「翔纏の今の頭って初めて見る奴だな!!」
「形状からして……クワガタ、だろうか」
「前に色でも分かれてるって言ったわ、バッタが緑色だからあれも昆虫だと思うからきっとクワガタで正解だと思うわ」
待機中の他の生徒達はオールマイトと共にビル内部を見られるモニターの前にてその戦いを見つつ分析などをしていた。耳郎がビルにプラグを差し込み音を探知、加えてタカカンドロイドによる索敵を行う事で情報の確実性を高めてそこへ姿を変えた翔纏が耳郎を抱えて素早く移動して殴り込みをかける。時間も全くかかっておらず酷く鮮やかな手腕だと言わざるを得ない、がそれ以上にオールマイトは別の部分に驚いていた。
「(獣王少年の今の脚、チーターメダルのチーターレッグ。圧倒的なスピードだけではなく消音までもが可能とは……何処まで万能なのだ)」
音声は都合上、オールマイトのみが確認出来る物となっているがビル内部を駆け抜けていく翔纏の足音は全く聞こえてこなかった。ほぼ無音、聞こえるのは走った際に起きる空気の流れ程度の音。単純な戦闘力の高さだけではなく隠密性も高いと来ている、手元の資料には各種メダルによって発揮される能力の一覧があるが、確かにこれは最強格の力だと納得してしまう。
「(さて見せて貰うよ獣王少年、獣の王と呼ばれる一族随一の力とやらを)」
ゴォォンッ!!
何度も何度もぶつかり合い響き渡る重低音、部屋に木霊する音に切島は武者震いを何度も起こし瀬呂はその音に喉を鳴らし、耳郎はその音に頼もしさを覚えていた。拳をぶつけ合わせ続けるそれはドラミングにも聞こえヴィラン側への威嚇にも取れる。
「核が欲しければまず俺達を倒してみな!このテープの網を越えられるならな!!」
「なら突破しよう」
その時だった、翔纏の頭部のクワガタヘッドに緑色の閃光が溢れ始めていた。凄まじい放電を行いながらもそれを前方へと飛ばす為に大きく身体を振った。それによって溢れ出した電撃が部屋中に設置されていたテープへと襲い掛かっていきその一つを焼き切断していく。張り巡らされていたそれは一瞬で意味を失ってしまっていたが、その直後に飛び出した影があった。
「ウォォォォォッ
無力化されたとはいえ無駄にはならない、と言わんばかりの強襲。罠を全て破壊し放電を収めた今ならば行けると踏んだ攻撃、腕を硬化させながら渾身の一撃を放つが予知されていたかのように拳を構えた翔纏がその巨大な腕でパンチを繰り出し、切島の一撃と激突する。硬化した切島の一撃が勝つと思われたが―――
「ッッッってぇっ!!?」
「マジか!?」
硬くもありながらも勢いも付けた渾身の一撃をあっさりと返り討ちにした翔纏の一撃。一方的に競り勝ちながらも逆に切島の防御を貫通する一撃となった事実は瀬呂に衝撃を与えた、だがそれに囚われる隙も与えないと言わんばかりに即座に一歩前に出ながら切島の腕を掴みながら背負い投げで床に叩きつける。
「ガハァッ!!」
「隙あり!!」
「アバババババッッ!!?」
叩きつけられたショックで一瞬呼吸を忘れそうになり、同時に硬化の解除と発動が困難になる。そこへ耳郎がプラグを突き出して自らの心臓の音を直接切島へと送り込んで、音の衝撃で切島の意識を喪失させてその腕に確保テープを巻きつける。
『切島少年確保!!』
「マジかよ一瞬で!?」
切島の硬化をものともしない一撃にも驚くが手際の良さに驚かされている、耳郎のイヤホン=ジャックの一撃は相手を傷付け過ぎずに確保するには適切。だが対象が硬すぎると刺さる事はないので翔纏が切島が硬化を使えなくする所まで追いこんだ。
