「んっ?」
戦闘訓練の翌日の事、ライドベンダーに乗り今日もバイク通学を楽しんでいる時に何やら正門辺りが酷く騒がしくなっているのが見えた。生徒の嵐というだけではなくその周りに何やらカメラやらマイクやらを担いでいる人々が屯していた。それを見て即座に解せた、あれはマスコミかと。翔纏も有名なヒーロー一族の一人なのでマスコミに追いかけられた事もある、がその最中に個性の暴発が起りそうになったので一族が激怒して追いかけてきたマスコミを訴えようとしたのは良い思い出である。因みに示談で済んだ。
「おはよっ獣王、アンタもマスコミのせいで入れない口?」
「おはよう獣王ちゃん。バイク通学なのね、とってもカッコいいわ」
「ああっ耳郎さんおはよう、今着いたところだよ。蛙吹さんもおはよう」
「梅雨ちゃんと呼んで」
と後ろからやって来たクラスメイト二人もあの波を越えなければいけない事に若干辟易している。ヒーローは良くも悪くもメディアに支えられているような物、メディアが活躍を報道し自らの力を誇示して名前を売る。マスコミとヒーローは切っても切れない間で結ばれているような物、だがこれはこれで迷惑なのは変わりない。
「それなら俺と一緒に行かない、自転車バイクの登校口なら通れるよ」
「あっ成程その手があったね」
「ケロッナイスアイディア、ご一緒させて貰うわね獣王ちゃん」
という訳で二人は翔纏と共に自転車通学生徒向けの通路を使用して何の問題も無く内部へと入っていった、二人にお礼を言われつつも気にしなくていいと返しつつライドベンダーを止めてともに教室に向かうのだが矢張りマスコミの影響が強いのか、まだ来ていない生徒が多数だった。しかし時間が経てば皆やって来る、相澤が来るHR前には無事に席に着く事が出来ていた。そしてやって来るとヒーロー基礎学での感想を一通り述べるとある事を決めると呟いた。
「学級委員長を決めて貰う」
『学校っぽいの来た~……』
初日の合理的虚偽による除籍警告で完全に警戒していた皆はやる事を聞かされ改めてホッとしたのか息を吐きながらも学校らしいのが来たと何処か嬉しそうにしている。本来学級委員長は先生の助手的な雑務をするイメージがあるのだが、ヒーロー科においてはトップヒーローに必要な集団を導くという素地を鍛える事が出来る。故に皆が立候補していく。それは当然翔纏も同じ。
「皆静粛に!!!"一"が"多"を導く大変な仕事、それをただやりたいからと、簡単に決めて良い筈がない。だからこそ信頼得るリーダーを決める為、投票を行うべきだ!!」
と飯田が立派で正論とも言える事を唱える、確かに正しい事だ。事なのだが……
『そう言いながら聳え立ってるじゃねぇか!!』
正論を口にする傍らで真っ直ぐと直線と思える程に素晴らしい腕の伸ばし方をしている飯田。本人も委員長はやりたいらしい、だが時間内に決めろと言った相澤は時間かかるなら多数決でいいから決めろと急かすので飯田の案が採用されるのであった。そしてその結果―――一番票を集めたのは緑谷の3票、次点で八百万の2票であった。
「(自分の一票のみ、まあ妥当だよな)」
落選したとはいえ対して気にする事は無く、その後の授業に集中していた翔纏。そのまま昼休みとなったのだが、その日は姉が弁当を用意してくれたので教室でそれを広げていた。
「あらっ獣王ちゃんはお弁当なの?」
「偶々ね、姉さんが作ってくれたんだよ」
「あっお姉さん要るんだね、折角だからウチらも一緒に良い?」
「どうぞ」
同じように弁当を用意していた梅雨ちゃんと耳郎と一緒に食べる事になった。この事でまた一部男子からやっかみを受ける事になったのだが、それはまた別の話。
「獣王ちゃんにはお姉さんが居るのね」
「姉さんだけじゃなくて兄貴も弟も妹もいるさ」
「結構な大家族なんだね、まあ獣王家って言ったら凄い一族だしね」
単純なヒーロー一家というだけではなく常にトップヒーローの一角を担い続ける名門中の名門、数ある異形型の中でもトップの多彩さを誇る。そして翔纏はその最高峰とされている。
