ダンボール戦機 [手のひらの玩具(兵器)] 作:スーパーオロナミンC
アリッサが出した『Athena(アテーナー)』は日本では「アテナ」と呼ばれるギリシアのオリュンポス十二神の一柱。工芸や戦略の女神であり、処女女神としても有名だ。それをモデルにしたLBX、アテーナーはナイトフレームの、なんとカガリのフルスクラッチモデル。
前に突き出たブレード状の鶏冠にフルフェイスのアーマーで碧のカメラアイを守る部分には細いスリットが数本縦に入っている。後頭部からは神々しい金色の髪を模した黄金ビームが靡いている。全体的にアーマーフレームも女性的な作りで、髪部と同じく大きな黄金のビームスカートが印象的なスカートアーマーが揺らき、右手で黄金のビームが鋭く輝く「ゴッデスランス」は比較的大型化したビームランスで、ヴァンプレイトからビームが伸びている。反対の左手には「スーパービームアイギス」。本体は小さなバックラーなのだが、戦闘時には本体を中心にアテーナー全身を隠せる程の黄金シールドビームを展開し、強力な大型シールドとなる。
実はこのアテーナーはカガリのフルスクラッチなのだが、カガリは作った当時の記憶が朧気らしく、設計図も無いのだ。ハッキリ覚えていたのは、完成したアテーナーをA国のアリッサに送る時の充実感。
「カガリ。RegulationはStreetネ。あぁ、あと勝った方は負けた方を好きにできる約束ネ」
「は?何言ってんだよ。そんなことしないぞ?」
「じゃあカガリが立ち入り禁止のAreaでLBXを拾ってきたって言っちゃおうカナ?」
「っな・・・わぁった。本気の本気でやってやるよ」
「ヤッタ(これで、今日こそカガリに・・・)」
「行くぞ(勝ったら寝てもらおう)」
スナイプ・デクーが即座にバックパックから「ブロードソード」をドロップして肉薄する。ここまでの動き、僅かコンマ6秒。
「アラ?忘れちゃッタ?」
ブロードソードが空を斬る。刹那、スナイプ・デクーの背後に移動していたアテーナーのゴッデスランスがスナイプ・デクーのバックパックを突き刺した。カガリはすぐさまバックパックをスナイプ・デクーから切り離し、弾薬が爆発する前に防御体勢をとる。
「ワタシの使ってるモーターは・・・」
スーパービームアイギス(以後S.B.アイギスと呼称)を押し当ててスナイプ・デクーの防御体勢を崩す。
「Monster motorと呼ばれた、スパーク1000なノヨ!」
「スパーク1000」。第4回アルテミスの優勝賞品であった「スパーク3000」の前世代モーターだ。当時のモーターの中では最大で高出力、バッテリーを食う量は若干低く、かなり扱い難いモーターで、アリッサが優勝した第2回アルテミスの優勝賞品だ。今でもこれを越せる性能のモーターはスパーク3000と「イプシロンEX99」と「ビッグマウンテンLL」、「ブロッサムΑ」、そして幻のモーターと称される「ディラックΘ-666」だけ。
とてもじゃないが、カガリのWフェザー24では追い付けない。
「追い付けねぇ!」
「ホラホラ!」
一閃。カガリの攻撃が空を斬る。そしてまた一閃。
(クソッ!追い付けねぇ・・・我ながらあの動きに耐えられるLBXを作ったのは驚きだ・・・やるか)
「Hahaha!」
「・・・ここまでだアリッサ・・・テンペストモード!」
『テンペストモード』
CCMがカガリと同じテンペストモードと読み上げると、カガリのスマートCCMの画面から超小型投影機が飛び出し、CCMの上にスナイプ・デクーの目線モニターが現れる。カガリがかけた眼鏡も連動し、スナイプ・デクーのダメージ状況や稼働率など、表示される。
バチッ。
「ぃぐ!?」
眼鏡から電気が一瞬走る。そしてカガリは感じた。
スナイプ・デクーが自信の思い通り、CCMを眺め、状態を見て、まさに思考の通りに動くことを。
「What's this!?」
スナイプ・デクーも黄色く光り輝き、バチバチと電気が走り始めた。
「Start」
その一言と同時にスナイプ・デクーが動いた。
◆
「はぁ、はぁ」
スナイプ・デクーの動きは問題ない。現にカガリの思い通りに動いている。だが、カガリ自体に問題がてんこ盛りだった。
この特殊モード「テンペストモード」は、かつてイノベーターが灰原ユウヤで実験した「P(サイコ).スキャニングモード」の発展型。既知の通り、P.スキャニングモードとはLBXとプレイヤーの精神を同調させ、プレイヤーの思考通りに、意のままに動かせるモード。しかし、LBXのコントロール及びプレイヤーの精神状態が不安定になると暴走し、人として生きられなくなる危険が伴う。しかもこのテンペストモードは灰原ユウヤが使用した同調スーツ等ではなく、眼鏡に小型化させた為、プレイヤーへの負荷が増大。以前、何度かこのモードを使ったカガリは目の充血、心拍数、血圧上昇、頭痛等を訴え、脳の破壊を招きかねない。
(落ち着け、落ち着け。感情の暴走さえ抑えてれば何てことは無い・・・慣れれば対したことじゃ無いんだ)
テンペストモードは暴風、つまりプレイヤーの感情が荒れ狂う事でフルパワーを出せる。
(右!)
