欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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獄炎の欲望。

スキャニングチャージ!

 

「セイヤァァァァァッッッッ!!!」

 

発動されたスキャニングチャージ、それによって解放された能力をフル活用しながら跳び上がる。同時に展開されていくタトバコンボに使われているメダルに呼応する色のリング。それを潜り抜けながらも紅い光の翼を広げ加速、そして三つのリングを潜り抜けた先にいるヴィランへと全エネルギーを収束させた一撃、タトバキックを炸裂させた。

 

「グボバァッ!!」

 

痛烈な一打、それがヴィランネーム・ダーブリュを吹き飛ばした。空へと舞ったパンパンに詰まったバッグ、それは着地しながらもキャッチする。地面を抉るように吹き飛ばされてしまったダーブリュは意識を喪失したのか白目になって動かなくなった所を、地獄の炎を纏うエンデヴァーは確保する。

 

「確保した、よくやった―――オーズ」

「いえっこの位楽勝です」

 

保須市は今不安定になっている。その原因こそがヒーロー殺し・ステインなのだがその余波は他のヴィランの活性化にも繋がってしまっている。その対処を行ったのはパトロール中のエンデヴァーとその付き添いであったオーズこと、翔纏であった。エンデヴァーから常時個性発動許可を与えられてほぼサイドキックとしての扱いを受けている翔纏はエンデヴァーの炎を物ともせずに銀行強盗を行ったヴィランの確保の決定打を担った。

 

「オーズ、お前の動きは悪くはない。だがあの最後の必殺技……あれは不可欠か」

「残念ながら、出来なくも無いんですがそうすると個性が一気に不安定になってバランスを崩しちゃいますから」

「そうか。ならば致し方ないか」

 

ヴィランを警察に引き渡しパトロールを続行する。矢張りエンデヴァーは№2ヒーローとして名が轟いている、周囲から声が聞こえてくるがその威圧感からかサインを求めようと言う人もいない。それはオーズとなっている翔纏にも言えている、それについては翔纏はラッキー程度に思っている。

 

「オーズ今度はバイク強盗だ!!貴様が追い掛けろ!!」

「はいっ!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

トラ!

チーター!

 

「あっ兄貴なんか追いかけてきますぅ!!!」

「待てぇぇぇぇっっ!!!」

 

素早くチーターメダルへとチェンジして100キロを超えるバイクを追走していくオーズをエンデヴァーは見つめながらも、自分も別ルートで追い込みをかける。その最中にある事を考える。

 

「この位……楽勝か」

 

先程のヴィラン、タトバキックで仕留めたヴィランの個性はタングステン。金属としては最高レベルの耐熱性能を誇る個性、例えエンデヴァーの炎だろうがお構いなしに活動を可能とする個性。奪った現金の事も考えて炎は使わずにいた時にオーズに任せてみた。そしてオーズは―――

 

『セイヤァァァァァッッッッ!!!!』

 

そのタングステンの防御を破って撃破した。それだけの威力を見せ付けるオーズのタトバコンボ、それはコンボの中では一番弱い部類に入ると聞いた。その分負担が少ない上にバランスも良く使い勝手が良いと言われたがそれでも十分な力を発揮していた。

 

 

―――翔ちゃんが無個性なら良かったって何度も思ったわ。

 

―――褒めるべきは個性なんかじゃねぇんだよ。

 

 

「あれほどの個性をっ無い方が良かっただと……!?あり得ん、ふざけた事を抜かすな……あれこそ、俺が望む最高の個性の終着点の一つだ……!!」

 

唯々オールマイトを超える事だけを考えて鍛錬を続け、策を講じ、実践しその身に技術を蓄積し磨き続けて来た。だがそれでも足りない、自分の個性ではどうしても№1の頂を掴む事が出来ない、オールマイトを超える事が出来ない……。だからこそ望んだのだ、新たな可能性を、自分を超える個性を……!!

 

「捕まえました!!」

「手早いな」

「速さには自信ありますから!!ああでも道路すいませんでした……」

「大丈夫だよこの位」

 

強盗をしたヴィランを確保していたオーズの姿はまた変わっていた。腕の部分がウナギメダルへと変わっていてその鞭で確保した事が伺える。そして恐らくチーターレッグのスピードを殺す為にトラクローでブレーキングしたであろう道路に付いた跡を警察官に謝罪していた。警官からは直ぐに元に戻るから気にしないでと言われてホッと胸を撫で下ろした。

 

「凄まじいな、その個性」

「有難う御座います」

 

オーズはエンデヴァーと共に居ながら正直意外だと思った事が多かった、焦凍からの話の影響もあるだろうがイメージに反して指示は的確且つ判断も素早い。認めるべきモノは認める、それは自分にも適応されている。正直言って№2のヒーロー活動に同伴出来ている事はかなり自分の為になる。

 

「行くぞ次だ」

「はいっ!」

 

エンデヴァーのヒーロー方針は救助、撃退、避難というヒーローに求められる基本的な三項全てをこなす。活動する街を知り尽くし異音(ノイズ)を聞き逃さず、誰よりも速く駆けつけ、被害の拡大を防ぐ為に市民(やじ)を炎で遠ざける。それにオーズは既に適応していた。

 

「チィッ!!奴の個性に俺では水蒸気爆発を起こすか……オーズっ仕留めろ!!」

「はいっ!!」

 

スキャニングチャージ!

 

「セイッヤァァァァ!!!」

 

「(……素晴らしい個性だ)」

 

オーズの活躍を見る度にそう思う、エンデヴァーは基本的に個性を活用する事で高速移動を行っている。炎の推進力にて一時的に空を飛び滞空も可能とするが―――オーズはそれに追いつくどころか上回る速度を見せた事もある。先程のバイク強盗が良い証拠でもある、そして沸き上がる欲望―――この少年を、この個性を物にしなければいけない。

 

「確保ぉっ!!」

「よくやった、時間も良い頃か……飯にするか」

「あっもうお昼だったんですね」

「保須にはいい店がある、そこで奢ってやろう」

「いや財布ありますよ俺」

「年長者の言う事には従え」

 

最初こそ自分の焦凍を誑かした存在として見ていたが、矢張りこの少年は取り込むべきだと強く思う。以前、冬美から彼が遊びに来た時の話を聞いたが……娘も気に入っている節がある、ならば―――実る可能性はあるという物。

 

「ああっそうだ……それが今の俺の欲望、という奴だ……!!」

 

翔纏は欲望を大いに肯定する、ならば今の自分の欲望はどうだろうか。それが実るかどうかは自分次第だろうが……何、難しい物ではないと思いつつもエンデヴァーは遠くない未来、自分の血族にあの無数の動物の個性が刻まれる事を想像して口角を持ち上げるのであった。

 

 

「あの欲望には反応しませんね―――矢張り彼しかありえない」


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