「やっぱり凄い厳しかったりすんの、ほらっノブリス・オブリージュ……だっけ」
「いや別に。兄貴とか姉さんとか帰り際にコンビニの鶏唐揚げ棒咥えながら帰ってきたりよくしてたし」
「思っていた以上に庶民的……なのね、もっとこう……何ていうのかしら、貴族とかそんな感じのを想像してたわ」
「いやそんな事ないよ、寧ろみんなフリーダムというか……自由というか」
兎に角賑やかで騒がしいのが特徴だと思っている、静かでいる時なんて数えられるほど。一族は基本的に日本中を飛び回って活動をしている上に時には海外にも行ったりもする。それ故か帰って来た時にはその土地のお土産を大量に持って来り方言になって居たり、民族衣装を着ていたりと色々とカオスな事になっている。
「でもなんだかとっても楽しそうね」
「確かに、なんか音楽活動しててもネタに困る事は無さそう」
「それはあるだろうね、昨日の夕ご飯なんて
これ程までにスラスラと出てくるほどに獣王一族の食事はバラエティに富んでいる、今のは日本ばかりだったがタイミングによってはイタリアからフランス、ロシアに来てからメキシコと世界中を移動する事になる。そんな話が二人には興味津々なのかもっと獣王家の事を教えて欲しいとせがまれる、折角なので知りたがっているであろうヒーロー活動をしている家族について話そうとした時の事―――警報が鳴り響いた。
「な、何っ!?」
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』
「避難警報、なんだか大変そうだけど何処に行けばいいのかしら……」
そう、まだ雄英に入学して一週間も経過していない。避難訓練などもしてないので何処に行くのが正解なのかも全く分からない。クラスには自分達だけな事もあって耳郎は不安を面に出して狼狽える、梅雨ちゃんは比較的に落ち着いているようだがそれでも不安そうにしている。それを見た翔纏は二人に落ち着けと促しながら懐からカンドロイドを出した。
「まずは状況を確認しよう、これを使おう」
「それってカンドロイド……でもタカちゃんだけってあれなんか緑色のは初めてみる……」
「獣王ちゃんのサポートアイテムよね」
「ああ、念のために持ってるんだよっと」
そう言いつつもカンドロイドを起動させる、一つはタカちゃんだがもう一方は展開するとまるでウサギのようにも見えるがバッタの形へと変形した。
「あっこっちはバッタ!?」
「そう、バッタカンドロイドのバックン」
「可愛いわっ……!!」
「ありがと、それじゃあタカちゃんにバックンお願いね」
タカちゃんはバックンを一つその嘴で加えていくと窓の外へと飛び出していった、それを見送った後にもう一匹のバックンの顔辺りにある小型モニターが雄英の現在を映し出し始め、3人はそれを覗き込んだ。
「あっ凄い!!あっちは通信機になるんだ」
「そっライブカメラみたいな機能があるんだ」
「可愛いだけじゃなくて凄いのね」
そして空中から中継される映像にあるものが飛び込んでくる、そこには大勢のマスコミが敷地内へと侵入してプレゼント・マイクと相澤が何やら対応している姿であった。そして次に正門のセキュリティが発動しているが破壊されている光景が映し出される。
「つまりこれって……マスコミが勝手に侵入したせいって事?」
「そう言う事になると思うわ、お騒がせねぇ……」
「個性まで使って雄英の侵入って……ヴィラン扱いされても可笑しくないのによくやるよね―――ヴィラン……?」
その時、翔纏はある考えが脳裏を過ったのであった。マスコミはネタを欲しがっている、だからと言って此処までの事をするのだろうか。下手すればヴィラン扱いされて全国から非難が殺到するのに……もしも、これがマスコミではなくヴィランによるものだとしたら―――そんな不安が脳裏を過る中、脅威は確かに迫り来ていた。