「さあっアンタ一人だね瀬呂、続ける?」
「い、いやぁ俺としては切島の仇を取ってやるぜって言いたい所なんだけど……無理ゲーだろこれ……」
笑顔で続行か終了かの選択を迫ってくる耳郎、その背後では両腕を打ち鳴らして戦闘続行体勢を維持し続けている翔纏。きっと続けるという言葉を言った途端に超スピードで駆け寄りながら電撃かあの巨腕での攻撃が待っているに違いない。二重の警告、飴と鞭とでも言うべきだろうか。だが男として自分の個性を無駄にしない為に突撃した切島を裏切る行為なんて―――
「出来ねぇよなぁ!!続行だぁぁ!!!」
「はいっという訳で戦闘好評を始めるぞ」
「何も出来なくてマジですいませんでした」
「いや気にすんなよっ俺の仇の為に身体張ってくれたんだろ、お前も熱いな瀬呂!!」
決死の覚悟を決めて続行を決めた瀬呂だったがその直後、突進してきた翔纏の右ストレートがクリティカルヒットして壁をぶち抜いて隣の部屋に転がされてノックアウト。返答から僅か1秒、正しく速オチ2コマに相応しい光景に耳郎は笑いを抑えきれずに大爆笑していた。結果、瀬呂は現在切島に土下座して詫びるという事態になっている。
「き、切島ぁ……お前優しい奴だったんだなぁ……」
本気で申し訳なく思っている瀬呂だが、肝心の切島については何とも思っていない所か勝ち目も薄く降参するのが妥当なのに自分の為に最後まで戦おうとしてくれた事に感謝を込めてサムズアップを向ける程のナイスガイっぷりを見せ付け、思わず瀬呂は涙するのであった。
「さて今回のMVPだが……獣王少年と瀬呂少年だ!!」
「俺ぇぇぇぇぇ!!?」
何故自分が選ばれたのか全く理解出来ずに大声を上げてしまった瀬呂、最後情けなくやられてしまったのに如何して!?と言いたげな彼に対してオールマイトは誰かその理由が分かるかな?と振ると八百万が手を上げた。
「まず獣王さんですが自らの個性の特性を最大限に生かしていたからだと思います、頭部の電撃だけではなく高威力の腕部に高い速度の脚部の組み合わせも凄まじかったです。瀬呂さんについてですが……恐らくになってしまいますが、最後まで立ち向かおうとしたからではないでしょうか」
「そう大正解!!」
オールマイト曰く、経験上一番厄介な相手というのは何があっても向かってくるヴィラン。それが此方が狙っているモノを守っているヴィランならば猶更、いざという時はそれを使った強硬手段も取る事もあるので非常に厄介。
「だからこそ続行の意志を見せた瞬間に踏み込んだ獣王少年もナイス判断だったぞ!!あれならば妙な動きもされる前に確保出来るからね」
「有難う御座います」
胸を満たすもの、自分の力が正当に評価されている事が嬉しかった。無意識に拳に力が籠った、そしてまた次を望んでいる。それを求めて手を伸ばす前に―――
「獣王、今回はアンタのお陰だね。組めたのがアンタで良かったよ」
「此方こそ。耳郎さんの索敵能力があったこそだよ」
「兎も角ホラッ」
「はいっ」
手を差し伸べてくる彼女のそれに応えて握手に応じた、互いに互いの健闘を称える光景にオールマイトは頷きながら青春青春!!と喜ばしく思っている一方―――
「「女子と満面の笑みで握手するとかふざけんなよあいつぅぅぅ!!」」
と一部男子から妬みを買ってしまっていた。
ガタゴリーター。
クワガタ、ゴリラ、チーターのコアメダルで変身出来る亜種形態。電撃と広範囲の視覚と聴覚のクワガタ、パワーのゴリラ、隠密も出来る高速移動のチーターが揃っている為、仮面ライダーオーズでは最強の亜種形態と名高い組み合わせ。