「如何、して―――……!?」
「翔纏君っお願いだ、僕達の所に帰ってきて!!」
「緑谷君、獣王君もう直ぐ着地する!!衝撃に備えたまえ!!」
「ダークシャドウ、着地任せる。お前なら出来る!!」
『オウヨォ!!!』
身体の各部を拘束されながらも何処かへと飛ばされていく翔纏へと絶え間ない言葉が掛けられて行く。暖かで何処までも自分への想いに溢れている物ばかりだった、そして遂に地面へと迫って来た。それを夜ゆえに巨大化していたダークシャドウが大地を掴むようにしながら衝撃を殺し、着地した。
「―――やめっろ……ヴオオオオオオオオオ!!!」
着地した際に自分の拘束するダークシャドウの手が離れた事で全身に力を込めて全員を吹き飛ばしてしまう、爆発的な衝撃波によって離れた全員の姿にハッとしたように言葉を失うかのように後退る。
「流石、八百万さん……此処なら、誰の邪魔も入らない……!!」
緑谷の言葉に周囲を見るとそこはまだ未完成の、骨組み程度しか完成していないスタジアムの中央部である事が分かった。此処まで入念に計画を立てた、そして勇気を奮い立たせて実行に至った。そこには此処にいる全員の力が無ければ出来なかった。
林間合宿での一件、そこで限界を超え過ぎた緑谷は身体に多大な負担が掛かってしまった。両腕はまともに機能しない程に損傷が著しく、同じような無茶を続ければ腕が使えなくなってしまうという程の怪我を……今後、身の振るい方次第で爆発する爆弾を抱える事になってしまった彼、怪我自体はリカバリーガールによって回復はしたが―――攫われた翔纏を助けられなかった事が余りにも重く圧し掛かっていた。
「行くぞ緑谷。俺は―――親友を助けにも行けねぇような下らねぇもんになる気はない」
「うんっ行こう……!!」
だが、それを無視して緑谷は翔纏救出へと動き出そうとしていた。肝試し中に八百万がB組の生徒と協力し、ヴィランに発信機を取り付ける事に成功している。そしてその受信器があれば後を追う事が出来る、八百万の説得は出来ている、彼女自身も同行し、危険な時には止めるという条件付きではあるが……。そして飯田もそれに同じくだった。
「もう一度聞くぞ轟君、本気なんだな……!!」
「ああ。俺はこの結果で―――もうヒーローになれなくても悔いはない。親友一人助けられねぇような俺はいらねぇ」
同じステインの事件を乗り越えた仲である彼が問いかけた、だが彼は止まる気はない。どんな結果が待っていようとも、後悔はしない。するならやれる事を全てやってからするつもりでいる。既に日は落ちている、動き出そうと―――いう時に彼らを止める一つの影があった。それは―――
「常闇」
「常闇君……」
「矢張り、行くのだな」
それは常闇であった、病院近くの壁に寄り掛かりながら待っていた彼は緑谷達の姿が見えるとダークシャドウの腕を伸ばして静止させながら声を出した。だが、それを見て緑谷は意外に思えた。
「常闇君、ダークシャドウを制御出来てるの……?」
「ああ、忌々しい事にあの一件が俺に俺自身の闇を完璧に制御する術を授けたのだ。腹立たしいがな」
相当に悔しいのか何度も繰り返し言っている。そしてその一件とは―――林間合宿での出来事だった。
『ガアアアアッッ!!!』
『と、常闇ぃ!?なんぞこれ!?』
『獣王か!?駄目だ、早く俺から離れろぉ……!!』
ヴィラン連合の攻撃は常闇も被っていた。その時に障子に庇われた際に彼が負った怪我により生じた義憤と悔恨の心、更に夜で厳しくなっていた制御が解かれダークシャドウが暴走してしまう。彼の個性は闇が深れば深い程の攻撃力が増すが制御が難しくなっている。真夜中且つ薄暗い森の中では最早その力を止める事は難しい。
『駄目っ逃げてくれ、俺から―――離れろ!!!』
『いや逃げない!!俺はお前を助けに来たんだ、ダークシャドウを俺に向けろ、俺をっ信じろ!!!』
強い言葉に救いを想った、だがそれに感応したのかダークシャドウは真っ先に翔纏へと迫っていった。森の木々を平気で圧し折るパワーを持った漆黒の腕が迫る、だが翔纏はそれを回避する事なく真正面から受けた。
『ガァッ……ァァァァァアアアアアッッッッ!!!』
『獣王っ!!!』
『知ッテイルゾ……貴様、俺ヲ満タセェェェェェ!!!』
とんでもない力で抑えにかかるダークシャドウ、それによって一瞬で抑え込まれて万力のような力で身体を締め上げながら自分と戦えと要求するダークシャドウ。苦しみの声を上げる翔纏に常闇は自分の個性は友を苦しめる為にあるのか、と歯を食い縛るが、直後に翔纏の声がそれをかき消した。
『凄い個性だな、常闇……大丈夫、今度は大丈夫これを制御して、今度は巨大ヴィランと戦おう、な……!!!』
『お前、如何して―――』
『そして、待っていたぜ……この瞬間をぉ!!最大放出大放電んんん!!!』
『ピヤァッ……』
『静まれぇぇぇぇ!!!』
