欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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紫の欲望の連鎖。

プテラ!

トリケラ!

ティラノ!

 

プ・ト・ティラーノザウルゥス!!

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

「な、何っ!!?」

「何だあの姿は……!?」

「翔纏……!?」

 

雄たけびを上げる翔纏、だがその姿はこれまで誰も見た事も無い異質に溢れた物だった。それは当然だろう、何故ならばそこにある力は既にこの世に存在せぬ命によるもの。紫色の外殻を纏いながら立っているその姿は―――古の覇者、プトティラコンボ。

 

「ゥゥゥゥゥゥゥッゥゥ……」

 

低い唸り声が聞こえ始める、それと同時に変化していく体勢。呼吸と共に上下する身体、そこに理性という物が感じられない。唯目の前の存在を消し去る為だけにそこに立っているかのようだった。それに反応するかのようにマンダレイ達の妨害を行っていた脳無が反転して一気に翔纏へと襲い掛かる、噛みつかんと迫る。

 

「危ない!!」

「回避しろ!!」

 

二人の言葉が響くが一向に反応しない、迫る鏃。それがその身体を突き刺そうとした時―――脳無は吹き飛ばされていた。翼竜、プテラノドンを模したその頭部から大きく伸びた紫色の翼(エクスターナルフィン)が一度の羽ばたきでプロヒーロー二人に立ちまわり続けていた脳無を一蹴したのである。

 

「キエエエエエ!!!」

 

吹き飛ばされながらも空中で制動し、高度を取ろうと飛行する脳無、だがそれを許す物かと言わんばかりに更に翼を強く羽ばたかせる。翔纏の身体は重力を無視して飛び立ちながらも脳無の頭上を取ると腰の部分から太く頑強なティラノの尾(テイルディバイダー)が飛び出した。そしてそれを回転しながら振るい脳無を吹き飛ばして地面へと墜落させた。

 

「ゥゥゥゥ……!!」

 

貴様をこの場から逃すと思っているのか、決して逃す事などあり得ないと言わんばかりの一撃。地面でもがいている脳無に代わって4本腕の脳無が走り、その腕の数を活かしながら凄まじい勢いのラッシュを開始する。例え鋼鉄であろうと砕かんとする一撃がラッシュとなって襲い掛かる、だがそのインパクトの音は非常に乾いており一向に砕ける処か傷もつかない。

 

「ゥゥゥッォォオオ!!!」

 

鬱陶しい!!と叫ぶかのような放たれた一撃、それによって脳無の身体が浮いた。そして直後に高速回転しながらの尻尾による殴打で同じく脳無を吹き飛ばした。そして立ち上がり始めた翼脳無を見た瞬間にスキャニングチャージを発動させた。

 

スキャニングチャージ!!

 

発動されたスキャニングチャージ。その直後に肩部にあるトリケラトプスの角(ワイルドスティンガー)が瞬時に伸びると脳無の翼と左肩を貫いた。だが相手は痛みを感じない脳無、それを無理矢理に動いて外そうともがく。肉が抉れてしまおうが構わないという動きに再度プテラの翼が広げられて羽ばたいた―――がそれは空を飛ぶためではない、それによって発生した冷気をぶつける為の物だった。

 

「寒っ!!?」

 

翔纏の背後に居た拳藤すら寒気を感じてしまう程の冷気が脳無へと炸裂する、左肩は角が外れた状態だったが冷気によって下半身が完全に氷に閉じ込められた。そして冷気は上半身へと伝わっていきその動きを奪って行く。そして飛び出した尻尾、それを回転しながら凍り付いた脳無へと叩きつけた。

 

「キグアアアアアア!!!」

 

脳無は声にもならない様な奇声を上げながら地面でもがいていた、それは激痛による物などではない。必殺技(ブラスティングフリーザ)の一撃は脳無を内部まで抉っていた、それは肉体的な意味合いではなく―――もっと最悪を意味していた。

 

「ゥゥゥォォッッ!!」

 

それだけでは物足りないのか、翔纏は地面へと腕を突き刺した。直後に悍ましい雄たけびが周囲に木霊しながらメダガブリューが出現した、その時理解した。あの武器は今の力によって生み出されている武器なのだと。そしてそれを構えながら残っている脳無へと襲い掛かった。

 

「ヌ"ォ!!ォォォッ!!」

「ッッ……ァァァァ!!」

 

脳無も立ち上がり迫りくる翔纏へと殴り掛かった、翔纏の身体へと炸裂するパンチと脳無へと繰り出されるメダガブリューの斬撃。互いに防御や回避という文字はなく完全なノーガードの殴り合い。理性などは無く完全に本能だけで戦っているかのような光景に拳藤たちは唯々圧倒されていた。そこにあったのは純粋な暴力、技術や作戦という物はない、原始的な攻撃の応酬だけが続いている。

 

「ォォォ!!!」

 

大地を踏みしめながらの一撃が脳無の身体へと袈裟斬りに炸裂する、傷口は紫色に禍々しく輝いている。そしてそれを受けた脳無は急に苦しみ出しながら膝をついた。

 

スキャニングチャージ!!

