欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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体験希望の欲望

ヒーローネームも決定した一同、そこからは彼らの問題へと切り替わっていく。指名を受けた物は指名先から自分が行く職場体験先を決めて相澤に申し込んでおく必要がある。複数の指名がある場合はその選定に急がなければならない、何せその受付期限は二日後なのだから。指名がない者は事前に雄英が受け入れ可能なヒーロー事務所から選んでそこを申し込む運びになる。しかし、多くの指名を受けている者はある意味で地獄を見る羽目になる。

 

「翔纏、お前体験先は如何するんだ」

「ああっウチの事務所」

「やっぱりか」

 

と言いたい所なのだが翔纏の場合は既に決まっている。前々から職場体験では指名を出すから来てねっという話を散々されていたのでそこに行く事にしている。

 

「やっぱり獣王はビーストヒーロー事務所なんだな」

「まあね、来なかったら全力で泣くからって言われたら行くしかないから、主に姉さんと母さんが」

「だろうな」

 

焦凍はそれを聞いて確かに泣くだろうなぁと思いながら昼食の蕎麦を啜る。姉の愛水も幻もそうだが、獣王一族は基本的に翔纏も溺愛している。なので言葉に出していないが、実際はそこには従姉妹も含まれているのだろう。

 

「それで焦凍は如何するんだ、来てるんだろエンデヴァーの事務所から」

「ああっ来てる」

 

大盛の辛口タジンカレーを涼しい顔で食べる翔纏、翔纏がビーストヒーロー事務所へと行く事は決めているが代わりに親友は如何するのだろうかと思っていた。そして案の定来ていたエンデヴァーの指名。それを受けるかどうか焦凍はやや悩んでいるとの事。

 

「俺は正直あいつを許す気はない、ヒーローとしてのあいつを見るのは俺の炎にも応用出来るかもしれないからありだと思ってる」

「でも正直な所その気ではないと」

「ああ、癪に障る」

 

お母さんとは和解してこれからもちょくちょく顔を見せる事を決めているが、矢張りエンデヴァーとは全く進展していないのは致し方ないのかもしれない。それだけ根が深いのだから簡単に解決する訳もない。

 

「俺もビーストヒーロー事務所から指名が来てる、そっち行ってもいいか」

「あれそっちにも出してたんだ」

「ああっ来てた」

 

そう言いながら持ってきたのか指名先が載っている紙を見せてくる、そこには確かにビーストヒーロー事務所の名前が刻まれている。別に同じ所を生徒が複数指名しても事務所側が受け入れの姿勢を見せれば問題なく職場体験は実施される、なので焦凍が此方を希望すれば問題はないだろう。

 

「俺は構わないよ、来てくれたら嬉しいし」

「そうか……でもそれだけで決めるのは……拙いかもな」

 

今回の物は自分の未来に直結する可能性が高い、それを親友の家の事務所に行くという理由だけで決めてしまうのはまずい。

 

「翔纏、炎を使うヒーローっているか?」

「俺の兄さんがいるよ」

「じゃあ行く」

「あらやだ即決したわ」

 

という訳で焦凍もビーストヒーロー事務所へと行く事に決めて、放課後には希望票を相澤へと出しに行くのだった。

 

「おっと、悪い飯田」

「いやっ此方こそ済まない」

 

途中、飯田とすれ違いになりながらも提出すると相澤はそれを見て一度此方を見た。

 

「同じ事務所か……友達同士仲良くって訳じゃないだろうな」

「まあ親友同士って言うのはありますけど、焦凍が選んだのは別の理由みたいです」

「言ってみろ」

「決め手はエリアルヒーロー・アンクです」

 

翔纏の兄の鳥命、エリアルビースト・ヒーロー・アンク。鳥の個性を持ちそれらを操るだけではなく、炎を操る事でも知られている。それ故か単純な鳥の個性ではなく不死鳥や朱雀と例えられる事が多い。タジャドルもアンクを模している。

 

