「ゲホガハッ……!!」
激しい嗚咽を漏らす、臭気を伴っていた液体に包まれていたが故の行動。肺の中の空気を一度すべて吐き出してから新しく新鮮なものを取り込もうと安静を測る。その時、背中を死柄木が優しく摩っていた。
「随分、お兄さんらしくなったね弔」
「ああっ……折角巡り合えた相棒だ、大切にするさ」
「いい子だ弔、これから僕たちの家族になるんだ。その心を忘れちゃいけないよ」
顔を上げた時―――そこには更に深い闇があった、本能が理解する。これは逆らう類のものではないと、動物の個性ゆえに分かるのかもしれない本能が告げるのだ。これは群れのボスだと、死柄木がヴィラン連合という群れのボスならばこれは更なる高みにてそれらを操る王だ。漆黒のスーツに身を包み、髑髏を思わせるような機械的な仮面にて顔を覆っている。
「初めまして翔纏君、僕は弔の保護者みたいな事をしているオール・フォー・ワンだ」
「オール・フォー・ワン……?」
「まあ気軽に先生とでも呼んでくれていいよ、そして今日から君は―――死柄木 翔纏、僕の家族だ」
家族、家族という言葉に一瞬身体が強く反応した。何故だ、如何して―――こんな風に
「さてっ家族になったお祝いだ、これを君に上げよう。Dr.真木、準備は出来ているね」
「ええっ急造品ですが、クォリティは保証します。どうぞ貴方が使うメダジャリバーの発展型―――とでも言いましょうか」
そう言いながら何処からともなく現れた真木が差し出してきたのは一本の剣であった。メダジャリバーよりもかなり巨大な一振りであり、バスターソードと言える程のサイズ。
「銘はまだ決めておりません、ですがそれはまだ使えません」
「ンだよ白けるな、おいDr.真木俺のは」
「其方は待ってください。それ自体も元々あるメダジャリバーを改造したので作れたのですから」
舌打ちをしながらも如何にも翔纏が渡されたそれを羨ましがるような仕草をしている弔にオール・フォー・ワンはクスっと笑いながらも次のステップだと其の肩に触れた。
「個性は使い方次第だ、こんな風にね」
片手を黒霧へと翳すと指が赤黒く染まりながらも伸縮してその身体へと触れる、そして巨大なワープゲートが開かれた。
「弔、翔纏君を少し借りるよ」
「ああ分かった、おいお前ら、早く逃げるぞ。じゃねぇとオールマイトが来る」
「ゲッそりゃ勘弁だ!! バッチこいだな!!」
そそくさと皆がワープゲートへと入っていくヴィラン、死柄木が黒霧を担ぎながらも最後に翔纏を一瞥しつつもまた後でなっと言い残してゲートの中へと入っていく。そしてゲートが閉じる。
「さあっ僕達も始めようか、翔纏君」
「俺、は……」
「大丈夫だ、君の気持ちはよく分かる。だからこそ君は此方側にいるべきなんだ―――でもちょっと待ってくれるかい、来てしまったようだ」
翔纏の前へと出るようにしながらオール・フォー・ワンは空を仰ぎ見た、雲によって閉ざされた天。曇天を晴らす光となってヒーローが舞い降りる、平和の象徴、№1ヒーロー、オールマイトが満月を背負いながら迫って来た。その剛腕を振るいながら、オール・フォー・ワンはそれを真正面から受け止めた。
「全てを返して貰うぞ、オール・フォー・ワン!!!」
「また僕を殺すか、オールマイト……!!!」
凄まじいまでの爆風が瓦礫の山と化している街へと轟いて行く、これがオールマイトの全力のぶつかり合いなのかと思わせるようなそれをオール・フォー・ワンは敢えて防御に回って受け止めている、背後にいる少年を守るが為のように。
「随分遅かったじゃないか。バーからここまで5km程度……僕が脳無を送り優に30秒以上は経過しての到着。脳無は改良したとはいえ、衰えたねオールマイト」
「貴様こそ、なんだその工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理をしてるんじゃあないか!?」
