遂に訪れた林間合宿の当日、翔纏は知らなかったのだがテストの後に皆でショッピングモールに揃って買い物に行くという約束があったとの事。是非とも参加したかったと後悔する翔纏だったがそこでなんと緑谷がヴィラン連合の首魁と思われる死柄木弔と遭遇してしまったとの事。そこでは何もなかったらしいが……雄英は度重ねるヴィランとの遭遇を考慮して、行き先の変更を決定した。
「おい、ここで一旦休憩だ。お前ら一度降りろ」
「はーい、ってB組は?」
「つうか、なんだ此処。パーキングエリアじゃねぇな」
バスはとある場所で止まった。そこで相澤が降りるように通達すると生徒たちは疑うこと無くそれに従う。逆らうのが怖いのもある。外に出て身体を伸ばしながら辺りを見渡すとそこは崖の上の何の変哲もない空き地。確かに景色の良い場所ではあるが、公衆トイレも何も無い。ただ、普通車が一台止まっているだけだった。特に峰田はジュースを飲み過ぎたからかトイレに行きたいと訴えるが相澤はそれを完全無視。
「やっほ~イレイザー!!」
「ご無沙汰してます」
相澤が丁寧に頭を下げた。その相手は小さな少年を一人連れている猫のようなコスチュームを纏った女性が二人。翔纏はその人達に見覚えがあった。
「煌めく眼でロックオン!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」
「そして今回メインでお世話になるプロヒーロー・プッシーキャッツの皆さんだ」
見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、その姿に思わず翔纏は反応しつつ近づきながら頭を下げた。
「お久しぶりですマンダレイさん、ピクシーボブさん」
「随分立派になったじゃない翔纏君」
「う~んやっぱり私の予想通りに良い男になったわねぇ~」
と気心が知れた中のような談笑をする翔纏に周囲からの説明を求めるような視線が突き刺さってくる、それは相澤も同じくだった。
「ああっ俺はプッシーキャッツの皆さんにお世話になった事があるんだ」
「まあ私達、というか具体的に言えばラグドールなんだけどね」
「その時に私達の方は獣王一族の皆さんの施設でトレーニングしてたからね」
それを聞いて相澤は納得した、確かにラグドールの個性の特性を考えるならば接触は当然だろう。そして同時に理解してしまった翔纏はドライバーを付けてメダルをセットし始めた。
「翔纏君プッシーキャッツの皆さんと知り合いだったなんてぇ!!」
「ああうん、まあな」
「ってなんでドライバーを付けてるの……?」
「俺の予想が正しければ多分この後……」
横目でチラリと見ると既にピクシーボブがバスに戻るルートを塞ぐように仁王立ちしている、如何やら確定らしい。
「ここら一帯は私らの私有地なんだけどね、あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
『遠っ!!?』
「今は午前9時30分。そうね、早ければ12時前後かしらん。12時半までにこれなかったキティはお昼抜きね♪まあ魔獣の森を越えられたらの話なんだけどね♪」
そんな彼女が指さしたA組の宿泊施設の行方、それは鬱蒼としている森の先にあった。勘のいい者ならばここで思うだろう、何故そんなに遠い此処でバスを降ろされたのかを……まさかと思い始めた辺りで相澤がニヤリと悪い笑みを浮かべながら言った。
「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」
「だと思ったよっ変身!!」
直後、ピクシーボブが地面に手を当てる。そこからまるで土石流のごとく地面が盛り上がってA組を飲み込みながらそのまま崖の下へと叩き落としていく。唯一それを逃れたのは変身によって身体が一時的にガードされた翔纏のみであった。皆が崖の下に落とされたのを見てうわぁっ……と言いながらも自主的に降りていく。
「皆大丈夫か、焦凍も」
「ああ何とかな……翔纏、お前分かってたのか」
土の下から這い出て来た焦凍へと手を貸す翔纏はその問いに対して頷いた。ラグドールの個性を頼った際に他のチームメイトの個性も一通り見せて貰ったし教えて貰っている。覚えていたそれを考えると自然とあの後何をされるのかは予測できた。
「此処は私有地だから個性の使用は自由だよぉ~!!それじゃあ頑張ってこの森を越えておいで!!」
「何だよ魔獣の森って、ドラクエかよ」
「というか何で魔獣の森何だ?」
「魔獣がいる、とかじゃないかしら?」
と切島の言葉にそのままで返す梅雨ちゃん、しかし皆は魔獣なんている訳ないと思って一瞬笑うのだが……森の木々の奥から、それらを薙ぎ倒しながら巨大な怪物、いや魔獣が此方へと闊歩していた。明確な敵意を纏いながらのそれに思わず悲鳴があがる。
『魔獣だぁぁぁ!!!』
「セイヤァァ!!」
叫んだのとほぼ同時に木霊する雄叫びがあった。飛び出した翔纏の一撃が魔獣の頭部を蹴り砕いた、それによって本当の生物などではなく個性による物だと皆が理解すると頭部を失って動きが止まった魔獣へと次々と攻撃が降り注いで一瞬で魔獣は土くれへと還った。
「ピクシーボブの個性:土流。セメントス先生と個性はほぼ同じで土を操作できる、でも……まさか此処までとはね」
セメントスがセメントを自由に操作出来るのに比べてピクシーボブは土を操作する。だがそれだけではなく、土を生物の形へと変えてそのまま操作する事が出来る。しかも……その数は尋常な物ではないらしく、森の奥から次々と此方へと迫ってくる足音や羽ばたきが聞こえてくる。
「おいおいどんだけいるんだよぉ……!?」
「数えようか?」
「やらんでいい!!」
「どっちにしろ行くしかねぇだろうよ!!昼飯抜きなんて嫌すぎるぜ!!」
砂藤の言葉に多くの賛同が集まる、だったら道は唯一つ。最短ルートを強行突破しかない、ならば自分もと存分に力を振るおうとした時―――自らの立っていた地面が紫色に発光し始めた。
「しょっ翔纏君なんか足元光ってるよ!?ステインの時みたいだ」
「あの時って……まさかっ!!」
緑谷の言葉を受けてまさかと思いつつもその光の中へと腕を突っ込んでみた、そこを狙わんとまるでドラゴンのような土魔獣が迫りくる。皆がフォローしようとする中、翔纏はアッパーのように腕を振り上げて攻撃した。そして―――その攻撃を受けた魔獣は仰向けに横転しながらもボロボロと土くれへと還っていった。
「やっぱり抜けた……こいつがあの時使ってた奴か……!」
翔纏の手に収まっていたのは斧、間違いなくステインとの戦いの際に何処からともなく出現させた武器だと翔纏は確証を得ながらもそれを迫りくる魔獣へと差し向けた。
「セイヤァッ!!」
魔獣を一撃で粉砕する抜群の破壊力に皆の士気が上がっていく、このままの勢いでこの森なんて突破してやると息巻く中、飯田が声を張り上げてA組全員で突破する事を叫ぶ。それに皆が応えながら森へと入っていく中―――たった一人、緑谷は不安を感じた。
「ヌゥウ!!!セイヤァァ!!」
「あの時の斧って確か真っ白だった筈、それなのに紫に染まってるし……なんだろう、あんな恐竜みたいな奴だったっけ……」
それは明らかに変化している。ティラノサウルスの顔を模しているような斧、刀身は紫色に染まっている上にあれを見ていると何故か恐怖を覚える自分がいた。なぜなのか分からないまま、緑谷は魔獣と戦う。頼もしいと思いながらもその心中は穏やかではなかった。