欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

59 / 62
根底を覆す欲望。

「皆様っ遅れました!!」

 

スタジアムに到着してから少ししてから百が到達した。乗ってきたバイクから飛び降りながら着地しての登場、バイクが横転し爆発炎上しているが恐らく彼女の個性で作られた物なのだろう。故に余り気にしないでおく。

 

「此処は我が家の私有地ですわ、どうぞご存分に個性をお使いくださいまし!!お父様、お母様の許可は取ってあります!!」

「有難う八百万さん!!」

「よしっ……獣王君を連れて帰るぞ!!」

 

飯田の言葉に力強い返事が返ってくるが、それに対して未だプトティラコンボである翔纏は好意的な反応を返す事は無かった。低い唸り声を上げ続けている、拳藤の話通りにあの姿は基本的には暴走の姿だと考えるのは間違っていない、だが同時に翔纏の意識は残っている、ならばチャンスはそこしかない。

 

「如何して、来たんだ……ヒーローでも、無いお前らが……!!!」

「ダチだからに決まってんだろ」

 

分かり切った事を聞くなと言わんばかりに焦凍がそれに答える、唯友達だから助けに来た。それだけの言葉に翔纏は更に言葉を失う、危険を冒してあんな所にまで来た……なら猶更自分に近づける訳にはいかない、もう、自分は友達ですら―――

 

「翔纏っ!!アタシ達全部聞いてたよ、アンタの中にあるあの紫のメダル!!その姿、個性を壊しちゃう位にやばいパワーがあるんだよね!?私達、そんなの怖くない!!」

「―――っそれを、知ってるのに……」

 

彼らはあの場では瓦礫の陰に隠れていた、だがそこでオール・フォー・ワンが語っていた言葉は全て聞いていたのだ。この姿、いや紫色のメダルが個性そのものを破壊するというのに―――それを聞いて尚自分を助けに来た……信じられなかった。ヒーローを目指している彼らが絶対に恐れる筈のものを前にしてやってきたというのか。

 

「別に怖かねぇよ、どんな個性も使いようだ。お前なら爆豪みてぇに脅して使う訳でもねぇだろうからな」

「轟君!!級友を貶めかねない言動は慎みたまっ……いや、しかし爆豪君ならあり得てしまう、のか……容易に想像できてしまった……僕は彼を信じる事も出来ないのか!?」

「大丈夫だよ飯田君、カッちゃんなら絶対やるから間違ってないから」

「飯田、緑谷気持ちは分かるが今そんな事を言ってる場合ではなかろう」

「ま、まあ飯田さんのおっしゃりたい事も分からなくもない、というか否定できる材料が無いと申しますか……」

「……噂は聞いてるけどさ、どんだけやばいの爆豪って。アタシも注意しとこうかな、主に物間が煽って逆襲されないように」

 

そこにあるのは普段通りの光景だった、クラスで行われるやり取り。それとほぼ同じ物がそのままそこにあった、如何して今の世界にとって絶対的な恐怖をまき散らす存在である自分を前にして其処まで平静を装う事が出来るのか、訳が分からないと動揺が剣へと伝わる状況で緑谷が言う。

 

「翔纏君、君は僕に言ったじゃないか。欲望が、夢が生きる力をくれるって。だったら、君に今は夢はないっていうの、欲望はないの」

「欲、望……俺の欲望……」

「君だってヒーローになりたくて雄英に来たんじゃないの、僕の知っている君はそんな弱くはないよ!!!」

 

弱い、弱い……確かに自分は弱い、だが―――だったらどうしろというのだ。

 

「分かったような口を利くな……ならっお前なら立ち向かえるのか、自分の力が世界の秩序、バランスすら危うくするような力になってしまった事に。世界が俺を消す為に力を差し向ける事だってあり得る、家族ですら抗えない世界の波に!!!」

「翔纏……」

 

想像も出来ない、他者どころか世界そのものが排除しに来るレベルの危険な個性。超常黎明期以上の混沌を齎すかもしれない存在を世界は生かしておかない、世界から拒絶されるならば自分からそちら側に行くしかない。

 

「誰も分からない、この恐怖だけは……!!」

「じゃあ君は本当にそれでいいの!?君の欲望は本当にそう思ってるの!!君は唯、現状に叩きのめされて欲望を持つ事を諦めてしまっているだけなんだよ、だから無の欲望に囚われるんだ!!」

「黙れっ……」

「黙らない!!君の欲望はそんな物じゃない筈だよ、君がその力を誰かを守る為に使いたいって思うんなら、破壊者の力だって守護者にも変える事が出来る!!」

 

この力が守る側の力になれる……そんな絵空事を信じて一歩を踏み出せと言うのか、家族の手すら振り払ってしまった自分がそんな事が出来るのか。分からない、分からない分からない。自分だってヒーローという夢を諦めたくはない、家族のようなヒーローになりたい、そんな夢を、欲望を―――

 

「そんな欲望を―――ッ……!!」

 

突如、翔纏が立っている地面が陥没するように亀裂が入っている。彼自身の脚力、強く地面を踏みしめるように力を込めただけで大地が悲鳴を上げた。その光景に一同は驚愕した。矢張りあの姿は他のコンボとは一線を画すパワーを秘めているのだと。

 

「欲望、俺の夢……そンナ物、モうイラなイ……俺ハッ……ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」

 

その瞳が一段と濃い紫色へと変貌した時、翔纏は天へと向けて噴火にも等しい咆哮を上げた。説得は失敗かと皆が険しい顔を作ろうとするが、違う。失敗していない。寧ろ成功に近い。

 

「翔纏はまだ諦めてない、まだこっち側に居たいって思ってる!!でもっまだ恐怖と絶望に囚われてる、あのヴィランが言ってた言葉に支配されてる!!」

「なら話は早い、こっちも全力で対応しながら思いをぶつけてやりゃいい。それであいつが俺達と居たいって思わせりゃ勝ちだ」

 

翔纏に欲望を思い出させる、無の欲望、全てを拒絶する存在になったが故に欲望すら否定して無欲で居ようとする。その為に自分達を遠ざける、揺らいで戻ろうとすれば深い絶望を味わう事になる。だから留まろうとする。その絶望すら突き破ってやろうじゃないかと全員が戦闘態勢に入る。

 

「僕達があの個性に負けない、そんな所を見せてやるんだ!そうすれば……翔纏君は安心出来る!!!」

「かなり危険な賭けになりますわね……個性の消滅すら覚悟しなければいけないとは……ですが、学友を取り戻す為ならば、その程度のリスクは当然ですわね!!」

「その通りだ八百万君!!苦しむ友一人を見殺しにして、俺はヒーローになんてなれない!その末に個性を失おうと悔いはないし個性は無くなったら、その時は警察官になろう!!」

「流石前向きだな飯田。正しく修羅との戦い、だが恐れはせぬ。獣王、いや翔纏よ―――今度は俺がお前を救う!!」

「翔纏、今度は俺がお前を救い上げる。体育祭でお前が俺にしてくれたみたいにな」

「今度は離さない―――アタシがアンタの手を掴んで、絶対に引き上げるから……!!」

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

大地を砕きながら迫る古の覇者、爆発的な加速を付けながらの飛び蹴りが友を救う為の戦いの号砲となった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。