「お互い様だねそれは、だが君が遅れた時間に彼にあの剣を渡す事は出来た」
「獣王少年―――なんだ、あの禍々しい大剣は……!?」
翔纏が握り込んでいる一本の剣、それは刀身から柄、あらゆる部位が黒く染まっている剣。それでいながらも煌めくという特異性を見せ付けながらオール・フォー・ワンはある物を翔纏へと投げた。
「それに思いを込めてごらん、応えてくれるはずだよ」
「思いを……込める……」
「聞くな少年!!奴は君を利用しようとしているだけなんだ!!」
「利用……」
真っ白な何か、完全に色が抜け落ちてしまっているそれは落丁している本を思わせた。何も中身が無いそれはまるで自分のようだと思えた、言われるがままに思いを込めようとした時―――
「っ翔纏!!!」
「兄さん……」
突然の声に其方を向く、そこにはアンクの姿があった。背後には気を失っているメズールやウヴァと言った他の家族の姿まであった。如何やら兄達はバーではなく此処にあったと思われる拠点へと回っていたらしい。アンクは自分の姿を見ると胸を撫で下ろしながらも翼を広げながらも何時でも飛び立てるようにしている。
「アンクッこいつは私が抑える、その内に獣王少年を!!」
「分かってる、翔纏待ってろ今俺が―――」
―――やめて、来ないで……。
剣を盾にするようにして、身を守るような仕草をしながらアンクから遠ざかるようにオール・フォー・ワンの背後へと隠れた翔纏。それにアンクは驚いた、弟は自分を避けたことなど一度もない、いや家族を拒絶した事なんてないのだ。それなのになんだあの顔は……本気で此方を拒絶するような顔だ。
「アンクッ少年は精神汚染を受けているんだ!!オール・フォー・ワン、今直ぐ少年を自由にしろ!!!」
「心外だね、僕は何もしていないさ。僕はまだ剣を上げる事しかしていないさ、したのは君達の方さ。そしてこれからは彼がする」
「翔纏、兎に角ジッとしてろ!!」
「来るなと言ってるだろ……何も分かってない、何も分かろうとしていない―――俺はもうっヒーローなんかになれねぇんだよぉ!!!!」
慟哭と共に振るわれる剣、振るわれただけなのに翔纏が立っていた地面は沈み、周囲には凄まじい剣圧が襲いかかった。
「獣王少年、何を……!?」
「俺はもう、社会そのものから忌避される存在になっちまったんだよ!!!そんな俺が今まで通りに生きていける訳がない……兄さん、いやアンク―――貴方達だけには会いたくなかった……もう後には引けない……俺はっ俺は――――もう全てを消すしかない」
その時、咆哮のような音と共に翔纏からメダルが飛び出した。それは新たに投げ込まれたメダル、それは本へと吸い込まれていくと落丁した部分を埋めて新たな物語を紡ぎ出す。それと同時に剣と本が翔纏と一つになっていく、同化して一つになっていく。それを見てオール・フォー・ワンは笑いながら称える。
「フムッ如何やら剣の方はまだ時間がかかる様だね。それでも十分だよ、祝おう今日が君の誕生日だ。死柄木 翔纏、古き世界を滅ぼし新たな世界を紡ぎ出す欲望の王者だ」
「ヴヴヴヴァァァァァァ!!!!」
飛び出した3枚のコアメダル、そこに刻まれるのは恐竜。そしてそれをドライバーへとセットする。そして剣を地面へと突き刺す事で明確な意志を確かめる、そして―――オースキャナーでスキャンする。
「変身!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」
現れるプトティラコンボ、それが発散させる絶対的な強者によって齎される恐怖はオールマイトにも影響を及ぼす程。突き刺さった剣を引き抜き、構えた。
「ゥゥゥゥゥゥッッ……!!」
「冥府に眠る太古の王者の力を纏う王者の誕生だ。君はもう―――」
「ウオオオオオオオオッッ!!!!」