欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の歩み。

メダル。欲望。ドライバー。この三つが今の自分を構成する物である。

 

どれ一つが欠けてもならない、欠かしてはならない物ばかり。それ程までに今の自分はどうしようもないほどに欠陥品なのだ。

 

だが自分はそれでいいと心から思っている、欠陥がある、何かが欠けている、満ちていない状態―――だからこそ満たそうとする欲望が生まれるのだ。そう欲望こそが生きるエネルギー、エネルギーがあるからこそ次を求め欠けた何かを満たそうとする。そして満たせば満たされて行く感触を覚えて次へ次へと手を伸ばし続けて行くのが性。

 

「素晴らしぃっ……やっぱり欲望って素晴らしぃ……」

『そう、欲望とは素晴らしく途轍もない物なのだよ!!即ち―――』

『「欲望こそが生きるエネルギー!!」』

 

「翔纏が元気になってくれたのは良いんだけどあそこまで尊敬しなくてもなぁ……お父さんの事全然憧れてくれないのは寂しいなぁ……」

「諦めろ親父、翔纏が個性を使えるようになったのは会長のお陰なんだから」

「私としては如何でも良いわよ、だってあんなに素敵な笑顔を見せてくれるようになったんだし」

「俺もそう思う」

 

と家族からすれば少々複雑な思いを抱かれていたりするのだが翔纏は全く気にする事も無く自分にドライバーを与えてくれた事を感謝しつつも尊敬と憧れを向け続けている。そんな翔纏も無事に雄英に入学し個性把握テストを乗り越えた翌日、家を出ようとした時の事だった。

 

「おはようございます翔纏さん」

「あっおはようございます」

 

家を出た時に自分を待っていたスーツ姿の女性がいた、里中 エリカ。翔纏が尊敬する人物の秘書をしており無個性であるらしいが……そのハイスペックぶりにはプロヒーローですら舌を巻く程。

 

「今日は如何したんですか、こんな朝早く」

「実は以前から開発していた物が完成しましてお渡しにきました」

「えっもしかして……」

「いえ其方ではなく、これです」

 

期待を込めた視線に申し訳なさそうにしつつも手招きをされた先へと付いていくとそこには一台の自動販売機が置かれていた、こんな所に―――自分の家の塀に置かれていただろうか……と首を傾げる中で里中が自販機の中央部のスイッチを押すと自販機は変形していき一台の大型バイクへと変貌した。

 

「おおっ!!すっげぇっカッコいい~!!」

「鴻上会長からのプレゼントのライドベンダーです、雄英の入学祝だと」

「あっだから会長さん俺に免許取れって……」

「そういう事です」

 

個性社会では個性の関係性を踏まえて十分な適性と成績次第では未成年でも免許の取得が可能、それを利用して翔纏は中学3年の夏休みを利用してバイクの免許を取得していた。その時にも尊敬する人である、鴻上ファウンデーションの会長を務める鴻上会長から私から素晴らしい贈り物をさせて貰おう!その時を楽しみにしておけと言われたがまさかこんな素敵なプレゼントだとは思わなかった。

 

「このライドベンダー自体が翔纏さんのサポートアイテムとしても機能致しますので、セルメダルなどについてはお忘れないように。此方がキーです」

「有難う御座います里中さんっ!!あっそうだ雄英にバイク登校の届出さないとな……」

「此方で手続してますのでご安心ください」

「手早いですね、流石里中さん……よっ有能美人秘書!!」

「有難う御座います」

 

それでは早速……エンジンを稼働させてアクセルを回す、前輪が浮き上がってしまうが上手く抑えつけながら翔纏は雄英へと出発していくのであった。里中はそれを見送りつつ会長へと電話を掛ける。

 

「会長、翔纏さんへのライドベンダーの譲渡終了しました」

『ご苦労里中君。では本社に戻って来てくれたまえ』

 

 

「う~ん最高、貯めて買おうって思ってたから棚から牡丹餅とはこの事だな」

 

徒歩と電車を使って1時間ほどかけて行く通学時間が一気に縮まった。これは色んな意味で嬉しい、気分上々で雄英に到着した翔纏。里中のサポートアイテムとしても機能するという話もあるのでもしかしたらこれから色々と使えるかもしれないと思うと足取りも軽くなり授業にも身が入るという物、超難関校と言われる雄英の授業はきっと相澤の個性把握テストのように辛い物である筈―――

 

「んじゃこの中で間違っている英文はどれだ?」

『普通だ……凄い普通の授業だ……』

 

