欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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―――震える欲望。

「大丈夫お前はお前だ。お前の全てを肯定して守り抜いてやるよ。一緒に歩もうぜ相棒」

 

自分の全てを受け入れてくれる、全てを壊した後で新しい世界が自分を待っている。様々な欲望が渦巻きながら腕が動こうとした時―――

 

「どうも〜。ピザーラ神野店です〜」

「ピザ……?」

「誰だよ頼んだの、良い所で台無しじゃねぇか……」

 

舌打ちをする死柄木、だが一体誰が頼んだのか。その場にいるほぼ全員が呆けた顔をしている、誰も頼んでいないのかと思った刹那―――

 

「SMASH!!!」

 

剛腕の一撃によって壁が崩壊、そして同時に乗り込んでくるのは平和の象徴、№1ヒーローたるオールマイトだった。何故此処が分かったのか、如何して此処にオールマイトがいるのかなんてどうでもいい、死柄木は咄嗟に翔纏の壁になりつつ黒霧に指示を飛ばす。

 

「黒霧、ゲート!!」

「させん!!!先制必縛ウルシ鎖牢!!!」

 

背後から伸びた影からさらに伸ばされた鎖のように太い樹木がバーに居た全員を捕縛していく。若手実力派、シンリンカムイの必殺技によって一瞬でヴィランは全員拘束される。

 

「逸んなよ、寝てろ」

 

即座にその樹木を燃やそうと荼毘が炎を放とうとするが、素早く乗り込んできたヒーロー、グラントリノが荼毘の下顎を的確に蹴りつけて意識を奪い去った。

 

「流石若手実力派だシンリンカムイ!!そして目にも止まらぬ一撃、グラントリノ!!もう好き勝手にさせんぞヴィラン連合、何故ッて―――我々が来たぁ!!!」

「そう、俺達が来た。ピザーラ神野店はヒーローだけじゃないって事だ」

 

バーの扉の隙間から入り込んだヒーロー、エッジショットによって開け放たれた扉から完全に武装した警察の機動隊が姿を見せる。しかも外にはエンデヴァーを始めとしたヒーローが待機しているらしく最早状況は詰みに近い。だが死柄木は極めて冷静であった、一ミリの焦りも見せる事もなく背後の翔纏を気に掛けていた。

 

「獣王少年、待たせたねっ助けに来たぞ!!」

「―――っ……如何して……」

「簡単さっ我々がヒーローだからさ!!怖かっただろう、だがもう安心していい。君は私達が守る!!」

 

守る、守る―――?守るって何だ、ヒーローが俺を守るだと、守る訳がないだろう、俺はヒーロー社会を崩壊させる存在なんだぞ。何をほざいているんだ、ああそうだ……何も知らないんだ。だから言えるんだ、でも、一度知られたらもう終わりだ……もう終わりなんだ……。

 

「脳無を呼ぼうとしても無駄だ、既に脳無格納庫は我々が制圧している。覚悟しろヴィラン連合、もう逃がしはしないぞ!!」

「すいません死柄木弔、確かに指定の場所に脳無が……!!!」

「悪いが気絶して貰おうか、転移されては困る」

「数手先を取られたって奴か……成程確かに甘く見てたな……だけどな、此奴は渡さない」

 

腕ごと身体を締め付けてくる樹木、身体に腕が食い込みそうな力だがそれにも一切屈さずに立ちあがる死柄木。状況は最悪、黒霧もエッジショットによって気絶させられた。だが、引かない。その姿にオールマイトは目を疑った、何故ヴィランの彼が誰かを守るヒーローに見えたのか。雑念を捨てろと強く思うが―――死柄木は語る。

 

「此奴はもう俺達の仲間だ、手ぇ出すな。もうこの世界に此奴の居場所は俺達しかない」

「戯言を……!!獣王少年早くこっちに!!」

「誰がこんな時代にした、誰が此奴を拒絶する世界を作ったんだろうなぁ……テメェらだよヒーロー……!!」

「獣王少年!!少年、如何したんだ何かされたのか!?」

 

語気を強めながら殺意と敵意に染まり切った瞳でその場の全ての敵を睨みつけ始める死柄木、その言葉に少しずつ顔を上げていく翔纏。その瞳を見たオールマイトは明らかな異常を感じた。その目は―――まるで救いを求めていた者が、救いを見つけた時に見せる生気の宿った目だからだ。

 

「此奴は悪くない、だから俺が守ってやるんだ。だから失せろ―――ヒーロー!!!」

「戯言を抜かすな!!獣王少年さあこっちへっ!!」

「―――ぃゃ……ぃゃ……」

「獣王少年!?」

 

その場にいたシンリンカムイ、そしてグラントリノと共にオールマイトは見た。大粒の涙を流しながら拒絶するように死柄木の背後から動こうとしない翔纏の姿がそこにあったからだ。

 

「誰もが皆……貴方のように強い訳じゃない、誰もが一等星になれる訳じゃない……誰もが、優しい訳じゃないんだ……皆、貴方みたいだったら俺だって、安心出来るのに……」

「おいっ確りしろ!!精神干渉を受けてるのか!?」

「クソッ死柄木弔、獣王少年への干渉を止めろ!!」

「俺は何もしてない、するのはお前らだ」

 

頭を抱えるように膝をつき、頭を振って恐怖に震えていた。誰もがそれはヴィラン連合による精神干渉の個性によって正気を失っているように見える、特にオールマイトは強さを知っているが故に翔纏が言う訳が無いと断ずる……だが真実は異なっている。

 

「俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は―――」

「落ち着くんだ獣王少年!!君ならその呪縛を振り払えるはずだ!!」

「その思いがっ俺の全てを……壊すんだ……そんな世界なんていやだぁぁぁぁぁ!!!」

 

慟哭の叫びと共に翔纏から紫色の波動が周囲へと拡散していく。風圧とも音圧とも衝撃波とも違う何かに、全員が寒気と共に恐怖を覚えた。自分の中の何かが消えそうな絶対的な恐怖を齎す感覚に皆が困惑する中―――死柄木は笑っていた。

 

「悪いなオールマイト―――翔纏は俺達が守る」

 

その言葉と共にバーの空間内に灰色のような液体が出現した、空中に、いや空間に浮かんでいるそれからは無数の脳無が出現し次々と這い出して来る。

 

「脳無!?何もない所から!?エッジショット気絶させたのでは!?」

「確かに気絶している、此奴のせいじゃないぞ!!」

「くそどんどん増えやがるぞ!?」

「獣王少年!!!」

 

脳無が溢れかえりそうになっているバーの中、そこから救い出そうとオールマイトが手を伸ばす。一先ず彼を安全な場所へと連れて行かなければと手を伸ばすが、それを死柄木が蹴って阻止する。

 

「タイムオーバーだ、悪いなオールマイト。俺達の仲間には手は出させない」

 

力強い言葉と共に、今度は脳無が出現している液体が死柄木たちを取り込むかのように出現していく。それに呑まれたヴィランは次々と姿を消していく、そして最後に翔纏と死柄木を飲み込もうとする。

 

「獣王少年っ手を―――!!!」

 

オールマイトの言葉と手は虚空だけを掴んだ、先程までいた筈の翔纏は死柄木と共に消えてしまった。

 

「NOOOOOOOO!!!!」

 

 

「さて、個性は使いようだ。この意味の無い個性が君に新しい力を与える―――さあ新しい物語の始まりだ」


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