欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の連鎖。

不穏な考えが巡り続ける中で一日は終わり、また新しい一日が始まっていく。それが繰り返される中でのヒーロー基礎学、今回の内容発表を相澤が行った。

 

「今回のヒーロー基礎学は俺ともう一人も含めての三人体制で教える事になった。そして今日の授業内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練。今回は色々と場所が制限されるだろう。ゆえにコスチュームは各々の判断で着るか考える様に」

 

伝える事を伝えたからさっさと行動しろと言わんばかりに相澤は20分後にバスに集合と最後に言い残して教室から出ていった。今までの事を考えれば遅れたら即刻除籍すると言われかねないと皆思っている為かテキパキと動きながら集合場所へと向かっていく。それは翔纏も同じ、早急に準備を整えて集合バスに向かうのであった。そこでは

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!!」

 

と笛を吹きながら張り切って先導している飯田の姿があった。マスコミのセキュリティ突破騒動があった日、緑谷は自らの委員長職を飯田へと譲渡した。セキュリティ突破による警報によって食堂で起こったパニックを飯田が身体を張って鎮めたからとの事。実際先導するのはあんなタイプの人間の方が優れているのかもしれないと皆が思う。

 

「こういうタイプだったか……!!」

 

がそのやる気も空回り、これからに期待と言わざるを得ない。やや賑やかすぎるバスはA組を授業の舞台へと連れて行った。巨大なドーム状の施設でその入り口には一人のヒーローが待っていた、宇宙服のようなコスチュームを纏っている宇宙ヒーロー・13号。そんなヒーローに伴われて入ったドームの中は―――

 

『USJかよ!!?』

「水難事故、土砂災害、火事、etc……此処はあらゆる災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して“USJ”!!」

『本当にUSJだった……!?』

 

色々と危ないネーミングだと冷や冷やする。そんな中でこれからの訓練で何を見出して欲しいのか、個性という力の危険性、それを活かせばどれだけの人を救える事かを説きながらこの授業ではそれを人を助ける為に使う事を学んでほしいという強い思い。それらを感じた所で授業に入ろうとした時の事―――それは現れてしまった。

 

USJ全体の照明が一瞬消え、不気味な雰囲気が生み出されていく中で相澤は悪寒を感じ噴水広場に反射的に顔を向けた。そこには黒い靄のような何かが空中で不気味に渦巻きその中心からは悪意と殺意が漏れていた。噴水前の空間が奇妙なほどに捻じ曲がり広がっていく光景に素早く指示を飛ばしながらゴーグルを装着し、13号も動き出す。

 

「皆さん避難します!!これは訓練ではありません!!」

 

その問いかけで皆現実として受け止めきれていなかった生徒達も緊急事態だという事を飲み込む事が出来たのか、その指示に従い始める。相澤は自らの得物である捕縛布を握り締めながらも飛び出すタイミングを見計らう。此処まで進入するヴィランだ、恐らく先日のマスコミの一件もあれらの手があったのだろう。ならば油断せずに行くしかない。

 

「13号、生徒を頼むぞ。俺は時間を稼ぐ」

「相澤先生っ!!イレイザー・ヘッドの戦闘スタイルは個性を消してから捕縛!一対一ならまだしもあの数との正面戦闘は危険すぎます!!」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

ヒーローマニアでもある緑谷、彼は相澤のヒーローネームであるイレイザーヘッドの事も当然知っていてその戦闘スタイルを熟知している為に心配をするが、それを一蹴しながら相澤は敵陣へと突っ込んで行く。自らの個性、抹消にて相手の個性を消す事でペースを乱しつつもかく乱、捕縛布を巧みに使って別のヴィランへとぶつけるなどして上手く集団を乱していく。その隙に13号に連れられてUSJからの脱出を試みるのだが―――

 

「逃しませんよ、13号と生徒の皆様方」

 

自分達の向かう先、出口を封鎖し立ち塞がる霧のような姿をしているヴィラン、他のヴィランをここに連れてくる役目も担っている黒い霧のヴィランは慇懃無礼な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。それらから守るように13号が一歩前に出る。

 

「はじめまして生徒の皆様方。我々はヴィラン連合。この度、ヒーローの巣窟であり未来のヒーロー候補生の方々が多くいる雄英高校へとお邪魔致しましたのは他でもない。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております№1ヒーローであるオールマイトに息絶えて頂く為でございます」