教科ごとにプロヒーローが担当していること以外は全く以て普通の授業だった、逆に相澤がどんだけ自由という校風を盾にして自分なりのやり方を推し進めているんだという事が理解できてしまった。そんな授業も午後の授業、即ちヒーローになる為の重要授業、ヒーロー基礎学の時間がやって来た。

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ……普通にドアから来たぁっっ!!!」

 

大きな声とともに教室へと入ってきたのは平和の象徴と呼ばれ、現代における大英雄、皆が憧れる№1ヒーローのオールマイトだった。世界が認める程の超ビッグネーム。オールマイトがデビューしてからというもの日本の犯罪発生率はどんどん下がり、世界最低レベルを保持し続けているほどの影響を誇る。そんなヒーローが雄英にて教鞭を取るというのだから余計に入試は激しかったのかもしれない。

 

「さてでは早速行こうか!!私が受け持つ授業、それはヒーロー基礎学!!少年少女たちが目指すヒーローとしての土台、素地を作る為に様々な基礎訓練を行う科目だ!!正にヒーローになる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして早速今日はこれ、コンバット!!即ち戦闘訓練!!!」

 

その手に持ったプレートには「BATTLE」と書かれている。いきなり始まるそれに、好戦的且つ野心家な生徒達はメラメラと炎を燃やす。それと同時にオールマイトが指を鳴らすと教室の壁が稼動をし始めていく。そこに納められているのは各自が入学前に雄英へと向けて提出した書類を基に専属の会社が制作してくれた戦闘服コスチューム。

 

「着替えたら各自、グラウンドβに集合するように。遅刻はなしで頼むぞ」

『ハイッ!!』

 

各自は勢いよく自分のコスチュームが入った収納ケースを手に取ると我先にと更衣室へと向かっていった。そこにあるのは自分が思い描いた自らがヒーローである姿を象徴すると言ってもいい戦闘服、それをプロが自分たちの為に制作してくれるなど興奮して致し方ない、なんて素敵なシステムだろうか。

 

「―――形から入るってことも大切なことだぜ少年少女諸君、そして自覚するのさ!!今日から自分は"ヒーローなんだ"と!!!」

 

皆が着替える中、翔纏はあっという間に着替え終わったのか早く到着していた。ジーンズにTシャツに黒いジャケット。コスチューム、というよりも私服に近いそれに思わず疑問に思ったオールマイトが問いかけた。

 

「おやっ獣王少年は申請しなかったのかい?」

「俺が個性使うにはドライバーとメダルさえあればいいのでコスチュームは使いません。というか発動させたらコスチュームが意味を成さないのでこんなのに」

「あ~成程そっち系のタイプなんだね」

 

個性によってコスチュームの着用が出来ないというのはよくある話、発動すると全く別の姿に変貌する際にコスチュームを飲み込んで機能を果たせないというのはオールマイトもよく目にした事も多くある。

 

「ところで獣王少年、君の個性は随分と制御されているらしいね。出来れば緑谷少年に制御のコツとかを教えてあげられないかな」

「あ~……確かに把握テストでも指壊してましたもんね。でも俺の場合はアイテムによる制御だし……んじゃ俺が特訓とかに付き合うとかでもいいですか?」

「大丈夫だよそれでも、寧ろナイス提案!!」

 

これで少しでも緑谷の個性制御に目途が付けば良いなと言葉を漏らすオールマイトに翔纏はそれだけ緑谷に目を掛けているという事なのだろうか、と首を傾げた。それとも教師として指を壊すような事を見過ごすわけにはいかないからという事なのだろうか。

 

「ところで獣王少年、ジャケットの胸に付けてるそれって何なの?」

「あっこれですか?」

 

制服の上に羽織っている黒いジャケットには何やら複数の筒が装着されている、まるで擲弾兵のような姿だ。その内の一つを引き抜くと赤い缶のような物だった、自販機で購入出来るものと同じようにプルタブ*1に指を掛けて開けるとそれは忽ち展開して赤い鳥型のロボットへと変形した。

 

「おおっ?!」

「俺のサポートをしてくれる缶型の小型ドロイドのカンドロイドです。これは飛行索敵型のタカちゃんです」

「可愛いなぁ、しかも中々に速いから情報集中にもうってつけだ。もしかして他にも?」

「ええっ勿論」

 

と翔纏はクラスの皆が来るまでの間、鴻上ファウンデーション製のカンドロイドをオールマイトへと紹介して過ごしていた。

*1
正しくはステイオンタブ。


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