欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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次の欲望。

「大丈夫か焦凍ってやった俺が言える台詞じゃねぇよな……」

「いや大丈夫だ」

「全然大丈夫じゃないさね」

 

激闘の末に勝利を勝ち取った翔纏は焦凍を自らの手で医務室へと連れて行った、全力を出し尽くした者としての礼儀と感じての行いに拍手の喝采を浴びながらも到達した医務室でリカバリーガールの治療を受けるのだが……焦凍はかなり深いダメージを受けており、大丈夫だと答える焦凍のそれは強がりにしか聞こえないとリカバリーガールは素直になれと口を酸っぱくする。

 

「やれやれっ……お前さん個性の限界を突破し続けたみたいだね、左半身が火傷しちまってる。自分の個性で自分を焼いちまったんだ、そっちは治癒させてやれば直ぐに治るけど問題はこっちだね」

 

そう言いながら露わになっている焦凍の胸元を軽く触る。本当に軽く触れただけ、羽毛が乗ったかのような強さだったのに身体を大きく揺らすように反応してしまっている、そこにはまるで抉られたかのような傷跡が残ってしまっていた。治癒を施してやるが……完全に治癒はせずに傷跡は胸の中央に残り続けている。

 

「これは幾ら治癒させても残り続けるね、最後の激突で抉られちまったようだよ」

「そうですか、良かった」

「何が良いもんかい!!傷跡が残って良い事なんて一つもないよ」

「俺にとっては良い事です」

 

憤慨するリカバリーガールの言葉を捻じ伏せるようにしながら焦凍は治癒して貰った事で消えなかった傷跡を触りながら笑った。

 

「これは俺にとっては始まり……これがある限り俺は今日を忘れない、今日の気持ちと一緒に歩ける」

「やれやれまるで恋する乙女みたいな顔してるよお前さん」

「俺が……確かに俺が女だったら翔纏に惚れてたと思う」

 

らしくない台詞に思わず翔纏は目を丸くした、そんな言葉を言いつつも翔纏を見る。

 

「ああっ絶対に惚れるな」

「光栄だね」

 

そんな笑みを作っていたのかと自分でも驚くが、何となく理解できてしまう。翔纏には何となくだが惹かれてしまう魅力がある、それもきっとトップヒーローには必要不可欠な素質なのだろう。

 

「しかしアンタも随分と無茶をしたもんさね、アンタのコンボって奴は随分と身体に負担を掛けるんだろう?」

「ええ、焦凍に協力して貰って慣れたつもりですけど……割と今疲れてます。流石にサゴーゾにタジャドルはやり過ぎた……」

 

倒れこむような音を立てながら椅子に座り込んでしまう翔纏。流石にコンボ使用直後に倒れこむような事はなくなったがそれでも身体に掛かる負担は消える事はない、後はこの負担とどうやって付き合って行きながらコンボの運用を考えるのかがネックになる。

 

「やれやれっベッド使っていいから横になってもいいよ、次の試合前位になったら起こしてあげるよ」

「すんませんっ……実はちょっと辛かったので……」

 

ヨロヨロと立ち上がってベッドへと向かった翔纏だが、手を置いた瞬間に崩れ落ちるかのように突っ伏してしまった。焦凍は慌てて駆け寄るが静かに寝息を立てているのを聞いて少しホッとしつつ寝かせてやる。

 

「あんだけ凄い戦いをしたって言うのに寝顔だけは子供だねぇ……」

「すいませんリカバリーガール、翔纏をお願いしてもいいですか」

「そりゃ構わないけど、お前さんも休まないといけないんだけどね」

「いえ俺は―――翔纏のご両親の相手をしてきます、外にいるみたいですし」

「ああっ……頼むよ」

 

外に出てみると案の定、猛と幻がスタンバイしていた。声を上げて抱き着こうとするのだが、寸前で焦凍である事に気付いて急ブレーキをかける二人。

 

