欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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職場体験への欲望。

職場体験初日、A組の姿は雄英から最寄りの駅にあった。此処から各自の職場体験先へと出発していく。担任の相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。コスチュームを落とす間抜けなどいないとは思いたいが、盗まれる可能性もあるので確りと持っておくのに越した事は無い。

 

「んじゃ行くか焦凍」

「ああ」

 

此処から電車で一本の距離にあるので新幹線などを使用する他の皆と比べてもそこまで事務所は遠くない。早速電車へと乗り込んで事務所の最寄り駅へと向かう事にする。

 

「んでエンデヴァーは如何だった」

「喚いてたな、まあチームアップの話もあるから渋々感が強かったな」

「まあだろうなぁ……」

 

エンデヴァーがその事実を知ったのは先日、それまでは北海道に現れた凶悪ヴィランの捕縛の為のチームアップ要請に応えていたらしく焦凍が自分の事務所に来なかったについて戻って来て早々に怒鳴り込んできたとの事。

 

「詰め寄られたが―――逆にあいつの腕を凍らせてやった」

「気分は如何だった?」

「最高だったな」

 

怒鳴り込みながら自分の所に来なかったのかと迫ってくる親父の腕を掴んで逆に凍らせて、自分の意思を表示して黙らせたという焦凍。余りにも硬い意志と気迫にエンデヴァーは驚いていた顔を見て焦凍は心底気分が良かったとの事。

 

「まあ実際のチームアップは数日してからだし……それまではウチで鍛える事になるってさ」

「ああ分かった、それでお兄さんの許可は取れたのか」

「二つ返事でOK貰ったよ」

 

焦凍の目的でもあるヒーロー・アンクからの手解き、それを受けられるかどうかは当人の気分次第になるのだが……弟の頼みという事もあって二つ返事で了承を得る事が出来た。惜しむらくは弟の指導でなかった事だけが不満だったらしいが……その辺りは時間が空いたら自分も参加するという事で折り合いをつける事にした。

 

「おせぇぞ」

「いってぇっ!?えっ何でいるの!?」

 

改札を出てこれから向かおうとした時に頭を引っ叩かれた、顔を上げるとそこにはアイスを咥えながら若干苛ついている鳥命がそこにいた。迎えに来るなんて話は一切聞いていなかったので完全な不意打ち、というか約束もしていないのに遅いというのも理不尽。

 

「というかなんで兄さんが迎えに……一番そんなタイプじゃないくせに……」

「暇だっただけだ」

「あっそ……えっと焦凍、俺の兄さんでヒーロー・アンクだよ」

「お前か、俺の手ほどきを受けたいっていう奴は」

「っ……はい」

 

アイスを咥えながらだが酷く鋭利で冷たい眼光に一瞬呼吸を忘れそうになる。蛇に睨まれた蛙どころではない感覚を味わった焦凍、ジロジロと全身を一頻り見終えると鼻を鳴らしながら食べ終わったアイスの棒をゴミ箱へと投げ捨てる。

 

「悪くはないな、行くぞ」

「なんか悪い、兄さんが……」

「いや、あいつよりよっぽどいい」

 

一先ずは事務所に行かなければならないと車に乗り込む、そして15分ほど走らせると検問所のような物が見えて来た。そこへと向かうと鳥命は身分証を取り出して確認させるとゲートが開けられてその奥の広大な敷地へと入れるようになった。雄英にも負けず劣らずの広い敷地、その奥にある建物こそがビーストヒーロー事務所。

 

「此処が事務所の敷地……なのか」

「事務所の敷地というよりかは獣王一族の敷地だ、此処は事務所以外にも様々な物を兼ねてる」

 

車を止めながらも告げる鳥命。確かにここに事務所がある、が正確に言えば事務所がある敷地でしかない。他にも様々な物が存在している、というよりも此処で個性に関する事が成されていると言ってもいい。

 

「俺も個性の練習の為に此処には沢山来てたからね」

「そうなのか」

「ああ。動物関係の個性となると規模が大きくなりやすいんだよ、うちの一族なんてそれが特に顕著だよ」

 

改めて言われた焦凍は納得する。動物によってそれぞれ活躍しやすい場、鍛錬しやすい場、動き易い場が存在する。空、陸、水、簡単に分けても三つだが特性によっては更に分岐する。それに合わせた施設もあるので兎に角敷地は広く、その広いスペースを活用した環境が整備されている。

 

「そして同時に此処なら様々な環境に対する備えも出来る、焦凍的にはこれはプラスでしょ」

「確かにな……」

「その気があるのは良い事だが、先ずは事務所の連中への挨拶だ」

 

連れられて入った事務所の中では事務員や所属しているヒーロー達が慌ただしく動いている、連絡を受けて出動するヒーローや事件を解決して報告の為に戻ってきたなど様々。それを目の当たりにした焦凍は改めてみるヒーローの忙しさを興味深そうに見ている。

 

「思った以上に人がいるんだな」

「基本的に中核は獣王一族だけどね、流石にサイドキックとかは違うよ。何人ぐらいいるんだっけ」

「知らん」

「でしょうね、兄さんならそうだよね」

 

そんな風に呆れていると翔纏は唐突に背後から抱き着かれた。何事かと思ったが焦るほどでもなかった、何故ならば―――

 

「いらっしゃい翔ちゃん~♪」

 

この事務所にいる人達とは顔見知りどころか家族なのだから。

 

「あらっ焦凍君もいらっしゃい、っていけないわね、ヒーローネームで呼ばないといけないのよね」

「俺はオーズ」

「俺はショートです、まだ決めてませんから」

「了解したわそれじゃあ早速―――職場体験と参りましょうか!!」

 

いよいよ開始される事となる職場体験、これから一体どんな事が待っているのか。不安と期待が入り乱れる中で―――一つの影が動こうとしていた。

 

『君の欲望を加速させる事としましょう―――良き終末を迎える為に』


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