「炎をメインに据えるんじゃなくて炎を補助、サブとして使うヒーロー。今の俺にとってはまだ炎はサブが良い所ですから」

「成程な……今のお前としては理想的という訳か」

「はい、親父以外のヒーローの在り方も確りと見たいんです」

 

焦凍が決め手としたのはアンクの戦闘スタイルだけではない、多種多様なヒーロー社会を見たいというのもある。唯一つの物事を見るのではなく幅広い事がらを体験して前に進む糧にする目的がある。その意味では様々な動物の個性をその身に宿し、多様性と汎用性という意味ではずば抜けているビーストヒーロー事務所はうってつけの体験先。

 

「それに体育祭で翔纏との戦いでやった最後の技……あれを煮詰める為にも飛行出来るヒーローを参考にしたいんです」

「最後のあれか」

「氷と炎の同時攻撃……あれはタジャドルじゃなかったらやばかったね実際」

 

仮に相手に直撃した場合、炎の超高温と氷の超低温が相手に襲いかかる事になる。それによって例え防御したとしても、冷やして温める、温めて冷やすのループコンボで絶大な効果が見込める。

 

「そう言った意味での希望もあると……良いだろう、申請はしておく。帰っていいぞ」

 

その言葉を受け取ってから焦凍と共に帰路に付く事にする。

 

「だけどさぁっ……エンデヴァーになんか言われるんじゃない、大丈夫かな」

 

焦凍がビーストヒーロー事務所を希望するのは構わない、彼が決めた事なのだから口を出す事ではないのは分かるのだが……矢張り考えてしまうのはエンデヴァーからの干渉である。エンデヴァーからすれば焦凍は自分が求めた最高傑作、自分が望む道を走らせたいと思いその為に自分のヒーローとしての姿を見せ付けたいと考える筈。

 

「受理されればこっちのもんだ」

「結構図太いね……でもなんか絶対やって来るよ、取り敢えず焦凍に詰め寄るのは確実だと思われる」

 

それは焦凍も予想出来る事、あの男ならば確実に自分に詰め寄って来て直ぐにでも変更の手続きをしろだとか何故自分の事務所を選ばないのかとか言って来るに決まっている。だがそれはエンデヴァーの都合で自分の都合ではない、無視する事を既に決め込んでいる。

 

「取り敢えず……職場体験始まるまでウチに泊まる?」

「友達に家に泊まる……やってみたいがそれはそれであいつが翔纏の家に来て迷惑になるだけだと思う」

「根本的な解決じゃないからなぁ……う~ん……」

 

エンデヴァーがビーストヒーロー事務所に来る事に対して納得する事がベストなのだが、きっと簡単には認めないだろう。何とかならないだろうか……と頭を捻る。そして、翔纏に電流走る。

 

「あっそうだ良い事考えた!!」

「名案か」

「ああ多分これならいける、まあ母さんたち次第になるだろうけど―――ちょっと聞いてみる」

 

電話をかけ始める翔纏、少し待つと何やら騒がしくなってくる翔纏の携帯。そして直ぐ翔纏の声色は明るくなって最後には通話相手であろう人に愛してるという言葉と共に通話を切った。

 

「何とかなったよ焦凍!!」

「それで結局何をやったんだ?」

「ビーストヒーロー事務所とエンデヴァー事務所のチームアップ申請だよ」

 

それを聞いて焦凍も確かにその手があったか、という顔をする。何かしらの事件に対してチームを組む事にすればエンデヴァーも此方に顔を出す事になるのでエンデヴァーもきっと飲む事だろう。

 

「今保須市でのヒーロー殺し、それに関して出すって母さんが言ってた。それならきっとエンデヴァーも飲むだろうってさ」

「ヒーロー殺し……そう言えばニュースでインゲニウムが」

「俺も思ってた……飯田、大丈夫かな」

 

職員室を出る際にすれ違いになった飯田。その時に彼には珍しい短い言葉での謝罪、クソが付く程に真面目な彼は何かあってはかなり誠実な謝罪と態度を示すがあの時はかなり簡潔だった。そして何やら影を思わせる表情……そこから感じた欲望は―――濁っていた。そしてその欲望への嗅覚は、的を射ている事になってしまった。


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