「っとぉっ!!?ごめんなさい焦凍君、あの翔ちゃんはまだ中かしら?」

「翔纏なら寝てます、コンボの連続使用で疲れたからって」

「そ、そんなに疲れてるのか……!?ああもうだからコンボは駄目だってあれほど……!!」

「えとえっとこんな時にすべきことは……そうよっ疲労回復効果のあるドリンクとか軽食の確保じゃないかしら!?」

「それだっ!!!」

「いや、静かに寝かせてやってください」

 

焦凍でも分かる程に獣王家の愛は大きい、まあ子供の為にこれ程までに動こうとするのはかなりの美徳であるだろうし少しばかり羨ましいとさえ思える。

 

「そうそうっ焦凍君も本当に凄かったわよ、おばさんったら年甲斐も無くはしゃいじゃったわよ」

「おじさんも激しく同意」

「有難う御座います、だけど俺をあそこまで引っ張っていってくれたのは翔纏です」

 

そんな風に息子を褒められる二人は嬉しく思う、初めて出来た友達に此処まで思われる翔纏は本当に幸せ物だろう。これからも翔纏と仲良くして欲しい者だと思わざるを得ない。

 

「それに俺……馬鹿な事思ってたのを正して貰いましたし」

「馬鹿な事?」

「俺も初めての親友って言うか友達で……翔纏が他の奴と話してて一緒に特訓しようと誘ってるのを聞いてすげぇ嫉妬したっていうか……もう誘って貰えないんじゃないかって勝手に不安になって……」

 

それを聞いて二人は納得した、寧ろある意味正常な反応かもしれない。自分にとって初めて且つ唯一と言っても友達が自分の知らない所で他の友達を作って自分との時間を無くそうとしている……と思って不安になるのは致し方ないだろう。

 

「大丈夫よ翔ちゃんが焦凍君を誘わないなんてありえないわよ、だって私の子供だもん」

「そうそうっ優しいあの子が君を一人にするなんてありえないさ。なんだったら君も翔纏と一緒に新しい友達を作ればいい」

「―――そうか、友達を作ればいいのか」

 

心の何処かで翔纏が友達ならば他はいらないような思考を持っていたのか、その言葉は不意打ちに近い何かだったが酷く納得できた。他に友達……誰となればいいんだろうかと考えを巡らせていると此方へと迫ってくる足音が聞こえて来た。それは燃え滾るような音を伴っていたので直ぐに誰かは分かった、エンデヴァーだ。

 

「何だ、負けた俺に対して嫌味でも言いに来たのか」

「焦凍……お前は何故笑っていた。あの死闘の中で何故笑っていた、何故敗北して笑う」

 

思わぬ言葉、何故笑っていたのかを問うエンデヴァーに焦凍は首を傾げる。何故そんな事を聞くのか、訳が分からないが理由を述べる。

 

「俺にとってもう勝つとか負けるとか如何でも良かったんだよ。唯翔纏との力比べが楽しかった」

「楽しかった、だと……ふざけるな真面目に答えろ焦凍!!」

「真面目に答えてる」

 

エンデヴァーからすれば理解出来ない、敗北によって得られるのは楽しさなどではなく屈辱や自らの実力不足による敗北感。オールマイトの背中を追い続けたが故に焦凍の感情を理解出来ない、しかし真面目に答えている焦凍に困惑している。

 

「お前が望んでる通りにこれからは炎も使う、それでお前は満足なんだろ。すいません俺はこれで失礼します」

「ああっそれじゃあね」

「今度はウチにいらっしゃいな、歓迎するから」

「はいっそれじゃあ」

 

自分ではなく翔纏の両親(猛と幻)へと頭を下げた息子(焦凍)、隣を抜けて去っていく姿は何処か大きくなっているが遥か遠くにいるような感じがした。自分の中にある焦凍ではない今の息子、そんな息子へと変えた翔纏へとエンデヴァーはやりきれない怒りを抱いてしまった。




コンボに大分身体は慣れた、でも疲れる物は疲れる。

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