欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の意味。

急激に姿を変化させた翔纏。個性は言うなれば異形型に属するがそれは単純な個性発動ではない、何故ならば異形型の多くは生まれた時から常に個性が発動しているが、翔纏のそれは意図的に発動させてから起動する。それを鋭い視線で見つめる相澤、ある意味彼がこのクラスで最も厳しく見ているのが翔纏。ソフトボールをその手に握り込みながら振り被る―――のだが同時の脚に緑色の閃光が走っていた。

 

「フッ―――!!」

 

曲げられた脚に蓄積されていく力が解き放たれた時に爆風染みた衝撃波と共に翔纏の姿は掻き消えてしまった。

 

「えっえっ!!?ど、何処に行ったん!?」

「あいつ何処に行ったんだよ!?」

「皆さん上です!!」

 

突然消えてしまった翔纏を皆が目を凝らす中、一つの声が視線を空へと集めた。そこには50メートルを超える程の高さにまで跳躍していた翔纏の姿があった、たった一度の跳躍で小さく見えてしまう程の高さまで飛び跳ねたのである。その光景に相澤も少しばかり驚きながらも個性から考えれば当然かもしれないと冷静にそれを見続けていた。

 

「個性から考えれば当然か……バッタの面目躍如って所か」

 

「セイヤァァァァァッッ!!!」

 

そして響き渡る雄叫び、それと共に放たれていくボールは流星のように空気を切り裂きながら空を駆けていく。そして翔纏はそのまま重力に引かれるように落下して見事に着地した。とんでもない跳躍力に周囲から視線を集めるがそれにはピースサインを返していくと相澤が手元の端末を見せながら言った。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」

 

そこにあったのは翔纏が投げたボールの飛距離、彼自身の筋力によって投げられた距離は54メートルだったのにも拘らず個性を使用した末の結果はなんと1764メートル、1.764キロである。跳躍して高度を稼ぎながらぶん投げるという手段を取ったからこそ出せる記録だが、クラスの皆は興奮で満ち溢れていた。何故ならば今日まで彼らは学校などで個性などを使用して記録を作る事が出来なかったから、故に目の前でそれが出来ると証明されたので高揚している。

 

「何これすっごい面白そうぉ!!」

「いきなりキロ越えとかマジかよおい!?というかどういう個性だよ!?」

「個性思いっきり使えるんだっ流石ヒーロー科!!」

 

高揚と興奮が同時に押し寄せてきている、これまで抑え込んできた不満もあるだろうが最高の場で自分の実力を知れるという嬉しさもある事だろう。故に皆のテンションが上がり続けている時にそれに冷や水が掛けられる。

 

「……面白そうか。ヒーローになるための三年間、君らはそんな腹積もりで過ごすつもりでいるのか。ならこのテストで最下位だった生徒は除籍する」

『ええええええっっっ!!?』

「改めて言おう、ようこそ雄英へ。此処はヒーローを目指す最高峰、並大抵の覚悟や才覚では淘汰される世界へ―――さあ嫌なら死ぬ気で結果を出せ」

 

明確な脅し、入学初日に除籍されるなんて絶対に嫌だと皆が思う。あの憧れの雄英に入ってヒーローになる為の第一歩を踏み出そうとしたのに、踏み出す前に淘汰されるなんて……それだけは絶対に避けなければと皆が気合を入れ直す、それは翔纏も同じく。次に行われるテストにも気合を入れる。

 

 

最初の種目は50m走。翔纏は走る前に一瞬、ベルトの左側にある箱(オーメダルネスト)に触れるのだが考えていた事を打ち切ってそのまま走る事にした。人数も20人いるが、それぞれの個性の最大に活かす為にか一人ずつ走らされる事になった事は幸運だった。何故ならば―――

 

「ハァッ!!」

 

ハンドボール投げと同じように地面を一気に蹴る事でスタートダッシュを決めながらそのまま疾走した。その時の衝撃は隣で誰かを一緒に走る物の妨害にもなってしまうから、そして見事なスタートダッシュと共に駆け抜けて行った結果その記録は3秒ジャスト。

 

「凄いじゃないか!!俺は走りには自信があったのだが、クッ俺もまだまだという事か……!!」

 

自分が自身があった分野で負けたのにも拘らず爽やかな笑みで此方を称賛してくる飯田に思わず好感を抱く、こんな風に気持ちいい人物になれた良いなぁと自分でも思う。そして続くのは握力の測定、だがその時に翔纏はある事を決意しながらベルトからトラメダルを抜いて新たなメダルを手に取って中央部に入れた。

 

「何をしているんだ獣王君?」

「まあ見てて、俺の個性って結構凄い自信あるからさ」

 

と語る翔纏の口ぶりに注目が集まった、そしてその中心部で翔纏は改めてオースキャナーでメダルを読み込んだ。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

ゴリラ!

