欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の鍛錬。

カンドロイドと戯れている間に皆がやって来た、その身に自らが理想とするヒーローの姿を写し出しながらもやってきた。まだ生徒でありながらもそこにあるのは確かなヒーローへの渇望と目標、正しくこの瞬間には翔纏が最も好む物に満ち溢れている―――そう欲望に。

 

「始めようか有精卵共!!戦闘訓練の時間だ!!!」

 

オールマイトの言葉を皮切りに授業が本格的に開始される事になった。これから行われるのは屋内における戦闘訓練。昨今凶悪なヴィランの出現率は屋内が高い上にそのまま戦闘になるケースが多いので屋内戦が重視されている。室内では思い掛けない物が勝負の成否を分ける事がある上に、空間も壁や天井で覆われている為個性によって得手不得手が出て来てしまう。そこを今の内にハッキリさせて訓練を積んでおく必要がある。今回の訓練では屋内というだけではなく条件を決め、そこにヒーローチームとヴィランチームという二つに分ける事となった。

 

1-A戦闘訓練:室内対人訓練。核兵器の奪取及び防衛。尚、核兵器は本物として扱う事。

 

ヒーローチーム:制限時間内にヴィランチームが守っている『核兵器』の確保、又はヴィランチームの確保。

 

 

ヴィランチーム:制限時間までに核兵器を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保。

 

 

「それではくじ引きだっ!!一人一枚ずつ引いて、そのくじに書いているアルファベットと同じ物を持っている人とチームだ!!」

「適当なのですか!?」

「プロはその場で即席のチームを組む事が多いからそこから来てるんだと思うよ飯田君」

「成程、そのような意図が……!!」

 

真面目な飯田がちょくちょく質問しながら進んでいくオールマイトの授業、さて一体どのような組み合わせになるのかとドキドキしながらくじを引いてみる。誰と一緒なのかと紙と視線を巡らせてみると―――自分とチームを組んでくれる相手が見つかった。

 

「ウチと一緒みたいだね、一緒に頑張ろうね」

「宜しくね。改めて獣王 翔纏だよ」

「宜しく獣王、ウチは耳郎 響香」

 

耳たぶの辺りからコードのような物が伸びている女子生徒、耳郎 響香とチームを組む事になった。話をしてみるとプラグになった耳たぶを挿すことで自身の心音を爆音の衝撃波として放ったり遠くの音を拾う事が出来る個性との事。コスチュームもそれらと併用する事で強力に出来るようになっているとの事。

 

「それじゃあこれ、持っててね」

「何これ、缶?」

「それ俺のサポートアイテム、ちょっと開けてみて」

「うん」

 

手渡されたカンドロイド、それを起動させてみるとタカちゃんは彼女の周囲を飛び回り始めた。

 

「えっ何これ超かわいいんだけど!?」

「タカカンドロイドのタカちゃん、索敵はお任せな子だよ」

「凄いじゃん!もしかして他にも種類あるの!?」

「うんあるよ~こっちがね」

「お~い獣王少年に耳郎少女、仲がいいのはこれからの訓練でも大事な事だけど今度はチーム対戦発表だぞ~」

 

注意されてしまったので一旦其方に集中する事にする、どんな相手と戦う事になるのかと思っている中で発表される対戦カード。その相手は―――切島と瀬呂のヴィランチーム、必然的に此方がヒーローチームになる事になる。

 

「あの二人か……獣王、あの二人の個性って覚えてる?」

「切島君が硬化で瀬呂君が肘辺りからセロテープ射出、う~ん防御と移動と妨害が揃い踏みとか純粋に面倒」

「だよね……」

 

率直な感想がそれだった。硬化の個性によって抜群な防御力を発揮する切島とセロテープを放ちそれで移動も出来るし妨害も出来る瀬呂の組み合わせは素直に脅威。シンプルな組み合わせだがそれ故に厄介さが際立っている所がある。

 

「ねぇっ獣王、アンタの個性ってまだまだ幅があるんでしょ。対応出来る奴に変身出来たりしないの?」

「出来るよ?」

「即答!?」

 

それだけ自分の個性の幅は広い、最大戦力を除外したとしても対応可能な組み合わせは存在する。既にその目安も付けてある。

 

