欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の天秤。

「って事はこの子って今の世界的に言えば殺すべき存在って事?」

「この世界のすべての人間、いえ個性を持つすべての人間から迫害される存在です」

 

突きつけられてしまった事実に言葉を失ってしまう翔纏、誰よりも望んだ筈の個性が誰にも望まれる事が無い物へと変貌したと分かった時―――翔纏の中で何かが砕け散ったような気がした。個性を自由に使いたい、強い身体になりたいと望んだ果てがこれか……何で数奇な運命だろうかと自らの運命を嗤った。

 

「なぁ翔纏君よ、お前はこうも思ってるんじゃないか。家族なら受け入れてくる」

「ッ……」

 

不意に突きつけられた言葉に硬直してしまった翔纏に死柄木はやっぱりかと呟きながら視線を合わせるように屈みながら真っ直ぐ、此方を見据えて来た。

 

「人間なんてもんは自分勝手だ、それが取り巻く世界も同一だ。今世界は雄英を叩き続ける、ヒーローを非難する。例えお前を俺達から助け出したとしても何れ露呈する時が来る、だが個性を壊す個性があると分かった時、お前を許容してくれるかな?」

「そ、レは……」

「今の社会は良くも悪くも個性で成り立ってる、お前のそれはそれを根幹から揺るがす。それが分かったらどうなる、人が、町が、国がお前を消しにかかる」

 

聞くな、聞いてはいけないと思ってもその言葉に耳を傾けてしまう。母が、父が、自分を見捨てる、捨てる訳がない。あんなに自分に優しくしてくれたみんなが自分を迫害する側に回るなんてありえない―――だが、それに納得した自分もいた事に驚いた。何故ならば―――家族は自分の個性について褒めたりすることが余りにも多すぎた。

 

「ヒーロー一族として成り立っているそれを支えているのは何だ?」

「個性……」

「そうだ、お前の個性はそれを破壊する。だとしたらどうなる?今まで手に入った莫大な名声や金を更に高めた自分の個性が壊されるリスクを負ってまでお前を傍に置くと思うか」

 

近くでそれを見ていた者達の目からも明白になる程に翔纏の視線は泳いでいた。迷っている、彼の本質は極めて純粋だ。良くも悪くも彼を成立させているのは欲望なのだ。だったらその欲望を少し突いて不安定にさせてしまえば、後は勝手に揺れ動いてくれると死柄木は分かっているらしい。翔纏は自分と似ていると思い、無意識に彼を庇うような言葉を選んでいる。

 

「だったら、少しでもお前にとって得になる側に就く事を進める。俺達はお前達を恐れない、寧ろ味方として歓迎する。お前の力で俺達を守ってくれ、そして俺達はお前を全力で守り抜く。互いにメリットがある」

「ッ―――!!」

「確かに俺達にも個性破壊のリスクはあるが、その程度で身が守れるなら安いもんだ。それにそうされないように尽力もする、だからお前も俺達の為に尽くす。如何だ?」

 

死柄木の言葉を聞いてある男は思った、中々に上手い手だと。交渉の基本は双方にとってのメリットとデメリットを明白にしてどのような利と損があるのかを理解させる事。翔纏にとっての損は何時恐怖に駆られて裏切るかも分からない事、そして利はビジネスライクに近くはあるが、許容した上で絶対的な味方を得るという事。

 

「加えて私からも利を提供しましょう。貴方のみを守る新たなアイテムの開発、そして本当の意味での制御アイテムと武器を作りましょう。憧れませんか、ドライバー無しの生活に」

 

精神的に弱まっている翔纏に揺さぶりを掛けていく悪魔の囁き、だが彼にとって悪魔ではなく天からの使いのそれに思え始めていた。それ程までに今の翔纏の個性は異端中の異端なのである。世界はその異端を排除するのが目に見えている、守ろうとする活動も起きるだろう。だが、結局世界の流れに逆らえずに遠からず、彼を引き渡す事を選択する筈。だったら最初から別の道を模索すればいい、世界と敵対し自分の居場所を作り出す側へ。

 

「さあ俺の下に来いよ翔纏君、いや翔纏は俺と同じ匂いだ―――お前は俺の右腕になるべき存在だ」

「俺、はっ……俺は……」

 

 

「ふざけるなぁ!!!」

 

一人の男の悲鳴と共にその場にカメラが転がった。殴られた男は信じられないと言ったような表情を作るが、それ以上に憤怒に塗れた男に胸倉を掴まれて無理矢理立たされた。そして殺意に満ちた瞳で睨みつけられて金縛りにあったかのように動けなくなっていた。

 

「テメェ今何つったぁ……!!もういっぺん言ってみろぉ!!!何も知らねぇど素人が偉そうに能書き垂れてんじゃねぇぞゴラァ!!!」

 

それを行っているのは翔纏の兄であるアンク。今、世間は雄英高校の林間合宿へのヴィラン襲撃を一斉に叩いている。そして拉致された翔纏の家族であり、トップヒーローの一角でもある彼らにも話を聞こうと報道陣が殺到する中で一人の記者がある言葉を言った。弟を守り切れなかった雄英について何か一言、と。それにアンクがキレた。

 

「いいかよく聞け!!!あの状況がどんだけ混沌としてたか分かってんのか!?プロヒーローが数チーム単位で動くようなヴィランが数名、そして他にも多くのヴィランが徒党を組んで、作戦を立てて計画的に攻めてきたんだぞ!!!寧ろこれだけの被害で済んだのは奇跡っつって良いんだよ!!!それを全て雄英のせいにするだぁ!?テメェ何年記者やってんだ何も分かってねぇ愚図がぁ!!!」

「やめろアンクやり過ぎだ!!」

「よしなさいアンク!!」

 

今直ぐにも記者を殴り殺そうとするアンクをウヴァとメズールが必死に止める、二人だって同意見だが目の前で自分より先にキレたアンクがいる為か少しばかり冷静になれている。それでもアンクの気持ちはよく分かる。

 

「あの場で翔纏は自分のやるべき事を精いっぱいやったんだ!!それをやれたのもイレイザーヘッドが戦闘許可を出したお陰なんだよぉ!!あの許可が無きゃどんだけの被害が出てたのかも考えられねぇのか!?これを見てるテメェら全員もだ!!」

 

アンクは生放送で回っているカメラを睨みつけながら、抑えられる身体を暴れさせながらも叫んだ。

 

「非難するだけなら誰でも出来んだよ!!何も分からねぇ馬鹿どもが!!!いいか、翔纏は絶対に俺達が、ヒーローが助け出す!!何があろうと、俺は雄英を責める事は絶対にしない、それを覚えとけ!!!今度似たような質問しやがった奴は絶対に潰してやる!!!!」

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