スナイプ・デクーと一体化したカガリはわずかに視界に入ったアテーナーを確認し、半身捻って回避。モーターの性能差がひっくり返ったようだ。
「ちょっと!そんな変な事が出来るなんて聞いてナイ!」
「悪いが本気なんでな(よし。安定してる)」
「もぉ!Attack function!」
『Attack functionーーGODDESS PRIDE』
『ゴッデスプライド』はアテーナーの専用必殺ファンクション。全身の黄金ビームを球状にして自身を覆い、女神の神々しさを思い知らせるように、全方位に圧縮したビームを一斉掃射する。命中率は今のところなんと100%。まさにスコールと呼べるビームが一斉にスナイプ・デクーに襲いかかる。
(んじゃこりゃぁ!?)
LBX、いや、人の小指1つ分の回避スペースも存在しない。カガリはスナイプ・デクーを丸めてなるべく被弾面積を小さくする。
強化ダンボールの中が黄金の光で溢れる。それが10数秒も続くのだ。この必殺ファンクションんだされたら最後、ブレイクオーバーされるか運良く耐えてまともに動けなくなるかだ。
「This is the power of the goddess!」
圧倒的な力の差が存在していた。カガリの切り札、テンペストモードを使用しても、アリッサには勝てなかった。
フィィ・・・ポーン。
「はーい、お仕舞イ。どうだった久々のワタシとのBattleハ」
「や、やっぱり強いな・・・はぁ、あい、変わらず・・・で、どうすんだ?んぁー」
溜め息ついてベッドに倒れると同時に眼鏡を机に投げる。ふと、鼻の中に生暖かさと鉄臭さを感じ、アリッサに気付かれないように枕元のティッシュを1枚。頭痛もするカガリだが、変に騒がれると困る故に誰にも言おうとしない。
「ナニ?鼻血?」
「ん?鼻水だよ」
ティッシュを丸めてゴミ箱にポイ。
「・・・で?俺をどうする予定なんだ?」
「う、うん・・・あのね、好きにできると言うか、お願いと言うか・・・」
「何だよ?」
「せ、正式に、ワタシと・・・ッ!」
アリッサは心臓が今までになく強く早く弾む。自分の呼吸でさえも五月蝿く感じる。
「(言うのよアリッサ!)わ、ワタシと、正式にアルテミスのパートナーになッテ!(Oh,noooooooooooooo!!)」
胸中で大絶叫。本来言いたかった事とは全く別の事を言ってしまったアリッサたが、そんなのは露知らず、カガリはそんなことかと承諾。カガリはメカニックとしての腕に自身を持っているし、アルテミスに出る目的にはかわりないのだ。もっとも、断れない性格なのもある。
「分かった。本当はお前と決勝で出れれば戦いたかったけど、タッグて出るのも面白そうだからな」
「う、ウン」
前途多難。そんな言葉を思い浮かべたアリッサであった。
◇
「ゴホッ・・・ぅえ!」
辺りが静まる丑三つ時。1階のトイレで血痰を吐き出すカガリの姿があった。視界も狭くなったり、手足の震えもある。
「はぁ、はぁ・・・」
日を跨いだカガリが眠りについたのはそれから2時間後の事であった。