「でもそれだとちょっと索敵が不安かな」

「それなら大丈夫だよ、ウチがカバーするから。チームなんだから助け合ってなんぼでしょ」

「確かに―――ヒーローは助け合いでしょって事だね」

「そういうこと」

 

と拳をぶつけ合ってから握手をする、分かりやすい上に自分に出来る事をしっかりと見極められている耳郎に好印象を持つ。これは中々にいい相手とチームを組む事が出来た。

 

「よしっ頑張りますかぁ~」

「うんっそれにしても前座が凄すぎてなんかウチたちのはあんまり注目され無さそうだよね」

 

そんな愚痴を零してしまう耳郎の気持ちは酷く分かる。自分達の前の訓練であったヒーローチーム、緑谷 出久・麗日 お茶子 VS ヴィランチーム、爆豪 勝己・飯田 天哉の第一戦。ヒーローチーム、轟 焦凍・障子 目蔵 VS ヴィランチーム、尾白 猿夫・葉隠 透。この二つの戦いは間違いなく今日の訓練のツートップだった。

 

方や死力を尽くした激闘を演じた緑谷と爆豪の戦い、一瞬でビル一つを凍結させてヴィランを無力化した上で核を確保した轟。これ以上の驚きをどうやって出せというのか。その為か幾ら自分達が頑張ってもそれが評価されそうにない為か僅かにブー垂れているのだろう、そんな耳郎に翔纏はドライバーを装着しながらも元気出してと肩を叩く。

 

「自分の価値は誰かに決められるもんじゃないよ、自分で決めるもんだよ」

「自分の価値って……自分で決めて良いもんなの?」

「商品の値段と同じだよ、どんな物でも利益と手間を考えて決める。それなら自分の価値を自分で決めてもいい筈だよ」

「―――良いねその考え」

 

と不敵な笑みを浮かべた耳郎、不満げな表情は消え去って明確な自信で溢れかえっていた。

 

「本気出して戦うなら負ける気もしないでしょ、負ける気しない俺達が組めば足し算ぶっ飛ばして掛け算だよ」

「ははっそれじゃあ翔纏も確りとガチでやってよね」

「お任せ、最大は出せないけど最高戦力は出すよ」

『獣王少年に耳郎少女、もう直ぐ始めるけど準備はいいかい?』

 

通信機になっているイヤーカフスから聞こえてくるオールマイトの声、間もなく準備時間も終了する。その警告だろう、だったら早めに変身してしまおうとメダルを装填する。

 

「ええっいいですよ―――それじゃあ耳郎さん、行こうか」

「やってやろうじゃん」

キンッ!

キンッ!

キンッ!

「その意気、それじゃ―――変身!!」

 

「よし瀬呂頼むぜ!!」

「おうよっ!!」

 

核兵器を安置する部屋の中、切島の声と共に瀬呂は笑みを零しながらも部屋中にテープを伸ばしていく。部屋中に張り巡らされるテープの網、粘着性もあり耐久性もある為に下手に突破しようとしても絡めとられて動けなくなる。例え翔纏がどんな姿で来た所で確実に捉えられるという確信があった。何時でも来い……と待ち構えている時に扉を含む一帯の壁が消し飛んだ。

 

「「ッ!!?」」

 

思わず構えを取った、そして瀬呂はテープを発射して拘束を試みる。見事に絡めとって取ったっ!!と思ったがテープが直後に力に耐えきれなくなったかのように千切れ飛んだ。土煙の奥から姿を現したのは―――個性把握テストでみたような生易しい物ではなく、両腕が肥大化しまるで本当のゴリラのようになっている翔纏。そしてそれは初めて見る組み合わせの姿でもあった。

 

クワガタ!

ゴリラ!

チーター!

 

その組み合わせはこう呼ばれている。ガタゴリーターと。その隣には肩にタカちゃんを乗せて何処か得意げな顔をしつつも寄り掛かるように耳郎がおり、不敵な笑みと共に警告を発した。

 

「大人しくしてくれれば痛い目には合わずに済むよ」

「投降なんざするかよ!!やるぜ瀬呂!!」

「おうっ今度はグルグル巻きにしてやる!」

「やってみろ……!!」




翔纏、割かし容赦なしな亜種形態、ガタゴリーターでのエントリーです。

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