欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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予想外の欲求。

「保須行きが決まったぞ、俺とウヴァ、メズールが同伴する。本当なら俺一人で十分だが……」

「そりゃまた……随分な戦力を向けるんだね。大袈裟すぎる気もするけど」

 

食事を取っている最中にデザートのアイスを頬張りながらアンクとして立っている兄がそう告げる、焦凍がこの事務所に来る条件でもあるエンデヴァー事務所とのチームアップ、それを果たす為に保須入りをする日取りが決定した。自分達は保須入りするプロヒーローについていく事になるのだが……そのメンバーはアンク、ウヴァ、メズールの3名。かなりの大戦力に翔纏は驚かずにはいられない。

 

「でもどうして三人?」

「単純な話だ、ヒーロー殺しを確実に捕る為だ」

 

他の者は出張などで既に空けてしまっている、今動けるプロヒーローの中で実力が高いのは単純にこの三人になり、それを差し向けるにも理由が存在する。保須市で今多くのヒーローの関心を集めるその根源……それがヒーロー殺し、ヴィランネーム・ステイン。これまでに17人を殺害、23人を再起不能に追い込んでいる凶悪ヴィラン。

 

「チャンスがあれば確実に仕留める、その為には相応の戦力がいる」

「まあ確かに……ある意味適任かも」

 

最大戦力の三人を纏めて投入するのもかなり思い切っている、この場合逆に翔纏と焦凍が邪魔になりそうな気もするのだがこの二人の場合は能力がサイドキックを上回っているので問題はない。というよりもステインを狩るというよりもステインから確実に守る為に出張ると言った方が正しいのかもしれない。

 

「……」

「焦凍今から気張るなって」

「……分かってる、悪い」

 

ついつい力を込めて手を握り込んでしまっている焦凍、保須市に入ればそこではエンデヴァー事務所とのチームアップがまっている。それだけが焦凍にとっては嫌な出来事だったが、ビーストヒーロー事務所での日々の代償という事ならば飲み込んでやると我慢するつもり。

 

「こう思ったら如何よ、自分は此処まで強くなったって」

「そりゃアリだな。お前はエンデヴァーが気に居られねぇ、だったらそのエンデヴァーを自分の積んだ努力で否定してやれ。やりてぇようにやっちまうのが一番だ」

「―――それ良いな、天才か」

 

二人の意見を聞いて前向きに思考を切り替える。確かにエンデヴァーと顔を合わせる事になってチームアップに託けて自分の鍛錬をしようと思ったりするのではという予想は出来る、ならばそれを裏切ってやればいいだけの事。自分のやりたいようにやるのが一番、そうだと思いながらも保須市入りへの気持ちを固めていく。そして―――遂にビーストヒーロー事務所は保須市入りを果たした。

 

「待っていたぞ、焦凍」

 

合流場所のビルの一室、そこに待機していた№2ヒーローのエンデヴァー。彼の事務所からは彼だけ、他のサイドキックなどはついてこれないと判断したのか単身で乗り込んできた。だが矢張りというべきかその瞳は焦凍のみ見つめていて此方は一切気にされていない。

 

「俺の事務所ではない場所に行くとはな……そいつに誑かされおって」

『あ"ぁ″っ?』

「「あっやべっ」」

 

思わず翔纏と焦凍は二人揃って避難した、猛と幻については目の当たりにしているので理解しているが……まさか一族全体がそうなっている事を忘れていたのかもしれない。翔纏への言葉の刃に敏感に反応した三人は個性を発動させてヒーローとして活動する際の姿へと変貌した。

 

「おいっ口の利き方に気を付けろ」

「今此処で殺されるか」

「私達の前でそういう事を言うって事は―――そういう事よ」

 

その姿はどれも翔纏が見せたコンボと共通していた、それらこそがアンク、ウヴァ、メズールとしての真の姿とも言える。各部にそれぞれが宿す動物の特徴を現しその力を行使する。状況によって更に多くの動物を組み合わせる事で力を引き出す―――それが獣王一族のビーストヒーロー最大の特徴。

 

「兄さんたち落ち着いて、喧嘩に来た訳じゃないでしょ」

「邪魔するな、これは喧嘩じゃねぇ」

「そうだチームアップするに相応しいかどうかの査定をしたいだけだ……!!」

「ええそうよ……実力も人格も相応しくも無い奴と組む気なんてサラサラ無いわ……!!」

 

「いい加減にしないと獣王一族全員から総攻撃受けるぞ、皆翔纏の事を大切に思ってるんだからな」

「……らしいな、これは流石に予想外だが……済まなかったな翔纏君」

「いえ大丈夫です」

 

必死に兄と姉を食い止めている翔纏、そんな姿を見たエンデヴァーは胸の内にあった怒りよりも先に思った以上に苦労している事に気付いて素直に謝罪した。三人は謝罪が成されたので一先ず怒りを収める事にした。

 

「一先ずチームアップの理由は唯一つ、ヒーロー殺しの確保だ」

 

落ち着いたところで真剣な方向に話を持っていく事にした。一番の目的は矢張りヒーロー殺しの確保だが、保須市の安全の確保もヒーローとしては見逃す事が出来ない事柄でもある。特にここ最近は保須市に不安が充満するようになっており、些細なトラブルが絶えないようになってきている。

 

「その回復もヒーローの役目か……」

「そう言う事。ただヴィランを倒すだけじゃなくてそこに居る人達に安心感を与えるのも役目」

 

何処か艶めかしい手付きで頭を撫でてくる姉、人々の心の隙間を狙うヴィランが居るのであればヴィランを確保するのではなく、根本的な人々の心の隙間を埋めるのもヒーローとしての仕事の内。がっそんな時にエンデヴァーが語りかけた。

 

「ならば翔纏君、先ずはこのエンデヴァーと来い。№2の在り方を目に焼き付けるがいい」

「―――何っ」

 

思わず、焦凍も声を上げてしまった。てっきり自分に着いて来いと言って来ると思っていたがまさかの翔纏へと狙いが定められていた。一体何のつもりなのか……それに反発する兄達よりも先に翔纏は了承した。

 

「分かりました。それと俺のヒーローネームはオーズです」

「そうか。ならばオーズ、貴様がその名に相応しいかどうかをこのエンデヴァーが見極めてやる。エンデヴァーの名のもとに個性使用を許可する、俺と並んでみせろ」

「―――望む所」




―――ああっドクター、準備は良いかな?

『些か時間が掛かりましたが……完成はしました。不安定ではありますがね』

―――十分だ、さあ欲望を加速させよう。君が望む先へと導く為に。

『この飽和しきった世界を、究極へと導く為に―――獣王 翔纏、良き終末を』

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