バッタ!

 

 

個性発動時のような光に包まれるが、次の瞬間には翔纏の腕部が全く違うものへと変貌していた。黄色の虎の腕などではなく灰色に輝く巨大なガントレットを装着している、胸に打ち据えるようにしながらも重低音を響かせる姿はまるでゴリラのドラミングを思わせる。

 

「姿が変わった!?いや腕だけが別の動物に変わったのか!?」

「凄い凄いどんな仕組みになってんの!?それアイテムの力なの!?それともあれっ個性の力なの!?」

「ケロッ是非知りたいわ」

 

注目と好奇心を一気に受ける翔纏、初めての経験に近いそれに少しばかりに気分が良くなるのを感じつつも相澤の方をちらりと見ると小さく頷いていたので話すぐらいならば許可するという事なのだろう。許可も得られたので少々時間を頂戴して話をさせて貰う事にした。

 

「まあ俺の個性といえば個性だけど、このドライバーとメダルがあるからこそこれだけの力を引き出せるんだ」

「つまるところどういう個性なの?!見た所だとタカ、トラ、バッタって言う全く違う動物の力を使えてるし今度はゴリラ……どれだけの動物の力を使えるのか!?」

 

と緑髪の少年こと緑谷は酷く興味津々と言わんばかりに早口になりながらもやや問い詰めるような勢いで迫ってきた。だが内容自体は皆が気になっている事なので特に気にされずにそれに同調するように話話して欲しいと言わんばかりの空気に満ちていた。

 

「俺は個性が強すぎてそのまま使おうとすると身体が持たないからアイテムで制御しているんだ」

「えっじゃあ動物自体は獣王君の個性って事なの!?」

「ああそうだよ、でも余りにも動物の力が入り乱れてるから……そのまま使えないんだ、使おうとしたら命が危ないから」

 

そう語る翔纏の声色は酷く軽くそこまでの危機感は感じない、それは本当なのかと問われてしまうのも致し方ない。

 

「それじゃあそのメダルとドライバー無しで個性を使おうとしたらどうなっちゃうのかしら?」

「えっとそうだね……昔個性が暴発した時は……」

『した時は?』

「まず尋常じゃない量の吐血をしたね」

 

その言葉で思わず思わず全員が真顔になった、それは相澤も同じであった。個性制御には必要という事は知っていたが、具体的にそれなしで使った場合どうなるかは把握していなかった。それを知る為にも聞き耳を立てていたが……話された内容は予想を超えていた。

 

「それでもう激痛と一緒に身体が壊れて行った」

「うわっ……」

「それで壊れた部分から動物の組織が俺の身体を突き破ってきた。鷹の翼やらゴリラの腕やらバッタの足に虎の爪とか……色んな物が壊れた部分から次々と」

『もういいから!!?』

 

想像以上にとんでもない事を聞いてしまったと言わんばかりの顔になってしまう一同。個性の中には害になってしまう事があるが、翔纏の場合はそれが余りにも顕著だった。個性に耐えられるような身体を作ろうして少しずつ鍛えようとしたら起きてしまった個性の暴発、その時に自分はこの世の生き物とは思えないほど混沌としたキメラになっていたと聞いている。

 

「そ、それは大変ね……でもそれがあれば制御できるの?」

「うん出来るよ。メダルは俺が宿してる動物と同じなんだけど、このメダルで身体に発現させる動物を固定化させてるんだ。加えて負担の分散と安定した制御の為に発現個所を頭、腕、脚に限定する事で個性を制御してるんだ」

 

これこそが翔纏の個性、そして手に入れた欲望の実態。だが翔纏は今のこれに不満を覚えた事などはない、満足した上で新たな欲望を手にしている。そしてこれからも―――欲望を力に変え続けて行く。


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