欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の異変。

聞こえてくる鼓動、感じる熱さ、昇る足音。

 

―――螺旋階段……?

 

暗闇の中、唯只管に足が進んでいく。自分が昇っているのは無限に続くかのような階段。疑問に思いながらも身体は止まらずに昇り続けていく、一歩昇る度に目にするのは様々な命の欲望の数々。

 

―――俺の個性、なのかこれ。

 

映り込んでくる景色、欲望の数々、それらは全て自分の個性の中にある命の記憶。自分はそれらを引き出している、その中に今―――無色の色が混ざり込んでいた。

 

「何だあれ……うわぁっ!?」

 

突然迫りくる無、真っ白な闇が景色を越えて階段を昇り続けていた自分へと迫り始めていた。驚愕しながらもそれから逃れる為に必死に階段を駆け上がっていく。だがそれは迫り続けてくる、そして全てを飲み込むような咆哮を上げて襲いかかろうと―――

 

 

「ッ!!?」

 

大粒の汗を流しながら飛び起きる、荒い息を吐きながら目を覚ます。何が如何したという訳ではない、何も覚えていないし何があったのかも分からない、だが漠然とした恐怖だけが自分の中にありそれが自分を犯している感覚だけがあった事に翔纏は唯々荒い息を吐き続けていた。

 

「此処はっ……」

 

視線を巡らせて周囲を探る、そこは保須市に来てからビルの一室、自分の寝床として使わせて貰っている部屋であった。如何して自分がこんな所にいるのだろうか……と疑問に思っているとぼんやりとしている頭に響く大声が聞こえて来た。

 

「獣王君っ良かった目が覚めたんだね!」

「大丈夫そうだな翔纏、安心した」

「緑谷に焦凍……か?あれ、お前なんで此処に……?」

 

話を聞く前になぜか自分の覚醒を察知した姉に突撃されて潰れたカエルのような声を上げる事になりながらも話を聞く事が出来た。ステインを倒す事が出来た後に自分は突然意識を失って倒れこんでしまい、そこへ丁度やって来た兄達に連れられて此処まで戻ったらしい。本当は病院に連れていきたかったのだが、脳無が暴れ回った影響で出てしまった怪我人やヒーロー達で飽和しそうになっていたので此処で寝かされたの事。

 

尚、姉は事後処理などを行う為に兄達に連行されていった。

 

「だけど本当に驚いたよ!!飯田君も心配してたけどっ急に倒れるんだもん」

「悪い……何か急に意識を失って……何で何だろう」

「ステインとの戦いで疲れたんだろ、俺はその場に居なかったがマジの殺人犯と戦ってたんだ。精神的な疲労もあったんだろ」

 

焦凍の意見が最も筋が通っている、それに納得を浮かべるが自分はそこまでステインの殺気によって疲労していたのだろうか……何とも言えないが兎も角倒れてしまった事は間違いない。

 

「それでその後は」

「えっと……」

 

あの後、ステインは連行される事になったのだが……その直前に傷だらけの脳無が襲来し緑谷を連れ去ろうとした。当然その場にいたプロヒーロー達が対応しようとしたのだがそれよりも早く―――拘束を脱したステインによって緑谷は助けられた。そして焦凍を追いかけてきたエンデヴァーも合流し改めてステインを確保しようとした時にそれは起きた。

 

偽者ッ……!!正さねば…誰かが…血に染まらねば…ヒーローを、取り戻さねば!!

 

マスクが取れ、素顔を露わにしながらもステインは叫んだ。鬼の形相をしながら憎悪を込めて、その場にいた全てに向けて言葉を放った。誰が見てもステインはボロボロで戦える身体などではなく確保する事は容易。

 

来てみろ……偽物共……!!俺を殺して良いのは本物の英雄……オールマイトだけだ!!!

 

その筈なのにエンデヴァーを含めたその場の全員が動けなくなっていた、誰も血を舐められていないのに、ステインの発する狂気的な圧に屈していた。だが、ステインはその時点で意識を失っていた。そして確保された、保須市を恐怖に陥れたヒーロー殺し(ステイン)はこうして終わりを告げた。

 

「そうか……だったら猶更悪いな面倒掛けて」

「いやいやいや気にする事ないって!!寧ろ、翔纏君に戦うの任せ続けてたのが原因みたいなもんだし!!」

「飯田も謝ってたぞ、まあ飯田も緑谷と同じで無罪放免って訳にはいかなかったけどな」

「もしかして、無断で戦ってたのか?」

 

その質問に照れるようにしながらも頷かれた、二人は自分のようにプロから許可を得て個性を使用して戦闘をしていたわけではない。故に職場体験先のヒーローからお説教を貰ったとの事。翔纏からすれば兎に角二人が無事でよかったという事に尽きた。

 

「それより……翔纏、斧みたいなのを使ってたって緑谷から聞いたけど、そんなの何時準備してたんだ?」

「僕も吃驚したよ。突然新しい武器を使うから」

 

緑谷のスマッシュの直後に手にしていた斧、その威力にも驚かされたが、それ以上に不思議だったのがその斧は何処にも見当たらなかった事だった。

 

「メダジャリバーはあの後にアンクさんが取りに行ってくれたけど、その斧は影も形も無かったらしい。どっから出したんだよ」

「いや……俺も全く分からないんだ……なんか無意識的に持ってたっていうか……突然現れたっていうか」

 

翔纏としてもそれ以上の事は全く言えなかった。本当に突然現れて突然消えてしまったのだから、いや心当たりが無い訳ではない。あり得るとしたら―――タジャスピナーのようにメダルによって形成される武器の一つという可能性、そしてそのメダルは―――突然自分の身体へと入ってきた謎の5枚。

 

「あっごめん獣王君僕もう行かないと!グラントリノ……僕の体験先のヒーローに怒られちゃう!!」

「ああ分かった、態々見舞い有難う。あと翔纏でいいぞ」

「分かったよっ翔纏君!」

 

最後にそう言い残して去っていく緑谷を見送った翔纏、その時僅かに視界にノイズが走った。咄嗟に顔を覆うように手を当てた。

 

「大丈夫か翔纏」

「ああいや、大丈夫……何か今視界が……ホラッ強く鼻を噛んだ時に起きるあれっぽいのが」

「あれか。そう言えばあれなんで起きるんだ」

 

大した事も無いだろうと翔纏は気にも留めなかった。実際その後はそんな事は起きなかったのだから―――だがその時、視界にノイズが走った時に瞳に紫色の光が走った事は誰も知らず、それが齎す結果も誰も気づきようも無かった……。そして翔纏は遠くない未来で知る事になってしまう。

 

この出来事の意味の重大さを。

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