝利を祝うものではなく焦凍の健闘を称えた物でもあった。この勝負における本当の勝者は両者なのだから。それらを浴びる二人、何処までも満足気な顔を浮かべながら立ちあがると―――握手を結んだ。




超音速飛行:タジャドルコンボの固有能力。他のコンボの固有能力と比較すると見劣りするかもしれないが、この飛翔能力を生かした高い機動力と豊富な武装を活用した距離を問わないヒット&アウェイ戦法がタジャドルコンボの真骨頂と言える。

過去のオーズ、800年前のオーズはこの能力を使用して、攻撃が届かない遥か上空から攻撃を仕掛けて敵を焼き尽くし、村1つを焼き払って滅ぼすと言った事を行った。


うんっ―――やっぱりタジャドルコンボが一番好きです。寧ろこのコンボが嫌いな人はいないだろうと思う。オーズ最終回のロストブレイズは神。

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