「オールマイトを……随分な事を言いますね」

「大胆不敵でしょう、不敵、正しく我々ヴィランの特権です」

 

思わず皆の意識が一瞬死んだ。オールマイトを殺す為に態々雄英に乗り込んできたというのだろうか、オールマイトを目的として事件を起こすだけでも狂っているとさえ思えるのにオールマイトだけではなく多くのプロヒーローが教師として在中している雄英高校に乗り込んでくるなんて正気の沙汰ではない。ヴィランの瞳に嘘が滲んでいない、本気で殺すつもりで来ている。そして直後―――

 

「そして生徒の皆様が金の卵という事も承知しておりますので―――散らさせて頂き嬲り殺しにさせて頂きます」

 

今度は黒い霧が伸びて自分達を包み込んでいく。身体が何処かに飛ばされているかのような感覚を味わうが直ぐにそれは明らかになった。

 

「水っ!!?」

 

眼下に広がるのは一面の水、13号の話にあった水難事故を想定した救助訓練で使われるエリアだと推測する。そして此処に送り込まれたならばヴィランがいるかもしれないと即座にドライバーを装着して変身を行おうとするのだが―――身体に何かが巻き付いて思いっきり引っ張られた。

 

「うおおっ!!?」

「獣王ちゃん、大丈夫かしら?」

「梅雨ちゃんか!?」

 

視界の端に一隻の(ボート)、その上から舌を伸ばして自分を水没前に助けてくれたのは梅雨ちゃんだった。そのままゆっくりと船へと連れてこられるとそこには緑谷や峰田もいた。ここは恐らく13号の説明で言われていた水難ゾーン、そこに転移させられてしまったのだろう。兎も角互いの無事を喜びつつも大変な事態になってしまった。

 

「でも、此処で先生を待つしかねぇだろ!?それにオールマイトだけじゃなくて此処には多くの先生が要るんだぜ!?」

「そうねっ兎も角今は耐える事に専念した方が良いかもしれないわ、オールマイトが目的って言ってた事も気になるけど今は自分達の事を最優先するべきね」

「そうだねっ……僕達だって危機的な状況に居るのは確かなんだし……!!」

 

緑谷の言葉に釣られて視線を外へと向ける、ボートの周辺の水中には多くのヴィランが既に待機していた。しかもご丁寧に水場で力を発揮出来るタイプの個性持ちばかりだ。極めて計画的な犯行だと言わざるを得ない、此処で待ち続けているのも危険だと思う中で翔纏は立ち上がりながらボートの外へと視線を向けていた。

 

「よしっならヴィランは俺が何とかする。その代わり後の事は任せる」

「なっ何言ってるの獣王君!?あれだけの数を一人で何とかするって言うの!?」

「お前正気かよ!?って言うか馬鹿だろ!?あんだけの数のヴィランを如何やって倒すって言うんだよぉ!!」

 

思わず緑谷と峰田は無謀な事を言う翔纏を必死に引き留めようとする、だがそれでも全く意志を変えない。それを見た梅雨ちゃんも説得に加わろうと思ったのだが、口からでたそれは寧ろ質問だった。

 

「獣王ちゃん、絶対に大丈夫なのよね?」

「蛙吹……梅雨ちゃん何を言ってるの!?」

「獣王ちゃんの個性を思い出して、もしかして水棲系の動物にもなれるんじゃないかしら」

 

そう、翔纏の個性は様々な動物への変化。その中にもしも水中活動が出来る物があるならば……その質問に関して頷く。

 

「その後って言うのは如何すれば良いのかしら」

「俺がこれからしようとしているのは俺の奥の手、身体に相当な負担が掛かるから多分その後動けなくなるって事」

「翔纏君、でも危険すぎるよ!!」

「だな。でもやらなきゃいけない、あの時ああしていたら……何て後悔だけはしたくない」

 

そう言いながらオーメダルネストから三枚のメダルを手にする、それは青いメダル。それを一枚一枚丁寧に装填していく。そして三枚の色が一致した時、一際大きい音が鳴る。

 

「無茶だぞお前っ!出来っこねぇよぉ!!」

「俺は諦めるなんてしない、もう―――あんな思いはしたくない!!」

 

強い決意を胸に秘めながらオースキャナーをその手に握りしめる。家族に口酸っぱく言われてきた言葉が脳裏で反復する中で鴻上会長の言葉が自分の背中を強く押す。

 

『君が思う通りにすればいい!!君の欲望に従えばいいのさ!!』

「―――ええ従います、俺は俺がしたい事を、俺の欲望のままに!!