ダークシャドウの一撃を受けながらもクワガタヘッドからの最大放電。放電ゆえに狙った場所へは難しい、故にダークシャドウが超至近距離まで近づいてくれる距離まで粘った。そしてそこで多少外れても問題ないように最大パワーでの放電でダークシャドウの暴走を抑える為の放電の光をぶつけた。それによって制御を取り戻した常闇はダークシャドウを収めて直ぐに翔纏へと駆け寄った。
『獣王!!すまない、俺が未熟なせいで……』
『気にするなよ常闇……成長する為に、俺達は雄英に来たんだ……それにお前なら絶対―――フルパワーダークシャドウを制御出来る筈だ……』
息も絶え絶え、もう動けないようなダメージを負っている筈なのに翔纏の声は何処までも明るくて、笑っているように思えてしまった。だが、その身体は徐々に薄れて始めていた。まるで液体の中に溶けていくかのように粒子となっていく。
『獣王、おい如何したんだ!?』
『悪い常闇……俺は此処までだ、安心してくれ、俺自身は分身でしかない……周囲に誰かいたら、ダークシャドウを使って助けてあげてくれ……』
『だ、だが俺は……』
『大丈夫』
消えかかっている手で常闇の腕に触れる、消えかかっているのになんて力強いんだと思った。そして握り込んできた。
『怒りじゃなくて、誰かを救いたいって気持ちでダークシャドウを操るんだ。誰かの為に為したいって想いで―――頼む』
そう言って消えた翔纏の分身、言葉を残して消えていった友。その時、常闇の身体から闇が溢れていった。
『ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!』
『我が友の想いに懸けて―――ダークシャドウ、闇を統べる王と成れ。命を、友を救うぞ!!!』
『良いダロウ!!ダガ手綱ヲ握ルノハオ前ダ』
『ああ、ダークシャドウお前は俺だ、そして俺はダークシャドウ、お前だ!!』
フルパワーであるのにも拘らず、常闇はダークシャドウを完璧に制御していた。そしてその力を存分に使う事で近くで隠れていた障子と緑谷をその身に乗せながら、近場で戦闘を行っていた爆豪と轟へと救援に入ると―――
『一蹴しろダークシャドウ!!』
『オウラァ!!!』
二人を圧倒し続けていたヴィランを一撃の下で撃破する程のパワーを発揮しながらも完璧にダークシャドウは指示に従っていた。
『粋ガルナ、三下風情ガァ!!』
『常闇、お前それ―――!!』
『安心しろ制御は出来ている、それより早く乗れ!!宿舎まで撤退する!!』
窮地を脱する事が出来たのは翔纏のお陰だった。彼が自分を救ってくれた、そして道を示してくれた。自分の闇とどのように向き合うべきなのかを。
「今の俺があるのは獣王のお陰だ、俺はその借りを返したい。また共に歩みたい、そして―――友として、握手をしたい」
「常闇君―――うん行こう」
「俺だけではない、もう一人いる」
そう言いながら身体を動かすと背後にいたもう一人の姿を見せた。委員長である飯田は誰か分かったが、まさか此処にいるとは思いもしなかった。
「君は拳藤君!!」
「や、やっほ……あの、翔纏の救出に行くんだよね。アタシも一緒に行かせてくれないかな……」
「拳藤さん……ですがどうして……」
「アタシっ……ずっと居たんだ、翔纏の傍で……」
翔纏が一番戦っていた、この林間合宿で一番戦っていた。自らに降りかかる破滅のリスクなんて度外視して救える命を救う為の行動を全て行っていた。その苦しみと戦い続けていたのを見届けていたのは拳藤だった。彼こそがヒーローだ、なれるだとしたら彼のようになりたい。
「役に立てるかは、分からないけど……連れて行って」
実際自分が翔纏の救出に役立つのかと言われたら微妙な所でしかない。それでも同行したいと強く思っている。
「分かった、行こう拳藤さん」
「緑谷君!?」
「多分、此処で駄目だって言っても強引についてくると思うよ。だったら一緒に連れて行った方がいい」
こうして誕生した翔纏救出チーム。そして―――彼らはオール・フォー・ワンがいる脳無格納庫へと辿り着き、そこで決戦に巻き込まれそうになったが―――
「俺が許可する、存分に個性を使え」
翔纏の一撃によって吹き飛ばされたアンクがその存在に気付き、個性の使用許可を出した事で一気に計画が進行した。八百万が自身の家が建設しているスタジアム予定地の座標を割り出し別ルートでスタジアムへと向かう、焦凍がスタジアムへと行く為のコースを形成。飯田と緑谷が共に機動力を確保、常闇と拳藤で翔纏を拘束してスタジアムへと身柄を移動させる。
―――此処までは計画は上手く行った、後は……
「……やめろ、俺は俺は……ヴアアアアアアア!!!」
暴走と理性の狭間で揺れている翔纏を確保するだけ。
林間合宿で起きたガタキリバの分身のダメージ超過、その原因は常闇。でもそれを選択したのは全て翔纏自身。この事態も翔纏が招いた結果とも言える。