 

再度のスキャニングチャージ。再び伸びたトリケラトプスの角が脳無を貫くとそのまま頭上へと脳無を放り上げた、翼も無い脳無は当然空中で動きなど取れない。翼を展開して圧倒的な速度でその頭上を取るとそのまま重力に引かれるままに脳無目掛けて蹴りを放つ。ティラノの脚が脳無の胸部へと炸裂し、そのまま大地ごと脳無を蹴り砕くような勢いで落下した。

 

「す、凄い……」

 

唯々拳藤は圧倒されていた。あの脳無を一方的に叩きのめす程の戦闘力、だがそれは―――まだ入り口でしかなかった。

 

「ァァァアアアアアア!!!」

「グギャアアアアアア!!!」

 

必殺技を受けてのたうち回っていた翼脳無と大地へと叩きつけられた脳無、だがそれらは変化していた。あった筈の翼が、4本あった腕のうちの2つが……枯れた植物のように萎れ始めていた。そして萎れた部分はボロボロと崩れていき完全に脳無から翼と腕が消え失せていた。直後に脳無は機能を停止したように完全に動かなくなった。

 

「何、今の……翼と腕が消えた……!?」

 

マンダレイの言葉に今のこの場にいる全員の想いが凝縮されていた。あれは何だ、相澤の抹消に近い何かなのかと自分の中で思う中で即座にそれが否定されていく。抹消とは全く違う、あれは言うなれば―――

 

「ウォッ!!?」

 

刹那、翔纏へと一筋の閃光が放たれた。それは的確に腹部へと突き刺さると翔纏の背後へと黒い渦のような物が出現した。

 

「今度は何!?」

「分からぬが。マンダレイ、拳藤の確保を!!我は獣王だ!!」

「了解!!」

 

兎も角動くしかないと身体を動かす、マンダレイは呆然とし続けている拳藤を確保する。そして虎はその手を伸ばすが、直後に凄まじい勢いで翔纏がそちらへと向き直ってメダガブリューを振り被ってきた。

 

「くっ!!獣王、我が分からぬのか!?」

「ウォォォオオオオオッ!!!!」

 

黒い渦には引力のような物があるのか、翔纏は渦から逃れられないようだが目の前にいる虎へと只管に襲いかかろうとしている。それを見た虎は確信した、あの姿は暴走している状態なのだと。だがそれでは如何する、あの脳無をいとも容易く破る程の力を持ち、それを何の躊躇も無く暴力として振るう相手をどうやって確保しろというのか。余りにも難しすぎる案件、そして―――徐々に翔纏の身体は渦の中へと引きずり込まれていく。

 

「不味いこのままでは!!」

「ウオオオオオオッッッッ!!!!」

 

彼が連れ去られる!!と思う中で暴走し続ける翔纏がそれを邪魔する、助けるべき相手がそれを邪魔するという状況で虎は手を出せず―――翔纏はそのまま渦へと呑まれてしまい、直後渦は消え去ってしまった。

 

「くそおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

 

 

それは誰の声だったのか、悔しさに塗れた慟哭が森に木霊する。

 

ヴィラン連合による雄英高校林間合宿襲撃事件、多くのヴィランが生徒達に襲いかかる中生徒達は懸命に危機を乗り越えたと言える。だが……その中で最も乗りこえたというべき人物は拉致されてしまった獣王 翔纏であった。何故ならば……彼は自らに掛かる負担を度外視して自分に出来る全力を振り絞った。それによって多くの生徒が助けられた。

 

B組だけではない、ヴィランによって重傷を負ったラグドールもガタキリバの分身によって保護された。そして―――その分身は暗闇の中、暴走する常闇 踏陰の個性:ダークシャドウを抑える為に自らの身を犠牲にする捨て身の戦術、ワザと攻撃を喰らいながらも放電する事で周囲を照らして暴走を抑えた。だが……友を救った行動が彼にとっての最悪の引き金となってしまった。

 

全力を尽くした翔纏、そしてその果てに訪れたプトティラコンボ。それが何を意味するのか……それは直ぐに明らかになる。




冷気発生:プトティラコンボの固有能力。強力な冷気を放出し、対象を瞬時に凍結させる―――がこれは単純な冷気の放出ではなく、メダルが持つ性質による副産物であると考えられる。


プトティラ・アルティメット・スリー:二度目のスキャニングチャージで発動した必殺技。元々は伸びた角で相手を突き刺して放り投げ、ティラノレッグで回旋蹴りを叩き込むというガンバライドオリジナル技。

今作ではアレンジを加え、突き刺し放り投げた後にプテラヘッドで頭上を取り、そこからライダーキックを叩きこむという物になっている。

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