欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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一にして群、群にして一の欲望。

林間合宿の三日目、変わらずキツイメニューが続き続けている雄英の面々。その中で一番きついのはぶっちぎりで翔纏だろう、現在行われているのはガタキリバ。人格破綻の可能性があるとはいえ、たった一人で多勢に無勢という状況を覆すだけの能力を秘めている能力を埋もれさせるのは勿体ないのと特別扱いするのは合理的ではないという相澤の判断でガタギリバの負担軽減とキャパシティ上昇訓練も行われている。

 

「行くよ俺!!」

「おう任せろよ俺!!」

 

その手始めとして行われたのが翔纏がなんとか許容出来ると判明した分身一人の情報量を増やす事で更に多くの情報量を受け止める為の準備を行う事であった。その為に分身した翔纏は今まで情報量を出来るだけ少なくするために行っていた同じ言葉や行動を禁止し完全に独立した一人として行動する事になった。これを克服するだけでも出来る事は格段に増えるので相澤は正解だと思っている。

 

「オラオラオラァッ!!」

「俺伏せて!!」

「えっなにっ今なんて言ったっうぉっあぶねぇ!?」

 

背中合わせで戦いながらも土石流の如く攻め続けてくる土魔獣を切り伏せ続けていく二人、その中で分身が飛び出して魔獣を切り伏せている時に背後からまるでミサイルのように突っ込んでくる魔獣に気付いた本体。それを助ける為に電撃を纏わせたカマキリソードから斬撃を飛ばした。分身の翔纏は振り向くと斬撃が飛んできたのを慌ててずっこけるようにして回避する、そして迫ってきた魔獣を真っ二つに切り裂いた。

 

「二重の意味で危なかったぁ……」

「ごめんごめん……何か攻めっ気強すぎない、俺ってそんなキャラだっけ?」

「いや情報量増やすなら意図して違うキャラを演じた方がいいかなぁって……イメージ的にはカッコよく戦いたい陽気なハイテンションキャラをやってる」

「何だそれ」

 

倒れている自分を助け起こしながらも自分らしくない姿にツッコミを入れるが、如何やらこれも自分の為の行動だったらしい。確かにこれは意図的にやらなければ自分の行いとは思えない。そんな風に感じていると二人は互いの背後から迫ってきている魔獣へと蹴りを入れた。

 

「まあいいやっとにかくこの調子でガンガン行くぞ!!」

「任されたっ!!勝利のVが二つでWって事を見せてやろう!!」

「良いなそれっそれじゃあ―――」

 

二人は全方位へと電撃を放ち、魔獣を威圧しながらも並び立ちポーズを取った、それは互いに腕を伸ばしており合わせてみるとWに見えるようになっていた。

 

「ピースサインのVは!!」

「ヴィクトリーのVだ!!」

「「そして二つ合わせるとW!!二人で一人!!一人で二人!!」」

『超協力プレーで勝利を掴んでやるぜ!!』

 

「獣王、それ情報量増やす為にやってるんだよな」

 

何時の間にか超ノリノリでもう一人と会話しながらも見事なコンビネーションを決めている、互いが自分という事で考え方も理解している上にガタギリバの特性上、クワガタヘッドの角が通信アンテナの役割をしているので会話するまでも無く意思疎通が可能。恐らくもう一人の自分を強く意識する為にああいう事をやっている……きっとそうなのだろうと相澤は解釈している。

 

「「セイヤアアアァァァァッ!!!!」」

 

そう思っている中で超巨大土魔獣を共に必殺技(ガタキリバキック)で粉砕する姿が映った。そしてそれと同時にガタギリバの特訓時間が終わりを告げたのであった。

 

「終わりか……んじゃな俺、また呼んでくれよな」

「うん分かった、またよろしく」

 

そう思いながら変身を解除すると分身の自分の記憶や体験、感触などが一気に自分へと流れ込んでくる。既に中身があるコップへと同じ量の中身を注ぎ込まれるような事を体験している翔纏、先程までの和気藹々とした空気はなく歯を食い縛りながらそれを自らの物として認識、一つ一つをすり合わせ、受け止めながら統合していく。同じような言葉や思考をするのではない、全く違う自分としての統合は初の試み。その量は膨大その物、それを相澤も固唾を飲んで見守る中―――翔纏は大粒の汗を流しながら膝をついて息を荒げた。

 

「獣王、お前か。確りとお前か」

「ハァハァハァッ……はい、先生……確りと、俺です……獣王、翔纏そのものです……」

 

思わずそのまま仰向けに倒れながらも確りとした口調で返事をした彼に相澤はホッと胸を撫で下ろした、克服の為とはいえ流石に不安が付き纏う。流石の相澤も此処までの個性を鍛えた事はないしそもそも分身系の個性は数が少ない上に分身を再び一つにするというのは益々聞いた事がない。故に若干無茶とも言えるメニューを組んだのだが……如何やら翔纏への見込みは正しかったと胸を撫で下ろした。

 

「ぁぁっでもこれ、やっばいな……別々の視点の記憶が自分の経験としてあるし言葉もちゃんと自分が言ったって感じする……こんな感じなのか……」

「相当キツいか」

「はいっ……」

 

疲労というよりも強い違和感が残っているという感じだろうか、今までは意思疎通を利用して意識を統一化する事で負担を減らしていたがこれは全く別次元の領域。寧ろ自分が全力を出した場合はこんな風になってしまうのかという認識すら存在している、そしてある事を考えている自分がいた。

 

「拳藤、休憩に入るから獣王を見てやってくれ」

「あっはい分かりましたって大丈夫翔纏!?」

「あ、ああ……」

 

凄まじいまでの頭痛に吐き気が襲う中で思う事がある、自分の個性は自分すら殺しかねないのかと。事実二人になって行動しただけでこれだ、ならば……可能と思える領域、分身状態で別々のコンボを使用するという考えるだけ考えていた究極の一にして群。それを実行した時に自分はどうなるのか、そして―――自分という存在はそれに耐えきる事が出来るのか、それを切らざるを得ない状況はどんな時なのか……それだけを恐れる様に考えていた。

 

「今水持ってくるからさ、そこでジッとしてな!!」

「っ……」

 

辛そうに木陰に移動させられた翔纏は顔を青くしながら、震えていた。それは誰もがコンボによる疲労だと考えた―――だが実際は違った、彼は直感してしまったのだ―――自分の個性が導く己が避けるべき終焉を。


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