キンッ!

キンッ!

キンッ!

「変身!!!」

 

シャチ!

ウナギ!

タコ!

 

シャッシャッシャウタ! シャッシャッシャウタ!!

 

その時、緑谷達が目にしたのは今まで翔纏がなっていたメダルの組み合わせがバラバラな物などではなく統一されたメダルで行った変身。それを一つにした時に発動する姿は正しく切り札。その姿は水棲系メダルを3枚使用した事で至る事が出来る連鎖(コンボ)、その名もシャウタコンボ。その変身が遂げられた時、翔纏は―――

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

全身から溢れんばかりのエネルギーを放出しながら周辺一帯が揺れ動く程の咆哮を上げた。コンボによるそれは個性の力を限定しながらも100%引き出される状態、満ち溢れる力に声を上げた次の瞬間、翔纏は高らかに跳躍しながらも水の中へと飛び込んでいった。

 

「自分から俺達のフィールドに飛び込んでくるたぁ大馬鹿野郎だな!!」

「血祭りに上げろぉ!!」

 

と勇んで突撃してくるヴィラン達、自分達の有利なフィールドに飛び込んでくる馬鹿な子供だとサメの個性を持つ者が飛び掛かり噛み千切ろうとした時―――その身体をすり抜けてしまった。

 

「なっなにっ!?オババアバババッ!!?」

 

瞬時にその身体へと取りつく翔纏はその腕に握られている純白の鞭をヴィランの首へと巻きつけ思いっ切り握り込むと電流が迸った。一瞬で意識を奪われたヴィランは水面へと向かって浮かび上がっていく。

 

「クソガキぃぃぃ!!」

 

次々と迫ってくるヴィラン、水を鋭利な刃物へと変える個性、魚の個性で加速してくるヴィランと多種多様な相手が迫る中でも翔纏は能力を発動させながら相手に突撃していく。

 

「だ、大丈夫かよ獣王の奴……」

「大丈夫よ獣王ちゃんは強いもの」

「で、でも……あっ!?」

 

ボートで待機し続けていた緑谷達は翔纏の身を案じていた、自分達にも何かできないかと考えている時に水面に次々と何かが迫ってきた。

 

「ひぃぃっヴィランか!?」

「そう、みたいだけど……様子が変よ」

 

怯える峰田だが直ぐに別の意味で怯えた。何故ならば水面に意識を失ったヴィラン達が次々と浮かび上がってくるのだから、一体水中では何が起こっているのかと疑問に思う中でヴィランが自ら飛び出していくのを追うように水柱が飛び出した。それは自らの意志を持っているかのようにそのヴィランを追いかけて行く。

 

「な、なんだあれどうなってんだ!?」

「もしかしてあれ獣王君!?」

 

その時に緑谷は見た、水柱の先頭辺りに黄色い目のような物があるのを。それは的確に水面を滑るようにして逃走を図ろうとしているヴィランを追いかけて行く。

 

「くそくそくそっ!!?なんだよこんなバケモンがいるなんて聞いてないぞ!?なんで銛も爪も刃も効かねぇだ!?」

「逃がすかぁぁぁ!!!」

 

スキャニングチャージ!!

 

もう一度オースキャナーでメダルをスキャンする事で解放される力、そのエネルギーを使い更に高々と跳躍しながらもその手に持つ鞭でヴィランを拘束しながら渾身の力を込めて自分の方へと引き寄せる。そしてそのまま脚部の能力を開放、6本の蛸の脚を生み出しそれをドリルのように高速回転させながらヴィランへと突撃していく。

 

「セイヤァァァァア!!!!」

「グアアアアアア!!!」

 

渾身の一撃を受けたヴィランは吹き飛ばされて水面を水切りするかのように跳ねながらも陸地へと到達し、そのままめり込んで動けなくなってしまった。それを見届けた翔纏は着水し、全身に押し寄せてくる疲労に蝕まれながらも何とか緑谷達のいるボートまで辿り着く事が出来たが、その途中で力尽きてしまう。だがそれを梅雨ちゃんによって助け出される。

 

「凄かったわ獣王ちゃん、後は私達に任せてね」

「ごめんっちょっときついわやっぱり……」




最初のコンボはシャウタにしました!!次につなげる為にもこれが一番かなぁっと思いまして。後出久君の見せ場も考えてますのでお楽しみに。

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