「タイマン張らせて貰うぜ!!」
その言葉の直後にステインは凄まじい勢いで加速しながら斬りかかってきた。メダジャリバーとほぼ同じ長さの日本刀を振りかざして相手を切り裂かんとすると同時に真下からの蹴りを時間差をつけて放つ。日本刀での攻撃に目が取られるかのように時間差をつけたそれを―――オーズは受け切った。
「ホゥ……」
二択を選択させるような攻撃、斬撃を回避してもその回避の後隙を狙っての蹴りが襲う。防御しても動けなくなった所を蹴りで狙い打つ、そんな狙いはほぼ同時に防御する事を選択したオーズによって阻まれる。斬撃をメダジャリバーで受け止めながらも放った蹴りを脚で押し止めた。
「セイヤァッ!!」
一気に脚を振り上げて無理矢理に距離を作らせながらもメダジャリバーを振るうが、空中で回転しながらも
「ハァッ……判断も早く正確……お前もいいな」
「採点は良いようで何より!!」
声を張り上げながらも再度迫ってくるステインにオーズは身体を固くする。その時、頭上へと刀が放り投げられた。それに目がつられるが真正面からナイフが迫る、それをクローで弾くが直後にビルの外壁を蹴って頭上に回り込み、刀を取りながら背中へと斬りかかるステイン。囮の中に本命を隠された、重力に身を任せながら一気に降下し、突き刺そうとするステインに真っ向からメダジャリバーを―――。
「SMASH!!!」
「グッ!!」
「緑谷!!」
真上からの強襲を救ったのは動けない筈の緑谷だった。全身に光を纏いながらの鋭い一撃がステインの顔を抉る―――がそれを察知したかのように壁を蹴ってダメージを軽減させながらも再度壁キックを繰り返してオーズの正面へと立って、その背後の飯田を狙う。
「なんか普通に動けるようになった!!多分、ヒーロー殺しの個性は相手の血を経口摂取する事で発動する個性だ!!摂取した量、血液型、人数で時間が変わるんだと思う!!」
「正解だ……!!」
ステインの個性は凝血。血を舐めた相手の動きを最大で8分間奪う。血液型によって効果時間は異なり、O型<A型<AB型<B型の順で拘束できる時間が増えていくらしく、O型である緑谷は飯田や襲われていたヒーローよりも後に血を摂取されたのにも拘らず先に動けている。
「ステインっ!!何故お前はヒーローを襲う、何が目的だ!!」
「ハァッ……決まっている、ヒーローをあるべき姿へ戻す!!」
同時に飛び出したステイン、振るわれた刃を受け止めるが今までと違って明確な力押しになっていた。だがその力は尋常ではない、これが個性によって増幅されてない人間の筋力かと疑いたくなるほどの怪力。
「ヒーローとは称号だ、そうでなくてはならないっ……!!英雄は英雄になろうと思った瞬間に失格、聞いた事はないか……!!」
静かに燃ゆる瞳、それでいながらもその奥で輝くどす黒い欲望に翔纏は一瞬戦慄した。初めて目の当たりにする殺人鬼の衝動、欲望に、背筋が凍る。
「今のヒーローは腐っている、正さなければならない!!」
「ぐっ!!」
「翔纏君!!」
「ッ―――ざっけんなぁ!!」
援護の為に飛び出そうとする緑谷の言葉を遮るかのように翔纏は叫びながらも押される刃を逆に押し返していく。
「なろうとして、何が悪い!!憧れて何が悪いんだぁ!?なりたいって思ったが故の努力をっ行動をお前は全て否定するつもりなのか!!?」
「っ―――!!」
怪腕が唸る、ステインと真っ向からの斬り結び合い。斬撃の応酬、その中で翔纏は叫ぶ。ヒーローに憧れ、家族に憧れ、全てに憧れていた時の事を思い出しながら。
「そんな独善的な正義でヒーローを語るな!ヒーローを穢しているのはお前の方だぁ!!」
「ふざけた事を抜かすなぁっ!!穢しているのは今の世界だ!!」
「じゃあっお前の正義で一体何が正せるって言うんだぁ!!」
鍔迫り合い、真っ向勝負となっている状況に周囲が飲まれていた。実力の拮抗などではない、そこにある紛れもない本音のぶつかり合いと溢れる気迫の応酬に飲み込まれていた。
「お前が示しているのは―――正義の為なら人は何処までも残酷になれるって言う事だけだぁ!!」
「っ―――黙れ!!何も知らぬモノが俺を語るな!!」
「グゥッ!!」
気迫の籠った一閃がメダジャリバーを弾き飛ばしてビルの外壁へと深々と突き刺さってしまった。怒りのままに心臓を抉ろうと迫る刃を握りしめるようにして止める、震える腕に更に力を込めながらも叫んだ。
「正義の為なら何をしても良いのかよっ……そこまでヒーローを正したいなら自分が正しいヒーローになって世界を変えればっ良かっただろうがぁ!!」
