「如何でした校長、思考制御型のコントローラーは」
「中々だったよ。でも流石に数が多くて少し糖分を使い過ぎちゃったから今補給中さ」
軽々しく砂糖を多めに入れた紅茶で一杯やっている根津に肩を竦めるパワーローダー。試験も終了し高性能化したロボの事を聞きに来たのだが、矢張りこの校長はハイスペックすぎる事を実感させられる。個性:ハイスペック。その個性はあくまで頭脳が人間以上になるという物である筈だ。それなのに、あれだけの数のロボを思考で制御して糖分を使い過ぎた程度……どうなっているのだろうか。
「それで獣王君はどうでした、あのロボの波を突破したって聞いて冗談でしょうって思いましたが」
「いやはや彼は凄いよ。的確に姿を変えながらも力の出し惜しみをする事も無く必殺技を繰り出した。その負担にも耐えきって遂にはゲートインさ、うん流石獣王一族の麒麟児だ」
麒麟とは言い得て妙な表現だと根津は我ながら上手い事言ったと胸を張る。麒麟とは360種にも及ぶ動物の頂点に立つ幻獣の事を指す、無数の動物の力をその身に宿している翔纏は麒麟と例えるべき存在なのかもしれない。マジカル・ビースト・ヒーローの幻もその名が指すように複数の動物を掛け合わせた幻獣へと形態を変えるが翔纏の場合はそれを上回る数の形態を誇る。
「それで獣王君は」
「コンボと必殺技を使い過ぎたらしくて全身疲労だって言うから早退させたよ」
「またあの夫婦が何か言ってきますかね」
「ハハッ大丈夫翔纏君が言い包めるって言ってくれたから」
USJの一件での獣王夫婦の殴り込みは相当に肝を冷やした、というか当日中に殴り込んでくるなんて誰も考えもしなかった。どうやってそれを知ったのだろうかと皆揃って首を傾げてしまったほど……そんな事を語りながらも根津は運ばれていく破壊されたロボを見ながら思う―――あの個性が秘める力とはどれ程のものなんだろうか。
「ドライバーによる個性の統一とそれによる共鳴による特殊能力の発露……一族のそれすら超えている」
コンボによって発動する能力、個性発動時の力などなどはドライバーによって増幅されている部分もあるがその根本は翔纏の個性が起こすエネルギー。セルメダルだけを見てもその威力は凄まじいと言う他ない。だがその凄まじさとは裏腹にドライバーとメダルによって制御されている、そして暴走=彼の死を意味してもいい程に危ういバランスで成り立っている。
「相澤君に彼への注意を徹底させないといけないね……」
「でしょうな、彼は強力過ぎる個性故に良くも悪くもアイテム頼りです。バランスを崩したら恐らく一気に……ってタイプです」
「だからこそ確りとみてあげないとならない、僕たちがね」
根津の脳裏を過る言葉があった―――個性特異点。世代を経るごとに混ざり、より複雑に、より曖昧に、より強く膨張していく個性に肉体の進化が追い付かずに制御不能となる一種の終末論じみた仮説。誰も相手にせず、忘れ去られる物として忘却された物を根津は記憶し思わず翔纏に重ねていた。
「(制御アイテムが無ければ簡単な刺激さえもトリガーとなって暴走する個性、正しく個性特異点そのものだ。僕達が上手く導いてあげる必要がある……)」
強力な個性は今の社会で誰もが羨み欲しいと思われる存在、だがそれゆえの苦労も存在する。その渦中で最も苦しんでいるのが―――翔纏だ、少しずつ適応し始めていてコンボの負担にも身体が追い付き始めているが……根津の内では不安が尽きない。
「ブラカワニでの回復は禁止か……まあ緊急時なら兎も角時間があるなら自然な回復が望ましいだろうからなぁ……」
翔纏のダメージは殆どコンボによる肉体的な疲労が殆ど、それもブラカワニによってある程度回復しているがそれでも疲労は溜まっているため早退の許可が出たのでさっさと帰って身体を休める事にした。皆には焦凍から言葉を伝えて貰えるようにメッセージを送っておいた。
「流石に連続コンボと必殺技の連打はやばかったな……ガタキリバなんて博打にも程があった」
自室の椅子に腰掛けながらも今回の試験の反省を上げていく。矢張りガタキリバの
「一々対応しすぎたか、いや校長先生なら一つのコンボで突き通そうとしたら確実に潰されるはずだ。寧ろ今回のだって試験だから逃げ道を残していた、実戦だったら確実に潰せる手段がいくらでもあった……」
試験だから上手く行ったという認識が余りにも強かった、連続コンボチェンジもそうだがそうさせる為に誘導されたような気が強かった。適切なコンボの発動、それが自分にとっての課題という事なのだろう……それを突き破る手段、自分はそれを試みようとしたのだが失敗に終わった。だからこそ今持てる手段であるコンボで抜けたのだが―――
「何で使えないんだろうなぁ……あの力」
使いたい、使ってみたい、未知であるからこそ知りたいという欲求がある。個性へと融合したメダル、それがどんな力を引き出すのか楽しみでしかない。それを試験で使うには危険すぎるかもしれないが……それでもあの斧を使えるだけでも相当に楽だった筈だ―――そう思った瞬間の事
「ぁぁぁっ……!?」
そんな悲鳴のような声を上げると同時に胸から3枚のメダルが飛び出してきた、サポートアイテムであるコアメダルとは全く違う。保須で自分に入ってきたあのメダルだと直感しながらそれを掴んだ。
「って今出てくるのかよ!?」
思わずツッコミを入れてしまいながらもメダルを見る事にした。あの時に見た透明なメダル―――ではなかった、そこにあったのは……確認した時、再度メダルは身体の中へと潜航するように溶けて身体へと融合していく。
「何なんだよこのメダル……というか色は兎も角、メダルにあった動物って何なんだ……?」
本当に自分の個性に関係あるのかと疑問に思う程度には異質なメダルであった、何故ならば―――そのメダルの色は初めて見る紫、そして……そこに刻まれていたのは―――翼を広げながらも嘴を構えていた、鋭い瞳と顔付に巨大な角、巨大な牙を光らせる凶暴な姿……それらが刻まれていたのを翔纏はハッキリと見た。