欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の矛先。

ヴィラン連合が根城にしていると思われるバー、そこに囚われている翔纏。だがその拘束は既に解かれている、死柄木曰く交渉は対等の条件でなければ成立しないというポリシーに基づいている。暴れるという選択肢もメダルが没収されている事から少ない、メダルなしで個性を発動させるという事は翔纏自身の死を意味する。それに―――翔纏自身が既に激しく揺れ動いてしまっているので、死を覚悟して暴れるという可能性が限りなく低い。

 

「如何だ、翔纏」

「ッ―――……」

 

ハイライトが消えた瞳、虚空を見つめるまま微動だにしなくなってしまった。無邪気そうでありながらも邪気に溢れている少女、トガヒミコが頬を突いても完全な無反応。それは命令を与えるまで待機している脳無を想起させる。

 

「ちょっとこの子大丈夫なの?完全に動かなくなっちゃったわよ」

「当然だ、今まで自分の中にあった価値観の全てがひっくり返ったようなもんなんだからな。それを受け止めるのも時間がかかる」

「憐れなもんだ、ヒーローに吹き込まれたが故の苦悩って奴だ」

「だからこそ相応しい、ステインと戦ったモノにこそ相応しい苦悩」

 

様々な意見が飛び交う中で死柄木は黒霧に適当な酒をオーダーする、それを受けて飲みやすい酒をセレクトしてグラスに注いで差し出す。それを軽く含みながら視線をズラして先生と声を掛ける。そこにはテレビがあり、画面にはただ文字だけが浮かんでいる。

SOUND

ONLY

 

「先生、これはこれで良いのか」

『今これが最善だよ。今彼は迷っているのさ、今までの全てを捨てるのかをね。ンフフフッ……これで折れなければ新しく揺さぶりを掛けるだけで良い、彼の中に禍根のタネを残し、後はそれが芽吹くのが待てばいいのさ。僕としても彼の個性はぜひとも欲しいからねぇ……まあ僕の中に入れるのは無理だけどねぇ』

 

その言葉に死柄木は素直に驚いた、自分が先生と呼ぶ男は正しく超人社会という時代に生まれた怪物にして魔王。その魔王は正しく個性を支配する化物だ。その化物が支配しきれないと言う個性は初めてだった。

 

『彼の個性は単純な物ではないんだよ、彼の遺伝子と密接な関りがある。獣王一族という動物系の個性の集大成というだけではない、生物の記憶とも直結しているが故に恐竜の力が発現したのさ。だから奪おうとすればその途端に個性は消えてしまうし、彼も死んでしまう。それは弔も望まないだろう』

「成程な、確かに望まない。俺はこいつが気に入った、俺達と同じ匂い、同じ側の存在だ」

『その通りだよ弔。さぁDr.真木、僕からの希望を遂行してくれ』

「ええ。私も興味がありますので」

 

そう言いながらも真木は残っていた紫のメダルに無色のメダルを3枚近づける、そのメダルの影響を受けて透明だったメダルに紫色の欲望が流れ込んでいく所でそれを翔纏へと投げつけた。それはまるでコインの投入口に入れたような音を立てながら翔纏へと吸収されていく。

 

「ッ……」

 

そして身体中から紫色の光を放ち始める、それは閃光となりながらもメダルとなって胸から排出された。それを真木は回収するとそこに刻まれている物を見た。そこにあったのは恐竜とは明確に違う物、正しく空想上の生物がメダルに刻印されていた。

 

「成程……貴方の予測は当たっていたようです、紫色のメダルは絶滅した生物だけではなく空想上の生物も該当するようです」

「どういう事だDr.真木。恐竜は絶滅した生物だろ」

「いえ違います、我々が知る恐竜の姿はあくまでも想像上の形。明確な形を確かめる事は出来ず、骨などから解析し再現した姿も正確とは言えません。故に空想上の生物というのは絶滅生物にも適応出来るのです」

 

真木の解説に周囲がへぇ~っと言いたげな雰囲気に包まれている中、真木はオーズドライバーにも似ている装置にメダルをセットすると直結されているパソコンを操作してデータを吸い出していく。ドライバーの開発者という事もあって吸出しはあっという間に終了した。メダルを引き抜くと、それはまたもや自分の意志で動き出していき翔纏の中へと吸い込まれていく。

 

「おいおいまだ取り込んじまったぞ、いいのか」

「メダルが選んだのです、自らの主として。我々には既に5枚のメダルとデータが手中にあります。問題はありません」

「なら、個性破壊もか?」

「それは無理でしょう。個性破壊は彼の強い破滅的な欲望が巻き起こす無への衝動、彼だけにしか出来ないでしょう」

「そうか、そりゃいい事を聞いた」

 

改めて死柄木は笑った、そして黒霧に新しく酒を注文する。その意図を汲み取った黒霧はカクテルを作り始める、死柄木にはキールを、そして翔纏への物は―――XYZ。それを取って翔纏へとカクテルを差し出す。

 

「お前にとっての最上の選択は俺の手を取る事だ、俺はお前という存在を歓迎し許容する。そして俺達は最高の相棒同士になれる、さあこれで乾杯しようぜ―――俺達の究極の出会いに」

 

キールに込められる言葉、それは最高のめぐり逢い。そして究極のカクテルとも称されるXYZ、それには行き止まりという意味もあるが永遠に貴方の物という意味さえもある。つまり、それを受け取り乾杯するという事は翔纏のヴィランへの移ろいを意味する。顔を上げた翔纏、そこにあるカクテル。

 

「俺は……俺は、俺は俺は俺は俺は……」

「大丈夫お前はお前だ。お前の全てを肯定して守り抜いてやるよ。一緒に歩もうぜ相棒」

 

その問いかけに翔纏は―――

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