「―――っ届かぬ、もっと大きく強く届かせる為に血がいるのだ!」
渾身の握撃が日本刀の刃を中程から握り砕いた。だがそれでもステインはそれを振るった、それによってオーズの身体を火花を散らしながら切り裂いた。そして僅かに付いた血をステインは舐めようとするが―――目の前で起こったそれに驚愕した。
「SMASH!!」
緑谷がこの時を待っていたと言わんばかりに飛び出して渾身の援護を繰り出してステインの体勢を崩す。それに応えると言わんばかりに腕を振るうがその時、地面が輝いていた。そこへとオーズが腕を突っ込むとそこから一本の武器が出現した。それは大型の斧、純白の結晶のような刀身が特徴的なそれを強く握り込んだ時、タカヘッドの瞳に光が走った。
「セイヤァァァァァ!!!」
裂帛の叫びと共に放たれた一撃はステインの刀を粉々に砕いた、いや刀身だけではなく日本刀全体を砕いてしまった。それに目を見開いて驚愕するステインだが、翔纏が叫び。
「SMAAAAAASH!!!」
「ッ―――!!レシプロォォエクステンドォォォ!!!」
その叫びに呼応するかのように個性による拘束が解かれた飯田が飛び出していく、そして同時に緑谷とのスマッシュと共に自分の最高の一撃がステインへと炸裂した。頭部と腹部へと一撃を受けたステインは外壁へと激突した、その一撃が決定打となったのかステインは意識を失ったのか、動かなくなった。
「ハァハァハァ……やったのかな……?」
「おっ恐らく……緑谷君、獣王君本当に済まない……君達を危険にっ……!!」
気が緩んだのか、それともステインを倒す事が出来た事による開放感なのかは分からないがそこにあったのは自分達が知っている飯田がそこに居た。そして特に翔纏へと深々と頭を下げた。
「獣王君、俺は君がステインに言っていた言葉がっ俺にも染みた……俺はっ兄さんを傷付けたヒーロー殺しが許せない、ヴィランの奴を倒す俺こそがインゲニウムに代わる正義なのだと何処かで思っていた……だが……兄さんはきっと喜ばないと分かった……」
仇を討つと息巻いていた飯田、だがそこにあったのは自分の中の正義の暴走に囚われていた自分でしかなかった。そんな自分を兄は決して褒めないし喜ばない、寧ろ自分がインゲニウムの名前を穢す行いをしていたのだと気づかされた。
「済まないっ!!!俺がもっと冷静になれていたら……!!」
「家族の事だ、冷静になれないのが普通だよ」
それに対して翔纏は笑みで返した、恐らく自分だって兄たちが同じ目に遭っていたら同じ事を考えていた事だろう。情と愛が深ければ深い程に取ってしまう行動に理解が持てる、それは緑谷も同意見。
「取り敢えず、ステインを確保しようよ。ってそうだネイティブさん大丈夫ですか!?」
「あ、ああこっちは大丈夫だ……取り敢えずヒーロー殺しの確保を優先してくれ……」
その言葉に甘えるように飯田はその辺りのゴミ捨て場からロープを見つけるとステインを縛り上げていく、緑谷はネイティブへの応急処置を行う。翔纏も手伝おうとするのだが―――その前に自分が握り込んでいた武器を見つめていた。
「こいつは一体何処から……」
メダジャリバーが弾かれてから無意識的に地面から引き抜いた斧、これも自分の個性による物なのかと思いつつも先程の事を思い出す。ステインの武器を粉砕した時の事、刃ではなく武器その物を破壊した一撃。これも自分の個性による物なのだろうか、そうだと思うとメダジャリバーの一件も踏まえて個性に恐怖を覚える。
「ちょっと怖いなっ……俺の個性―――」
少しだけ自分の個性が嫌に思えてしまった時、斧の刀身が変化した。純白の刃が僅かに紫色が掛かったように見えた―――時に全身から力が抜けていき、意識が混濁して倒れこんでしまった。
「なっおい!?そっちの子が大変だぞ!!?」
「しょっ翔纏君如何したの!?しっかりして!!」
「緑谷今っ―――おい翔纏が何で倒れてるんだ!!?何が起きたんだ!!?」
「轟君か!?兎に角獣王君を!!」
焦凍が到着した時、翔纏は倒れこんでしまった。そして彼が手を放した時に斧は地面へと消えていった。その時に―――何故か紫色の光に包まれながら消えていった事は誰も認識しなかった……唯一人、腕に人形を乗せながらビデオカメラを向ける男を除いて……。
「私の予想通り、それが君の選択、欲望―――それが良き終末を導かんことを……」
単純なあのメダルではない……。此処からが本格始動。